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狼の森

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第三章

「森におるな」
「隠者か」
「うむ、そうじゃ」
「隠者は森の中にいるとは聞いているが」
「それがわしじゃ」
 他ならぬ自分だというのだ。
「そうなのじゃよ」
「じゃあ聞くけれどな」
 警戒しつつだ、ハンスはその自らを隠者と名乗る老人に問うた。右手にある杖は明らかに武器になりそうだったので余計にだ。
「どうして俺の前に出て来たんだい?」
「御前さんは先日狼に会ったな」
「村の前でな」
 そうだったとだ、ハンスも答える。
「一匹の狼とな」
「そうじゃったな」
「そうさ、けれどな」
「何故わしがそのことを知っておるかじゃな」
「まさかあんたがその狼だっていうのかい?」
 ハンスはあえてだ、隠者にこう返した。足は力を溜めていて何時でも後ろに跳び退ける様にしている、そして退いてから弓矢を放つつもりだ。
「狼人間かい?あんたは」
「いや、わしは普通の人間じゃ」
 それは違うとだ、隠者はその彼に答えた。
「人間じゃよ」
「そうか、人間なんだな」
「悪魔とも妖精とも関わりはない」
 そうした存在とも縁がないというのだ。
「全くのう」
「神様に仕えてるんだな」
「その通りじゃ」
 それもまた事実だというのだ。
「わしもまた神の僕じゃ」
「神の僕、神父様かい」
「元はな」
 そうだったというのだ。
「今は森にいてこの様な姿じゃが」
「隠者さんってことか」
「その通りじゃ」
「じゃあ聞くぜ」
 幾分か警戒は解いた、だがだった。それは完全には解いていない。そのうえで隠者に対してこうも言った。
「どうしてここに来たんだい?」
「そのことか」
「ああ、俺の前にな」
 今度問うたのはこのことだった。
「どうして来たんだい?」
「御前さんに言いたいことがあってな」
 それで出て来たというのだ。
「少しのう」
「それは狼のことだよな」
 ハンスはこのことを察して隠者に返した。
「そうだな」
「そうじゃ、狼のことでじゃ」
「あんたは狼じゃないんだな」
「それはさっき言った、わしは元々は神父じゃ」
「神父様は嘘を言わないか」
「神に誓ってな」
 このことはだ、隠者も強く言った。
「その通りじゃ、それであの狼じゃが」
「何で俺を襲わなかったんだ?あいつは」
 怪訝な顔でだ、ハンスは言った。
「それはどうしてなんだ?」
「それはな」
「ああ、どうしてなんだ?」
「狼はそうしたことをしないからじゃ」
「しない?」
「狼は必要なものだけを食べる」 
 そうするというのだ。
「そして人を襲うことはない」
「おいおい、それはないだろ」
 すぐにだ、ハンスは隠者のその言葉に反論した。 
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