四条大橋の美女
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
3部分:第三章
第三章
「この橋での噂をね」
「つまり私のことですね」
「何処かに連れて行ってくれるそうだな」
楽しみにしている笑みで女に問うた。
「それは本当かな」
「その通りです。それをお聞きになられてここまで来られたのですか」
「そうだよ。それで何処に連れて行ってくれるのかな」
「橋の向こうです」
女はここでこう言った。
「そちらにです」
「橋の向こう?」
「はい」
女は高杉の言葉にこくりと頷いてみせた。
「そちらにです」
「橋の向こうだったら渡ればいいだけじゃないか」
高杉は女の言葉にいぶかしみながら返した。
「それでどうして君はそんなに勿体ぶっているんだい?」
「はい、それですが」
「どうしてなのかな」
また女に問う。
「それも知りたいんだがね」
「来られればわかります」
女は今はこう言うだけであった。
「そうされればです」
「来ればだね」
「はい」
そうだという女であった。
「それでどうされますか」
「返事はさっきしたよ」
高杉は悠然と笑って女に述べた。
「その筈だね」
「それでは」
「うん、行かせてもらおう」
高杉は一歩前に踏み出た。
「それじゃあね」
「わかりました、では」
こうしてであった。高杉は女に案内されて橋を渡った。橋を渡るとそこにあったのは。彼が全く知らない場所であった。
まず人が引く黒い車があり西洋の館が見える。人々は洋服を着ている者もいて店には舶来のガラス細工のものや葡萄の酒が売られていた。彼が西洋で見たものがそこには多く混ざっていた。
そしてだ。道行く人はだ。こんな話をしていた。
「よし、露西亜に勝ったな」
「うむ、まずはよかった」
「さて、これからだが」
露西亜の名前が出ていた。
「賠償金はどれだけ手に入るかな」
「清との戦争で三億だったからな」
「じゃあ露西亜相手だと十億か」
「いや、五十億は貰わないとな」
「そうだな、割に合わないな」
「そうだな」
こんな話をしていた。そこまで聞いてだ。高杉は言うのであった。
「露西亜に勝っただって?」
「はい、そうです」
「日本があの国にかい」
高杉は自分の言葉に答える女の隣で首を傾げさせていた。
「またそれは」
「信じられませんか」
「難しいね」
そうだというのである。
「今の日本は一つにさえなっていないんだ」
「そうですね」
「それでどうして露西亜に勝てるというのだい」
こう女に対して問う。
「無理なんてものじゃないだろ。それに」
「それに?」
「何か違うな、街が」
高杉は今度は街を見て話すのだった。
「京なのかい?ここは」
「そうです。四条大橋の向こうです」
女はそこだと話す。
ページ上へ戻る