ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第4部 誓約の水精霊
最終章 悲しみの対決
魔法が飛び交う中、タバサとキュルケは顔をしかめた。
倒せないのである。
アンドバリの指輪で復活した彼らに死という概念はない。
故に、倒せないのである。
少しずつ、ルイズたちは追い詰められていく。
いつの間にか、ルイズたちを囲むようにして円陣を組んでいた。
防戦一方に追い詰められていたのだ。
敵の数は多く、攻撃に隙がない。
ウルキオラを見る。
アンリエッタとウェールズの連携に苦戦を強いられているようだ。
ただ殺すだけなら簡単なのだが、殺してはいけないというのは難しいのである。
わずかな攻撃の間隙をぬって繰り出されたキュルケの炎球が、一人のメイジを燃やし尽くした。
「炎が効くわ!燃やせばいいのよ!」
キュルケの炎が、立て続けに繰り出される。
タバサはすぐに攻撃をキュルケの援護に切り替えた。
キュルケめがけて飛んでくる魔法を、氷の魔法で相殺する。
なにせ、氷の槍で刺しても、相手はすぐに回復してしまうのだ。
暫くすると、キュルケの魔法ですべてのアルビオン貴族が焼かれた。
「やったわ!倒せたわよ!」
ぽつぽつと、頬に当たるものを感じた。
雨である。
どうやら、天はルイズたちの味方らしい。
「危なかったわね…あともう少し遅かったら炎が効かないところだったわ」
「そうね」
ルイズが空を見上げた。
巨大な雨雲が、いつの間にか発生していた。
刹那、巨大な風がルイズたちを襲った。
「な、なに!」
キュルケが喚く。
どうやら、ウェールズとアンリエッタの側で発生したらしい。
驚愕する。
「これは……」
タバサとルイズも唖然としている。
アンリエッタの『水』、『水』、『水』、そしてウェールズの『風』、『風』、『風』。
水と風の六乗。
これは王家のみに許されたヘンタゴン・スペル。
四つの要素を足して発動するスクウェア・スペルの二つ上。
詠唱は干渉しあい、巨大に膨れ上がる。
二つのトライアングルが絡み合い、巨大な六芒星を竜巻が描いて、ウルキオラに襲い掛かる。
「ウルキオラ!」
ルイズが叫ぶ。
あれは、さすがのウルキオラでも無理だ。
津波のような竜巻。
この一撃をまともに喰らえば、城でさえ一撃で吹き飛ぶだろう。
ウルキオラは目を見開いた。
まさか、これほどの魔法が存在しているとは思わなかった。
黒崎一護の虚化状態の月牙を思わせる。
ものすごいうねりを上げて、ウルキオラに突進してくる。
衝突。
ウルキオラは右手で受け止めた。
しかし、受け止めきれず、肘が徐々に曲がってくる。
顔を顰めた。
ポケットから左手をだし、すぐさま竜巻を止めようとした。
しかし、竜巻はウルキオラの想像を遥かに超えた威力を持っていた。
ウルキオラが後じ去る。
「くそ……」
そう小さく呟いた途端、ウルキオラは竜巻の中へと飲み込まれた。
「ウルキオラ!」
ルイズはウルキオラが竜巻に飲み込まれていくのを見て、悲痛の叫びをあげた。
未だ巨大な津波のような竜巻が、ごうごうとうねりを上げて天を衝かんばかりに巻き上がっている。
キュルケとタバサは呆然と立ち尽くした。
あのウルキオラが負けたのだ。
あのウルキオラがである。
これほどの魔法である。
生きているはずはない。
魔法を発生させたアンリエッタ自身も、自らの手で、自分とトリステインを救ってくれたウルキオラを殺してしまったという自責の念にさらされているようだった。
「あ、ああ…」
ルイズはウルキオラが立っていた場所を見つめながら、呆然と立ち尽くしていた。
竜巻は、徐々に勢力を後退させている。
ルイズの中で、どす黒い何かがうねりを上げた。
頭の中に記憶にない呪文が流れ込んでくる。
ルイズはウェールズとアンリエッタを睨んだ。
そこには、既に正気は見られなかった。
ウェールズはしてやったというような顔をしている。
謳うようなルイズの詠唱が雨音に混じった。
今のルイズには、ただウルキオラの仇を取るという感情しかない。
己の中でうねる精神力を練り込む。
頭の中にあるルーンが、次から次へと口から吐き出させている。
「この子、どうしたの?」
キュルケが怪訝な顔でタバサに尋ねる。
しかし、タバサもわからないのか、首を横に振った。
ルイズの詠唱が完成する。
ウェールズに放ち、すべてを終わらせようとした瞬間、竜巻が巻き上げた土埃の中から、聞きなれた声が聞こえた。
「やれやれ、両手を使っても止めきれんとはな……正直、驚いた」
ルイズはがばっと振り向いた。
「ウルキオラ!」
生きていたのだ。
目に涙が滲んだ。
タバサとキュルケも驚いている。
ルイズがウルキオラに駆け寄る。
しかし、すぐに歩みを止めた。
驚愕する。
土煙が晴れ、ウルキオラの姿がだんだん鮮明に見えてきたときであった。
ウルキオラの右手の肘から下が、なくなっていたのだ。
「ウ、ウルキオラ……あんた、う、腕が……」
傷口kら生々しい赤い塊が、滴り落ちている。
血の湖が、形成されている。
服もいたるところがボロボロになっており、胸に開いた穴が露わになっている。
「まさか、あれだけの魔法を食らって腕一本とは……さすがは虚といったところかな?」
ウェールズは笑みを崩さずに言った。
ルイズはキッとウェールズを睨んだ。
操られているとはいへ、許せるはずもなかった。
「だが、君のような強者の腕を一本落したんだ。いいとしよう」
ウェールズは言った。
「腕を一本、落しただと?」
ウルキオラはじろっとウェールズを見た。
「ああ。まあ、正直、生きていること自体が信じがたい…が……ね」
ウェールズは言葉を失った。
ウルキオラの腕が、右腕が存在しているのだ。
「なん…だと…?」
ルイズとタバサ、キュルケも驚いている。
ウルキオラは新たな自らの右腕の感触を確かめるように、握ったり開いたりしている。
「俺の能力の最たるものは、攻撃でも、防御でも、スピードでもない」
「なに?」
ウェールズは怪訝な顔をした。
「……再生だ」
「再生…だと?」
「そうだ。強大な力と引き換えに、超速再生能力の大半を失う、俺たち破面の中で、俺だけが唯一、脳と臓器以外の全ての体構造を超速再生できる」
その場にいる全ての者が驚愕した。
ウェールズも言葉を失ったのか、目を見開いたまま、微動だにしない。
「お前らが何故、あのような強力な魔法を使用できたのかはわからんが、いくらお前らの魔法が強かろうと、一撃あてて様子を見るようでは、俺を殺すことなど、不可能だ」
ウルキオラは、人差し指をウェールズに向けた。
ウェールズは、即座に魔法を放とうとしたが、ウルキオラの方が速かった。
「縛道の六十一、六杖光牢」
刹那、ウェールズの腹に、六つの光の板が突き刺さった。
「ぐ、なんだ、これは!」
必死に体を動かそうとするが、板が邪魔して身動きが取れなかった。
「いくら死なないとはいえ、動きを封じられれば、どうすることもできまい」
ウルキオラはそう吐き捨て、ルイズに向き直った。
「やれ、ルイズ」
「え?」
いきなり呼びかけられたので、何を言っているのかわからなかった。
「魔法を詠唱していただろう。それをウェールズに向けて放て」
「う、うん!」
あまりの驚くべきウルキオラの能力に、ルイズは先ほどまで、詠唱していた魔法を思い出した。
言われるがままに、頭の中に流れ込んできた魔法を放った。
「解除!」
杖を振り下げ、ウェールズめがけて振り下ろした。
アンリエッタとウェールズの周りに、眩い光が輝いた。
すうっと、隣に立ったウェールズの体が地面に崩れ落ちる。
アンリエッタは駆け寄ろうとしたが、消耗しきっていた精神力のおかげで意識を失い、地面に倒れた。
辺りは一気に、静寂に包まれた。
暫く気を失っていたアンリエッタは、自分の名を呼ぶ声で目を覚ました。
ルイズが心配そうに自分を覗き込んでいる。
雨は止んでいた。
周りの草は濡れ、ひんやりとした空気に包まれている。
先ほどの激しい戦闘が嘘のように、アンリエッタは思えた。
しかし、嘘ではない。
隣には、冷たい躯となったウェールズが横たわっている。
アンドバリの指輪で、偽りの生命を与えられた者たちのなれの果てだ。
ルイズの『ディスペル・マジック』で、偽りの生命をかき消され、元の姿へと戻っていたのだ。
その理由はわからない。
ただ、あるべきところにあるべきものが戻ってきたことを感じた。
今はそれで十分だった。
夢かと思いたかった。
しかし、すべては悪夢のような現実であった。
そして自分は、すべてを捨ててその悪夢に身を任せようとしていたのだ。
アンリエッタは両手で顔を覆った。
今の自分に、ウェールズの躯にすがりつく権利はない。
ましてや、幼い頃より自分を慕ってきたルイズや、自分を救ってくれたウルキオラに合わせる顔がない。
「私、なんてことをしてしまったの?」
「目が覚めましたか?」
ルイズは悲しいような、冷たいような声でアンリエッタに問うた。
怒りの色はない。
いろいろと思うところはあるだろうが、いつものルイズであった。
アンリエッタは頷いた。
「なんと言ってあなたに謝ればいいの?ウルキオラさんを傷つけた私は、なんて赦しをこえばいいの?教えて頂戴。ルイズ」
ルイズは、斜め後ろに立っているウルキオラを指さした。
「それより、ウルキオラを治してあげてください」
ウルキオラの体には、至る所に細かな切り傷があった。
生死に関わるような傷ではないので、超速再生で治していなかったのだ。
「ひどい傷…」
「別にいい。自分で治せる」
ウルキオラはそう言って、すべての傷を超速再生能力で治癒した。
それを見たアンリエッタは、頭を垂れた。
「お詫びの言葉もありませんわ」
ウルキオラはただただ、頭を垂れているアンリエッタを見つめていた。
それから……。
一行はラグドリアン湖の岸辺へ移動した。
敵味方問わず、湖に沈めた。
ルイズたちは……、キュルケも、タバサも、アンリエッタを責めなかった。
アンリエッタは悪夢を見ていたのだ。
甘い、誘惑の悪夢を……。
アンリエッタは、最後にウェールズを運ぼうとした。
そのとき……。
アンリエッタは心底信じられないものを目にした。
ウルキオラがウェールズの体に手を当てていたのだ。
「ウルキオラさん?」
アンリエッタはウルキオラの行動を確かめるため、ウェールズに寄った。
ルイズたちも傍へと駆け寄る。
ウルキオラの手が薄い緑色に染まっていた。
「何してるの?」
ルイズが尋ねた。
しかし、ウルキオラは答えない。
答える必要がないとも言えた。
ウェールズのその瞼が、弱弱しく開いたのだ。
「……ウ、ウルキオラ…君?」
弱弱しく、消え去りそうな声だったが、紛れもなくウェールズの声だった。
アンリエッタの肩が震えた。
「あ、あんた…なにしたのよ!?」
ルイズが驚いたように騒いだ。
「回道」
「かいどう?」
キュルケが首を捻った。
「お前たちの世界で言えば、水の治癒魔法だ」
ウルキオラは手を引いた。
アンリエッタは、そっとウェールズを抱きかかえた。
「ウェールズ様……」
アンリエッタは恋人の名を呼んだ。
彼女にはわかる。
今度のウェールズは本物のウェールズだ。
偽りの生命で動く操り人形ではない。
本物の彼だ。
「なんということでしょう。おお、どれだけこのときを待ち望んだことか…」
ウルキオラの回道から離れたウェールズの胸から、赤い液体が垂れてきた。
アンリエッタは慌ててウルキオラに懇願した。
「ウルキオラさん!お願いします!ウェールズ様を…ウェールズ様を…」
しかし、口を開いたのはウルキオラではなく、ウェールズだった。
「無駄だよ……、アンリエッタ。さすがのウルキオラ君でも、僕を…死者を救うことはできない。こうして、少しの間、鼓動を動かすのが限界さ」
「そんな……」
アンリエッタの目から涙が溢れた。
しかし、ウルキオラの口から出た言葉は意外なものだった。
「方法はある」
ウルキオラの言葉に、皆が驚愕する。
「ほ、本当ですか?」
「な、なに?」
アンリエッタとルイズはウルキオラに詰め寄った。
ウルキオラはそんな二人を見向きもせずに、弱弱しい視線を送ってくるウェールズを見つめながら、腰に差した斬魄刀を抜いた。
「俺の力をお前に譲渡し、虚化すれば、まだ助かる」
ウルキオラの言葉に、キュルケが口を開いた。
「それって、人間を捨てて、あなたと同じ種族になるってこと?」
キュルケはモンモランシーからウルキオラの種族について聞いていたので、虚という言葉を理解していた。
それは、タバサも同様だった。
「治せるのなら、治して下さいな!お願いいたしますわ!」
アンリエッタは藁にもすがる様子だ。
しかし、ウェールズはそれを拒否した。
「治さなくて……いい」
ウェールズの言葉に、一同は驚いた。
「どうして…助かるのですよ!」
アンリエッタは心底理解できないといった様子でウェールズに言った。
「僕は一度死んだ身だ。そこまでして、生きながらえようとな思わない」
「そんな……いやですわ…、また私を一人にするの?」
「アンリエッタ。最後の願いがあるんだ」
「最後だなんておっしゃらないで!」
「僕を忘れてくれ。忘れて、他の男を愛すると誓ってくれ」
「無理を言わないで。そんなこと誓えないわ……嘘を誓えるわけがない」
アンリエッタは肩を震わせた。
「いや、誓うさ。君は…僕が唯一愛した女性なのだから」
ウェールズはアンリエッタの頬に流れた涙を拭った。
そして首を捻り、ウルキオラの方を向いた。
「君に、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
ウェールズは、ごほごほと血を吐いた。
アンリエッタがウェールズの名を叫ぶ。
「アンリエッタを…アンリエッタを守ってくれ……僕の……かわ……り……に」
そう言い残して、ウェールズの首はだらんと垂れた。
「ウェールズ様?」
しかし、ウェールズは答えない。
アンリエッタがその肩を揺さぶる。
が、ウェールズは既に事切れていた。
思い出の一つ一つを、宝石箱の中から取り出すようにして、確かめていく。
楽しく、輝いていた日々はもう来ない。
「頑固な人」
まっすぐウェールズを見つめたまま、アンリエッタは呟いた。
「最後まで、自分の決めたことを変えないんだから」
ゆっくりとアンリエッタは目を閉じる。
閉じた瞼から、涙が一筋垂れて頬を伝った。
傍でそんな二人の様子を見ていたルイズは、ウルキオラに抱き着いた。
声を殺すようにして泣いている。
ウルキオラに抱き着きながら、ルイズは思った。
私はウルキオラがこの世を去る時、私の前からいなくなるとき、笑顔で見送れるのだろうか?
それとも……。
ルイズはそれ以上考えるのをやめ、ウルキオラの服に顔を埋めた。
ウルキオラはそんなルイズの感触を感じながら、ウェールズの亡骸を見つめていた。
一人の人間が死んだ。
それこそ、元居た世界でも、このハルケギニアでも何度も目にした光景だ。
なのに……。
なのにどうして、こんなにも胸が締め付けられるのか。
この感情は何なのか?
何故こんなにも苦しいのか。
わからない。
それを表現する言葉も、感情も、知能も、ウルキオラは知らなかった。
ただ、言えることが一つだけあった。
もう一度味わいたいものではないと。
ルイズが死んだら、またこのような感情が沸き起こるのか?
わからない。
いくら考えてもわからないので、思考を停止させた。
ウェールズの言葉を思い出す。
このような感情を自身に教えてくれた礼として、願いをかなえてやろうと思った。
「守ってやろう」
何処にいるかわからない、ウェールズの魂に、自らの魂に、そう誓った。
アンリエッタはウェールズの亡骸を水に横たえた。
それから小さく杖を振り、ルーンを呟く。
湖水が動き、ウェールズはゆっくりと水に運ばれ、沖へと沈んでいく。
水はどこまでも透明で……、沈んでいくウェールズの亡骸がはっきりと見えた。
アンリエッタはウェールズの姿が見えなくなっても、そこに立ち尽くした。
湖面が太陽の光を反射させ、七色の光を辺りに振りまき始めても……、アンリエッタはじっと、いつまでも見つめ続けた。
後書き
どーも、作者です。
第四巻終了しました。
なんて言うか、自分で書いてて涙ぐみました。
ウルキオラの感情も大きく動いたことと思います。
悲しい話ではありますが、悲しみを味わってこそ、幸せを噛みしめることが出来ると、睡魔に襲われている私は思うのです。
ページ上へ戻る