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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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17.キャットシッター・ミネット

 
前書き
7/22 なんか納得いかなかったので調整しました。 

 
 
 先日出会ったキャットピープルの少女、ミネット。
 別れる直前、彼女の様子はどこかおかしかったように感じた。秘密が女を美しくする、と前に言ったことがあるが、あれは彼女のような幼い少女が抱えるには余りにも不釣り合いなものだと俺の直感が告げている。
 できれば彼女が何故そのようなものを背負っているのか知りたい。あの小さな背中に背負うには重すぎる荷も、何かしらのきっかけで減らすことは出来る筈だ。肩代わりすることも、もちろん。

 それに、曲がりなりにも女性からのお誘いをドタキャンなど男のやることではない。
 ただ――日記にある「怪物祭のイザコザ」だけが頭の隅に引っかかったため、念のために帯刀だけはしておいたが。

 ワイワイと賑わうオラリオの通りを悠々と歩き、予定の待ち合わせより心持ち早めに移動する。
 そんなリングアベルに、周囲の知り合いや友達から声がかかった。

「よぉ、リングアベル!一人たぁ珍しいじゃねえか!今日は女連れじゃないのか?」
「これから行くところさ!屋台、儲かると良いな!」
「ハァイ、リングアベル!いい肉仕入れたんだけど、お昼に食べに来ない?」
「ふむ、魅力的なお誘いだが、行けるかはちょっと分からないな……」
「リンガーベル先輩ちーっす!またナンパのしかた教えて下さいよ~!」
「……取り敢えず、人に頼みごとをするときは名前を間違えない事をお勧めするぞ」
「リングアベル~!うちの猫のリンリンが朝からいないの!貴方どこにいるか知らない?」
「頼りになりそうな知り合いがいるから頼んでみるよ!無事見つかった暁には食事でもどうかな?」

 なんやかんやで人気者。このオラリオ内で人気者は数いれど、彼ほど気軽に話しかけやすい有名人はそういない。おかげでリングアベルは知ってるけどヘスティア・ファミリアは知らないなどという奇妙な逆転現象まで起きている。
 そんなリングアベルを快く思わない者もまたいるのだが……そんな相手にも馴れ馴れしく話しかけて心の距離を縮めるのがこの男の分からない所だったりする。

 やがて彼の足は止まり、昨日約束を交わした公園へと辿り着いていた。

「さて、ミネットの姿は………って、なんだこれは!?」

 リングアベルは公園に広がる光景を見て己が眼を疑った。
 大量の猫、猫、猫……昨日にミネットの下に集まっていた猫のゆうに5倍以上はいようかという夥しい数の猫が、その公園を占拠していた。猫たちは木にマーキングしたりじゃれ合ったり毛繕いしたりと自由気ままに呑気に過ごしている。
 しかしこれは何事だろうか。中には金色のバッジをがじがじ齧って遊んでいる猫もいるが、普通これだけの猫が一堂に会する機会など無い筈。猫が集まる原因は……ミネットだろうか。彼女がここを指定したのだから無関係ではないだろう。ひょっとしたら先ほど捜索を頼まれた猫のリンリンもこの中にいるのかもしれない。

 元々彼女は猫と会話が出来ていたし、彼女ならこのような状況を作るのも不可能ではない。
 しばし黙考したリングアベルの目が、カッ!と見開く。

「なるほど、分かったぞ!!」

 大量の猫、待ち合わせ場所、姿の見えないミネット。これらの情報から読み取れる情報はただ一つ。

「つまり!!この猫の大群はミネットからの挑戦状!この猫の大群の中から自分を見つけてみせろというお茶目な隠れんぼをしかけているのだなっ!?」

 いつでもポジティブリングアベル。この状況にさしたる疑問も抱かずに彼は公園へ踏み込んだ。
 猫たちに占領された公園の奥へと歩くと、周辺の猫がリングアベルの方に振り向く。その目は可愛らしい普段のそれとは違い、どこか警戒や威嚇を含んだ敵意が浴びせられる。

「………なんだ?いやに機嫌が悪いな。お腹がすいているのか?」
「それは違うにゃ、リングアベル」
「む……その声はミネットか?」

 声の方を振り向くと、そこには昨日と同じ姿のミネットが佇んでいた。
 逆光を背にしたその表情はよく読み取れない。

「待ってたにゃ、リングアベ――」
「ミネットみーつけた!ふはははははははは!かくれんぼにも拘らず自ら姿を晒すとはこのうっかりさんめ!!」
「って、にゃんでそうにゃるにゃ!?最初からかくれんぼなんかしてにゃいにゃ~~!!!」
「え、違ったのか………んん、ごほん!では改めてミネットよ!お前の渾身のサプライズ、しかと見届けたぞ!まさかこれだけの猫を集めるとは、ミネットの人徳……いやねこ徳は凄まじいな!」
「サプライズでもにゃいにゃッ!!話を逸らすんじゃにゃ~~~い!!」

 キメ顔でナチュラルに間違っているリングアベルにプンスカ怒って腕を振り回すミネットの姿が実に微笑ましい。
 呼び出したのはミネットの方なのだが何故か始終リングアベルペースで話が進んでいるのは、リングアベルとミネットのどっちが悪いのだろう。多分どっちも悪くはないのだろう。世の中にはよく分からないことというものがある。

「ぜはっ……ぜはっ……もう、リングアベルはよくわからにゃい人にゃ。このまま喋ってると……元々の目的を忘れそうになるにゃ」
「元々の目的……昨日は確かお礼がしたいと言っていたな。このねこねこサプライズがそうだったんじゃないのか?」
「そう……ねこねこサプライズも間違ってはないかもにゃ。リングアベルはこれからきっと――死んじゃうくらい驚くにゃ?」

 ミネットの表情から感情が消え、背後から恐ろしいまでの殺気が膨れ上がるのを感じる。
 突然の豹変に対する警戒と、ダンジョンで感じるような本能的直感が、この間に留まるのは危険だと告げた。考える間もなく咄嗟にその場を弾かれるように飛びず去ったその空間を――『斬撃』が飛ぶ。

「ウゥゥゥ……フシャーッ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉッ!?お、俺の一張羅が……などと言ってる場合じゃないか!?」

 空を切った猫の爪が、足場の石煉瓦を深々と抉り取った。
 辛うじて躱したその斬撃が服の脇腹を切り裂き、中の皮膚が裂けてじわりと血が滲む。

(……ど、どういうことだ!?これが猫の引っ掻きの威力か!?)

 完全に避けたつもりだったのに想像以上に鋭い。というか、そもそも猫の引っ掻きにこんな殺人的な威力がある訳がない。直撃を受けたら内臓ごと引き裂かれかねない。最早それは魔物の一撃に匹敵する。

 そして、その斬撃を飛ばしたのは――猫。
 魔物でもなんでもない、どこにでもいるその動物が、リングアベルの命を脅かした。
 公園に集まっていた何の変哲もない猫が、恐るべき殺意と共にその斬撃を放ったというのだ。

 見ればどの猫も低い唸り声を上げながら、尋常ならざる敵意を噴出させて一斉にこちらを睨んでいる。その獰猛なまでのギラついた目は、捕食者が放つそれ。

 リングアベルを囲う猫の目、目、目………猫による包囲網が完成していた。

「何故猫の力がこんなにも強い!?そしてどうして俺を……この猫たち普通じゃないな。ミネット!いったい彼らに何があった!」
「そこは『何をした』って聞くところにゃ。それとも、ミネットが皆を(けしか)けたとは信じたくにゃい?」
「………えーっと、な、なるだけ考えたくはなかったな」

 実は本気で気付いていなかったことは決して口に出さないのがいい男の条件……かどうかは定かではないが、相手が子供のミネットでなければ彼の首筋に流れる焦りの冷や汗を目ざとく発見したことだろう。肝心なところで抜けた男である。
 だが、そんなリングアベルにも分かっていることはある。
 それは――今日、自分が確実にこの『狩場』におびき寄せられたという事実。
 訳が分からない。なぜこのような事態に陥っているのかがリングアベルには分からなかった。

「どういうつもりなんだ、ミネット!」
「どーいうつもりもこーいうつもりも……答えは一つしかにゃい」

 ミネットがゆっくりと腰から片手斧を抜く。魚の頭の骨を象ったような片刃の刃が煌めき、リングアベルに突き付けられる。それに呼応するかのように猫たちの敵意が最大限に高まった。今、目の前にいるのは人間から餌を貰って満足する猫ではない。彼らは狩人。人すらも狩るハンター。

 そして、それを統率するミネットの瞳に宿るのは確かな殺意と――ミネットのそれではない何者かの悪意が、リングアベルに突き刺さる。逆光から逸れてやっとはっきり見えたミネットの顔を見たリングアベルは、そこでやっと彼女に起きている明らかな異常に気付かされる。

(尾を食む蛇の模様……!?彼女の額に浮かび上がってる!?)

 今まで彼女の額に、あんな妖艶で邪悪な印はど存在しなかった。

 尾を食む蛇――それは「ウロボロス」と呼ばれ、永遠を意味する記号だと聞いたことがある。
 そして同時にリングアベルは酔っぱらった冒険者からこんなことも聞いていた。

 オラリオ最悪の人殺しファミリア『ウロボロス・ファミリア』のメンバーには、体のどこかに必ずウロボロスの印がある、と。

 ミネットが、あのカツオブシ相手に必死になっていたようなミネットが?
 しかも何故、昨日偶然出会っただけの自分の命を狙うような真似をしてきたのか?
 目まぐるしく変化する状況の中で、頭だけが空回りして答えが出てこない。
 肝心の日記も、この状況では何の当てにもならなかった。

 考え事をする今も、ミネットは絶えず敵意を放っている。昨日の可愛らしくて無邪気な姿とは似ても似つかない気配を放って。

「ミネットは……リングアベルを殺して、『あれ』を返してもらうにゃ!もう二度と、野良には戻らにゃい……例え人を殺してでも、ミネットは家を離れるのは嫌にゃッ!!
(まずい……これは非常にまずいぞ……!?彼女が噂のウロボロス・ファミリアと関係があるのかは分からないが、彼女は本気だ!しかもさっきの一撃を繰り出した猫がそこらじゅうに……!?)

 咄嗟に剣を抜いて構えたリングアベルだったが、魔物並みの戦闘力を持った猫の四方八方から迫る来る一斉攻撃を捌くのは事実上不可能に近い。かといって何もせずにその場にいれば売店の肉のように解体されて、無残にも命を散らすことになる。

 このままでは、間違いなく殺されてしまう。
 何か生き残る方法はないか周囲を見渡すが、この公園には祭りの影響か全く人がいなかった。
 人通りがなくなることも計算の上でここに呼んだのだろう。これでは助けを求めようにも人そのものがいない。しかも、下手な人を呼ぶとこの猫に斬り裂かれて余計な犠牲者まで出してしまう。

 考えれば考えるほどに泥沼にはまり、生存確率の目算が減少していく。

「怖いにゃ?震えが止まらないかにゃ?でも、駄目にゃ。リングアベルは、今日、ここで死ぬのにゃ……」
「そいつは――困る。俺はまだ全世界の女性とお近づきになっていないし、迸る愛を持て余しているからな」
「大丈夫にゃ。お墓くらいなら立ててあげるにゃ……だから、バイバイ」
「ぐ、うううううッ……!!」

 ここで、何も分からないま死ぬのか?
 求める彼女に会う事すら許されず。
 女神ヘスティアや弟分ベルに何も言い残すことなく。
 自分の記憶を取り返すこともなく――?

 死。その一言を想像した瞬間、リングアベルの脳裏を激しい衝動が揺さぶった。

(俺は、こんな所で守る者すらなく死ぬわけにはいかない……)

 心の底から、黒い泥が溢れ出る。
 噴出した泥は絶え間なく足元を見たし、この身体を焦がすように焼き尽くすような獄炎となる。
 身を焦がすほどの生への渇望が、耳元で何かを囁いた。


 ――何を躊躇う。

(何をって……普通、躊躇うだろ)

 ――『今までも』そうしてきただろう。

(今までと言われても、俺は覚えてないんだぞ?)

 ――さあ、力を解放しろ。

(力って、何の――?)


 気が付けば、その囁きに操られるようにリングアベルは剣を構えていた。
 知らない筈の構え、知らない筈の力の奔流を感じ、意識が遠のいていく。
 腕に走る激痛と、生命力が吸い取られるような感覚が、剣先へと集中していく。

 やめろ、あの子を殺すつもりか、と誰かが叫んだ。
 そうだ、あの娘を殺して生き延びろ、と誰かが囁いた。

 ミネットは、そんな俺の様子に気付いていない。

「……みんにゃ、一斉にかかるにゃぁぁぁーーーーッ!!」

 彼女の掛け声とともに、猫が一斉に動き出す。
 意識を無視するように、身体は勝手に、刃を猫とミネットに向け――

「暗……黒……星、う――」

 駄目だ。それを使うな。それを使えば、俺はミネットを――

「いたぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!いたよジャン!!あそこ、猫の群れぇッ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉッ!!猫畜生め、俺達のバッジを返しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 その剣の動きは、突如現れた二人の闖入者――ユウとジャンによって見事に中断された。

「――なぁっ!?何だ!?」
「にゃあああッ!?」
「ユウ!今だ、猫が固まってる隙にアレをぶちかませぇッ!!」
「分かった!俺達の未来を掴むために……さっき売店で手に入れたまたたびエキス水風船の爆撃だぁぁぁッ!!」

 ――このときリングアベルもミネットも与り知らぬことなのだが。

 前話、街中で光り物が好きな猫にバッジを奪われたユウとジャンの二人は、猫を追跡しつつも確実に捕獲する方法やおびき出す方法を考えていた。その結果、彼らは偶然にもとある店で猫のお酒とも言われるまたたびエキスを発見していたのだ。
 そしてユウがそのまたたびエキスを効率よく使用するために考え付いたのが、たっぷりのエキスを封入した水風船を投げつけて割ることで広範囲にまたたびを散布し、確実に足止めするという方法だった。

 かくして対猫決戦兵器(即席)は実に美しい投球フォームで投げ飛ばされ、リングアベルのすぐ近くに着弾。盛大にまたたびエキスをまらまいた。
 その匂い、その中毒性。猫の為に存在するかのごとき成分が爆発的に大気にばらまかれ、猫たちの好戦空気が一変した。

「にゃにゃにゃっ!?」
「ふ、ふにゃごろーん!」
「にゃふ~♪」
「みゃあ~~!みゃあ~!!」
「お……おお!?なんだかよく分からんが猫たちが眼の色を変えて謎の液体の方へ寄っていく!?」

 既に自分が謎のダークサイドに堕ちかけていたことも忘れてリングアベルはホッと息をついた。
 件のユウとジャンは、猫たちの居た場所から金色のバッジを拾い上げて「おお!」だの「ああ!」だのとよく分からない感嘆詞を上げている。

「あった、あったぁぁぁ~~~!!!………って猫臭っ!?」
「こいつだよこいつ!!………って涎でべちゃべちゃになってやがるっ!?」
「よ、よく分からんがあの二人には礼を言っておいた方がいいのか……?」

 一方ミネットは必死の形相で猫たちに指示を飛ばしているが、ことごとく無視されている。
 皆が皆またたびエキスに夢中になりすぎてだらしなく涎を垂らしており、先ほどまでの戦いの雰囲気は完全に霧散していた。予想外のだらしなさにミネットも目を白黒させるばかりである。

「ちょっ……みんなミネットの事は無視にゃ!?またたびならリングアベルを八つ裂きにしたら買ってあげるから、お願いだから話聞くにゃ~~~!!う、うう……猫は決して裏切らないけど目先の欲望に忠実すぎるにゃぁぁ~~~!!」

 そう、猫は猫でしかない。一度夢中になれるものを見つけると、自分の満足する限りずっとそちらに目を奪われ続ける。信頼とか友情とかもないわけではないのだろうが、猫たちの頭は葛藤という感情を生み出すほど複雑な思考をすることはまずない。

 ミネットはこんな重要な局面で初めて猫に期待を裏切られて、力なくがっくり膝をついた。
 ひょっとして、戦う気概が削がれた今ならば話し合えるかもしれない。自身も出来るだけ剣を振るいたくないし、彼女を傷付けたくない。リングアベルはがっくり項垂れる彼女に近づき、一縷の望みをかけて説得を試みた。
 
「………なぁ、ミネット。一度話をしないか?」
「う、うるさいにゃ……!!今更話す事なんて何も無いにゃ!!」
「だが、お前の頼みの猫たちはあそこでみんな酔いどれているぞ。それに、何故ミネットが俺を襲おうとしてるのか、俺自身も理由が知りたいんだ」

 それは嘘偽らざる本音だった。
 自分が殺されなければいけないのは何故か。アスタリスク持ちだからか、ファミリアに関係しているのか、それともミネットの個人的な事情に起因するのか。

 しかし、そんなリングアベルに応えたのは彼女の斧による一閃だった。
 チッ、と刃が胸元を掠り、一張羅に更なる傷がつく。

「うおぉぉッ!?あ、危ないじゃないかミネット!?話をするのがそんなに駄目か!」

 咄嗟に身を引いたために怪我にはならなかったが、その斧を振るったミネットの瞳に宿る明確な拒絶意志が全てを物語っている。これは、もう説得に応じるほど生易しい顔ではない。

「うるさいにゃ!もう………こうなったらミネットの最後の親友でお前を殺すにゃ!!――来るにゃ、ビスマルクゥゥ~~~ッ!!!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 大気を揺るがす咆哮に、その場にいたミネット以外の全員が総毛立った。
 桁違いの威圧感と存在感を持った何かが、来る。公園にいた猫たちが、その気配に恐れをなして我先にと逃げていく。だが、本能的に感じ取れる力量差がリングアベルはの足を金縛りのように竦ませる。
 のしり、のしり、と音を立ててゆっくりと公園の奥から現れる巨大な影。
 全長3M(メドル)はあろうかという巨大な「獅子」の魔物。

「くっ………こいつ、図体はミノタウロスの方が少し大きいが威圧感と存在感が桁違いだ……!!」
「にゃっふっふっふ~~……流石のノーテンキもビスマルクの力くらいは感じ取れるようだにゃ?」

 余裕の表情を浮かべるミネットの言葉に、リングアベルも納得せざるを得なかった。

 ミノタウロスのような狂暴なだけの存在とは違う。
 その瞳は明らかに王者の風格と高い知性をたたえ、またたびの香りにも眉一つ動かさない。
 間違いなく、今までにリングアベルが出会った魔物の中で最強クラス。
 ミネットはその場で宙返りして、ビスマルクと呼ばれた猫にまたがって自慢げに斧を振り上げた。

「このビスマルクはミネットがオラリオで初めてテイムに成功した『元階層主』!!この強さには小細工など通用しないにゃ!!そして……バトルアリーナ、展開ッ!!」

 瞬間、ミネットの胸元が眩い光を放って周辺が青いドームのような空間に変化した。

「なっ……なんだこれは!?閉じ込められた、のか!?」
「おいユウ!よく分かんねえが俺達もそいつの言う『閉じ込められた』に含まれてるみたいだぜ!!」
「わ、わわわ……!!な、何が起きてるんだ!?」

 どうやら巻き添えを喰らったらしい二人の学生の視線も、リングアベルの警戒の矛先も、ミネットとビスマルクへ集中していく。混乱する三人を見下ろすミネットは、その幼さを感じさせない凛々しい声で開戦を宣言した。


「これでもう逃げられないにゃ――ガネーシャ・ファミリア所属のキャットシッターにして、『ねこ使い』のアスタリスク正当所持者、ミネット・ゴロネーゼッ!!お前達の命と引き換えに、ミネットは本物の居場所を守るのにゃ……ッ!!!」

  
 

 
後書き
ミネットを最初のボスとするのは前から考えていたんですが、ベル君はベル君でやらなきゃいけないイベントがあるから共闘は出来ない……という訳で、今後の展開なども考えてセカンドの主人公各2名を連れてきました。3対2でなんとかバランスがとれそうです。 
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