とある英雄の逆行世界
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
幼年期編
第8章
出会い―ブリテンの少女― 2
前書き
説明回な感じになったです。
――最初に再起動したのはアルトリアだった。
「トウマ!大丈――「あっぶねぇな!なにすんだよ美琴!!」――ぶで、すか…?」
アルトリアの声をさえぎるように声を上げるのは蒼い雷に包まれたと思われる当麻だった。
服装に別段乱れはないしとても元気そうに見える。…まぁ額に冷汗は浮かんでいるのが。
しかし、あの雷を受けた後と考えると当麻の状態は不自然すぎた。下手をしなくても死んでしまうと思われる一撃を受けた子供の様子だとは思えない。
アルトリアはどちらかというとその様子にあっけにとられていたが、凛と士郎は驚愕の中に安心をにじませた表情をしていた。
「今のはちょっとしたお仕置きよ。あんた気が付いてる?いまアルトリアさんを消しそうだったのよ?…でも、ごめんやりすぎだった」
「!!ああもう泣くなよ!…だいじょうぶだしな、おれの右手にだったら効かないんだし」
言ってる途中に美琴は衝動的にやってしまった事への後悔と、自分が当麻を殺しそうになったことへの恐怖が押し寄せてきたのか、泣きながら当麻の右手をとり「ごめんね」と震えながら謝っていた。
実際、美琴もあそこまでの威力で撃つつもりはなかったのだ。ちょっとビリっとするぐらいの威力に抑えるつもりだった。
あの瞬間の動揺(アルトリアの存在そのものとか当麻のアルトリアをみるキラキラした表情とか)から制御を誤って致死級の威力になってしまっただけで。
当麻はそんな美琴をゆっくり抱きしめるとあやすように頭を撫でる。
「ああ、もう泣くなって、おれはピンピンしてんだから。そんなに泣かれたらおれまで悲しくなってくるだろうが」
この時ばかりはいつもの年齢関係(周りからみた場合)が逆転してしまっていた。当麻にそうされていると、しばらくして美琴の震えが収まり最後には「ふにゃ~」状態になってしまっていた。
それを見て大丈夫だと当麻は判断し美琴の顔を上げさせる。
泣いたせいで少し目が腫れているようだったがいつもの調子に戻っているのを確認する。
「よし、もうだいじょうぶみたいだな。で、ちょっと聞きたいんだけど、さっき言ってたおれがアルトリアさんを消すってどういうことだよ?」
当麻の言葉を聞くと美琴は「本当にごめんね」といって、当麻から離れる。当麻、美琴双方ともに名残惜しかったのだが人前――凛や士郎、アルトリアの前――ということもあり美琴の羞恥心が勝った結果だった。
「…当麻の右手が超能力とか、いわゆる普通じゃ“ありえない”現象を打ち消す能力があるのはわかってるわよね?」
「“幻想殺し”だろ?おもに美琴の能力を打ち消すのに使ってるけどな。それがどうしたんだよ」
レベル0である当麻の右手には“幻想殺し”と呼ばれるある意味天災級ともいえるであろう力が宿っている。
美琴にも当麻にも詳しいことはわからないのだが少なくともレベル5級の能力を無効化できるといえば学園都市の人間には伝わるだろう、要は軍隊相手に無双できるような力を無効化できると思っておけばいい。
美琴としては当麻の反応は想定内というか予想通りのものだった。
まあ普通はAIM拡散力場は知覚したりできないので当然の反応と言えるだろう。
「まぁ、それが普通の反応よね。…えっとなんて説明したらいいんだろう」
そういうと、美琴は凛と士郎に目線を向ける。
“AIM拡散力場”そう言われるものを美琴は知覚することができる。
その美琴から見ると凛と士郎の二人からはかなり強力なAIM拡散力場を感じるのだ。もちろん、二人とも極力抑えるようにしているのだろう。力場はほとんど洩れていないような状態ではある。が、美琴から見ると少なくともレベル4級の能力を所有しているのではないかと思われる。そうであるのならアルトリアの存在にもある程度納得がいくというものである。凛からアルトリアの方向へAIM拡散力場が伸びて二人がつながっているように見えるのもそう思う理由だ(凛と士郎は双方向に力場が流れているように見える)。少なくとも凛がアルトリアの存在と密接な関係にあるのは間違いないように美琴には思われるのだ。しかもなんだか今の事態に納得しているようである事だし。
そういう状況なら自分よりよっぽど状況をうまく説明できるであろう人物に目を向けるのは当然の反応だろう。
「凛さん、説明お願いできますか?」
これがとある世界における“魔術”について美琴と当麻が深く学ぶ契機になるとはだれも予想していなかった。
唐突だが遠坂凛は魔術師である。余談ではあるが最近パートナー兼弟子の衞宮士郎と籍を入れ衞宮凛となっている。
凛にとっては人生の転機といえるのだがそれはそれ。
今の凛にとって重大なのは今目の前で繰り広げられた光景である。
(なんなのよあれは!!)
目の前で繰り広げられた光景にに、凛は心の中で驚愕の叫びをあげていた。少なくとも凛にとっては驚愕に値する光景だったのだ。
まず一つ目。美琴の身体能力。
まぁこれはいいだろう。凛だってやろうと思えばやってやれない動きではなかった。若干は人間離れしてはいるがそれだけだ。
二つ目。美琴が能力によって放ったと思われる雷。これはやばかった。
威力だけ考えると霊長の守護者とも称される英霊クラス。まず普通の人間に放てる威力ではない。
(あの威力を出すのにわたしだったらいくらかかると思ってんのよ!…ってそうじゃないでしょ。しっかりするのよ凛)
凛とて元の世界では自他共に超一流と言われる魔術師だ。ほぼ同等の威力のものなら放てる。
だがそれにはそれ相応の代償を伴う。
たとえば凛であれば魔術の触媒としての魔力込められた宝石。推定数百万円也。
まぁこれは凛が“宝石魔術”と呼ばれるものを使うからこその金額ではある。
それでも美琴が放つのにかかった倍の時間はほしいところだ。
ほかの魔術師(もちろん一流のである)であれば長い詠唱とそれ相応のエネルギー ―魔力― に加え強力な補助具が必要だろう(もちろんその方法でも凛はできる)。
世の中には例外もいるのだがそれはそれ、例外の話だ。
要するに凛が何が言いたいのかというと“反則だ”この一言につきる。なにせ7歳の少女が英霊級の一撃を放って全然余裕がありそうなのだ。
しかも美琴は公式情報としてレベル2だ。これに関しては何らかの理由で詐称していたのだろう。
もちろん凛がそう判断したのにはれっきとした理由が存在する。
学園都市の能力者には6段階の能力評価が存在し、上がレベル5、下がレベル0である。
美琴の能力レベル(レベル2)は日常生活でほとんど役に立たない、と言われている。
だが美琴が先ほど放ったものはどんなに低く見積もってもレベル4、戦術的価値があると判断されるレベルのものだ。
まぁ情報不足感は否めないが少なくとも能力詐称は十分に現実的な判断であるといえるだろう。
ちなみに“能力”と言ってはいるが、あれは凛から言わせれば魔術だ。なぜなら美琴が発動のエネルギーとして使用していたものは凛から見ればれっきとした魔力だったからだ。
三つ目。美琴の電撃を無効化した当麻。
凛としてはこれが一番の驚愕だったのだ。
雷に抵抗したしたのならば納得はしたくないが理解はできる。例えば高い抗魔力を誇るセイバー ―アルトリア― ならばあのクラスの一撃でも無効化して見せるだろう(というか普通の魔術は効かないレベルなのだが)。
だが雷は当麻の右手に触れた時点で掻き消えたのだ。凛からすれば雷が発動した事実そのものをなかった事にしたとしか思えなかった。
そしてそれを認識した時、凛は先ほどの出来事に背中に冷汗出てきた。同時にそれが実際に起きなかった事に胸を撫で下ろしていたのだが。
セイバー ―アルトリア― は凛の公私での相棒兼友人である。その正体は魔力と契約者との契約によって現世に留まる英霊、ブリテンの英雄 騎士王アルトリア・ペンドラゴン― アーサー王…そう呼ばれる存在である。
ある魔術儀式の折に衞宮士郎が召喚した彼女は紆余曲折を経て現在は凛の使い魔となっている。
セイバーは魔術によって現世に召喚され、魔力と魔術的な契約によって保たれた存在である。
そんな存在が魔術を掻き消す能力を持つ人物(能動で発動なのか自動で発動かは分からないが)と握手――接触をしようとしていたのだ。
最悪の場合セイバーがその場で消えていてもおかしくはなかった。その事に凛は行き着いたのである。
(そして美琴は最低限その可能性には気が付いていた。そうじゃなきゃ、あんな切羽詰まった様子で当麻を止める必要性はないはず。セイバーがどういう存在であるのかも感づいていてもおかしくはない…か)
凛が士朗に目線を向けると士郎も見返して頷いてくる。士郎も同じ答えにたどり着いたであろう事を凛は確認すると美琴に目線を向ける。…向けるのだが。
(いや、あの様子だとかわいい嫉妬の可能性が高く見えてくるわね)
当麻に抱きつきながら泣く美琴の様子を見ていると、毒気が抜かれてそんな可能性が高い気がしてくるから不思議なものだ。
少なくとも先ほどの行動が自分たちへの善意からの行動だと確信しているからこその感想ではあるのだが。…凛としても絆されている感があるのは否定できない事実である。
そんな風に凛が考えている間に美琴は立ち直り、先ほどの真意について話し出す。
当麻がセイバーを消しそうになっていた事(かなりヤバかったらしい)と、当麻のあの不思議能力(右手のみの能力で“幻想殺し”というらしい)について説明した後、美琴はどう説明したらいいのかわからないようで言葉を詰まらせる。
そして少し考え込むようなそぶりを見せた後、凛と士郎へ顔を向けると一言――
「凛さん、説明お願いできますか?」
申し訳なさそうにそう言ったのだった。
ページ上へ戻る