問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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本拠の守り
「あ、オハヨー一輝さん!」
「あ、一輝さん来た!」
ヤシロと屋上でしばらく話してから。そろそろみんな起きるくらいの時間だろうと屋敷の中に戻り食堂に行くや否や、一輝は子供たちに囲まれた。ちょっと意外な反応に一輝は一瞬戸惑ったが。
「おー、元気だなーガキども。なんで朝からそんなに元気なんだ」
『ジャックさん!』
「あ、納得」
割とすぐになれた。そこまで気にしていなかったのが大きいのかもしれない。
「そうだ!一輝さん魔王を倒したんだよね!?」
「隷属させるってどんな感じー?」
「魔王ってやっぱり強いの?」
「あー、魔王か・・・。どの魔王のことを言ってるんだ?隣のこの幼女も元魔王なんだけど」
一人で討伐しただけでも魔王は四人。そのうち隷属させたりしたのが三人だから、一輝としてはどいつのことを言っているのか、という話だ。まあでも。
「えっとねー、あの絶対悪の!」
「やっぱり、時期的にそれだよな・・・アジ=ダカーハなー。アイツはいま本拠で執事やってる」
『執事!?』
「オウ、執事。なんか妙にあの服装に合うし、主にリリに色々と習ってどんどん万能になっていってなー。最近じゃもう『そこまでするのか!?』ってレベルのことまでできるようになってる」
「いやうん、確かにあれはもう、原型がないくらいよね・・・」
驚きに染まる子供たちを面白そうに見る一輝の横で、音央が呆れたように呟く。今は特にメイドの仕事をしているわけでもなく客分として招かれているためか、普通に私服だ。今更ながらではあるが、ヤシロも私服(白ロリ風)である。
「つってもな・・・仕方ないだろ。リリはアジさんに何にも臆さずに教えてくし、アジさんはそれをすぐに習得してくし・・・最近は和菓子作りを習得しようと頑張ってるしさ」
「アジさん、もうそろそろ習得しますよ?この間一緒に作りました」
「・・・まあ、兄様に関わってしまった時点でああなって当然かもしれないが」
そんな、関係者が聞いたら驚いてしまいそうな話。それを朝の人と木に笑い交じりで話していると、鳴央とスレイブも食堂に入ってきた。二人もまた同様に私服であるが、スレイブのそれだけは鞘になる特注品だ。大人し目な鳴央にボーイッシュなスレイブ。このスレイブの服装については前にもっと女の子らしい恰好をさせようという試みがあったのだが、結局この服装に落ち着いたようだ。
そして、まだ来ていないと思われるはずの湖札はすでに部屋に入って子供たちとじゃれている。さすがはぬらりひょんの力を持つ一族というべきなのか、それとも一輝のぶっ飛び具合に一番慣れているからなのか、特に話には入らずにいたわけだ。
「さて、と。アンタらもそんな入口で突っ立ってないで座りなよ。もう子供たちが朝食の準備はしてくれたから」
「あ、了解だ。えっと・・・」
「アーシャだ!そのネタまだやるのかよ!?」
「俺が飽きるか反応しなくなるまではやり続けるぞ。それが俺だ」
「どんなことでドヤ顔するな!」
・・・このコミュニティでいじって楽しいのは彼女だけ。すなわち一輝がここにいる間主に苦労するのは彼女ということだ。
止めてあげることはできないけど、せめて合掌して上げることにしよう。アーシャに、合掌。
とまあそんなやり取りがありながらも全員が席につき、朝食がはじまる。さすがにこれだけの人数で食べると騒がしくなってくるものなのだが。
「あ、そうだ。ウィル・オ・ウィスプのこれからについてなんだけど」
一輝がさらっとその話題を持ち出したことで、それどころでもなくなってしまった。
「えっと、それって今話すの?」
「わざわざ後で全員集まるのを待つのも面倒だろ。だったら今決めちまった方がいい」
そう一輝が言うと全員が手を止めた。一輝が食事をしながらでいいといっても聞く耳は持たなかったので、もういいやと再開していく。
「とりあえずヤシロから全部聞いたけど、“ノーネーム”の本拠に移ってもらうのがいいと思ってる。檻の中の妖怪を総動員すればすぐにでも建物はできると思うから、それをしばらく待ってくれればいける」
「それは、ありがたいんだけど・・・本拠での立場は、ヤシロが言ってた通り?」
「ああ。子供たちは雑用に、ウィラもメイドになるはず。それと・・・アーシャ」
「ん、アタシ?」
一輝に声をかけられ、自分を指さしてそう返すアーシャ。一輝はその顔をみて一つ頷き。
「お前には、ギフトゲームの主催者関連の手伝いをしてもらうことになると思う。ガッツリか少しかはこれからお前がどうするか次第だけど、な」
「・・・アタシになった理由は?」
「ウチのコミュニティに主催者のノウハウがないのが理由だな。“ノーネーム”ではこれから主催者もやっていくことになるから、その辺の知識があるやつがいるかいないかは大きいんだよ」
「・・・こっちが世話になるんだし、そういうことなら主催者に回ってもいいんだぜ?」
「そこまではしなくていいよ。どうしたいのかを決めてくれれば、それに合わせて仕事を回す。そもそも主催者に回るのは俺なんだから、力技でどうにかしようと思えばできるしな」
はっきりとそう言われたためか、アーシャはそれ以上は何も言わなかった。言われてみれば確かに一輝ならどうにかできそう、という面もあるのだが。
「えっと、それは大丈夫なんだけど・・・」
「いいのか?子供たちの中にはいやな子たちもいると思うんだけど」
「みんな、それはちゃんとわかってるから。ただ、できるならこの本拠をこのままにしておくのは・・・」
「まあ、確かにここをほったらかしにはしたくないよな。というわけで、こんなギフトゲームを提案してみる」
一輝はそう言ってウィラに一枚の契約書類を差し出した。
『ギフトゲーム名 “この先進入禁止”
・プレイヤー一覧 ウィル・オ・ウィスプに無断で侵入した者全て
・プレイヤー側勝利条件 主催者との一騎打ちに勝利すること
・主催者側勝利条件 侵入者の殺害
・備考 このギフトゲームに降参は存在せず、参加者の死亡か主催者の敗北でのみ終了する
宣誓 上記を尊重し誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
ノーネーム所属“鬼道一輝”印』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
一輝の差し出した契約書類を見た“ウィル・オ・ウィスプ”の全員が絶句である。いやまあ、分からないではないのだが。
「この契約書類を進入しようって意志を持った人の前に現れるように設定して、ついでに門とか一部の壁とかに貼っておけば入ろうってやつはないだろ」
「いや確かに、主催者にアンタの名前がある以上入ってくるやつはいないだろうけど・・・」
「それにしたって、えげつない・・・」
さらっとこんなギフトゲームを提案してきたことに対して『えー』という視線を向けるが、一輝はそんなこと気にもしないで食事を進めている。一部の子供たちは主催者権限によって作られた輝く契約書類を見て目を輝かせているのだが、それはご愛嬌。憧れのようなものがあるのだろう。
「そんでもって、入ってきたとしても俺の前に強制転移。そんでバトル。なんとでもなるさ」
「まあ、でも・・・うん。確かにこれなら、本拠は守れそう」
「そゆこと。勿論ながら“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーは入れるから安心してくれ」
「なら、これでお願い」
「了解した」
ウィラから直接許可を得たところで、一輝は指を一つ鳴らす。その瞬間に彼が持っていた契約書類は消えてギフトゲームが開催された。
「んじゃ、今後の方針も決まったことだし・・・明日になったら“ノーネーム”に戻ることにする。建物が出来たらまた連絡するから、簡単な準備だけはしておいてくれ。・・・つっても、俺の上層巡りが終わってから立て始めるから、まだまだ先になっちまうんだけど」
一輝がその場にいる全員にそう伝えたところで、ようやく食事が再開された。ひとまず決まったのは、“ウィル・オ・ウィスプ”の“ノーネーム”への移動に、“ウィル・オ・ウィスプ”本拠の安全。珍しく何もなく平和なものである。
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