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至誠一貫

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第一部
第四章 ~魏郡太守篇~
  五十一 ~城下での出会い~

「歳三様……お慕いしています……」
「風は、ずーっとお兄さんの軍師ですからね……むにゃむにゃ」
 二人にしがみつかれた格好で、朝を迎えた。

 諸葛亮、もとい朱里を迎え入れる事自体には、皆の異存はなかった。
 愛里の推挙でもあり、また相手が賊混じりの一揆軍であったとは申せ、才の片鱗は証明して見せたのだ。
 人材が揃う私の許でも、朱里ならば十分過ぎる程通用するのが、疑いようのない事実。
 ……だが、問題は朱里が、軍師という地位を望んでいる事である。
 朱里当人にしてみれば、かねてよりそれを志していたのであり、その事自体は他人が口を挟むべきではない。
 ただ、私の許には既に、稟と風という、優れた軍師が揃っている。
 そこに割り込む格好になってしまう朱里に対し、素直に歓迎出来ぬのも仕方なかろう。
「ですから、お兄さんが風達を特別だ、と思っていただけている証拠が欲しいのですよー」
「我ながら、厚かましい事とは思いますが……。風の言う事にも一理あります」
 二人に迫られた末が……今の有様という訳だ。
 だが、当人らが望んだ事であり、私もそれを拒む理由などない。
 ……とは言うものの、そろそろ起きねばならぬな。
 そう思い、身体を動かす。
「……んん……あれ、お兄さん。お目覚めですかー?」
「あ、歳三様……おはようございます」
「おはよう。起こしてしまったようだな」
 と、風が私の胸に、頭を載せた。
「お兄さんの匂いがするのですよ」
「汗臭いのではないか?」
「いえいえ。風はこの匂いが好きなのでー」
 一方、稟はと言うと……私の手を取り、頬に当てている。
「やはり、こうしている時が一番安らげます」
「……そうか」
「ええ。ですから、何人たりとも、歳三様には手出しさせません。この温もりを失いたくないですから」
 気怠い朝の一時。
 決して悪いものではないが……この調子では、暫く起きられそうにもないな。


 水を被り、朝食を済ませ、謁見の間へ。
 主立った者が、その場に揃っていた。
「主。顔良殿が御礼を申し上げたいと、お目通りを願っておりますが」
「ふむ。では、後で会うと致そう」
 そう言いながら、その場を見渡す。
 向かって右の列には、星、愛紗、鈴々、彩(張コウ)、疾風(徐晃)が。
 左の列には、稟、風、愛里(徐庶)、元皓(田豊)、嵐(沮授)、そして朱里。
 ……壮観、の一言に尽きるな。
「さて、渤海郡の一件も片付いた。そろそろ、洛陽に向かわねばなるまい。疾風、他に此度任ぜられた者らの動向は?」
「はい。宦官の蹇碩は当然ですが、曹操殿、淳于瓊殿は既に洛陽に到着されたようです。孫堅殿、馬騰殿は既に出立されたとの事です」
 ……私の聞き違いでなければ、一名足りぬようだが。
「疾風。下軍校尉の鮑鴻殿が抜けているようですが」
「……そうなのだ、稟。鮑鴻は、雍州で起きた反乱の鎮圧に向かったらしいのだが、激戦の中、討ち取られた、との知らせが来ている」
「なんと。早くも欠員が出てしまうとは……幸先の悪い」
「ああ。袁紹殿も危うくそうなりかかった事もあるが、不吉な事は確かだな」
 彩も愛紗も、表情を曇らせる。
「とは言え、既に着任した者もいる以上、私が此処に留まる事は赦されぬ。袁紹殿共々、早々に出立せねばなるまい」
「……主。やはり、袁紹殿を伴うおつもりですか?」
「うむ。急を要したとは申せ、手を貸した事もある。それに、この地より同じ目的で洛陽に向かうのに、別々に行動する方が不自然でもある」
「でも、袁紹はお兄ちゃんを一度は襲おうとしたのだ」
「ですねー。風は、そこまでする義理は、お兄さんにはないと思うのですよ」
 他の者らも、同感とばかりに頷いている。
 確かに、無条件で水に流すのでは、皆は納得せぬであろう。
 今の袁紹に、過去の遺恨を持ち出すのは憚られる気もするが……けじめは必要か。
「ならば、袁紹の意向を確かめておこう。その上で、結論を出すとする。それで良いな?」
「御意!」
「元皓、嵐、彩、それに愛里。後を、くれぐれも頼むぞ?」
「はい。まだ、正直不安ですけど……やれるだけ、やってみます」
「大丈夫だって、おいらもついているし。旦那、任せておいてよ」
「殿が戻られるまでの間、この魏郡を賊どもには指一本触れさせませぬ。ご安心めされい」
「……あの。朱里ちゃんは、どうなるのでしょう?」
 愛里は、隣に立つ朱里を見た。
 やはり、気がかりなのであろう。
「その件だが……朱里」
「は、はいっ!」
「不本意やも知れぬが、お前もギョウに残れ。愛里と共に、政務を任せる」
「……わかりました」
 肩を落とす朱里。
「お前に、軍師としての才がある事は私も星も、認めるところだ。だが、お前には実務経験が不足している。愛里の元で、それを学ぶ方がお前の為でもあるのだ」
「…………」
 黙っている朱里の前に、稟と風が向かった。
「歳三様の軍師を自負する私としては、確かにあなたの加入は複雑なものがあります。……ただ、ますます人材が必要になる事も、わかっているつもりです」
「ですから、まずは実績を作って下さいねー。風は、お兄さんが決めた事に反対するつもりもありませんし。あ、でも、お兄さんを取るようなら容赦はしませんよ?」
「稟さん、風さん……。わかりました、私、頑張ってみます」
 漸く、朱里が笑顔を見せた。


 軍議の後。
 皆を下がらせ、顔良を謁見の間に入れた。
 愛紗や鈴々らは同席すると言って聞かなかったが、得物を預かる事を条件に、どうにか宥めた。
「待たせたな」
「いえ、お忙しいところ申し訳ありません」
 ギョウに着いた頃と比べると、幾分疲労が抜けたようだな。
「あの、遅くなりましたけど。先だっては、本当にありがとうございました」
「うむ」
「土方さんが救援に駆けつけてきていただけなかったら、と思うと……ゾッとします」
 顔良は、頭を振った。
「しかし、如何に黄巾党が紛れ込んだとは申せ、袁紹殿の方が数で圧倒していた聞いているが?」
「……はい」
「それが、何故にあそこまで追い込まれたのだ? 訓練を積んだ兵を率いていれば、単純に力押しでも負けぬ……普通は、そう考えるな」
「そうですよね……。やっぱり、そう思われますよね?」
「ああ」
「うう……。麗羽さまと文ちゃんがいけないんですよ」
 そう言って、顔良は片手を顔に置く。
「最初、賊軍の規模を聞いた時は、土方さんの仰る通り、これなら普通に勝てると思ったんです」
「だろうな」
「それで出陣したんですけど……。麗羽さまが、華麗に勝ちたい、って仰いまして」
 華麗に勝つ、か。
 ……わからぬでもないが、戦に華麗さを求める時点で、根本的に破綻を来しているな。
「麗羽さま、何度か土方さんの戦いをご覧になっていたんですが。鮮やかに勝利を収めているのを見て、ご自分でもああしたいって」
「…………」
「それはいいんですが、その為の策とか……全然ないって仰ったんです」
 ……頭痛がしてきた。
「それだけじゃないんです。賊軍を見つけた途端、文ちゃんが勝手に突撃を始めちゃって」
「止めなかったのか?」
「勿論、止めようとしましたけど。文ちゃんが、敵を全部蹴散らしてくるって豪語して、止める間もなかったんです」
 猪突猛進、我が軍なら無論、処罰ものだ。
「おまけに麗羽さまが、文ちゃんの後に続きなさいって……。でも賊軍は真っ正面からぶつかってくれる訳もなくて、それで……」
「翻弄されてただ疲弊させられ、被害だけが増えた……という事か」
「はい……」
 まともな軍ではあり得ぬ事ばかりだ。
 これでは、いくら相手が賊軍であろうと、勝利を得るのは至難の業。
「一つ聞くが」
「はい」
「袁紹に、実戦経験はあるのか? 無論、兵を率いての、という意味だが」
「殆ど、ないと言っていいと思います」
 初陣に近いような状態で、しかも軍師もなしに指揮を執った訳か。
 あれだけの名家なのだ、然るべき老練の将がついていても良さそうなものだが。
 ……『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』、か。
 ともあれ、今のままでは袁紹は一生、軍功を立てる事は適わぬであろうな。
「顔良、袁紹殿の様子はどうか?」
「あ、はい。今度の事がだいぶ堪えたみたいで、今日になってやっと、起きられたみたいです」
「ふむ。……少し、話がしたいのだが」
「わかりました。では、麗羽さまに伺って参ります」
 一礼し、顔良は出て行く。
「疾風。もう良いぞ」
「……お気づきでしたか」
 物陰から、疾風が顔を覗かせた。
 私の事が気がかりだったらしく、下がる振りをして潜んでいたようだ。
 すぐに気はついたが、好きにさせておいた。
「顔良は、全く気付かなかったようだな。流石だ」
「いえ。顔良殿には申し訳ないのですが……彼女も武人としては、隙がありますね」
「そうかも知れぬな。正面切っての一騎打ちならばともかく、それ以外では疾風らには及ぶまい」
「……苦労している事だけは、伝わりましたが。袁紹殿がそこまでとは……」
 規模こそ違えど、疾風は立派に、一軍の将を勤め上げている。
 呆れるのも、無理はない。
「歳三殿。袁紹殿の事、あまり深く関わらぬ方が良いかと」
「……うむ」
 難しいところだな。

 すぐに顔良が戻らぬ為、私は私室に戻っていた。
「ご主人様」
 そこに、愛紗が顔を出した。
「どうかしたか?」
「いえ、鈴々を見かけませんでしたか?」
「いや、軍議の後から見てはおらぬが」
「そうですか……。全く、どこへ行ったのやら」
 愛紗は、大きな溜息をついた。
 ……ふと、空腹感を覚えた。
 外を見ると、日がかなり高い。
「そろそろ昼時ではないか?」
「もう、そんな刻限ですか?」
「……もしや、鈴々はそれで見当たらぬのではないか?」
 あっ、と愛紗は声を上げる。
「鈴々め、こんな時に……。すぐに、探して参ります」
「いや、待て。私も参る」
「え? ですが、お忙しいご主人様にご足労をおかけしなくても……」
「いや、気晴らしに城下に出てみたいというのもある。暫くは、見納めになるであろうしな」
「はぁ……。そう仰せとあらば、お供致しますが」
「よし。誰かいるか?」
「はっ!」
 廊下にいた兵士が、駆け寄ってきた。
「袁紹殿に、昼食をお出し致せ。私は少し城下を見てくる故、二刻後にとお伝えせよ」
「ははっ!」

 城下は、今日も盛況だった。
「また、人が増えたようですね」
「そのようだ。各地から商人が集えば、商品も増え、金も廻る。さすれば、住み着く人間も増える」
「はい。見て下さい、子供達もあんなに」
 優しい眼をする愛紗。
「愛紗は、子供が好きか?」
「ええ。私塾を開いたのも、子供達と直に触れ合う事が出来る、そう考えたというのも理由ですから」
「……そうだな。子は国の宝、大事にせねばならん」
「仰る通りです。……戦乱の日々が終わったら、また子供達と共に過ごす生活に戻りたいものです」
「愛紗なら、良き母親になれそうだな」
 途端に、愛紗は真っ赤になる。
「なななな、何を突然仰るのです!」
「違うのか? 子供好きであれば当然、我が子を持ちたいと考えても不思議ではあるまい?」
「そ、それはそうですが……」
 チラチラと、横目で私を見る愛紗。
「……子は、相手がなくては持てませぬ」
「当然だな。では、伴侶次第、という事か?」
「ご、ご主人様! からかわないで下さい!」
 耳まで赤くしたまま、愛紗は先に歩き出す。
「あっち、すげぇのやってるぜ」
「行ってみようぜ!」
 そんな我らを、子供達が追い抜いていく。
「何かあったようだな。参るぞ」
「あ、ご、ご主人様!」

 何かの商店前に、人だかりが出来ていた。
「うぉ~、どっちもすげぇ!」
「俺は、ちっちゃい娘の方に賭けるぜ!」
「何言ってんだ、隣の姉ちゃんの方が勝つに決まってんだろ?」
 ……妙に、盛り上がっているようだが。
「負けないのだ! おっちゃん、ラーメン大盛り十杯と餃子百個追加なのだ!」
「へん! ならあたいは炒飯山盛りと麻婆豆腐十皿!」
 しかも、聞き覚えのある声がするのだが。
「すまん。そこを通してくれ」
 愛紗が人垣をかき分け、店の前に出る。
 ……やはり、か。
 食堂の中で、鈴々と文醜が、皿や丼を山と積み上げていた。
「鈴々! 何をしているのだ!」
「お、愛紗とお兄ちゃんなのだ」
「いやぁ、張飛から、新規開店した飯店で、一番食った奴に賞金が出る企画やってるって聞かされてさ。大食いなら大陸一を自負するあたいとしては外せないと思って」
「大食いなら鈴々の方が上なのだ! だから、白黒つけている最中なのだ」
「……ハァ。全く、鈴々も鈴々だが、文醜殿も何を考えているのやら」
 呆れた愛紗にもお構いなしに、二人は再び食べ始めている。
 それにしても、尋常な量ではない。
「お待たせしました! 回鍋肉と青椒肉絲と酢豚、それから天津飯の大盛りです!」
 二人の前に、更に料理が置かれる。
 運んできたのは……む、鈴々と同じ年格好の少女のようだが。
 しかも一度に運ぶとは……かなりの重量にも、平然としている。
「あ、お客様ですか? どうぞ、中へ」
 私と愛紗に気付いたようで、声をかけてきた。
「い、いや、私は……」
「良いではないか、どうせ昼食を取るつもりであったのだ。邪魔するぞ」
「……わかりました。そうしましょう」
 諦めたのか、愛紗も席に着いた。

「まだ、食べていますね……。どこにそんなに入るのか」
 私と愛紗が食事を済ませても、二人の争いはまだ決着を見ていなかった。
「気の済むまで、続けさせるしかないな」
「でしょうね。鈴々だけならともかく、文醜殿まで絡んでいては」
 また、溜息をつく愛紗。
「お水、如何ですか?」
 件の少女が、水差しを手にやって来た。
「うむ。ところで、この店はお前のものか?」
「い、いいえ! 私は旅費を稼ぐのに、働かせていただいているだけですから。お料理も手伝ってはいますけど」
「ほお。その歳で、旅をしているのか?」
 愛紗が、感心したように少女を見る。
「はい。家の用事で河北に来たんですけど、家はヘイ州なんです」
「ならば、帰らなくてはならないのではないか?」
「そうなんですけど。途中で困っている人達を助けたら、お金がなくなっちゃったんです。それで……」
 何とも、殊勝な事だ。
 愛紗は、頬を紅潮させて、頷いている。
「立派なものだ。……あ奴に、爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ」
 そう言われた当人は……一心不乱に食べ続けているな。
「だが、その腕力は大したものだ」
「いえ、大した事はありません。季衣、あ、私の幼馴染みなんですけど、この娘の方がもっと凄いですから」
 そうは言うが、謙遜であろうな。
 いくら黄巾党の活動が収まったとは申せ、まだまだ大陸中の治安は悪いままだ。
 その中を一人で旅をしたというだけで、腕が立つと見るべきであろう。
「そなた、名は? 私は関羽と言うが」
「え? じ、じゃあ、あなた様があの美髪公ですか?」
「何だ、私の事を知っていたのか?」
「はい、関羽将軍と言えば、あの土方さまの許で黄巾党相手に大活躍された、そう聞いていますから」
 そう言って、少女は私を見る。
「で、ではまさか、こちらの御方は……?」
「そうだ。こちらがその土方様だ」
「そ、そうだったんですか! も、申し訳ありません、そうとは知らずに大変なご無礼を」
 慌てて頭を下げる少女に、私は手を振る。
「何も無礼は受けておらぬ。よって、そなたに謝られる謂われもない」
「は、はい……。そうでしたか、あなたさまがあの……」
「『鬼の土方』、か?」
「……ですが、そんな怖い御方には見えません。どちらかと言えば、お優しい印象です」
「その通りだ。ご主人様はお優しい御方、ただし庶人を苦しめる者には容赦はせぬ、という事だ」
「そう、ですよね。……あ、申し遅れました。私は典韋って言います」
 ……よもや、あの悪来典韋……いや、恐らくはそのまさか、であろう。
「典韋。先ほど申していた幼馴染み、もしや許チョと言う名ではないか?」
「ど、どうしてそれをご存じなんですか?」
 大仰に驚く典韋。
 もしや、と思ったがその通りであったか。
「やはり、な」
「ご主人様は、知識豊富な御方だ。我らが知らぬ事をご存じでも、何の不思議もない」
「そ、そうですか……。でも、わたしも季衣も、ただの農民ですけどね。あ、でも」
 と、何かを思い出したように、典韋は手を打って、
「季衣、そう言えばヘイ州の刺史さまに仕官したって、そう聞いていました。今度、一緒に洛陽に行くって」
「ヘイ州刺史……曹操殿の事ですね、ご主人様」
「そうだな。典韋、お前は故郷に戻るための旅費を稼いでいる、そう言ったな」
「は、はい」
「ならば、私に同道せぬか? 洛陽に向かうのだ、さすれば許チョとも会えるのではないか?」
「え? で、ですがそれではご迷惑がかかります」
 典韋は、慌てて手を振った。
「構わぬさ」
「ですが、それでは申し訳なさ過ぎます」
 一人二人増えたところで問題はないのだが、典韋は律儀に辞退しようとする。
「ならば、料理番として、我が軍に同行してくれぬか? 無論、手当は出す」
「え?」
「見たところ、料理の心得も人並み以上のようだ。ならば、私もお前も、両者共に損はないと思うが」
「……宜しいのでしょうか?」
「構わぬさ。愛紗も、異存はなかろう?」
「はい。気立ても良く、人物もしっかりしているようですし」
「…………」
 典韋は赤くなり、俯いた。
「無論、無理強いはせぬぞ。お前がここで働きたいのであれば、好きにするが良い」
「……いえ。やっぱり、季衣にも会いたいですから。ご厚意、有り難く承ります」
「うむ。ならば、店じまいの後で城に参れ。兵らには申し送っておく」
「はい、ありがとうございます!」
 さて、後はあの二人だが。
「いい加減に降参するのだ」
「へへーん、お前こそ諦めな? あたいはまだまだ余裕だぜ?」
「……愛紗。ひとまず城に戻るぞ」
「……はっ。確かに、待つだけ無駄でしょうな」
 袁紹との約束の刻限も近い、あまり長居も出来ぬ。


 ちなみに鈴々と文醜の勝負は、日暮れを以て引き分けとなったようだ。
「店の食材を食べ尽くしたそうです。あの店の主人が、真っ白になっていたとか」
 愛紗が、呆れ果てた顔でそう、報告してきた。 
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