問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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どんな道を歩むのか
「なんか、こういうのは久しぶりだな・・・」
風呂場でウィラとの一件があった後。一輝は興奮する、すなわち性欲という感情が存在しないから。ウィラはだいぶずれているから。とそれぞれの理由から混浴状態でも何も気にしなかった二人は互いの背中を流しあい、いったん別れた。彼女はどのようにして一輝について判断するか悩んで寝ていなかったらしく、そのまま寝室へと向かったのだが・・・一輝はもう十分に寝ていたので、再び寝られるわけでもない。よってそのまま準備していた和服を着て本館の屋根の上に昇り、朝になっていくのをただのんびりと眺めているのだ。
「元の世界にいたころはよく、徹夜した後に社の上に上ってこうして眺めてたっけか」
いや何やってんだ神社の息子。どう考えてもそんなことやっちゃいけない立場だろうが。
《俺がそんなことを気にするとでも?》
だろうと思ったよ・・・
《もちろん、毎回父さんがどなってたけどな。そのたびに何か手を出して社を傷つけたらいけないからって何もできないでいたのは、かなり笑えた》
ダメだコイツ、本格的にダメだ・・・
まあそんな感じで、一輝はただ座って朝へと変化していく光景をただただ見ていた。普段の彼からは考えづらいくらいに静かに、ただただ眺めるだけ。そうしてその場に流れていく沈黙は、少女がそこに上ってきたことで破られた。
「なんだか、お兄さんかおじいさんみたいなことしてるっ」
「ん・・・?ああ、ヤシロか。おはよう」
「うん。おはよう、お兄さんっ!」
うんしょ、といいながら梯子から屋根に移ったヤシロは、そのままトテトテと歩いて一輝の隣に腰を下ろし、横になって一輝の足を枕にする。所詮は膝枕なのだが・・・屋根の上でやるとは、中々に度胸がある。
「・・・なんで膝枕?」
「何となく、だよ。意外と和服って枕にすると気持ちよかったから、このまま続行で」
「ん、了解」
それだけの説明で納得してしまう一輝はそのままヤシロの頭をなで、ヤシロはそれをくすぐったそうにしながらも気持ちよさそうでもある。
「それで、なんでわざわざここに来たんだ?屋根の上に何か用事でもあったのか?」
「ううん、お兄さんがいるみたいだから来たの。何か私に聞きたいことあるんじゃないかなー、って」
「・・・まあ、勿論あるけども」
だからって自分から来るのか、とさすがの一輝でも少し頭を抱えるが『ヤシロだし』という理由で納得してしまう。一つため息をつき、頭をかいてから。
「あ、でもその前に一個私の質問いいかな?ちょっと気になることがあって」
「お、おう・・・なんだ?」
「そんなに大したことじゃないよ、お兄さん。本当に小さなことだから。なんで呼び方変わってるのかなー、っていう」
言われて一輝は、ようやく自分がヤシロのことを呼び捨てにしていることに気付いた。なんでそうなったのかを少し考えて・・・
「・・・完全に無意識だな」
「あ、そうなんだ?」
「ああ。なんでだろうな・・・うーん・・・?」
「別に、絶対に知りたいってほどじゃないからいいよ?」
「それなら、そうさせてもらう。悪いな」
完全に無意識のうちだったのだろう。本当に何も思い出せなかった一輝はヤシロにそう言って思考を放棄した。
「それでお兄さん、何が聞きたいの?今朝のお風呂の件?」
「それしかないだろ・・・ってか、なんでそれ知ってるんだ?」
「ここに来る途中でウィラお姉さんにあったんだ。『昨日のこと、お風呂でちゃんと理解した』って」
「・・・・・・なるほど」
情報源としては十分である。これ以上に正確な情報源もないかもしれない。
「んじゃ、まずはそうだな・・・なんでヤシロはそこまでちゃんと知ってたんだ?」
「勘、かな。まあ私が滅びの気配に敏感なのもあるんだけど」
『滅び』を収集し記録する存在であるヤシロ。だからこそ彼女はどれだけ薄くとも滅びというものに敏感に反応できるため、一輝のそう言う部分に気付きやすいのだ。
「それにしても、ヤシロは俺がそう言うものだって知っててもそのままなんだな?」
「あ、うん。なにせお兄さんのこと好きだしね」
「そこまで知ってもそう言ってくれるのはうれしいな」
「あ、もちろんだけど異性的な方だよ?」
「・・・・・・・・・・・・うん?」
さらっと落とされた爆弾。本当に今のは告白なのだろうかと悩んでしまうくらいにはあっさりと言われたそれ。強いて言えばヤシロの頬が少しばかり赤く染まっているのだが、それだって告白直後だとは思えないレベルだ。
「・・・えっと」
「あ、返事はまだね?音央お姉さんが待たせてるのに私が要求するわけにもいかないから」
「そういうもん、なのか?」
「うん、そう言うものだよ。ちゃんとフェアに行かないと」
そう言うとヤシロは一輝の足に頬ずりする。
「それにしても・・・よくもまあ、俺がこんなんだって知ってて好きでいられるよな」
「ん?こんなん、って?」
「いやだから、俺がどこまでクズなのかとか、そもそも感情のあたりとか・・・」
「そんなの気にしてるんだったら、とっくにお兄さんから離れてるよ」
「・・・そうか。ありがたい限りだな」
そもそも彼女だって歪んでいるのだ。気にしていることはないだろう。
「さて・・・つい音央お姉さんだけじゃなくてウィラお姉さんまで動くから言っちゃったわけなんだけど、ついでに今のうちに言っておいてもいいかな?」
「何を、だ?」
「色々と、かなぁ。さっきも言った通り私はお兄さんのことが好きだから一緒になりたいんだけど、そうじゃなくても多分耐えられると思うんだ」
「それは・・・多分、普通ならおかしいんだろうな」
「うん、おかしいよ。でも、私は耐えられる。もう一個言うと、お兄さんが滅びの道を歩んでいくとしても辛いとは思わない」
ヤシロはそう言うと仰向けになって、一輝の顔を見る。
「私はお兄さんのことが好きだし、これから先一緒にいたいと思うし、言っちゃえば遺伝子もほしいと思う。でもそれ以上に、お兄さんがこれから先どんな道を歩んでいくのかに興味があるの」
「どんな道を?」
「うん。このままお兄さんがこの環境の中で生きていくのか、それとも自らが抱えるものに潰されて滅びの道を歩んでいくのか、もしくは・・・一族の役目を完遂して、真に英雄になるのか」
もはや、一輝はヤシロの発言に対して驚きもしない。ヤシロならそれくらいは知っているだろう、くらいのレベルになっているのだ。それに、滅びに対して敏感であるヤシロが『歪み』をその目で見ているのだ。その本質がなんであるかを見破ることなど、造作もない。
「とまあそんな感じで。私はお兄さんのことが好き。これは本当に本音なの。でもそれ以上にお兄さんの未来にとっても興味がある。それも、本音」
だから、と。一輝の顔に自分の顔を近づけていき・・・その頬にキスをする。
「お願いね、お兄さん。私にとっても面白い物語を見せて?」
「・・・俺にできるのは、俺が思ったままに生きることだけだぞ?」
「それでいいの。お兄さんくらい考えが普通じゃない人が思うように生きれば、それは十分に面白くなるから」
ニコッ、と。再び一輝の脚に頭を戻しながら笑いかけるヤシロ。その姿はとても幼女のものであるのに、しかし妙に大人びているようにも感じられる。実際の年齢は高いヤシロだからこそ感じられる魅力だろう。
そんなアンバランスな魅力。その笑みを真正面から向けられた一輝は、さすがにすこしばかりドキッとなる。彼にも少しくらいは恋愛感情のようなものが生まれ始めているのだろうか?
「あ、そうだ。返事の方も考えてはおいてね?」
「あ、ハイ・・・とりあえず、恋愛感情をもう少しで理解できそうなので、そうすれば俺にも恋愛感情が生まれますので・・・」
・・・・・・大丈夫なのだろうか、これ。
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