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河の鬼女

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第二章

「我等もです」
「田村麻呂様をお助けします」
「そうさせて頂きます」
「わかった、御主達も来てじゃ。そしてじゃ」
「そして、ですか」
「そのうえで」
「うむ、そのうえでな」
 そうしてとだ、田村麻呂はこうしたことも言った。
「御主達は潜んでおれ」
「潜むのですか」
「そうしろと」
「そうじゃ、鬼が一人ならな」
 その時はというと。
「わしだけでよい、だが」
「だが、ですか」
「鬼の数が多ければ」
「その時はですか」
「どうするか、ですか」
「そうじゃ、呼ぶから出て来て戦ってもらう」
 こう兵達に話すのだった。
「よいな」
「そうですか、それでは」
「我等はまず潜み」
「そして鬼が多ければ出て来て」
「そのうえで戦をするのですな」
「一人を多くで倒すことは好まぬ」 
 例え相手が鬼であってもだ、これは田村麻呂の武を担う者故の誇りの言葉だった。
「そのこともある。だからな」
「はい、まずはです」
「我等は潜んでおります」
「そして田村麻呂様がお呼びすれば」
「その時は」
 兵達も田村麻呂に約束した、そして。
 その夜のうちにだった、田村麻呂は兵達を引き連れ都から鴨川のところに向かった。そこに行くとだった。
 田村麻呂はまずは空を見上げた、そのうえで兵達に言った。
「月が明るいのう」
「はい、周りもです」
「よく見えます」
 兵達もこう答える。
「それもかなり」
「では隠れる場所は」
「考えねばなりませんな」
「うむ」
 田村麻呂は兵達に応えながらだった、そうして。
 川の近くの草陰を見付けてだ、彼等にこう命じた。
「御主達はあそこに隠れておれ」
「あの草陰に」
「あそこにですな」
「そうじゃ、鬼達が多く出れば呼ぶ」 
 その時はというのだ。
「しかしじゃ」
「はい、鬼が一人の時は」
「その時は」
「わしだけで相手をする」
 またこのことをだ、兵達に言ったのである。
「だからな」
「それでは」
「我等はあちらに」
「そしてです」
「何かあれば」
「うむ、呼ぶ」
 田村麻呂も約束する、そして。
 そう話してだった、兵達は実際に草陰に隠れた。そうしてからだった。
 田村麻呂自身は川のところに行った、そうして暫くそこにいるとだ。右手から一人の女が来た。見れば若く美しい女だ。その両手に何か大事そうに抱えて持っている。 
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