ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-8 74層攻略
Story8-11 黒と蒼、二人の過去
第3者side
第50層・アルケード エギルの店2F
激闘の後の数十分後。
エギルの店の2Fを使わせてもらっていた。
今その場所で行われているのは…………
「なんじゃこりゃあ!?」
「何って?見たとおりよ。さっ!立って!」
「お披露目しよー!」
アスナがフローラに手伝ってもらって殆ど強引に着せ掛けたのはキリトの新一張羅のお披露目会を開催したのだった。
これまで、慣れ親しんでいたあの黒一択と言っていいコートと形は一緒だが、色はまるで違う。
目が痛くなるほど白く、両襟に小さく二個、その背中に巨大な真紅の十字架模様が染め抜かれている。
「じ、地味なヤツって言わなかったっけ」
「これでも十分地味な方だよ?似合うって!」
「キリト君似合うよー」
キリトはそんな2人を尻目に、扉の方を向いた。
その場所にいる男に向かって、半ば自棄になりそうな口調で聞く。
「これ、お前からでも、地味に見えるのか」
「うんうん、十分に地味だよー」(棒読み)
「絶対思ってないだろ」
「よく分かったねー偉い偉い」(棒読み)
「バカにしてんのか!」
キリトはシャオンにパンチをしようとするが、シャオンは最小限の動きで巧みに回避する。
そんな2人のやり取りを見たアスナとフローラは顔を見合わせながら
「「あははははははっ!!!」」
堪えきれずに大声でお腹を抱えて笑っていた。
そして笑い声が収まったあと
「ごめんねキリト君、何だかすっかりまきこんじゃって……」
アスナは、キリトに謝っていた。
キリトは、そんなアスナの言葉を一笑する。
「いいさ…………いいきっかけだったよ。ソロの攻略も限界が来ていたからな」
キリトはそう返していた。
「そう言ってもらえると助かるけど…………ねえ、キリト君、それにシャオン君」
アスナはしばみ色の瞳がまっすぐキリトに向けられていた。
「教えて欲しいな。なんでギルドを、違う他人を避けるのか……
元Bテスターだから?それとも、ユニークスキル使いだから?
そうじゃないよね?だって、キリト君もシャオン君も優しいもん」
アスナの言葉にキリトは視線を伏せた。
「随分昔の事だ…………一年以上、かな。一度だけギルドに入ってた事があるんだ」
キリトは嘗ての記憶、悪夢の記憶の扉に手をかける。
「迷宮区で…………偶然だった。
偶然、あるギルドに助太刀をして、その縁で誘われたんだ。俺を入れて6人しかいない小さなギルドだった。
名前が傑作だったっけ。月夜の黒猫団、だったな」
遠い眼をしながらそう言うキリト。
アスナも名前を聞いて可愛く思い笑みを零していた。
「名前からほのぼのしてて良いね」
「うん。本当に良いギルドだって思えた。
その時は俺よりも随分とレベルが低いメンバーだったから、本当のレベルを言えば引き下がったと思う。でもオレは、自分の本当のレベルを隠してギルドに入ったんだ。
その時のオレはギルドのアットホームな雰囲気がとても、まぶしく思えたんだ。羨ましくも思ったんだ。おかしいよな…………」
この時の言葉、皆の耳には、キリトが悲痛な叫びを上げている風にしか聞こえなかった。
「キリト…………」
「でもある日…………」
キリトの表情は更に暗くなる。
記憶の扉。
禍々しい風貌で、頭の中に映る巨大な扉、それを開けた。
運命の日、黒猫団のメンバーは壊滅した。
迷宮区の隠し部屋にあった、宝箱に仕掛けられていた罠にかかってしまい、そして出入り口も塞がれてしまった。
「ギルドを壊滅させたのはオレだ。
元Bテスターだと言う事を話していたら、あの時のトラップの危険性を納得させられた筈なんだ。
メンバーを殺したのは…………俺なんだ」
その言葉を聞いて…………アスナはすっと立ち上がり、そのままキリトの方にゆっくりと近づく。
そして……
「私は、死なないよ」
囁くように、はっきりとそうキリトに伝えた。
それを聞いたキリトは硬直した全身からふっと力が抜けた。
「だって……私は君を守る方だもん」
アスナは、そのままキリトを包み込むように胸に抱いた。
柔らかく、暖かな抱擁。アスナの優しさがキリトを包み込んだ。
「シャオン君は…………?」
「…………一年前、一度だけギルドに入ってた事があるんだ。
低層の迷宮区で…………偶然だった。
偶然、あるギルドに助太刀をして、その縁で誘われたんだ。俺を入れて6人しかいない小さなギルドだった。
ネーミングセンスに笑ったよ。確か……フレンドシッパー、だったな」
「いい名前だね」
「ああ。本当に良いギルドだって思えた。
その時は俺よりも随分とレベルが低いメンバーだった。
俺はコーチとしてそのギルドに入ったんだ。
その時の俺も……キリトと同じようにギルドのアットホームな雰囲気がとても、まぶしく思えたんだ。羨ましくも思ったんだ…………」
シャオンの悲痛な叫び。
「シャオン…………」
「でもある日…………ギルドのメンバーは壊滅した。
俺一人、別行動をとったあの日……他のみんなは迷宮区の隠し部屋にあった、宝箱に仕掛けられていた罠にかかってしまった。
Bossモンスターがちょうど出入り口を塞ぐように立っていたから……みんな脱出できなかったんだ。
そして、俺が助けに入った瞬間……出入り口の扉も塞がれてしまった。
みんなで脱出しようと必死に戦った。
でも……俺も含めてみんな麻痺して……
…………ギルドを壊滅させたのは俺だ。
行った先がアラームトラップ多発地帯だと言うことを事前に言わなかった……俺の責任なんだ……
メンバーを殺したのは…………俺なんだ」
「シャオン君……私は絶対死んだりしないよ」
「え…………」
「君の隣にいたいから」
シャオンも、フローラのその一言で笑顔を見せた。
キリトもシャオンもこれまでにあの事件を忘れた事など一度たりともない。
あの時の事は脳裏にずっと刻み込まれたまま。
初めて出来た仲間達の断末魔は、脳裏に残り、消える事はない。
自分は頷いていたが、自分自身を赦す事が出来なかった。
これは赦される事ではない。
死者はもう戻ってこれない。償う事は出来ない。
その日は、そこで解散したのだった。
Story8-11 END
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