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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第九十八話 新たな魔術師の才能

 暗闇の中、焼けるような熱さがその手にはあった。

 右手を見つめると案の定というか、炎に包まれた右手があった。

 傍から見れば悲鳴を上げかねない光景なのだが、炎に包まれた右手を持つ本人にしてみれば、その炎が自身が生み出して、同時に押さえつけている事を理解しているからこそ錯乱することも無かった。

 だがその炎の熱は上がり、抑える力を振り払い自身を呑み込もうと荒れ狂っている。

「このままじゃ、まずいわよね」

 抑えられなくなれば、自身の生み出した炎に喰われる事はわかっているのに、慌てる事は無い。

「やるだけのことはやってやるわよ」

 ただ己の成す事を見極め、炎を見つめる。

 そして、どのくらい荒れ狂った炎を抑えていたのか、既に時間の感覚は無く

「……やばいわね」

 炎の猛りはもはや抑えるのが限界なレベルに達し始めていた。

 同時に、抑える自身の力も疲労故か弱っているような気がしていた。

 そんな時、何かに抱きしめられ、包み込まれるような安心感が生まれた。
 それは炎に焼かれようとしていた己を守り、熱で奪われた身体に潤いを流し込む。
 逆に炎は己を焼く事を許さぬとばかりに守る何かに抑えつけられる。

 自身を守る何かを拒む事は無く、流し込まれた潤いを飲み込み、抱きしめ返す。
 見えない何かの正体などわからない。
 だが身を任せてかまわないという直感を信じ、ただ受け入れる。
 そして、ただ漠然と

 もう炎に己が呑み込まれることなどありはしないという確信だけがそこにあった。



 暗闇の中、彼女は静かにそこに立っていた。

 そんな彼女に歩み寄るもう一人気配。

 その気配のするほうに彼女は視線を向ける。
 周囲は暗闇だというのにゆっくりと歩み寄ってくる者の姿ははっきりと見えていた。

 自身と同じ長い髪、自身が着ているのと同じ白の制服。
 歩き方、ちょっとした仕草までも自分自身と同じことがわかってしまった。

 わずかにうつむき、歩み寄ってきた自分自身が一メートルぐらいの距離で歩みを止めた。
 この相手を見てはいけないと、本能が逃げろと命令してくる。
 
 だが同時に逃げれば終わってしまう、逃げてはならないとも本能が命令する。

 従ったのは後者。
 震える足で必死に逃げるなと自分自身に言い聞かせる

「よく逃げなかったね。私」

 歩み寄ってきた少女が嬉しそうに顔を上げる。
 見覚えのある自身とと同じ顔をした少女にびくりと肩が震える。

 しかし、同時に違和感がある。

 仕草も、髪も、顔も、服も同じだというのに認めたくないモノがそこにはある。

「必死なんだね。自分が人ではないと認めたくないから」

 歩み寄ってきた少女が自分自身が浮かべたことが無いような獰猛な笑みを浮かべる。

 笑みを浮かべた口元から覗くモノにもはや否定したくても、否定できなくなっていた。

「ようやく認めたね。
 言ってみて、答え合わせをしてあげる。
 私とワタシ、何が違うのか」
「…………赤い瞳と牙、吸血鬼としてのワタシの姿」

 満足そうに頷く少女。

「私が恐れて受け入れたくないワタシ。
 そして、私が望む力を持つワタシでもあるんだよ」

 赤い瞳をした少女の言葉に目を丸くする少女。

「選ぶ時よ。
 力を取るか、捨てるのか」

 突きつけられた選択に少女は息を呑む。
 考えられない。
 否、考えないように意識しないようにしてきた。
 自身の血にある吸血鬼としての力を。
 恐れてきた。
 人ではなく化け物である自分自身を

 目を逸らし、逃げてしまいたかった。
 助けてと縋りたかった、受け入れてくれた最愛の人に

 その時に思い出した。
 あの人は『すずかが化け物のはずがない』とそっと抱き寄せ、優しく、ゆっくりと頭を撫でてくれた。
 
 唇を重ねた時、驚きながらも拒絶することはしなかった。
 ゆっくりと唇に触れるとあの時の熱が思い出すように熱くなる。

「答えは出たね」

 穏やかな笑みを浮かべる赤い瞳の少女。

「うん、行こう。
 あの人の所へ」

 少女が手を伸ばし、赤い瞳の少女がその手を握り締める。
 それと同時に赤い瞳の少女はゆっくりと雪の結晶のようになり少女に取り込まれる。

 少女は静かに伸ばした腕を胸に抱き、瞳を閉じた。



 暗闇の包まれた寝室に眠る二人の少女。

 その片割れ、金髪の少女と静かに唇を交わす者がいた。

 ゆっくりと離れる唇。
 それを名残惜しむように唾液の橋が架かり、切れる。

 先ほどまで熱にうなされていた金髪の少女の呼吸は、落ち着きを取り戻していた。

 熱にうなされ、望んだ水を水差しから与えたが少女は自身で飲み込むことは出来なかった。
 故にその者は水差しの水を含み、口移しで与えた。

 もっとも眠っていた少女の唇を奪う行為には違いないので、己の心にのみ秘めておこうと罪悪感の篭ったため息を吐きながら、少女の頭を撫でる。

 そして、もう一人の少女の頭も同じように撫でる。
 それだけでもう一人の少女も穏やかな表情を浮かべる。

 その様子にわずかに安堵し、眠る二人の頭のせたタオルを冷やすべく置いておいた氷水の入った洗面器に手を伸ばすのであった。



 夜は明け、寝室に眠る二人の少女の熱も下がり、日が高く上る頃

「おはよう、士郎君」

 熱が下がった後も彼女達の傍にいた士郎に穏やかな声がかけられた。

「おはよう、すずか。
 身体はどうだ?」
「少しだるさが残ってるけど大丈夫だよ」

 ゆっくりとすずかは身体を起こす。
 その時、うなされる様な苦しそうな声が上がる。

「アリサ?」
「アリサちゃん?」

 もう熱は下がって落ち着いているはずだが、など呟きながら士郎がアリサに近づき、すずかもアリサの様子が気になりベットから立ち上がりアリサに近づく。

「アリサちゃん大丈夫?」
「もう熱も回路も安定しているんだが」

 と次の瞬間、跳ね起きるアリサ。

「アリサ、大丈夫か?」
「え? あ、うん……大丈夫。
 夢見が酷かっただけ。
 って何で士郎が」
「昨日の事を忘れたのか?」

 色々とまだ目が覚めていないのか、混乱するアリサだが、ここがどこかを思い出し、昨日のこともしっかり思い出す。

「そっか、私とすずかは
 って、すずかは?」
「私は大丈夫だよ」

 アリサは士郎の横に視線を向けて、親友のいつもと同じ笑みに安堵のため息を吐く。

「すずか、よかった」
「うん、アリサちゃんもよかった」

 互いに無事出会ったことを確認し

「それでちゃんと魔術回路は大丈夫だったのよね?」
「ああ、アリサもすずかも回路も開いたし、安定している」

 改めて士郎から言葉にされ、安堵する二人。
 二人からすれば、今後の未来にも関係する話なので、これで第一段階はクリアした事になる。

「さて、とりあえずお風呂に入ってくるといい、そしたら食事にしよう」
「う、そうね。
 かなり汗とかかいたのか気持ち悪いし」
「だね、じゃあ、行こう」

 士郎は先に部屋を後にし、アリサとすずかは着替えを持って脱衣所に向かう。

 そして、アリサとすずかは互いに髪と身体を洗い、湯船に浸かり、身体を伸ばす。

 衛宮邸の規模に合わせて浴室も浴槽も大きく、アリサとすずかがゆっくりと浸かっても余裕がある。

 そんな時

「アリサちゃん、大切な話があるの」

 すずかは静かにアリサに向き合う。
 アリサもすずかの真っ直ぐな視線を感じて、正面から向き合う。

「私ね、皆に秘密にしていたけど、人間じゃないの」

 いきなり何の冗談かと思う言葉だが、真面目に視線を逸らすことのないすずかに静かに頷いて、先を促すアリサ。

「私達、月村家は夜の一族、吸血鬼の一族なの。
 と言っても士郎君の世界の吸血鬼とは少し違うんだけど、それでも定期的に血液を摂取しないといけないし、普通の人たちに比べたら身体能力も違う。
 だからこのことを知られたら化け物だって言われるのが怖かった」

 静かにすずかは瞳を閉じる。

「それでもアリサちゃんだけじゃない。
 大切な友達にはこれ以上秘密にしたくなかった」

 瞳を開け、アリサを改めて見つめ

「こんな私ですけど友達でいてくれますか」

 差し出される右手。
 アリサは静かに手を伸ばし、すずかの右手を通り過ぎる。

 そして、すずかのおでこにデコピンを全力で叩き込んだ。

「あ、アリサちゃん!?」
「ふん、バカすずか。
 そんなことで友達じゃなくなるはず無いでしょ!
 一般とは少し違う力や特徴を持っているだけですずかの事を友達じゃないなんて思うはず無いでしょ。
 すずかがなんであっても、すずかはすずかでしょ」

 自分が言った事が恥ずかしかったのか、赤くなった顔を見られたくなかったのか、プイッと顔を逸らすアリサ。

 そんな友人の姿に、嬉しくて零れた涙を拭い、抱きしめる。

「すずか!?」
「女の子同士なんだから気にしない、気にしない」
「もう~、一方的に抱きしめられるだけは気にするでしょ。
 私にも抱きしめさせなさい!」

 二人はにぎやかにゆっくりと入浴を楽しむのであった。



 そして、二人の入浴が終わり、食事が済んだ後、改めて魔術特性が士郎によって調べられ、魔術回路の起動する時のスイッチが確認される。

「予想以上にいい素質を持つ魔術師だな」

 二人並行で行うため、二人の特性などをまとめながら、士郎がポツリと呟く。

 アリサ・バニングス
 魔術回路二十本
 魔術属性『火』
 スイッチ:炎を掴むイメージ

 月村すずか
 魔術回路十七本
 魔術属性『氷』
 スイッチ:枷を外し夜の一族の能力を解放するイメージ
 魔眼:重圧

 魔術属性がはっきりしたし、スイッチのイメージもしっかりしている事に満足しながらも課題も多く、どう教えていくかと頭を悩ませていた。

 一番の問題といえばアリサとすずかはそれぞれ火と氷という属性であり、教える士郎は剣という特殊すぎる属性を持っていることなのだ。

「遠坂かルヴィアがいれば、どちらも大丈夫なんだが」

 基礎ということであれば士郎でもどうにか教えることは出来るが、どうしても極めるということになると士郎では限界がある。
 とはいえ、士郎自身、二人の属性が剣などという珍しすぎる属性を持っているなど思っていなかったので、魔術を教える前から悩んでいることなのだが

「まあ、悩んでも答えは出ないからな。
 気長に考えるとしようか」

 後回しという名の、解決が難しい問題から逃避して先ほどの魔術の結果に思考を移す。

 先ほど魔術回路起動させ、アリサに発火、すずかに氷結と属性にあった単純魔法を士郎が補助しながら行ったのだ。

 その際、アリサは手を翳した物が発火するのではなく、一瞬手の平に炎を生み出した。
 すずかは対象だけではなく周囲をまるっと氷漬けにした。
 さらに魔眼はオンオフは幸いにコントロールは出来ているが、オン時に出力を弱めることが出来ず百パーセントの力で行うため、すぐに維持が出来なくなってしまう。

 とはいえ

「魔術回路が起動して、すぐにこれだけ行えればたいした才能だよな」

 素質の高さに驚くと共に、自身の才能の無さにわずかに肩を落とす士郎であった。

「それで士郎。
 私達の魔術はどうなの?」
「うん、さっきから悩んでばっかりだと心配になるよ」
「ああ、すまない」

 アリサとすずかの言葉に二人に向き合い、今後の事を伝える。

「アリサもすずかもかなり素質が高い。
 だけどまだ初心者だから課題もあるから当分はイメージトレーニングだけ、実際の魔術の訓練は俺が立ち会える時だけという約束を絶対に守ってくれ。
 魔術のコントロールに失敗すれば死に直結する。
 それだけは肝に銘じておいてくれ」

 士郎の真っ直ぐな言葉にアリサもすずかもしっかりと頷いてみせる。

「そして、二人の課題だ。
 まずアリサ、恐らく触れていないものを物に作用したりするのは苦手みたいだが、逆にさっきの炎のように手の平とか自分自身の接する場所に炎を生む事は得意みたいだ。
 だけど一瞬ではだめだ。
 ローソクサイズの火で良い、指先に生み出して同じ火力で安定させることをイメージしてくれ」
「うん、わかった」
「すずかは触れていない物に作用させる力はあるけど、魔眼も魔術もオンオフのみになっているから、オンした後に出力を調整することをイメージしてくれ」
「はい」

 二人の返事に頷いて

「さて、あっという間に時間が経ったな。
 そろそろ夕飯にしよう。
 その後、鮫島さんを呼ぶから」
「いつの間にかこんな時間なのね」
「言われてみればお腹が減ったかも」

 三人で地下室を後にし、リインフォースとプレシアを交えて五人で夕飯にして、鮫島に電話をかける士郎。

 最後に二人改めて約束を確認して、見送った。

 イメージトレーニングのみで魔術の行使に制限を掛けているが故にゆっくりであるが、アリサとすずかの魔術師としての一歩はこうして始まったのであった。 
 

 
後書き
予定より一日程遅れですが、無事更新です。

今回は前話に引き続き、アリサとすずかの魔術話です。
冒頭でところで士郎君がアリサ嬢に何をしたかはそのうち、知られることでしょう・・・きっと

さてアリサとすずかの属性などですがベースとしているのは「魔法少女リリカルなのはinnocent」になります。
アリサが離れたところに発火の魔術を行使できなったというのもinnocentの頭の固いところなどを参考に設定したところになります。

キャラクター設定のところに二人の魔術設定も近いうちに追加しておきます。
・・・オリジナルデバイス情報の話を載せるといっておきながらまだ出来てないので、併せてやっておきます。

さて、次回は遂に士郎君の魔導師初模擬戦です!

誰とやることにあるのかは更新まで秘密ですが、楽しみいただければと思います。

次回は六月二十九日辺りに更新します。

それでは次回またお会いしましょう。

ではでは 
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