仮面の戦士
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第九章
「おお、あれは」
「うむ、ヴィッテルギス侯爵のな」
「ご息女ではないか」
「まさかな」
「あの方が仮面の騎士だったとは」
「これはな」
「思いもしなかった」
皆仮面から出て来たその顔に驚いた、澄んだそれでいて凛としたアイスブルーの瞳に細い白い顔、鼻は高く。
唇は紅で形がいい、美貌のその顔を見てだ。
まずは彼女を知っている者が言いだ、そして。
相手だったジュリオもだ、この思わぬ事態に唖然として言った。
「まさか」
「驚かれましたか」
「はい、まさか貴女が仮面の騎士だったとか」
「以前より騎士の道を学んでいまして」
この国では女も騎士になれるのだ、そして軍にも入られる。
「そして」
「そうして」
「武者修行に励んでいたのです」
こうジュリオに話すのだった。
「仮面を着けて」
「その仮面は」
「素性を知られたくないが故」
侯爵の息女というそれの、というのだ。
「ですから」
「左様でしたか」
「しかし私は敗れました」
自分からだ、騎士は言った。
「ですから誓い通りにです」
「仮面を脱がれてですか」
「こうして正体を明かしたのです」
「そうだったのですか」
「お見事でした」
騎士はジュリオに微笑み言った。
「私はまた修行のしなおしです」
「それには及ばない」
ここでだ、王がその座を立って騎士に言った。
「そなたの腕は見せてもらった」
「陛下」
「そなたを余の軍に迎え入れたい」
是非にというのだ。
「そうしたい、余の言葉聞いてくれるか」
「私は敗れましたが」
「確かにその者に剣では敗れた」
ジュリオに、というのだ。
「だがそなたの武勇は全てにおいて見事だ」
「だからですか」
「そうだ、そなたを余の軍に迎える」
こう騎士に言うのだった。
「そうしたい、いいか」
「陛下のお言葉とあらば」
それならとだ、騎士はその場で左膝を着いてだった。王に対して畏まった態度で述べた。
「謹んでお受けします」
「それではな」
「はい、その様に」
騎士も応える、そうしてだった。
騎士は王の軍に入った、この時に騎士の名もわかった。そして競技の決勝も終わった時にだった。ジュリオは祝いで酒屋で飲みつつだ、レオに言うのだった。
「アンジュリーナ殿はな」
「あの騎士殿のお名前でしたね」
「昔から聡明で才気ある方として知られていてな」
「そのご武勇もですか」
「幼い頃より知られていた」
「そして、ですか」
「ああしてだ」
仮面を被り、というのだ。
「ご自身の武勇を磨かれていたのだ」
「仮面を着けられていた理由は」
「侯爵家のご令嬢だ、どうしてもな」
「お名前とお顔が知られているからですね」
「だからだ」
素性を隠して、というのだ。
「そうされていてだ」
「それにですね」
「ご自身の誓いでもあったのだ」
「敗れはしないと」
「仮面に誓われていたのだ」
「そこまで決意されて、ですか」
「あの方は武勇を磨かれていたのだ」
それこそだ、父である侯爵とその侯爵の主である王にだけ、というのだ。
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