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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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13.頼むだけなら誰でも出来る

 
前書き
ごめんなさい皆さん……スプラトゥーンやってて遅れました。 

 
 
 時はティズ・オーリアが目を覚ます数日前。
 場所はダンジョンを抱える迷宮都市オラリオの一角、ガネーシャ・ファミリア本部の『アイアムガネーシャ』。

 主神ガネーシャを(かたど)っ自己顕示欲の塊みたい巨大な像の股間が入り口であり、潜ると言葉に言い表しにくい感情を胸に抱くこと請け合い。一部の人々や神は「ガネーシャさんマジパネェっす」などという褒めてるのか皮肉なのかよく分からないことを言ってるが、流石にこれはリングアベルも肯定しきれないだろうなーと思いながらヘスティアはそこを潜った。

 ガネーシャ・ファミリアはモンスターテイムによって沢山の魔物を飼っていることと有り余る財力が有名であり、その主神たるガネーシャは定期的に神の参加するパーティを開いている。参加者はパーティを開いたガネーシャには感謝するが本人のスピーチとかは適当に聞き流すという微妙にドライな雰囲気があったりする。

 ヘスティアはガネーシャのことを趣味が悪いとは思うが、嫌いではない。
 彼は相手の神が落ち目だろうと危険人物だろうと強烈な反結晶派だろうと平等に招き、持て成す。同時に人間にもレベルや財力で別け隔てをすることはない。自分の趣味がフリーダムであるが故に、他人の主義にもフリーダムなのだ。故にこの会では自分のファミリアや世間話などに華を咲かせ、政治的な話は持ちこまないのが暗黙の了解になっている。

 理解しがたい部分は多いが、自己中心的な神が多い中でもガネーシャは懐が広く善良な部類に入る。
 善良なので、例えヘスティアがパーティの料理の中から日持ちしそうなものを次々にタッパーに放り込んでいても許してくれるはずである。いいやそうに違いない。何故ならガネーシャだから!などと考えながら、ヘスティアは一心不乱にタッパーを埋めていく。
 リングアベルとベルの登場で生活最底辺は突破したとはいえ、未だヘスティア・ファミリアの財政は厳しいものがある。現状では生活は出来るが貯蓄金が少ない状態なので、ちょっとでも出費を削りたいのだ。

 ついでとばかりにお入りそうな料理を口一杯に頬張っていると、そんな彼女の背中に呆れの混じった声がかかる。

「何やってんるのよあんた……みっともなから止めなさい。周りが見てるわよ」
「ふぁわいふぁふぃふぇふほはひふほほほほはよ!」
「多分『周りに奇異の目で見られるのはいつもの事』的なことを言ってるんだと思うけど何言ってるか全然分からないわよ。お行儀悪いから食べ物を呑み込んでから喋りなさい」
「むぐむぐ……ごくん。なんだ、言いたいことは全部伝わってるじゃないか!流石は我が盟友ヘファイストス!!」

 そこに居たのは真紅のドレスに真紅の髪をなびかせる眼帯をした神、ヘファイストス。
 鍛冶の神であり、その姿からはどこか金属的な印象を受ける。家庭の中心である炉の神ヘスティアとは天界では親友の関係にあった間柄だ。

「珍しいじゃない?あんたが宴に顔を出すなんて……もしかして今日を食べるのにも困るほど生活が困窮……!?」
「してないやい!幾ら零細ファミリアでも食費くらいはどうにか捻出してるよっ!!」
「ハッ!?まさか、また私にたかろうって言うんじゃないでしょうね!?貸さないわよ、ビタ1ヴァリス!!」
「だから今はそこまで生活に困窮してないってば!?」
「ウソおっしゃいこの貧乏神!天界からオラリオへ降り立ってからというもの、友達だからと散々人にたかっておいて、今も現に意地汚くタッパーに物を詰めてるじゃない!!」
「むぐぐぐ~っ!?」

 全然反論できないヘスティアは唸るしかない。
 というのも、彼女はヘファイストスの言うとおり一時期完全なヒモをしていた時期があるのだ。ヘファイストスの家に入り浸り、食事を要求し、「そのうちファミリアを作って借りは返す」とかいいつつお金をたかってはリビングでダラダラ。貧乏神というよりただのニートかパラサイトである。

「はぁ~~……こんなのが友達だと思うと涙出てくるわ……」
「なんかゴメン……でも、あの頃があったから今はちゃんと暮らせてるし、感謝してるよ。ファミリアも無事に出来たし」
「そう………おめでとう。いい子に出会えたかしら?」
「へへっ、ありがとう!2人入ったけど、2人とも本当にいい子だよ!まぁその分ちょっとヤンチャだけどね?」

 なんやかんやでやっぱり友達。祝福してくれる友神がいることは嬉しいものだ。
 しかも今は幸か不幸かあの忌々しいロキが遠征でオラリオにいない。………その理由を考えると、余り呑気にしている訳にもいかないのだが。

「ふふ、笑ったり落ち込んだり大変なのね?」
「あ、フレイヤだ。久しぶり!」
「やあ、フレイヤ。しばらくぶりだね」

 胸元を大胆に開けたドレスを纏う、ケチのつけどころがないほどに美しい姿。美の神として周辺を魅了する、フレイヤがやってきた。いつも余裕を感じる優美な笑みを浮かべている彼女の姿は、周囲の神々の目線を釘付けにしている。
 ……ヘスティアとしては正直ちょっと苦手ないタイプだ。相対していると、なんとなく美しい大蛇に身を絡まれるような忌避感がある。人間を『魅了』状態にしていう事を聞かせたりしているという噂もあるし、彼女ならやっているだろうとも思う。

「何を考えてたのかしら、お聞かせ願える?」
「………カルディスラの発光現象さ」
「まぁ、センセーショナルな話題ね?」

 一応、どの神々もあの発光現象は知っている。ただ、その発光現象の詳細を知っている者はいないし、あの光からよくない物を感じた神も少数である。

「巷では『天界の誰かの悪戯』説と『クリスタル正教の仕業』説で二分しているようだけど………そんなに気にする事かな?」
「神々の間ではそれ以上に沢山の憶測が飛び交っていましてよ?貴方たちと仲が良いロキの報告を待つばかりですわね」
「いやよくないから。あり得ないから。………二人は、あれから何か感じなかったかい?あの光から、さ」

 ヘファイストスは考えるように指を顎に当てる。

「う~ん……光を直接見れば感じるものはあったかもしれないけど、生憎工房に籠ってたからなんとも。良い印象はなかったけど、それだけだね」
「そっか………」
「直接目で見た神々は、多くが不信感を募らせてるようですわね。かくいう私も……あの光は気に入らない」

 一瞬、ほんの一瞬だけフレイヤの声から一切の熱が消えた。
 これだからフレイヤは怖い。美の神であるが故に、美を感じなかったものにはどこまでも情がない。遠巻きに見ていた神々は気付かなかったらしいが、ヘスティアとヘファイストスにはその凍りつくような冷たさが感じ取れた。

「――それはそれとして。私としてはヘスティア・ファミリアに加わったというお二人に興味があるわ。聞かせてもらえないかしら?」
「ああ、それは私も気になる」
「なぬ!?聞きたい?聞きたいの!?ウチの自慢のファミリアのことを聞きたいの!?どーしよっかなーでも聞きたいって態々いうんならしょうがないなぁー……ようし、特別に教えてあげようじゃないか!」
(ウザっ……)

 その後、ファミリアの話でリングアベルの困ったちゃんぶりを愚痴ったり、ベルの可愛さを語ったりとちょくちょく話をして、ヘスティアは神の宴を楽しんだ。
 しかし、今回彼女がここに来たのは遊びに来たわけでも、情報収集しに来たわけでもない。いや、まったくないかと問われればちょっぴりあったのだが、ともかくそれは本題ではないのだ。

 言わなければ。今言わなければもうタイミングがない。
 フレイヤも既に別の所へ行ってしまったし、頼むなら今しかない。

「――ねえヘファイストス。恥を忍んで頼みがあるんだけど………」



 = =



 豊饒の女主人。
 かつてリングアベルが訪れ、女将のミア・グランドを本気で口説こうとするという前代未聞の大偉業を達成した冒険者御用達の飲み屋である。その伝説は既に酒場を通してあちこちに拡散されており、今ではこの酒場でリングアベルは伝説の男である。

「レジェンドニャ!生けるレジェンドとその後輩が来たニャー!!」
「お客様2名入りまーす!!」
「あ、あれがレジェンド……なんというモテオーラ力!」
「あのミアさんが認めた色男……!守備範囲が広すぎるぜ!」

 周辺からよく分からない羨望や畏敬の視線を一身に浴びつつ、リングアベルとベルが店に入る。
 誰彼かまわず口説きまくる客は大抵この店から叩きだされるのだが、リングアベルのみはミア直々に「礼節を弁えた口説き」として入店が許可されていたりする。恐るべし、リングアベル。

「ちょっと、貴方はどっち狙いなのよ!」
「わ、私はベル君の方が好み、かなぁ?」
「ならそのままベル君の方狙いなさい!私はリングアベル一くん筋だから!」
「ちょっと、抜け駆けはズルイんじゃない!?」
「あなた達……人の恋時にどうこう口を出す気はありませんが、まずは仕事しなさい!!」
「ご、ごめんなさーい!!」

 従業員が一人、リューさんの一喝でかしまし娘達は散り散りになっていった。

「うちの娘たちも随分お前さんたちを気に入ったもんだ。あれでもそれなりには男慣れしてるんだけどねぇ……」
「フッ……溢れ出る俺の魅力を抑えきれなかったか。それにしても、やはりベルにもその方面の才能があるな」

 女たらしの才能、とは口に出さない。何故ならリングアベルにとって女性を口説くとは、女性への敬意なくして成り立たないものだからである。料理の乗った皿を抱えたミアが呆れたようにリングアベルに声をかける。

「ロクでもない才能を発掘してる暇があったら剣の腕でも磨きな、坊や!それと、ホレ料理だよ坊主!」
「あ、ありがとうございます!」
「ははは!手厳しいな、ミス・ミア!」

 坊やがリングアベルで坊主がベルである。従業員曰く、坊やの方が格上らしい。
 その判断基準は従業員の間でもはあが楽不明のままであるが、それはさておき。

「二人とも今日はどこまで潜ったのですか?」
「あ、シル姉さん!今日は6層まで行きましたよ。おかげで今晩はちょっとだけ奮発できそうです!」
「それでいいニャ!どんどん金を落としていくニャ!!」
「こらこら、悪徳店舗みたいなことを言うな!」
「あはははっ!」

 この賑わいがベルたちは好きだった。ヘスティアの待つ教会も家庭的だが、ここの酒場はそれとは別に人間的な暖かさとエネルギーに溢れている。冗談交じりに女の子を口説いて軽くいなされるリングアベルのコミカルな姿。
 優しく諭したり一緒に喜んだりしてくれるシル。何かといいたい放題言っては叱られるアーニャと、それを叱っている側のリュー。……たまにお尻を触ってくるクロエ。

 ……ま、まぁ最後の人にちょっと問題はあるが、概ねみんないい人である。

「やれやれ。二人とも見た目はナヨナヨしいのに冒険心だけは一端かい?」
「………強くなるって決めたので。強くなることは結果的に生き残る確率を上げますから」
「俺にもベルにも背負う物くらいあるからな。我がファミリアの経済基盤確保のために、行けるところまでは当然行くさ」
「やれやれ………余計なお世話かもしれないが、言っておくよ坊主ども」

 ミアの目が真剣身を帯び、2人の肩を掴む。ドワーフであるミアの掌は驚くほど力強く、そして暖かかった。

「いいかい、恰好つけるのはお止し。冒険者ってのは格好つけるだけ無駄に死に易くなる職業だ。英雄になれるだの何だの好き放題に言いふらす奴はいるが、それにしたって死んじまったら意味ないだろ?」

 元一級冒険者の語る言葉には、同じ心配でもエイナやヘスティアにはない厚みというか、重みがある。言霊というべきか、言葉に内包された彼女の過去が、伝わってくるようだった。

「惨めだろうが笑われようが、生きてりゃいいんだ。生き残った奴が勝ち組なのさ!」
「女将さん……」
「…………」
「ベル。お前、ミノタウロスに襲われて死にかけたらしいね?注意力が散漫な証だ。魔物の気配に臆病になりな。そうすりゃリングアベル坊やが無茶することにはならなかった」
「は、はい!!」
「リングアベル!お前は結果的にベル坊主を助けたけど、その分お前の大好きな女の子を随分泣かせたようじゃないか。人を助けるってのは、助けられるだけの力を持った奴だけがしていい事だ。はき違えるんじゃないよ」
「む、耳に痛い話だ……肝に銘じておきます、ミス・ミア」

 二人の顔を交互に見たミアは、大きく頷いて豪快な笑い声を上げた。

「分かればよろしい!!さあ、今夜はあたしの説教に付き合ってもらったお詫びにサービスするよ!好きなだけ食って英気を養いな!!」
「はぁい!!」
「では遠慮なく!」

 二人は大いに食べ、大いに笑い、言われるがままに存分に英気を養った。


 その日の帰りのこと。

「先輩……帰ったら一回、剣の練習に付き合ってもらえませんか?僕、さっきの話を聞いてったら余計に未熟な自分が許せなくなって……」

 今のままではいけない。リングアベルに守られ、ヘスティアに心配され続けたベルがずっと抱いていた想いだった。このままでは二人に認められるなど夢のまた夢、憧れの冒険者となったアイズの高みにもいつ辿りつけるか分かったものではない。

 だが、その焦りと慢心が招く悲惨な結果もベルは理解している。いや、リングアベルが身を持って教えてくれたのだ。
 ステータスは順調に上がっている。いや、順調すぎて不気味なくらいに思える。でも、それだけでもいけない。剣士として純粋に、獣を狩る強さ以外の経験が必要な気がしていた。今、ベルが頼れてなおかつそんな強さを持っていそうな相手………それは、リングアベルを置いて他にはいない。

「……おいおい、最初に頼れと言ったのは俺の方だぞ?今更変な遠慮をするなよ!」
「わわっ、髪の毛が!?ちょ、やめてくださいリングアベルさん!?」
「頼むと言ったり止めろと言ったり主張がはっきりしないな?優柔不断な男は女にもてないぞ!」
「それとこれとは話が別ですからっ!!」

 ベルの頭をわしゃわしゃ撫でるリングアベルはいたずらっぽく笑った。決して子ども扱いしているのではなく、まるで友達をからかってるような手つきで、むかっ腹は立つが不快な感覚はしなかった。
 まるで兄弟げんかみたいだ。ふと、そう思った。

「まぁいいだろう!女性とのディナーや逢瀬の約束がある時は流石に余り付き合えないが、今日の予定は空けてある」
「むぅー!そうならそうと最初に言ってくださいよ!髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないですかー!!」
「なかなかイカした髪型だぞ?ワイルドで強そうだ!」
「適当な事言ってるでしょ!?もう~……こうなったら絶対先輩に勝ってやる!!」

 二人のの微笑ましい会話が、帰り道に響き渡った。

 ………なお、その日の訓練ではリングアベルの圧倒的勝利だったことをここに追記する。
  
 

 
後書き
申し訳ありませんが、これからちょっとだけ忙しくなるので更新を一時停止します。
読者の皆様には申し訳ありませんが、ご了承ください。 
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