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河の鬼女

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第三章

 その女を見てだ、草陰に隠れている兵達が話した。
「あの女は」
「何だ、あの女は」
「急に出て来たがな」
「この様な場所に何故だ」
 鬼が出ると言われているその場所にとだ、いぶかしんで話すのだった。
「何故出て来た」
「如何にも怪しいな」
「うむ、全くだ」
「まさかあの女」
「若しや」
 兵達は女に直感的に怪しいものを感じていた、そして。 
 女は田村麻呂のところに向かっていた、そのうえで彼の前まで来てこんなことを言って来た。
「もし」
「何用だ」
 田村麻呂は内心警戒しつつ女に応えた。
「一体」
「はい、実はお願いがありまして」
 女は田村麻呂に礼儀正しく話を切り出して来た。
「それでなのです」
「わしのところに来たのか」
「この子をです」
 こう言ってだ、その両手に持っているものを。
 田村麻呂に差し出してだ、今度はこう言った。
「抱いて欲しいのです」
「その赤子をか」
「はい」
 そうだというのだ。
「お願い出来ますか」
「何故抱いて欲しいのか」
 田村麻呂は女を見据えたまま再び問うた。
「わしに」
「強い方に抱いてもらえればその力を得られて」
「そしてか」
「その子が長生きすると。私の住んでいるところでは言われていまして」
「だからわしにだな」
「貴方様を強い方と見込んで、です」 
 それ故にというのだ。
「お願いしたいのです」
「わかった」
 これが田村麻呂の返事だった。
「それではな」
「持って頂けますか」
「うむ」
 確かな声での返事だった。
「そうさせてもらおう」
「それでは」
 女は田村麻呂の言葉を受けるとすぐにだった、その赤子を田村麻呂にさらに差し出した。彼は子を受け取って。
 そうしてその両腕に抱いた、最初はその子は普通の重さだった。
 だがその重さはだ、何と。
 徐々に重くなっていきそして石の様な重さになった、そうして。
 さらに鉄の様な重さになった、これには田村麻呂も驚いた、それで女を見て若しやと思った。
 赤子はさらに重くなっていきしかも離れない、まるでくっつけられたかの様に。だからここはだった。
 田村麻呂は己と女の周りを見た、女は俯いているだけだ。だが。
 川、月明かりに照らされたその水面に映る女の姿、それは。
 女のものではなかった、何とだ。 
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