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ダークヒロイン

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1部分:第一章


第一章

                    ダークヒロイン
「遂にここまで来たな」
 長い旅だった。長い戦いだった。
 俺は所謂旅の冒険者だ。名前をアンガスという。職業は一応魔法戦士だ。酒場で仕事を受けてその報酬やモンスターだの盗賊だのをやっつけてその財宝を手に入れて生きている。頼りになるのは俺自身の剣と魔法、その二つだけで今までやってきている。
 俺は大抵仕事は一人でしている。そっちの方がやり易い。だから今回も一人だ。一人で仕事をしていた。
 その今回の俺の仕事は依頼された仕事じゃない。財宝目当てだ。この山脈の奥深くに魔王の城があってそこに見たこともない財宝があると聞いたからだ。魔王をぶっ殺してその財宝を手に入れる。魔王と言えば悪い奴に決まっているから遠慮はいらねえ、こう考えてもいた。
 それでその城に向かったのだがこれがまた大変だった。悪い妖精や悪霊だけならともかく森に棲むドラゴンのグリーンドラゴンまでいた。幸いそいつは温厚な奴だったので大事には至らなかったが山じゃグリフォンだのキマイラだのに遭った。おかげで何度か死にかけた。
 それでも何とかここまで来た。何もない岩山が連なるその真ん中の山の頂上にその城が見える。漆黒の城で見るからに悪の魔王の城だ。
「あそこだな」
 もう言うまでもなかった。俺はその城に向かった。流石にもうここまで来てモンスターはいなかった。さっき追い散らしたハーピーの群れが最後だったらしい。
 城門のところまで来るとやっぱり真っ黒だった。どんな石を使っているのか不思議な位だった。
 城門のところには門番でゴーレムがいた。これはお約束だった。しかも鋼鉄で造られたゴーレムだ。また随分と手強い相手だった。
「ちっ、それでもな!」
 殴りかかってきたゴーレムの攻撃をかわしてすぐに身構える。こんな奴には剣は役には立たない。それならそれで方法がある。俺は魔法を使うことにした。
「伊達にここまで来てるわけじゃねえんだよ!」
 強酸の魔法を使った。左手から濃い緑色の液体が放たれる。それで一気に溶かしてやるつもりだった。
 実際にそれは上手くいった。強酸を受けたゴーレムは動きを止め忽ちのうちに溶けていった。鉄でできた奴とも何度も戦っている。そうした奴にはこの魔法だった。他には雷の魔法なんかが有効だ。とりあえず直接攻撃は全く意味がない。
「魔法を覚えていてよかったな」
 俺はあらためて思った。剣だけじゃとてもここまでは生きていられなかった。一人でやっていくにはあまりにも危険なのは事実だ。特に剣だけ、魔法だけじゃとてもだ。両方使える俺はそういう意味で本当に上手くやっていけていた。
 ゴーレムから鍵を見つけた。門番が鍵を持っているのが随分お約束だったがいつものことなので気にせずにそれを手に取った。そうして鍵を開けて城の中に入った。
 城の中には誰もいない。やっぱり真っ黒な壁や床に真っ赤な絨毯が敷かれている。壁にかけられている絵や立てられている彫像はどれも不気味なやつばかりだ。悪魔だの幽霊だのそんなのばかりだ。そういうのを見ているとここがやっぱり魔王の城なんだって思う。
 けれど妙だ。俺は城の中を進むうちにこう思いだした。
「誰もいねえのかよ」
 そこだった。何か誰もいないのだ。
「逃げたか?まさかな」
 それはないと思った。流石に魔王だ、逃げるなんてことはない筈だ。
「じゃあ一体」
 俺は首を傾げながら城の中を進んでいった。罠も何もない。一応それを警戒する魔法もかけておいたがそれにも反応が全然ない。今まで色々な場所を冒険してきたがこんなことはなかった。俺はいぶかしみながら奥に進んでいった。そうして一番奥にいたのは。
「来たわね」
「えっ!?」
 所謂魔王の間だった。そこはやたら広く左右も天井も随分広かった。後ろに何か紋章が書かれていてその前に玉座がある。何段かの階段の上にあるその玉座は金で造られていてやけにみらびやかだ。もっともそこに座っている魔王はそうじゃなかったが。
 俺は今驚いた声をあげたがその理由はこの魔王にあった。何と緑色のショートヘアに赤いくりっとした大きな目に白い死人みたいな肌。頭の左右には羊の角があって背中には黒い蝙蝠の翼がある。その顔は幼いけれど丸みがあってやけに可愛い。姿形はまんま女の子だ。黒いくるぶしまで隠れる服はもうお約束だった。
「勇者よ、私を倒す為に来たのね」
「誰なんだあんた一体」
「私がこの城の魔王よ」
 自分で言ってきた。やっぱりそうだった。
「名前はカーラ」
「カーラ!?」
「そうよ、魔王カーラ」
 また名乗ってきた。
「それが私の名前よ、わかったわね」
「わかったけれどよ。しかし」
「しかし?何よ」
 ああ、カーラちゃんっていうのか。何でちゃん付けになっているかって?すぐにわかるさ。
「それはまた」
「私を倒して財宝を奪いに来たのね」
 カーラちゃんは俺にそう問うてきた。玉座に座ってその赤い可愛い目で俺をキッと見据えてきて。またこりゃ随分と可愛いことで。
「そうなのね?答えなさい」
「最初はそうだったさ」
 俺はこうカーラちゃんに答えた。
「最初は?」
「そうさ。けれど今は」
 カーラちゃんを見詰めたまままた言う。
「違うな」
「どういうことなの、それは」
「なあ」
「!?」
 素早さには自信がある。だから今までやってこれた。カーラちゃんが驚いたその隙に俺は駆け寄った。しかし随分とろい魔王様だと思った。いっぱしの冒険者に間合いを詰められるなんて。
 俺はすぐに玉座のところに行ってカーラちゃんを抱き締めた。迷うことはなかった。
「気が変わったんだよ」
「気が変わった!?それに」
 明らかに狼狽していた。顔が唖然としている。声もうわずっている。まさかこうなるなんて夢にも思わなかった感じだ。けれどこうなったら俺のものだった。
「一体何を、無礼な」
「無礼な!?」
「そうよ、私は魔王よ」
 自分でそこを強調してきた。
「魔界にもその名を知られた魔王カーラを、人間風情が」
「人間風情って言うけれどさ」
 何かお決まりの台詞なんで心の中で苦笑いを浮かべながら言ってやった。
「そんなの関係ないんだよ」
「関係ない!?」
「そうさ。好みなんだよ」
 俺は言ってやった。
「あんたがさ。可愛いから」
「えっ、可愛い」
 魔王でも女の子だ。やっぱりこの言葉には反応してきた。顔が少し赤くなっていた。
 
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