ロード・オブ・白御前
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もう一つの運命編
第5話 舞と貴虎と白い王妃
ヘルヘイムの森の遺跡の奥の城跡。舞は光実によってそこへ誘われ、途方に暮れていた。
誘われた先には、白いオーバーロードと、銀のドレスに身を包んだプラチナブロンドの少女。そして白の一対から距離を取って座り込む、足に傷を負った一人の男がいた。
「君は……確かビートライダーズで光実と一緒にいた……」
「舞さん。あの人が呉島貴虎。僕の兄です」
「ミッチの? 紘汰が言ってた人?」
「ええ。そして」
光実は、それこそ切れそうに鋭利な目で、ドレスの少女を見やった。
「あの子は妹の碧沙。もっとも今は、オーバーロードの王妃に取り憑かれて本人の面影はみじんもないですけど」
「取り、憑く?」
確かに、“ビートライダーズホットライン”で視聴した時の碧沙とは、髪の色も服装も、まとう空気さえ違うけれど。
光実は白いオーバーロード――ロシュオという、オーバーロードの王に向かって、舞を「人類で最も価値ある二人の内の一人」だと紹介した。そして、舞の身柄をロシュオに委ね、帰って行った。
「恐ろしいですか? わたくしたちが」
舞は最初、それが自分にかけられた言葉と気づかなかった。
王妃を見て、ロシュオをふり返り、再び王妃を見て、ようやく話しかけられたのが自分だと分かった。
碧沙――の外見をしたオーバーロードの王妃が、にこにこと人好きのする笑顔で、舞の横に座った。
「あなたたちが怖いわけじゃ、ない。怖いのは、あたしを助けるために、あたしの仲間が危ない目に遭ってるんじゃないかってこと」
「自分より他人の痛みを厭う。あなたは清廉な心根の人ですね」
「そんなんじゃないよ。心配してるだけで、あたしは何の行動も起こせない。今もこうして、ここでじっとしてるしか……」
「――やはり善いヒトですね。あなたは」
王妃は慈しみ深い手つきで舞の髪を梳いた。
「あなたは仲間が心配。けれど、信じてもいるのでしょう? 仲間と再会できる未来を」
舞は戸惑ったが、肯いた。
(紘汰や戒斗たちは絶対負けない。今までずっとそうだったもの)
むしろ、もっと心配すべきは別にいる。光実だ。
どうして自分を無理やり連れに来たのか。そう問い質すと、光実は笑顔で答えた。
“舞さんが一緒なら、どんな困難だって乗り越えて行けるから。妹を救うために、どんなことだってできる、そんな強い僕になれるから。だから舞さんは僕のそばにいてください”
――光実が、壊れ始めている。
舞は光実の答えを聞いてそう感じた。感じて、何もできないまま、こうして離れ離れ。
チームメイトなのに。仲間なのに。舞は光実に何もしてあげられなかった。
「人が一人でできることには限界がある」
少し離れた位置に座って岩壁にもたれていた貴虎が、呟いた。
これまた、舞にかけられた言葉なのだと気づくまで、少しの時間を置いた。
「だから手を取り合い、協力する。君と君の仲間もそうだったんだろう?」
「それは……はい」
「私にはそんな仲間はいなかった。だが、君は大丈夫だろう」
「いなかった?」
「いや。俺がいたと思い込んでいただけで、実際は、あいつらにとっては俺は仲間でも何でもなかったんだ。だからこの有様でこんなとこにいる」
「――けれどまだあなたはその“仲間”を信じている」
王妃が見てきたかのように口にした。これに対し、貴虎は無言だった。
「わたくしたちも、かつてはあなた方のように思いやったり悩んだりした種族だったのに。どこでこうなってしまったのでしょうね――」
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