ブラック・ブレットー白き少女
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力
「お腹へった…………」
自分に名前をつけてから数時間後、アリスは廃墟を出て森を歩いていた。
理由はいくらかあるが、やはり廃墟には既に食糧などが存在せず、アリスが空腹に耐えられなかったというのが一番大きかった。
しかし、
「なにもない…………」
森にしても、食べられるものなど全くなく、あったとしてもいかにも『毒キノコ!』って感じのものしかなかった。
そして、そんな空腹による注意力散漫な状態のアリスがそれ
・・
に気付けたのは奇跡だった。
「!!」
ザッ! グアァァァ!!!
アリスが後ろに跳んだその直後、後ろの草むらからガストレアが飛び出して来た。
気配を消して接近してきたガストレアに気づけたのは、同じくガストレアになったことによる本能によるものだったのかもしれない。
「なんでガストレアが!? まさか、ガストレアって共食いもするの!?」
正確には、空腹な状態でいて、かつ近くに食糧足り得るものがなかったときに、ガストレアは共食いを行うことがあるのだ。
「ガァッ!」
襲って来たガストレアは鋭い爪を振り回してアリスに攻撃してくる。
それをアリスはガストレアになったことによって強化された動体視力、反射神経、身体能力を駆使し、紙一重で避けていく。
「くそ! このままじゃ埒が明かない!」
そう言ってアリスは『迅尾』を9本出し、攻撃し始める。
しかし、
「くそっ! 全然当たらない!」
まだ完全には自らの尻尾を操り切れていないアリスの攻撃は空を切っていた。
「っ!! 三十六計逃げるにしかず!」
アリスは『迅尾』を近くの木の枝に引っかけ、ターザンのように移動する、これを繰り返し行っていたが…………
「くっ! やっぱりあっちの方が速いか」
この時初めて敵の全容を見たアリスだったが、
「虎のガストレア!?」
黄色と黒の模様、鋭い爪、牙、目付き、爪などが少々異常発達していたが、それは紛れもなく虎だった。
このままでは追い付かれる。
そう頭では理解しつつも、有効的な打開策が全く思い付かず、ただただ逃げ続けるしかなかった。それが愚策だとわかっていても。
そして、
「グガァ!」
グサッ!
「がはっ!」
とうとう追い付かれて爪の攻撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。
「かはっ、はぁはぁ」
傷こそ塞がっていくものの精神的に受けたダメージは大きく、体勢を立て直せずにいた。
(このままここで死ぬのかな? 嫌だ! まだまともな人と会ったこともないんだ! 絶対に…………死にたくない!)
「ガアァァァ!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モデル・タイガーのガストレアは困惑していた。
先ほどまで格好の獲物でしかなかった少女が咆哮をあげ、そして、自分がこの少女に恐怖していたからだ。
「あぁああぁぁ、ゼッたイにシンでたまルカっ!」
そう叫んだ瞬間から少女に変化が起き始めた。
それは体内浸食率が50%を越えた時に起こる現象『形状崩壊』に似ていたが、どこか違うものだった。
そして、その光景がモデル・タイガーのガストレアが見た最後の光景だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一
モグモグ ごくんっ
アリスは実質、生まれて初めて食べた『食糧
・・
』〇に夢中になって食らいついていた。
「いやー、それにしても気づいた時にはもう食べて〇焦ったけど、食べてみれば意外と美味しいんだねこいつら」
アリスはガストレア〇だったもの
・・・・・・・・・・
を食べながらそう言うとふと何か思い付いたかの様に立ち上がった。
そして、自分の手に意識を集中させると、まるで先ほど文字通り
・・・・
喰らったモデル・タイガーのガストレアのような鋭く、立派な爪が生えてきた。
「へぇー、私って食べたガストレアの力を手にいれられるのかな?」
正確には、ガストレアは食べた生物のDNAを自らの体内に取り込み、自らの力とするのだが、アリスは特にその能力が強かったのだ。
「人間とは会ってみたいけど、いまの私じゃあ、モノリスのせいで中の都市まで行く前に衰弱死するのは目に見えてるしなー」
そう、ガストレアとなったアリスはバラニウムに対して圧倒的な脆弱性があるのだ。
「ふふふ、取り敢えずは力を蓄えて奥としようかな? きっといつかチャンスはあるさ」
アリスはそう言うともう骨しか残っていないモデル・タイガーのガストレアを放り投げ、歩き出す。
「さっきの力も自分の意志で自由自在に操れる様にしないといけないし、尻尾にしてもまだまだ、強くなりそうだしねぇー」
本当に楽しそうな笑顔を浮かべながらアリスは喋り続けた。
「でもまずは…………川か何かに入りたいね」
そう言ってモデル・タイガーのガストレアの血にまみれた状態でアリスは歩き続けた。
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