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至誠一貫

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第一部
第五章 ~再上洛~
  六十一 ~魑魅魍魎~

「ねね、怪我はないか?」
「大丈夫ですぞ! あのぐらい、歳三殿のお手を煩わせる事もなかったのです」
 そう言って、小さな胸を張るねね。
「……ちんきゅー。お礼、しなきゃダメ」
「恋殿ぉ。ねね、とお呼び下さいと言っているではありませんか」
「……この方が、言いやすいから。……お礼」
「うう~、わかったのです。……ありがとうですぞ、歳三殿」
「うむ。それにしても、一人で何をしていたのだ?」
「書店に行く途中だったのです。恋殿は、興味がおありでなさそうなので別々に」
「そうか。しかし、洛陽も治安が良くないようだな。あのような輩が跋扈しているようでは」
「そうですな。月殿も、心を痛めておられましたからな」
 月の事だ、己の領分でなくとも気にかけぬ筈があるまい。
「恋、ねね。私はこれより月のところに参ろうと思うが。お前達はどうする?」
「……恋も、帰る。歳三も、何かあったら月が悲しむ」
「私ならば構わぬが」
「……(フルフル)」
 恋なりに、私の身を案じているようだ。
「わかった。ねね、ならばお前も参るが良い。先ほどのような輩に絡まれては厄介であろう?」
「べ、別に平気ですぞ。ですが、恋殿が戻られるというのなら、ねねも参りますぞ」
 ふっ、相変わらず素直ではないな。


 月が与えられている屋敷は、かなりの規模である。
 少府ともなると、このようなものか。
 ……尤も、月本人がここまでのものを望んでいるとは思わぬがな。
 恋らと一緒だった事もあり、特に見咎められる事もなく、門を潜る。
「あれ、お兄さん。遅かったですねー?」
「何かあったのですか?」
 風と愛紗は、既に到着していた。
「些細な諍いに巻き込まれただけだ。案ずる程ではない」
「ご主人様。些細、とおっしゃいますが、万が一の事があったらどうするのですか」
「愛紗。私は武人、容易く後れは取らぬつもりだが?」
「そういう問題ではありません! 誰でも構いませぬから、以後外出なさる時は供をお連れ下さい」
「……わかった。そうしよう」
 愛紗は私の言葉に、頷いた。
「月さんはですね、まだ宮中からお戻りではないみたいですよ」
「そうか。では詠は?」
「ボクなら、いるわよ」
 自室へと入っていた恋とねねと入れ替わるように、詠が出てきた。
 ふむ、ならば月が戻る前に話をするか。
「詠。ちと内密に話があるのだが」
「風から聞いたわ。なら、ボクの部屋に来て」
 踵を返した詠の後に続き、屋敷の中に入る。
 構えも大きいが、内部の装飾もかなり華美なものだ。
「詠。此処も以前、何者かの屋敷であったのだな?」
「何でも、何代か前の外戚だった人物が住んでいたみたいよ。その一族が途絶えて、ちょうど空き家になっていたらしいわ」
「さもあろう。月の趣味とは思えぬ造りだからな」
「……そうね。さ、入って」
 詠の部屋そのものは広々としていたが、机と寝台を除けば、山のように積まれた書物以外に目立った物はない。
 無欲な詠らしいな。
「そこらの椅子に適当に腰掛けて。で、内密の話って?」
「月の事だ。良からぬ噂が流れている事、耳にしているか?」
 詠の顔が曇る。
「月が専横を振るおうとしている、って噂ね?……あり得ないわよ」
「それは私とて信じるに値せぬとは思うが。いや、私だけではない」
 愛紗と風も、大きく頷く。
「噂の出所を探っているところよ。尤も、可能性は二カ所しかないわね」
「二カ所? 十常侍共以外にあると申すか?」
「ええ。何太后、あの御方という可能性も捨てきれないわ」
「しかし、それでは妙な事にならないか? 現に月殿は陛下と昵懇の間柄ではないか」
「愛紗ちゃん。嘘を真にする、という策かも知れないという事ですよー」
「どういう事だ?」
 愛紗は首を傾げているが、私には詠らの言わんとするところが見えてきた。
「敢えて、月に不利な噂を流して、十常侍らと対決させる。若しくは対決まで望めずとも、退路を断てば月に選択の余地はなくなる。そのようなところか?」
「ええ、そんなところでしょうね」
「何と悪辣な! それでは月殿が不憫でなりません」
「でもでも、十常侍さん達が流したと見るのが自然でしょうけどねー。月さんが傍に居る限り、陛下を思いのままにするのはちょっと大変ですから」
 いずれにせよ、このまま捨て置けば月が苦しむのは必然。
 ……いや、月の父である私も、他人事では済むまい。
「とりあえず、風も疾風ちゃんと一緒にいろいろと調べてみるですよ。詠ちゃんだけでは大変でしょうしね」
「助かるわ。本当は、ボクも月にずっとついていたいのだけれど」
 悔しげに、唇を噛み締める詠。
 陪臣でしかない詠は、宮中に自由に出入りする事は許されぬ。
「詠! た、大変や!」
 と、霞が部屋に飛び込んできた。
「あれ、歳っちらも来とったんか」
「うむ。それよりも、何事だ?」
「ああ、せやった。閃嘩から知らせがあったんやけど、宮中で大事件があったんやて」
「大事件? 霞、一体何があったの?」
 詠は、訝しげに尋ねる。
「何進はん、襲われたらしいねん」
「襲われただと? 何者にだ?」
「それが……。十常侍の一人、蹇碩やっちゅう話や」
 蹇碩だと?
 曲がりなりにも、八校尉の筆頭を兼ねている故、確かに兵も連れているが。
 ……いや、宮中で大々的に兵を動かすのは無理であろう。
 となれば、限られた人数での凶行と見てよいな。
「それで、何進さんはご無事なんですかねー?」
「そこまではわからへん。せやけど、宮中は大騒ぎらしいで」
「でしょうね。……月は、大丈夫かしら?」
 確かに、月の事も気がかりだ。
「ならば、私が参ろう。宮中に入れる者は他におらぬ」
「そうね。頼むわ」
「うむ。愛紗、霞。済まぬが、宮城の外まで同行を」
「御意!」
「わかったで!」
 愛紗の諫言を受けて、という事もあるが、この情勢下、何が起こるかわからぬ。
 二人がいれば、何かと心強い。
「風は此処で待て。星や鈴々らもそろそろ戻っているであろう、政庁に知らせておけ」
「はいー」

 外に出ると、あちこちが騒然としていた。
 庶人達にも噂が広がったのであろう。
「宮中の不祥事が、ここまで早く漏れ出るとは、な」
「……それだけ、腐敗が酷いっちゅう事やろな」
「嘆かわしい事です。ご主人様、急ぎましょう」
「うむ」
 借りた馬を駆り、宮城へと急ぐ。
 月の屋敷からならば、徒歩でもさほどの距離ではない。
 程なく、正門へと辿り着いた。
「止まれ! 何者か!」
 衛兵に誰何された。
「助軍校尉、土方歳三だ。道を開けよ」
「はっ、失礼しました。何用でしょうか?」
「私は陛下の親衛隊。用件を言わねば門すら通せぬと申すか?」
「申し訳ありませんが、何人たりとも通すな、と」
 数人の兵士が、槍を手に出てきた。
「ほう。それは陛下のお言葉か?」
「お答えしかねます。お引き取りを」
 兵士は、固い表情で言った。
「宮中で異変があったと聞き、馳せ参じたのだ。通せ」
「そのような風聞を真に受けたと仰せですか?」
「どうあっても、そこをどく気はないのだな?」
「…………」
 黙って、全員が槍を構える。
「貴様ら!」
「度胸だけは買うたる。せやけど、武人に槍向けるっちゅうんは、当然、わかっとるんやろな?」
 愛紗と霞が、私の前に進み出る。
 青龍偃月刀に飛龍偃月刀。
 よく似た二つの武器に、いずれ劣らぬ遣い手。
 兵らの顔に怯えが見えるのも、無理はない。
「土方様! 狼藉は厳罰に処せられますぞ!」
「ほう。ただ陛下の臣である私が、此処を罷り通るというだけで罰せられると申すか」
「ですから、お引き取りを」
「ならば、理由を申せ。理由は言えぬ、だが帰れ、では承服しかねる」
 無論、彼ら自身の意思ではない事は明らかだ。
 恐らくは、十常侍らの差し金であろう。
「や、やむを得ん。かかれっ!」
 兵らが突進してきた。
「歳っち。ええんやな?」
「仕方あるまい。だが、殺してはならぬぞ?」
「わーっとるわい! 愛紗、いくで」
「ああ!」
 まさに、刃を交えようというその時。
「待てい! 何を騒いでおるかっ!」
 素晴らしい一喝が、辺りに響き渡った。
「た、大将軍閣下!」
「此処を何処だと心得るかっ! 控えよ!」
 いつになく威厳に満ちた様に、兵らはただただ、狼狽えている。
 ……見ると、何進は左腕を吊っている。
 その腕は、朱に染まっていた。
「何進殿。ご無事でしたか」
「おお、土方か。この通りだ、少しばかりやられたがな」
 そう言って、何進は微かに顔を顰めた。
「お怪我を?」
「まあな。立ち話も何だ、中へ入るといい」
 まるで、我が家であるかのように、何進は気安く言った。
「か、閣下。恐れながら」
 件の兵が、恐る恐る食い下がろうとする。
 が、何進は一瞥すると、
「張譲が何を言ったかは知らんが、土方は歴とした朝廷の臣だぞ。それでもまだ邪魔をするつもりか?」
「い、いえ……。しかし……」
「まだ不服か? ならば陛下にお目にかかり、許しを得て参れば良いのだな?」
 何進が踵を返すと、兵らは慌てふためいて、
「お、お待ち下さいませ! 只今、確認を」
「良い。あのタマなし共にいちいち伺いを立てていたら日が暮れる。文句があるなら俺に言え、と伝えておけ」
「は、はぁ……」
 どうやら、食い下がっても無駄と諦めたらしい。
「土方、行くぞ。張遼と関羽も参れ」
「ええんか、ウチらも?」
「そうです。霞はともかく、私など官位を持たぬ身ですが」
「構わんさ。どうせ、すぐそこに行くだけだからな」
 思わず、二人と顔を見合わせてしまう。
 今の何進からは、悟りにも似たものを感じる。
 ……これが、不吉の前兆でなければ良いのだが。

 すぐそこ、と言う割には、宮中のかなり奥深くまで連れて行かれた。
 途中、何度も衛兵が立ちはだかるが、何進は誰何すら許さぬ。
 警備の厳重さからして、容易に立ち入れる場所ではないようだが。
「何進殿。何処まで行かれるおつもりか?」
「知りたいか? まぁ、着いてのお楽しみという奴だ」
 怪我をしているとは思えぬ程、何進は意気軒昂である。
 そして、一室の前で立ち止まった。
「此処だ。さ、入れ」
「……何進様。中に、何方かおられるようですが」
「せやな。殺気は感じへんけど……」
 愛紗と霞の申す通り、先客が居るようだな。
「流石だな、気付いたか。だが、心配は要らんぞ?」
 笑いながら、何進は部屋へと入った。
 当人がそう言うのであれば、危険はあるまい。
 尤も、仮に何者かが潜んでいたとしても、愛紗と霞に太刀打ち出来る訳もないのだが。
 ……確かに、心配は無用であった。
「何進様、お父様。お待ちしておりました」
「……月。何故、此処に?」
「それは、これからお話しします。何進様、痛みますか?」
「いや、かすり傷だ。それより、刻が惜しい。連れてきてくれたか?」
「は、はい」
 衝立の向こうに、人の気配がするが……誰だ?
「伯父上」
「お待たせしましたな、陛下」
 陛下、だと?
 いや、しかしこの声は……聞き覚えがある。
 衝立から姿を見せたのは、紛れもない、今上陛下。
 咄嗟に礼を取ると、霞と愛紗も慌てて倣う。
「ああ、礼は要らぬ」
「しかし陛下。そうは参りませぬ」
「良いと申すのだ」
「……では、恐れながら」
 顔を上げ、陛下を正面から見据えた。
「お父様、驚かれたでしょうけど。……まず、宮中で起きている事をお話しします。何進様、宜しいですか?」
 月が伺いを立てると、何進は大きく頷く。
「ああ、頼んだ」
「はい。何進様がお怪我をされた訳ですが……。蹇碩様が、刺客を用意していたのです。何進様を害する為に」
「何故だ?」
「蹇碩様は、先の陛下から、密命を帯びていたようなのです」
 聞かされた密命。
 ……それは、あまりにも衝撃的な内容であった。
 先代の陛下が、今上陛下に対し、皇帝としての適性に疑問を持たれていた事。
 だが、それだけの理由で廃嫡する事も適わず、外戚である何進を、内心では恐れていたらしい事。
 西園八校尉も、黄巾党への対抗策であると同時に、外戚である何進に対する戦力として考えられていた事。
 本来、麗羽や華琳、睡蓮らは軍人故、何進と敵対する事はあり得ぬ。
 だが、皇帝直属の親衛隊としてしまえば、その命で対峙させる事で、何進を抑え込む事も可能……そう判断されたのであろう。
 それが整う前に寿命を悟った先代の陛下は、折を見て何進の誅殺を、蹇碩に命じていた。
 だが、蹇碩は筆頭とは言え、他の校尉らは素直に自分に従う筈もない事を理解していたようだ。
 その最中、任ぜられた全員が洛陽に揃っている。
 無論、皆が兵を引き連れている。
 形骸化しているとは申せ、八校尉は皇帝の命で動く存在。
 そして、その陛下は、何進の甥。
 蹇碩が焦りのあまり、思い切った行動に出たとしても、不思議ではない。
「俺は妹と話をしに宮中に来た訳だが。その途中で、蹇碩は襲ってきたのだ」
「しかし、よくぞご無事で」
「蹇碩は多少武を囓ったらしいが、所詮は宦官だぞ? 他の連中も、腰が退けておったわ」
 とは申せ、何進も腕力こそあれど、剣の腕はさほどではない。
 腕を負傷したのは、当然の結果やも知れぬな。
「だが、襲ってきた以上は仕方がなかった。蹇碩は返り討ちにした」
「何進様から、その知らせと共に、密かに陛下をお連れするように……そう命じられたのです」
 と、月。
「……朕は、このような思いまでして、皇帝の座にしがみつきたいとは思わぬのじゃ」
 陛下は、俯いたままそう仰せになった。
「伯父上、朕は皇帝に向いてはおらぬ。それは、自覚している」
「……陛下。恐れながらこの何進めも、それは同感ですな」
 例え外戚であろうと、これは不敬極まりない。
 十常侍らに聞かれれば、如何に何進とは申せ、その場で捕縛されても仕方あるまい。
 ……だが、それを言うならば、陛下自らが不適格と仰せられる事自体、異例であろう。
「やはり、杜若(協皇子)に禅譲すべきであろうな?」
「ですが、その前に何とかしなければならないのが……」
「母上と、十常侍か……」
 何太后が宮中に上がるにあたり、尽力したのも十常侍。
 後継争いで対立関係にこそなったが、それでも両者の関係が切れた訳ではないらしい。
 ……だが、何進が決意通りに動けば、どうか。
 後ろ盾のない何太后には、もはや利用価値はないとみなし、十常侍が切り捨てる可能性が高い。
「陛下。これより太后様と話をして参ります」
「伯父上。しかし、その怪我で無理はならぬ」
「いえ。もはや、一刻の猶予もないという事。十常侍らも、まさか立て続けに宮中で狼藉は働きますまい」
「しかし……」
 陛下は、不安の色を隠せぬようだ。
 その眼が、私を捉えた。
「その方、土方と申したか?」
「はっ」
「伯父上。八校尉は、朕自ら指揮出来る存在であったな?」
「いかにも」
「ならば、土方に命ずる。伯父上が屋敷に戻られるまで、警護をせよ。その間、片時も離れる事は許さぬ」
「片時も、でござるか」
「そうじゃ。後ろに控える二名も同道せよ」
 陛下のお言葉に、二人は流石に戸惑いを隠せぬようだ。
 何進がそれを見て、
「陛下。恐れながら張遼は官位も低く、関羽は官位を持たぬ身。土方とて、本来であればここまで連れてくる事も憚られる身分ですぞ。如何に陛下の御意とは言え、これより更に奥に連れ行くのは」
「ならば、朕の一存で勅令を与える。土方、その方を上軍校尉並びに衛尉に任ずる」
 ……これはまた、破格の大出世だな。
 上軍校尉というだけでも異例だが、衛尉は確か、九卿の一つと以前、稟より聞かされた記憶がある。
「張遼と関羽は、それぞれ長楽衛尉、甘泉衛尉とする。詔は今、用意させよう」
「お待ち下され」
「何だ、不服なのか?」
 陛下は、意外そうに目を見開かれた。
「いえ。そのご沙汰、永世のものにござりまするか?」
「そこまでは考えておらぬがの。伯父上が頼みとするその方ならば、それでも構わぬぞ」
「恐れながら、この場限りのご沙汰という事であれば謹んでお受け致しまする。ですが、永世のもの、とあらばご辞退申し上げる他ござりませぬ」
「何故じゃ? その方、出世を望まぬと申すか?」
 それもあるが……流石に口には出せぬ。
「そのご沙汰に見合うだけの働きをした訳ではござりませぬ。それで出世を遂げれば、世人は何と見るでしょうや」
「…………」
「陛下と、何進殿の身びいきによるもの、そう見ましょう。陛下のご威光にも差し障ります」
「朕の事など気にせずとも良いが」
「そうは参りませぬ。今は斯様な時、ご沙汰も慎重を期していただかねばなりませぬ」
「……伯父上。如何致せば良い?」
「はっ、土方の申す通りかと。それにこの者は武人、欲得で動くと見られるのを嫌います」
 ふう、と陛下は息を吐く。
「わかった。では土方、今日限りの詔とする。良いな?」
「ははっ!」
 不遜と言われようが、これが私の生き様だ。


 だが、全ては徒労に終わった。
「病だと?」
「はい。今は何方も、お会いさせる訳には参りませぬ」
 何太后の部屋の手前で、そう言って医師に行く手を遮られた。
「ならば見舞うまでだ」
「いいえ、いくら何進様でもそれはなりませぬ。……どうやら、流行病のようでして」
「ううむ……。して、容態は?」
「それもまだ何とも申し上げられませぬ。今日のところは、お引き取り下さいませ」
 毅然としたその態度には、何進も引き下がるしかなかった。
「……仕方あるまい。屋敷に戻るか」
「……は」
 外に出ると、空一面、怪しげな雲に覆われていた。
 不吉の前兆でなければ良いのだが……どうも、嫌な予感しかせぬ。 
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