俺と乞食とその他諸々の日常
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九話:選考会と日常
―――インターミドルチャンピオンシップ
それは全管理世界の10代の魔導師達が頑張って個人計測ライフポイントを利用し、スポーツとしての魔法戦技術を競う競技大会。
正式名称は『D・S・A・A公式試合インターミドルチャンピオンシップ』という何とも長ったらしい名前だ。
何を隠そう家の乞食ことジークは一昨年の世界代表戦優勝者である。
そんなジークと共に俺は非情に珍しいことに休日の朝からミッドチルダ地区の選考会を観戦しに来ていた。
俺としてはリオちゃんとコロナちゃんに応援しに行くと言っていたので張り切っていたのだがジークから聞いたところ選考会場は何も一つだけではないらしいので必ず居るとは限りないらしい。
そのことにせめてどこで受けるかぐらい聞いておくべきだったかと若干後悔するも今更どうしようもないので諦めて二人仲良く一緒にポップコーンをつつきながら観客席に座る。
「年に一度のインターミドル。皆さん練習の結果を十分に出して全力で試合に臨んでいきましょう。私も頑張ります! みんなも全力でがんばりましょう! えいえい!」
『おーーーー!』
「……いつもこんな感じの開会式なのか、ジーク」
「うん、大体いつもこんな感じやね」
何となく子供っぽい挨拶のような気もするがジークも言うようにいつもことらしい。
そもそも、思い出してみるとリオちゃんやコロナちゃんも初等科なのでわざわざそう言ったちびっ子に合わせたものにしているのかもしれない。
そんな感想を抱きながら選手を眺めていると見覚えのある元気よく飛び跳ねる紫色の髪の子がいたのでよくよく見てみると探し人だった。
「リオちゃん、発見だな。それにコロナちゃんもいるな。それとあの金髪の子はこの前言っていた友達か? それに……アインハルトちゃんもいるのか」
「リヒター、あの子達と知り合いなん?」
「ああ、道でバッタリ遭ったり、ミカヤの道場で遭ったりだな」
「ふ~ん、そうなんや」
少し面白くなさそうに頬を膨らませながらポップコーンを齧るジーク。
それに対しては何とも思わないが、いつも通り人前に出る時は被っているフードの仕組みが気になって仕方がない。
毎度思うんだがどうやってあの豊かなツインテールをフードの下に隠しているんだ。
どう考えても容量オーバーだろう。まさか、魔法でも使かっているのか?
「それよりも偶にはフードを取れ。お前、顔は可愛いんだから隠す必要もないだろう」
「か、可愛いっ!? そ、そっかぁ……そう言われるのは嬉しいんやけど。やっぱ、目立つのは嫌やし……」
「そうか……。まあ、確かに俺もお前が他人に見られるのは気に入らないしな」
こいつチャンピオンだから下手な騒ぎが起こって俺の影が薄くなりかねないからな。
ボケキャラにとっては自分の影が薄くなることは死活問題だ。
だというのにジークは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「つ、つまり他の男に見られるのが嫌って意味で……えへへ」
「おかしい、どこでどうねじ曲がった解釈がなされたんだ?」
偶にこいつの頭は理解できないことがあるから困る。
最近は度々トリップするようになったこいつの対処にも慣れたものなので無視をしてリオちゃん達の試合を観戦する。
あ、あの子のおっぱい大きいな。
「どうやら友達も含めて全員勝ったみたいだな、リオちゃん達は」
「あの子達、ええ動きしよるよ。特にあのアインハルトって子はダントツやね」
「まあ、ミカヤ相手にもいい組手していたからなぁ」
取りあえず応援していた子達が全員勝ったので俺としても一安心だ。
後、応援していたらあっちから俺に気づいてくれて手を振ってくれたので心が洗われた。
ミカヤだったら中指を突き立ててくるだろうからな。
「おはよう、ジーク、リヒター」
「あれ? ヴィクターも来とったん」
「あなた達が居ると思ってね。リヒターも寝坊せずによく来れましたわね」
「凄まじい死闘だったとだけ言っておこう」
夢の中で支度をする夢を連続で三回見たのはこれが五回目だ。
非常にやる気がそがれたのでそのままベッドの中で季節外れの冬眠でもしようかと思ったぐらいだ。
だが、俺は睡魔に勝利して見事にここに居るのだ。褒めてくれてもいいと思うぞ。
「それにしても、またこんなジャンクフードを!」
「あー!」
「待て、それは俺の金で買ったものだ! 持っていくのなら俺に許可を取れ!」
「この前の執事写真をここでばら撒く、でどうかしら?」
「それは許可ではなく、脅しだ」
結局の所ポップコーンは俺達の元に帰って来た。
後、今更だが最近の俺はサイフと化してきた気がする。
まあ、ジークは元々だから関係は無いんだがな。
「あー、くそ、すっかり遅刻しちまった!」
「リーダーが寝坊するからっスよー!」
この声はハリーといい子ちゃんズか。
そう思って声の聞こえた方に振り返ると予想通りにやけに可愛らしい服装をしたハリーといい子ちゃんズがいた。
そして、俺に気づいて体が凍り付いたかのように立ち止まり固まる。
『え? リヒターが……この時間に起きてる!?』
「恐ろしく失礼なハモリをありがとう」
まあ、朝に弱いのは周知の事実だが。
「あ、あり得ねぇ……。俺が寝坊してリヒターが寝坊してねえなんて……。そうか! 俺はまだ寝ていて夢見てんだな! ははは、そうだこいつは夢なんだ!」
「リーダー! 気をしっかり保つっス!?」
「そうだぞ、ハリー。これは現実だ。どんなに辛くても、苦しくても、歯を食いしばって歩いていかないといけないんだ」
「なんか無駄に感動的やね」
ジークからそんなツッコミが入るが無視して現実逃避をしているハリーのデコにデコピン連打を食らわす。
いいかげんに元に戻れ。流石に失礼だとは思わないのか。
「あらあら、ポンコツ不良娘はまともに朝も起きられないお寝坊さんなのかしら。仕方がないですわね」
なんか、ヴィクターが笑顔でハリーを滅茶苦茶に煽ってきた。
そのおかげでハリーは正気に戻ったが目付きが番長らしくなってヴィクターとバチバチと火花を散らし始めた。
……俺を挟んだ状態で。
「あんだと? ヘンテコお嬢様! 誰がそこの万年居眠り野郎と一緒だ!」
「あら、てっきりそこの不真面目サイフ男と同類かと思ったんだけど違うのかしら」
「へっ、こいつと同類になるぐらいなら秒殺KOされた方がましだ。そっちこそ同類じゃねえのか?」
「笑止ですわ。誇り高き雷帝の血を引く、このヴィクトーリア・ダールグリュンがサイフと同類だなんて」
「お前ら喧嘩するのか俺を馬鹿にするのかどっちかにしろ!」
もう止めろ。俺のライフはとっくの昔にゼロなんだ。
これ以上言われたら本気で泣くぞ 。
『居眠りサイフ男』
どっちかにしろとは言ったが俺を馬鹿にする方を優先しろとは一言も言っていない。
おかしい、暑くもないのに目から汗が……。
「リヒターの涙目写真…っ!」
「止めてくれ、ジーク。その写真は俺に効く、止めてくれ」
ジークが目を輝かせて高速で写真を撮ってくる。
若干よだれをこぼしていても気にしない。……もう、なんかカオスだな。
思わず頭を押さえているといきなりバインドで拘束されてしまう。何なんだ、一体。
「何をしているんですか、あなた達は。インターミドル参加選手がガラの悪い子達と思われたらどうします!」
「お前は……『えいえいおー!』?」
「誰が『えいえいおー!』ですか! 確かに言いましたけど、エルスです。エルス・タスミンです!」
ヴィクターとハリー、そしてなぜか間にいた俺をバインドしてきたのは開会式で『えいえいおー!』したエルスさんらしい。
完全に巻き込まれただけである俺を捕まえたのは誤解だと思うが一先ず俺に対して失礼な二人を束縛したのは称えたい。
「せやけど、観客席で魔法使うのも良くないと思うんよ」
「チャ、チャンピオン!?」
『チャンピオン!?』
ジークに気づいたエルスが叫ぶとその声に反応した観客や選手がこちらを見てくる。
ヴィクターとハリーもなんだかんだで有名人だからな。
一般人の俺にとっては肩身が狭い。あ、リオちゃん達もこっちを見ている。
これは張り切らねば。
「くっ! 辱しめは受けない。殺せ!」
「男が囚われの騎士でかっ!」
「いいツッコミだ。お前とは長い付き合いになりそうだ」
久しぶりに純粋なツッコミ役と出会えて俺は嬉しい。
今後とも安心してボケに走らせてもらおう。
そんなことを考えているとヴィクターとハリーが何事もなかったようにバインドを壊して立ち去っていく。
ジークもなんかいつもの人見知りはどこにいったと言いたくなるようなピースをアインハルトちゃんにしている。
さて、なんとなくいい感じに終わりそうなんだが……。
「なあ、『えいえいおー!』のエルス」
「そんな二つ名を付けた覚えはありません! まあ、それはともかくどうしたんです?」
「そろそろ俺のバインド解いてくれないか?」
「あ」
悲しいけど俺、一般ピーポーなのよね。
後書き
ヴィヴィオちゃんは次回に出るから。ほら、記念すべき十話に取っておいたんですよ(震え声)
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