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金が落ちる

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2部分:第二章


第二章

 その演目の後でだった。歌右衛門は谷町筋に御馳走をした。立派な料亭において馳走も酒も奮発する。そこまでしたのだった。
 座敷のだ。落ち着いた趣だが立派な部屋、掛け軸や障子の絵はおろか畳や座布団までもが整っているその部屋の中でだ。若い谷町が話す。
「あの」
「何でしょうか」
 今は男の着物の歌右衛門が彼の言葉に返す。今は男の姿だ。舞台でのどんな美女も適わぬ様な艶やかさは今は存在していなし。
「何かありましたか?」
「今宵の舞台ですが」
「はい、道成寺ですね」
「見事でした」
 彼はだ。こう歌右衛門に話した。
「私は今まであそこまでの舞台はです」
「御覧になられたことはなかったですか」
「ありませんでした」
 感嘆と共の言葉だった。
「とてもです」
「いえ、今宵の舞台はです」
「駄目でしたか?」
「私自身ではとても」
 苦笑いを浮かべてだ。彼に話すのだった。
「及第は与えられません」
「そうなのですか」
「いやいや、らしいですな」
「全くです」
 他の谷町衆、より年配の面々がここで話す。
「それでこそ成駒屋さんです」
「そうですね」
 こうだ。彼等はその歌右衛門を賞賛して話すのだった。
「慢心すればそれで終わり」
「いつも言っておられますね」
「はい、全てが完璧でなければなりません」
 まさにその通りだとだ。歌右衛門は言うのであった。
「ですから今宵の舞台はです」
「及第ではありませんか」
「とても」
 また若い谷町に話す彼だった。
「あれではです」
「私には何処が悪かったのか」
「私の舞もよくなかったですが」
 それに加えてだというのだ。
「おまけにです」
「おまけに?」
「けちってしまいました」
 ここではだ。苦いものをその顔に見せる歌右衛門だった。
「それでとてもです」
「けちったとは?」
「舞台に金をけちってしまいました」
 そうした意味でのだ。吝嗇だというのだ。
「ですから。駄目になってしまいました」
「あの」
 話を聞いてだ。若い谷町はいぶかしむ顔になってだ。歌右衛門に話した。
「あの舞台で、ですか」
「はい、そうですが」
「あの様な豪華は舞台はないですが」
 とにかくだ。細かいところまで金を使っていた。そうした舞台だった。金だけでなく手間隙もだ。それがよくわかる舞台だったというのである。
「あれの何処が」
「いえ、衣装にしても鐘にしてもです」
「そういったものがですか」
「はい、駄目でした」
 そうだたっというのである。
「今思えば。けちってしまいました」
「そうなのですか」
「金は幾ら使ってもいいのです」
 まさにだ。そうだというのである。
「ですから。けちったことがです」
「悔やまれるのですか」
「そうです。芸には幾ら金を使っても構わない」
 歌右衛門の言葉が強いものになった。
 
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