リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた
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第十七話
彼女たちがこの世界に本当にいるのなら、いつか出会うだろうとは思っていた。
だが、何も今日でなくてもよかったではないかと、何度目になるか分からない神への罵詈雑言を心の中で叫びながらも、葵は彼女たちを睨みつける。
葵と暴走体を結界に閉じ込めたのは、フェイトとアルフであった。いつか探しに行かなければとは思っていたが、この強大な敵と戦おうとしている最中に出てこられても、正直な話邪魔なだけである。因みに、大嵐の原因である暴走体がいなくなったことによって、海鳴市では嵐が収まっており、現場にいた報道陣は呆然としていたが、今は関係ないので割愛する。
―――そもそも、何故彼女たちはこのタイミングで現れたのか?そして・・・
(フェイトとアルフ・・・。何でそんなにボロボロ何だ・・・?)
満身創痍。その言葉しか見当たらない程に、二人はボロボロであった。体のいたるところに傷があり、バリアジャケットは所々千切れている。体力も限界であり、お互い、肩で息をしている程に疲れきっていた。
「チッ・・・!何でこんな場所に子供がいるんだい!?しかも魔導士が!」
未だ葵の攻撃によりのたうち回っている怪物。痛みにより、暴れに暴れまくっていた。時折自分に打ち付けられるその巨体をフラフラな飛行魔法で避けながら、アルフが毒づく。この世界には、魔導士なんていないはずじゃなかったのか、と。
「あの子・・・この敵と戦ってたんだ。一般人をかばってたみたい。」
アルフより少しだけ早く到着していたフェイトが呟く。彼女は、葵が街路樹を投擲したところから目撃しており、彼に最大の注意を払っていた。
何か変な力を使っていたみたいだが、街路樹は立派な(?)質量兵器だ。管理局の法律では違法である。ここは管理外世界だが、魔導士であるからには管理世界の出身であるはずで、法律を破ることに微塵も躊躇わない性格なのだ、とフェイトは誤解していた。
本当は、葵はこの世界の出身であるため、管理局の法律に従う必要などこれっぽっちもないのだが。
あんなものに当たるほど遅いつもりはないが、今は疲労している。普段の半分も力を出せないだろう。いくらバリアジャケット越しとはいえ、あれほどの質量があの速度で衝突すれば、即死する危険性だってあるのだ。フェイトは、アルフにも、あの少年には十分注意するように伝えた。
★★★
さて、フェイト陣営が状況を伝え合っている間に、葵も考えを纏めていた。
(まあ、まずはあの怪物をどうにかしないと。・・・・・・しかし、何であんな大物が出てくるんだか。フェイト達もやばい状態だし―――って、え?まさか・・・)
突如脳裏に浮かんだ考え。有り得ない、有り得ないと思いつつも、確認するためにフェイトたちに向かって叫んだ。
「おい!まさかとは・・・本当に有り得ない話だとは思うが!・・・コイツ、お前らが原因じゃないよな・・・?」
その言葉に、サッと顔を背けるフェイト達。葵は頭を抱えた。脳が沸騰するほどの怒りを覚え、反射的に叫ぶ。
「こ、このバカ娘どもがあああああああああああああああ!!!お前ら、複数のジュエルシードを強制起動したな!?」
原作でも行われた強制起動。勿論、原作で行われているのだから、葵も警戒はしていた。常に気を張って、魔力の気配がしたら急行出来るようにしていたのである。上手くいけば、強制起動などという暴挙も止めることができるかも知れないと思っていた。
だが、事態は彼の感知範囲外で起こっていたのだ。
彼女たちがジュエルシードの反応を感知し、あぶり出す為に強制起動した場所。それは、外洋であった。海鳴市から数十キロも離れた、海のど真ん中。潮の流れによってとんでもない場所まで運ばれたこのジュエルシードを、偶然に彼女たちは見つけてしまったのである。
葵は、原作と同じように海に何個か沈んでいるだろう、とは考えていた。しかし、まさか潮の流れに乗って遥々運ばれてしまうとは考えなかったのだ。この考えは、原作知識の弊害であった。『そこにあるはず』という固定概念が働いてしまうのである。
更に、時期も悪かった。何せ、起動したのは昨日。葵がヴォルケイノと戦闘している真っ最中である。なのはとユーノも、アリサやすずかを安全圏に逃がすのに精一杯で、外洋で起こった異変など全く感知出来なかった。
ただ、後々を考えると悪いことではない。複数個がバラバラになる前に発見出来たのだ。この機会を逃せば、広大な海に核兵器よりも危険な超ド級の爆弾が沈み続けるところだったのだから。
だがしかし。確かに、広い海の中から小さなジュエルシードを探すというのは大変な作業だ。見つかる保証もないし、時間だけが過ぎ去る可能性だってある。だがそれでも、最悪の可能性を考えて欲しかった。下手をすれば、昨日の時点で地球は・・・いや、この次元は消滅していたのかもしれないのだから。
「考えなしのバカ娘どもめ!何個だ!?あの暴走体は何個のジュエルシードを持っている!?」
「さ、さっきから何様のつもりだい!?馬鹿馬鹿と連呼するなんて―――」
「うるせえ!!!さっさと答えろ犬娘!!!」
「・・・・・・な、七個、だよ。」
「七個・・・!!!」
葵の暴言に反論しようとしたアルフだったが、葵のあまりの迫力につい正直に答えてしまう。そして葵は、目の前の暴走体がどれだけの強敵なのかを再度理解して唇を噛み締めた。因みに、フェイトは葵の剣幕に完全に怯えており、彼の視線から逃れるようにアルフの影に隠れている。勿論、そうしていながらも暴走体の行動には注意を欠かしていないが。
分かってはいたのだ。フェイトがプレシアに褒めてもらいたくて無茶をするのは。そう。分かっていたつもりだった。
(アニメだったから落ち着いて見ていられた!だが、知らないあいだに俺の命まで危険に晒されていたかと思うと・・・!!!)
葵の心中は大きく荒れていた。フェイトの現状は大体わかる。同情もするし助けてやりたいとも思う。だが、それと同時に腹立たしい。
自分は、魂をかけて戦う理由があるのだ。そのためならどんな犠牲を出そうと走り続けると決めたほどの。その信念に従って行動し、ようやく『階段』さえ昇った。目的に近づくための最初の一歩を踏み出したのだ。
だというのに、自分の意図しないところで死にかけていたというのである。これは、前世で通り魔に殺されるという理不尽な死を体験している葵にとって、最大のトラウマであった。
故に、当り散らす。子供のように叫んだ。また理不尽に死にかけていたという恐怖を、叫ぶことにより発散させるかのように。
「クッソ!とにかくテメエら手伝え!あの化物をどうにかするぞ。話はそれからだ!」
見ると、暴走体の体に突き刺さっていた街路樹は、度重なる叩きつけにより折れていた。そして、暴走体の体がジュクジュクと気持ちの悪い蠢き方をして、傷が治っていくと同時に体内に残った街路樹の欠片を押し出している。
(チッ。痛くて暴れてるのかと思ったが、街路樹を細かくして体から排除しやすいようにするためだったのか)
パラパラとその巨体から砕けた木の欠片が零れ落ちる。葵に向けているその瞳は怒りに満ちているが、ダメージ的に言えば殆ど効いているようには見えなかった。
『GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
咆哮。小さき者が。己の餌に過ぎない下等な生物が良くも己に傷をつけたなと。完全に傷を修復し終えた暴走体が襲い来る。
フェイトもアルフも完全に無視して、一目散に葵だけに向かってきている。まるで、フェイトやアルフなど敵にすらならないと言っているようだし、事実そうなのだろう。フェイト達は、昨日この暴走体と戦って敗走していた。手も足も出ずに逃げ出したが、この暴走体が海鳴市に向かっているのを感知して追ってきたのである。
『GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
「このっ・・・!」
ものすごい勢いである。海岸から葵のいるビルの屋上まで、大体百メートルはあるのだが、そこまでビルを破壊しながら突き進んでいても、まだ全長が分からない。海から全身が出ていないのだ。一体どれほど巨大なのか想像も出来ない。
ガガガガガガ!!!
途中にあるビルや道路など砂糖細工のように破壊し突き進んでくる暴走体に、葵もひるんだ。人間と蟻以上に体格差があるのだから仕方がないだろう。とにかく直線上にいるのは下策だと一旦上空に退避しようとして・・・
ザシュッ・・・!!!
「・・・・・・あ?」
葵は、立っていたビルを真下から貫通してきた触手によって、右足から右肩までを一直線に貫かれていた。
「嘘・・・だろ・・・?」
串刺しにされた葵を、暴走体はフェイト達に見せしめるようにして天高く掲げる。そこに響く声が一つ。
「葵・・・君・・・?」
ようやく現場にたどり着いた高町なのはの参戦によって、事態は新たな局面へと変化していくこととなる。
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