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四条大橋の美女

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4部分:第四章


第四章

「ここは」
「だから僕は今京にいてね」
 高杉の首はしきりに傾げさせられる。
「京の街はよく知っているんだが」
「こうした街ではないと」
「洋館があったり葡萄の酒が売られていたり洋服を着ている人がいたり」
 しかもであった。
「髷を結っている人もいないね」
「そうですね。確かに」
「ううん、何だこの街は」
 高杉はあらためて首を捻った。。
「見れば面影はあるんだが」
「ですから四条大橋の向こうの」
「何となくそうじゃないかなとは思えてきたよ」
「しかしですか」
「これが京なのか」
 ここでまた首を捻るのであった。
「随分違うな。それに」
「それに?」
「君はこの街のことを知っているね」
 女に対して問うたのであった。
「そうだね。知っているね」
「実はです」
 女もだ。遂に話をはじめてきた。
「この街のことは知っています」
「そうか、やっぱりね」
「この街は京です」
 それは間違いないという。
「京で間違いありません」
「それでも違う。これは一体」
「ここは十年後の京です」
「十年後の!?」
「そう、十年後のです」
 その京だというのである。
「それがここなのです」
「何と、十年後かい」
「驚かれましたか?」
「驚いたも何も洋服があって洋館があって」
 高杉は言うのはまずここだった。
「それに葡萄の酒に西洋の品もあって髷も刀もなくなって」
「変わるのです、十年後に」
「そうなのか。ここまで変わるのか」
「幕府ではここまで変われません」
 女はこうも言ってきた。
「おわかりですね」
「わかるよ、それはね」
 今の言葉の意味がわからない高杉ではなかった。流石に鋭い。
「そうか、僕達は成功したんだ」
「ただ。貴方はここにはです」
「いないんだね」
「それはおわかりですか」
「自分が一番よくわかっていることだよ」
 笑みを浮かべた。そのうえでの返事だった。
「それはね」
「そうですか。やはり」
「さて、僕はこの時何処にいるのかな」
 そのことを自分で言ってみせてだ。あらためて女に対して問うた。
「地獄かな。それとも餓鬼にでもなってるのかい?」
「いえ、貴方は地獄にはいません」
「散々悪いことをしてきたつもりなんだがね」
「人は大なり小なりですから。少なくとも貴方は邪ではありませんので」
「だから地獄じゃないんだ」
「そうです。貴方がこの時にいる場所はです」
 そこは何処か。女は高杉の顔を見ながら話す。今は二人はもうそのあまりにも変わった京を見てはいない。そのうえで話をしていた。
「社です」
「ほう、じゃあ神社に祭られているのかな」
「そうです。そこにいますので」
「そうなのか。また何でそうなったのかな」
「この国の為に戦いましたので。それでなのです」
「ふうん、僕が神社にねえ」
 高杉はそれを聞いて興味深そうな声をあげた。そうしてであった。
 
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