ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第76話 鍛冶職人リュウキ?
そして、その後暫くして。
リズは、一応アスナに連絡を取ってみた。アスナの返信は思いのほか早く、間違いなく目の前の人物はリュウキだと言う事もわかった。その内容から、信頼出来るプレイヤーの1人だと言う事も良くわかった。アスナに、今日の事情を説明して驚いてはいた様だけど。
彼は、考え無しな行動はしないとの事だった。
だから、リズは最終的には頷いた。
「じゃあ……一応副団長殿からも聞いたことだし……信用する。良いよ。好きに使ってくれて」
「ああ……助かるよ。ありがとう」
リズがそう言うと、リュウキは軽く頭を下げて礼を言った。その行動を見て。
「いやいやいや! まず、間違いなく得してるのは私だから、たった、それだけでコレだけのモノ貰ってるんだから! 正直足りないって思うくらいだよっ!!」
リズは両手を左右にブンブン振った。得をしたのは間違いなく自分だから。
この少しのやり取りで、たった一瞬で 自分の全財産が5~6倍以上に膨れ上がったのだから。正直、これは宝くじに当たった感覚に近い。
「……いや、確かにそう思われるかもしれないが、オレにとってはこっちの方が重要だから」
リュウキは工房を視渡しながらそう答えた。
「……それで? ここで、何をするのかな? 白銀のリュウキ様はさ?」
リズはニヤッと笑いながらそう言う。どうやら、以前から彼女はアスナやレイナにリュウキの事……色々と聞いていたみたいだ。主に、レイナに愚痴られる様にだけれど。
それでも性格面は、自分自身が見て、接しないと本当の部分は見えないって思っていた。特にネットゲームでは尚更だから。
リュウキの事を知った今、リズのその口調が柔らかいものに変わっていた。
「………」
リュウキは、ムスッとしていた。からかわられている事が解ったからだ。
「ははっ、冗談だって、冗~談!」
そんなリュウキの顔を、仕草を見て、リズは笑っていた。正に予想通りの反応だったから。
「……あの2人の友人だな。間違いなくお前は」
リュウキは、リズの事を見てそう思い、そしてため息をしていた。
「それはどー言う意味かな? それより、私も名前で呼んでよ。お前~より、そっちの方が良いからさ。リズでヨロシク!」
「……わかった。よろしく頼むよ。リズ」
リュウキは軽く頷くと再び工房を視回していた。
「……で? ほんとに何を作るの? 見たところ、リュウキは片手直剣使ってるみたいだけど」
リズは、興味津々と言わんばかりにそう聞く。当然だ、相手は半ば伝説近くになっているプレイヤーの1人。そんな男が鍛冶スキルを極めている……なんて知ったのは自分だけ。
そして自分も鍛冶職人だから。気になって仕方が無いんだ。
「……この場を貸してもらって、見ないでくれ。とは言いづらいが……」
リュウキは一回り視渡すとリズの前に来て。
「今日は何も作らないんだ」
「へっ?」
「そうだな、……少し、ここをを視ていたいんだ」
その言葉を聞いてリズは理解した。アスナ達に聞いていたリュウキの《眼》の事。
それが、どういった仕組みかは知らないが、この世界において唯一つのユニークスキルの様なものだと解釈していた。
様々なものを《視通す力》だと。
だから、それでこの工房を吟味するんだと考えた。
「そっか、解った。でも、また作ったらみせてよね? 確かに法外な代金を頂いたけど……、それくらいの特権くれても良いって思うんだ?」
リズは深く追求しなかった。そもそも、聞いても解らないと解っていたからだ。あの2人でもわからない事なのだから。
「ああ、構わないよ。ありがとう。何時までになるかわからない。それでも良いか?」
「構わないよ。私は今日は疲れちゃったから休ませてもらうけどね」
リズはそう言うとリュウキは手を上げた。そのまま、工房を後にし、寝室へと入っていく。
――リズは寝室で考えていた。
本当に以前の自分とは別物だと言う事。
ほんの数日前までなら、男を居候させるなんて考えられなかった。確かに仲の良い男性プレイヤーは何人かいる。でも、文字通り一つ屋根の下に住まわせる……なんて考えられない事だった。
だけど、それはキリトと共にあのダンジョンへ足を踏み入れた経験をしてからあっという間に変わってしまっていた。2人で一緒に野良で食事をし、極めつけは隣り合わせて寝袋に入って寝て。
最後は聞こえていないとは言え、キリトに告白までしてしまった。
あんな経験した後だから、居候の様な事をさせるなんて、なんとでもない事だって思える。それに、リュウキからは報酬も法外に頂いていると言う事もある。……そして何よりもアスナ・レイナから聞いていたリュウキと言うプレイヤーの印象。
2人の事、信じてないわけじゃ決して無いけれど、実際に会って話しをして見なきゃ正直疑わしいって思ってた。あれだけ、噂上ではチヤホヤされかねない2つ名だったからだ。
それに、彼を妬んでいる様な噂だって多いのだ。
それは、アスナとレイナは否定をしていた。そして、今日、彼に いざ会ってみれば2人の方が正しいとリズは思った。リュウキは、そっち方面には恐ろしいまでに疎いと言う事も判った。
恐らくはキリト以上だと言う事も。
だから、何かされる(性的な意味でも……)と言う危険性は、例え現実世界においてもありえないと言う事も判った。
「まぁ~確かに噂どおり。と言うより以上って感じたわね。あの容姿は……」
リズはしみじみとそう思っていた。でも……
「あっちで第二ラウンドやるんだから……。よそ見しちゃ駄目だよね。二兎追うもの一兎も得ず!ってね」
リズだって女の子だ。可愛い、格好良い男の子を見たらドキッとする。
その上、性格も良い(物凄く疎いけど)とくれば、本当に人間か! って思えるほどだ。それに、思うところだってある。
「……いきなり乗り換えるなんて節操なさすぎだしっ!」
と言う事なのだ。キリトとアスナの事を知って、第二ラウンド宣言もしたのに。リズは、頭をブンブンっと振った。
そのまま、リズはウインドウを開き、装備を切り替え ご就寝に入る。
「……でも、今日は良い夢見れそう……」
一言呟きながら、布団を首元までかけて、そのまま眠りの世界へと誘われた。
~リズベット武具店・工房~
「ん……」
リュウキは、工房内で暫く周囲を視渡していた。
「間違いない……な。ここだ」
リュウキは眼を視開いた。赤く染まるその眼を。
「……………」
そして右手の指を振った。そこに出てきたのは今までのメニューウインドウじゃない。まるで、数字の呪文の様な複雑な数列が並んでいた。
「……2年、だったね。うん、とても長かった。良かった……まさか、本当にあるなんて思わなかったし。……所詮は人間が作ったものだし。……世に完璧なのは無いって事……なのかな?」
リュウキは一言そう言った。その言葉遣いは素の彼に戻っていた。
目を左右に走らせる。そして、呼び出したコンソールを忙しなく指で叩き、素早く打ち立てた。
両の手で行う。まるで現実でのPCを、キーボードを操作しているようだった。それに反応するように数列が増大して言った。
「爺や………」
リュウキは、懐かしむように……それでいて嬉しそうに、指を走らせたのだった。
~翌日 リズベット武具店~
寝起きは最高の一言。朝日が差し込み、自分の身体を温かく包み込んでくれる。起床アラームが鳴る前に起きる事が出来た。
「よし……、さぁーて、今日も一日頑張ろうー!」
リズは、背伸びをし、装備を何時ものウエイトレス姿? に変更。そして、大きな声でそう張り切ると、階段を駆け下りた。
「さぁーーて仕事しご……」
いつも通りに、と息巻いていた彼女だったが……少し固まっていた。いつもの工房に……誰かがいたからだ。
「……ああ。おはよう、リズ」
リュウキは勢い良く降りてきたリズにそういっていた。
「あっ……え……?」
リズは、少し……じゃなく、暫く固まっていた。状況が理解できない様だ。
「……? どうかしたのか?」
リュウキは気になったのかそう聞いた。リュウキは、リズの今の状態がよく判らなかったようだ。
「あ……う、ううん? 大丈夫大丈夫!」
リズは、昨日の事。漸く思い出したようだ。この工房を彼に法外な値で貸した?という事実を。
「あははは……そうだったそうだった。ゴメン、すっかり忘れてた」
リズは舌をぺロリとだしそう言う。
「……? 何を謝るんだ?」
「いや~ アンタがここにいるって事、忘れてて……それで固まっちゃって」
リズは陽気に笑っていた。そう言うことは本人の前であまり言うものじゃないと思うが。
まぁ、リュウキ相手だったら問題ない。
「ん、なるほど」
リュウキは、あっさりしている。そう返してくる事も 正に、リズの想像通りだった。
そして、軽く挨拶を交わした後、リュウキは作業に戻っていった。
「……はは、まぁいっか! おっ、そーだそーだ! どうなった? どうなった?? 今日はするのっ?」
リズは興味津々にそう聞き、リュウキの隣にたった。
「……ああ。今日はするよ」
リュウキはそう言うと、ハンマーを手に取った。
「ねぇ、横で見てても良い?」
「ああ、構わない」
リュウキは、頷くと……無言で炉内に放り込んでいた金属素材をヤットコで金床の上に移した。そしてポップアップメニューを開く。
「……ん? あれ?」
この時リズは、少し違和感を感じた。
だから、リュウキに話しかけようとしたんだけれど。
「………」
リュウキはただただ無言で素早く選ぶとハンマーを構え打ちつけた。このときの彼の集中力はコチラにも伝わってくる。
ぴ ん …… と張り詰めた空気。
違和感を感じていた事などリズはすっかりと忘れ生唾を飲み込む。そして額から汗の様なものまで流れている感じがした。そんな空気の中 聞き覚えの有るハンマーが金属を叩く効果音だけが響き渡った。
一たたきするだけで ピリッと場に電流が流れているような感覚が走る。
「ッ……」
聞き覚えが有る……。それはそうだ、何故なら殆ど毎日聞いているからだ。毎日聞いている音の筈なのに、何処か神々しいものを感じた。いつもの風景、いつもの音。違うのはハンマーを持っているのが自分じゃないと言う事だけ。それなのに、違う。その作業の工程の全てが違うものに感じていた。
リズは、暫く時間を忘れて……その姿を魅入っていた。
「……ふぅ」
リュウキは、肩膝を上げた。そして打ち終わったそれを手に取り……確認する。
「……まぁ、こんなもの。かな」
その剣をを見つめ……頷いた。どうやら、満足のいくもの成果だったようだ。
「………」
リズは、まだ魅入っているようだったのか、放心したままだった。
「……? どうかしたのか?」
固まってしまっているリズに気がつきリュウキはそう聞く。
「あ……いやっ、何でも……」
リズは思わずオーバーリアクション気味に反応してしまうが、両手をブンブンっとふって、リュウキから離れた。
「?」
リュウキはリュウキでいつも通り。マイペースと言っていいだろう。
「はぁ……他人が打ってる姿は良く考えたら初めてだから、ちょ~っとね?」
リズは頭を掻きながらそう言う。
「ああ……そう言うことか。まあ、確かにな」
リズの説明でリュウキは、理解したようだった。
「あっ、それより何の武器を作ったの?形状的に片手直け――」
リズは、刀身の先だけを見ていたから≪片手直剣≫と言おうとしたんだけれど……。その武器の全身を見てまた固まった。こんな形状の武器、見たことが無いからだ。
「なに……? それ?」
リズは、眉間に皺を寄せる勢いで目を細めながらそう聞く。
「ん……武器、だな。カテゴリー名は……」
リュウキは何かを言おうとしたがそこで止めた。
「……オレも視た事が無いな」
リュウキはリズにそう言っていた。確かにこの世界では、まだお目にかかってない種類の武器だからだ。
「ちょっと、触ってもいい?」
リズは、剣を指さしながらそう聞いていた。
「ああ。構わない」
リュウキは、頷くとその≪剣?≫を差し出した。
「……う~ん。名前は、《ドゥオ・クレウス》聞いた事無い名前だね、……そもそもこの形状の武器もだし……。何処持って……ってこの部分を持ってだよね? でも これ、自分自身も切っちゃいそう……」
リズは じっと見つめながらそう言う。何度見ても判らず、その武器の説明文も何もない。システムメッセージ文、説明文の所には《???》となっていたから、益々判らない。
「……そろそろ良いか?」
リュウキはまだ、見っぱましのリズにそう聞く。確かに見たことない初の武器を見れば誰でもそうなるだろう。それが鍛冶職人プレイヤーなら尚更だ。
「あ、うんっ。ごめんごめん」
リズはその≪剣?≫をリュウキに返した。
「ああ、さて……」
リュウキはその≪剣?≫を軽く構えると試すように振る。
「うん……こんな感じ、かな」
リュウキは満足したようにハニカムと、その装備をアイテムストレージに格納した。
「へぇ……。」
リズは、意外なものを見たかのように武器じゃなく、今度はリュウキを見ていた。
「ん?」
リュウキはリズの視線に気がついたのかリズの方に向いた。
「笑う顔やっぱし可愛いなぁ……って思ってね?」
リズは、リュウキを見ながらにしし~っと笑い、そう言った。
「ッ……」
リュウキはその言葉を聞き顔を紅潮させていた。そして、直ぐにそっぽ向く。
「あはは、冗談だよ。リュウキ」
リズは笑いながらそっぽ向いたリュウキの肩を叩いた。
「……オレは男だ。可愛いと言われて嬉しいはずが無いだろう」
そう反論をしているんだけど、顔はまだ赤い。
そんな風に言われて、で顔が赤くて、……やっぱり可愛い!っとリズは思わずにはいられなかった。でも、これ以上言ったら《可愛い》じゃなく《可哀想》な事になりそうだったから言わなかったようだ。
「さて、それが目的のモノ……なの?」
とりあえず、工房に有るテーブル、そしてイスに腰掛けそう聞く。
「……まだ全部じゃないけど……な」
そう言うと、リュウキはアイテムストレージから一つをオブジェクト化する。
取り出した、それはティーセット。
「ん? これは?」
リュウキの取り出したティーセットを見て聞いた。まぁ、見た通りなんだが、この世界では様々なモノが存在するからそう聞いていた。
「ああ、これはエクウェスの葉で作ったハーブティ。……礼だよ」
リュウキはそう言うとマグカップの一つをリズへと渡した。
「……え、礼?」
リズはそれを受け取ると首を傾けた。
「ああ、君が。リズが貸してくれたおかげだ。だから出来た」
リュウキはそう言うとカップを口に運んだ。
「だからなーに言ってんの? あたしが貰った分の方が遥かに大きいんだから。コレくらいじゃ足りないってもんよ」
笑いながらそう答えるとリズもカップを口に運んだ。
「わぁ……何コレ? すっごい美味しい……。なんだろ……現実で言うカモミール…? いや、ちょっと違う……。不思議な味……でも凄く美味しい」
一口入れただけで、感動するその味、そして香り。こんなに美味しいハーブティは初めてだ。
「ん……。確かに、な。同感だ」
リュウキも頷いていた。
「ん~っ……美味し……って、あ、あれ?」
リズは、味わって飲んでいるその時に、違和感に気がついた。そして、慌てて自分自身のステータスを確認した。
「こ、これって……」
「ああ、言うの忘れていた。このアイテムの効果は、飲むと全てのステータスが1以上 上がるんだ」
リュウキは、忘れてた、と言わんばかりにあっけらかんとそう説明した。だが、リズは平常心でいられる筈が無い。
「って、そんな超レアなアイテムをっ!!」
リズは思わず立ち上がった。……聞いた事の無い名のハーブだったが、間違いなくステータスの全てが上昇しているんだ。
過去に、部分部分のステータスが上がるアイテムはあるが、全体が上がる物は今まで聞いた事が無い。……間違いなくA級、下手をすればS級のアイテムだと言う事を想像するのは難しくない。
「まぁ、別に構わないさ。……この味は良いだろう?」
リュウキは、簡単にそう返すと再びカップを口に運んだ。朝のティータイムを楽しむように……。
「………」
リズは、その姿を見て目をパチクリさせた。リュウキと言う男の事、判った気になってたけれど……想像以上だと改めて理解した。クリスタライト・インゴットを10個も渡してくれた時に気づきそうなものだけど。
《高価な》《レア度が高い》《貴重品》
普通のプレイヤーならそう言う単語が入っているアイテムは、慎重に慎重を重ねて取扱いそうなものを、この男はあっさりと使っちゃう。それも躊躇せずに。それは、度量が凄い、だけじゃ片付けられないだろう。
「はぁ……ほんっといろんな意味で規格外って事なんだね」
リズは一周回って、半ば呆れながらそう言っていた。
「……まぁ、よく言われる。正直、好んじゃいないが……オレにとっては普通だから」
リュウキはそう返し……再びカップを口へと運んだ。自然とその場は笑いに包まれていた。
そして、暫くティータイムを楽しんでいた時だ。
『………――ズさ~~んっ!!』
この工房の外から、声が聞こえてきたんだ。
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