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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第5部 トリスタニアの休日
  第1章 情報収集任務

「さて、明日から夏季休暇なんだけど」

ルイズはウルキオラを睨みながら言った。

「そうだな」

ウルキオラは紅茶を啜ったあと、ルイズに向かって相槌を打った。

「一人で帰れってどういうこと?」

ここはヴェストリの広場。

いつもどおり……、ウルキオラはオスマンに用意してもらった椅子に座って紅茶を楽しんでいた。

ウルキオラは、ルイズに睨まれることになった理由を、もう一度かんで含めるように説明した。

「シエスタが、タルブの村に来いと言うから、一人で帰れと言ったんだ」

がしっとルイズに服を掴まれた。

シエスタの提案は拒否されたのである。

広場の向こうに見える正門は帰郷する生徒で溢れている。

久々の帰郷で浮かれる生徒たちが、迎えに来た馬車に乗り込んでいた。

彼らはこれから故郷の領地や、両親が勤務に励んでいる首都トリスタニアへと向かうのである。

トリステイン魔法学院は明日から夏季休暇なのだ。

二か月半にも及ぶ、長い休暇である。

「あ、あのですね。ミス・ヴァリエール。私、ウルキオラさんにもお休みが必要だと思うんです」

おろおろしたシエスタが、ウルキオラを掴んでいるルイズをとりなす。

シエスタは、帰郷に備え、いつものメイド服ではなく草色のシャツにブラウンのスカートの普段着姿だった。

ルイズはじろっとシエスタを睨みつけた。

しかし……、シエスタも去る者。

恋する女の負けん気で、逆にルイズを睨み返す。

「お、お休みだって必要じゃないですか!い、いつもご自分の好きなようにこきつかって……、ウルキオラさんもうんざりしていることでしょう。ひどいです!」

「別になんとも思っていないが」

ウルキオラは嘘偽りなく答えた。

「ほら。ウルキオラもこう言ってるじゃない。私の使い魔なんだから、いいのよ」

その態度に、シエスタは何かに感づいたらしい。

「使い魔?へぇ、本当にそれだけなのかなぁ……?」

ぽろっとシエスタが呟く。

その目が、ウサギを捕まえる罠を仕掛ける時のように、きらっと光る。

恋する女はライバルに敏感なのだ。

「ど、どういう意味よ」

「別に~」

とぼけた声で、シエスタが呟く。

「言ってごらんなさいよ」

「最近、ミス・ヴァリエールがウルキオラさんを見る目、ちょっと怪しいなと。そんな風に思っただけです」

つん、とすましてシエスタは言った。

ルイズはぎりっと睨んだ。

私ってば、メイドに舐められてる。

ウルキオラのせいだ。

ウルキオラが平民……まあ、人間じゃないんだけど、妙な活躍ばっかりするから、学院の平民まで、自分のことのように喜ぶのだ。

それで、調子に乗り始めてる。

そんな噂をルイズは聞いたことがある。

これがそうなのね。

王国の権威が、貴族の威厳が、ま、そっちはともかく私の威厳が!

ルイズはぴくぴくと震えた。

さんさんと照りつける日差しに目を細めたシエスタは、ふう、と溜息をつくと胸元をはだけ、ハンカチで汗を拭う。

「ほんと……、暑いですわね。夏って」

野に咲く花のような、健康な色気がそこからあふれ出した。

脱いだらすごそうな、二つの丘の谷間がルイズの目に飛び込んでくる。

ルイズははっ!と気づき、ウルキオラの顔を見た。

ウルキオラは全く興味がないように一目見た後、視線を落とし、紅茶を啜った。

そんなウルキオラにほっとした。

と、同時に、なにほっとしてんのよ!と自分を責めた。

私の勝ちね!ええ、こっちは貴族よ!黙ってても高貴がシャツの隙間から零れてしまうんですのよ!

ルイズは「ふぅ暑い」と呟き、シャツのボタンを外した。

それからハンカチで汗を拭う。

しかし……、そこにあるのは谷間ではなく、どこまでも広がる爽やかな平原であった。

ウルキオラはどっちにも興味がないのか、まったく見てくれない。

そもそも、女の色気に興味がないウルキオラに対して、色気の勝負をすること自体が間違っているのだ。

そんなウルキオラの様子を見て、シエスタが口を押え、ぷ、とやらかしたのでルイズはついにキレた。

「な、なによ!今、笑ったわね!」

「そんな……、笑うわけないじゃないですか。そんな、ねえ、私が貴族の方を見て笑うなんて……、ねえ?」

シエスタは顔を輝かせてルイズを宥める。

それから顔を背け、ぽろっと呟いた。

「……子供みたいな体して貴族?……へぇ」

ルイズに四十五のダメージ!

ルイズの口から「かはっ」と呼気が漏れた。

「なんつったの!ねえ!」

「……さあ、……なんにも。なにせほら暑いものですから。暑い暑い。ああ暑い」

わなわなとルイズが震える。

ウルキオラが呟いた。

「ルイズ」

「あによ」

「黙れ」

ルイズに百二十三のダメージ!

ルイズは「なっ…」と、切なげな溜息をついた。

そして、ウルキオラに向かって拳を何度も振り上げる。

ウルキオラはひょいひょいと華麗にかわす。

シエスタが「落ち着いてください!ミス・ヴァリエール!落ち着いてください!」とその背に抱き着く。

一同がそんないつもの騒ぎをやらかし始めた時……。

ばっさばっさと一羽のフクロウが現れた。

「ん?」

そのフクロウはルイズの肩に止まると、羽でぺしぺしと頭を叩いた。

「なによこのフクロウ」

フクロウは書簡をくわえている。

ルイズはそれを取り上げた。

そこに押された花押に気付き、真顔に戻る。

「なんですか?そのフクロウ」

シエスタが覗き込む。

ルイズは真面目な顔になると、ウルキオラに立ち上がるように促した。

「なんだ?」

中を改め、いつ枚の紙にルイズは目を通した。

それからルイズは呟く。

「帰郷は中止よ」

ルイズがウルキオラに手紙を渡す。

ウルキオラもそれを読んだ。

手紙にはこう記されていた。

アルビオン艦隊が再建されるまで信仰を諦め、不正規な戦闘を仕掛けてくる。

マザリーニを筆頭に、大臣たちはそう予想したこと。

街中の暴動や反乱を扇動するような、卑怯なやり方でトリステインを中から攻められていること。

そのような敵の陰謀に怯えたアンリエッタたちは治安の維持を強化すること。

そして、ルイズとウルキオラに身分を隠しての情報収集任務を願うこと。

なにか不穏な活動が行われていないか。

平民たちの間では、どんな噂が流れているのか。

それを調べてくれとのことだった。

ウルキオラは一通りそれを読んだ後、ルイズに手紙を手渡した。

「面倒な事だ」




ルイズとウルキオラは、ルイズの自室へと入って行った。

ぴょこんとルイズはベッドに座ると、語り始めた。

「この前の事件のあと……、姫様が落ち込んでいたの、知ってるわよね?」

「ああ」

ウルキオラは頷いた。

死んだ自分の恋人が、敵の手によって蘇らされ、自分を攫おうとしたのだ。

落ち込むのも当然である。

「お可哀想に……、でも、いつまでも悲しみの淵には沈んでおられないようね」

ルイズは手紙をもう一度開いた。

「そのようだな」

ルイズは不満そうな顔をしていた。

「どうした?」

「だって……、地味じゃない。こんなの」

「情報は重要だ。情報を軽視すれば、戦争に勝ち目はない」

「そうなんだけどさ」

アンリエッタからの手紙には、トリスタニアで宿を見つけて下宿し、身分を隠して花売りなどを行い、平民たちの間に流れるありとあらゆる情報を集めるよう、指示してあった。

任務に必要とされる経費を払い戻すための手形も同封されていた。

「荷物もまとめ終わったし、さっさと出発するわよ」

そんなこんなで、二人はトリスタニアへと出発した。

身分を隠すために、馬車は使えない。

ウルキオラは、じりじりと太陽が照りつける中、荷物とルイズを抱え、ルイズが文句を言わない程度の速度で滑降した。

この調子だと、トリスタニアまで丸一日はかかるだろう。

「どんどん進みなさい!」

毎時約三十キロで進んでいくウルキオラの腕の中で、ルイズは頬に涼しい風を感じながら言った。




街についた二人は、まず財務庁を訪ね、手形を金貨に換えた。

新金貨で六百枚。

四百エキューである。

ウルキオラは腰に下げたポーチの中に入った、アンリエッタから貰ったお金を思い出す。

新金貨が二千枚ほど残っている。

千三百五十エキューといったところか。

ウルキオラはまず、仕立て屋に入り、ルイズのために地味な服を買い求めた。

ルイズは嫌がったが……、マントに五芒星では貴族と触れ回っているようなものだ。

平民に混じっての情報収集なんか無理である。

せっかく抱えて飛んできた意味がない。

しかし、地味な服を着せられたルイズは不満そうだった。

「どうした?」

「足りないわ」

「なにが?」

「この頂いた活動費よ。四百エキューじゃ、宿だけでなくなっちゃうじゃない」

金貨が六百枚もふっとぶ宿とは、一体なんだろうか?

「安い宿でいいだろう」

「だめよ!安物の部屋じゃよく眠れないじゃない」

さすがは貴族のお嬢様である。

平民に混ざって情報収集の任務なのに、高級な宿に泊まるつもりのようだ。

なにを考えているのか、理解できなかった。

「俺の金を貸してやる」

「いくらあるの?」

「千三百五十エキュー」

ルイズはぶはっと唾をはいた。

「唾をつけるな」

「そ、そんなにもらったの?」

ウルキオラの悲痛の叫びが届くことはなかった。

「まあな。ルイズ」

「ん?」

名を呼ばれ、聞き返す。

「情報収集する上で、もっとも効率の良い場所はどこかわかるか?」

ルイズはうーん、と顎に手を当て、暫し考えた。

「街中とか?」

「アホか」

ウルキオラは一瞥した。

「アホとはなによ!ならどこだってのよ!」

ルイズはムッキーッとウルキオラに詰め寄った。

「酒場だ」

「あ~あ」

ルイズはなるほど、というような顔をした。

ウルキオラはまさか自らの口でこの言葉を吐くことになるとは思いもいなかったので、溜息をついた。

「ならあそこなんかいいんじゃない?」

ルイズは酒場のマークが入った一軒の店を見つけた。

「そうだな」

二人は酒場へと近づいて行った。

すると、微かだが、酒場の隣の家の裏から悲鳴のようなものが聞こえた。

気になったウルキオラは、路地へと入って行った。

「ちょ、ちょっと、どこ行くのよ!」

ルイズはその後を追った。

曲がり角で、ウルキオラが立ち止まる。

急に立ち止まったウルキオラに激突。

ルイズは、むぎゅっと呻き声をあげた。

「何で止ま…ん!」

文句を言おうとしたが、ウルキオラの手がそれを許さない。

ウルキオラは壁から顔を半分出し、曲がり角の向こう側を覗き込んだ。

一人の少女と二人の巨漢が視界に入る。

どうやら、ここで間違いはなさそうだ。

巨漢の二人は、マントをつけていないことから平民であると伺えた。

視線を一人の少女に向ける。

驚く。

黒髪で黒い瞳……。

シエスタと同じ、日本人を思わせた。

一人の少女が、塀に追い込ませている。

強姦魔だろうか?

ウルキオラはルイズにここにいろ、と言い残し、巨漢の後ろへと響転で移動した。

いきなり現れたウルキオラに、少女は驚いた顔をした。

そんな少女の表情を見て、巨漢二人も振り向く。

「なんだ、てめーは!」

一人の巨漢が拳を振り上げた。

それがウルキオラの胸に当たる。

ドガっと殴打音が響く。

しかし、ウルキオラは全くの無反応である。

殴った巨漢の一人は拳を抑えて、地面をのたうちまわっている。

体全体に霊膜を張り巡らせていたので、ヒビくらいは入っているだろう。

もう一人の巨漢が舌打ちをしながら、のた打ち回っている巨漢を支えるようにして足早に去って行った。

そんな様子をじっと見つめていたルイズは、ウルキオラの前に飛び出し、少女に寄り添った。

「大丈夫?」

少女は緊張が解けたのか、がくっと地面にへたり込む。

「はぁ、助かったわ。あなたとっても強いのね」

少女はウルキオラを見つめて言った。

「ありがとう。私はジェシカ。そこの酒場で働いてるわ。お礼がしたいの。一緒に来てくれるかしら?」 
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