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ダークヒロイン

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3部分:第三章


第三章

「貴様・・・・・・いえ貴方と付き合ったら」
「幸せになれるよ」
 そう囁いた。
「それでね」
「一緒になれたらか」
「どう?一緒になる?」
 ここでまた囁いて。さあ、今度で遂にかな。何か思ったよりガードが固いけれど。
「俺と」
「それは私だって年頃だし」
「そうだったの」
「まだ。十七よ」
 おいおい、タメ!?ちょっと待てよ。
「十七っておい」
 今度は俺が驚いちまった。
「俺十七なんだけれど」
「えっ!?」
 カーラちゃんも驚いていた。何か実際の容姿より幼く見える感じなんで。ついついもっと小さいのかなって思っていったけれど。これは意外だった。
「同じ歳なの」
「ああ、そうだよ」
 俺は驚きを隠せないままカーラちゃんに答えた。
「何だよ、それって」
「けれど。かえっていいわ」 
 それでもカーラちゃんはこう言ってきた。
「それもね」
「いいのかよ」
「だって。同じ歳ならかえって」
 むしろいい感じになってきた。これは計算外だったけれど俺にとっては運がよかった。
「安心できるわ。それだったら」
「いいの?」
「ええ」
 真っ赤な顔になって。こくりと頷いてきた。
「いいわ。私の貴方と一緒に」
「よかった。そう言ってもらえると嬉しいよ」
 何か俺の方が大喜びで。思わずカーラちゃんを抱きかかえて玉座の上で小躍りしだした。
「やったね、カーラちゃんと一緒になれたよ」
「あっ、ちょっと」
 カーラちゃんは抱きかかえられてその姿勢で俺に戸惑った顔を見せてきた。
「そんなにはしゃがないで。はしゃぐのは」
「はしゃぐのは?」
「まだ先よ。ここじゃないわ」
「ここじゃないって」
「場所。変えましょう」
 視線をそっと逸らして述べる。
「私の部屋に」
「カーラちゃんの部屋?」
「ベッドがあるから」
 おいおい、またそりゃ積極的な。いきなりそれかよって心の中で思っちまった。
「そこでね」
「いいの?」
 俺は一応尋ねた。この初々しさから見てそうした経験は全然ないようにしか見えなかったからだ。やっぱり経験のない相手にはそれなりのことをしなくちゃいけない。
「それで」
「ええ、いいわ」
 カーラちゃんの返事は決まっていた。
「それで。いいわよ」
「わかったよ。じゃあ寝室まで案内して」
「わかったわ。けれどね」
 また注文が来た。恋する女の子ってのは注文が多いものだ。
「このままで連れて行って」
「抱きかかえたまま?」
「ええ、このままね」
 そう俺に言う。
「それで御願いできるかしら」
「わかったよ。それじゃあ」
 俺はその言葉に頷いて。カーラちゃんに案内されて彼女の寝室に向かった。何か魔王もこうしてみると普通の女の子で当然ベッドの中でも普通の女の子だった。それも最高の。
 一夜明けて一緒に朝御飯を食べるけれど。ここでふと気になった。
「この朝御飯さ」
「何?」
「誰が作ってるのかな」
 テーブルの向かい側に座るカーラちゃんに尋ねた。
「よかったら教えて」
「私が作ってるのだけれど」
「カーラちゃんが?」
「そうだけれど」
 パンとスープに卵を焼いたもの。これだけだけれど味がかなりよかった。ミルクまであって冒険者としては滅多に食べられない御馳走だった。
「一応執事とかはいるけれどアンデッドだからお料理とかは」
「できないんだ」
「スケルトンなの」
 確かにスケルトンだと料理はできそうもないなと思った。これがゴーストとかゾンビでも同じだけれどとにかくアンデッドにはそうそう料理は無理だ。
「だからお料理は私が」
「じゃあこれってカーラちゃんの手料理なんだ」
「そうなるわ」
 恥ずかしそうに顔を赤くさせてこくりと頷いてきた。それから俺に尋ねてきた。
「美味しい?」
「美味しいって言ったらどうなるの?」
「それはやっぱり嬉しいわ」
 実にわかりやすい返事だった。
「折角作ったんだし」
「そうだね。美味しくね」
 俺もそれに応えて言った。
「美味しいものを一緒に食べると余計にね」
「気に入ってもらえたんだ」
「そうだよ。だからこれからも時々ここに来ていいかな」
 道のりはかなり険しいけれどその価値はあると思った。カーラちゃんとこの料理があるのなら。それだけでここまで来る価値は充分だと思った。
「時々?」
「うん、時々」
 俺はにこりと笑ってカーラちゃんに言った。何かもうこの娘が魔王だってことは完全に忘れていた。そんなことはもうどうでもよかった。
 
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