ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-4 シリカとピナ
Story4-5 花の層フローリア
第3者side
耳元で奏でられるチャイムの音にシリカはゆっくりと瞼を開けた。
自分にだけ聞こえる起床のアラームだ。
その設定時刻は午前7時。
毛布の上掛けをはいで体を起こす。
いつも朝は苦手なのだが、今日は常になく心地よい目覚めだった。
深く、たっぷりとした睡眠のおかげで、頭の中が綺麗に現れたような爽快感がある。
大きく一つ伸びをして、ベッドから降りようとしたその時だ。
昨日の事。
そして、この場所、この部屋が何処なのか。
何より、窓から差し込む朝の光の中で床に座り込みベッドに上体をもたれさせて、眠りこけている人物を見たから。
――あたし、キリトさんの部屋で……
「~~~ッ!」
それを認識したその瞬間。
自分の行動の大胆さによる恥ずかしさのせいで、その顔は、まるで火炎ブレスに炙られたかのように熱くなり、
茹蛸のように真っ赤になった。
シリカは、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、両手で顔を覆って身悶えた。
数十秒を費やしてどうにか思考を落ち着けると、シリカはそっとベッドから出て床に下りたった。
その時だ。
扉が開いた。
「~~~っ!!」
シリカは、思わず飛び上がりそうになった。
キリトの寝顔をそっと覗いていた時だったから。
出てきたその人物は
「あ、おはよう。よく眠れた?」
「し、シャオンさんっ!!」
シリカは慌てていた。
「どうかした?顔が赤いぞ?」
シャオンはシリカの顔を覗き込んでいた。
その瞬間、シリカは見事なバックステップで後ろへ下がる。
「なななっ、なんでもないですよっ!
あっ、シャオンさん。部屋まで運んでくださってありがとうございます」
「あ、いや、それキリト。
シリカの部屋開いてなかったからじゃないかな」
そうこうしているうちにキリトが起きた。
その後、皆が顔を見せ合って笑い合い、少し遅れて互いにちゃんとした朝のご挨拶を行っていた。
そして1階へ降り、47層思い出の丘挑戦に向けてしっかりと朝食を摂ってから表の通りに出てみると、朝日が街を包んでいた。
これから冒険に出かける昼型プレイヤーと、逆に深夜の狩りから戻ってきた夜型のプレイヤーが対照的な表情で行き交っている。
宿屋の隣で必要な消耗品を購入し、3人はゲート広場へと向かった。
シリカにとって幸いだったのが、勧誘組みには出会わずに転移門へと到着する事ができたからだ。
青く光る転送空間に飛び込もうとして、シリカははたと足を止める。
「あ、あたし、47層の町の名前、しらないや……」
マップを呼び出して、確認しようとしたとき、シャオンが右手を差し出してきた。
「大丈夫、俺が指定するから」
シリカは恐縮しながらその手を握る。
反対側からキリトが手を握ってくれる。
シリカが返した表情は弾けんばかりの笑顔だ。
――一緒に行きましょうっ!
――ああ
――じゃ、行こうぜ
シャオンとキリトは心の中でそう返した。
「転移!フローリア!」
シャオンの声と同時にまばゆい光が広がり、三人を覆い包んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一瞬の転送感覚に続き、エフェクト光が薄れた途端、シリカの視界に様々なな色彩の乱舞が飛び込んできて、目を開けたその先には
「うわぁぁ……!」
思わず歓声を上げる。
47層主街区ゲート広場は無数の花々で溢れかえっていた。
円形の広場を細い通路が十字に貫き、それ以外の場所は煉瓦で囲まれた花壇となっていて、名も知れぬ草花が今が盛りと咲き誇っていた。
「すごい、綺麗……」
「この層はフラワーガーデンって呼ばれていて、街だけじゃなくフロア全体が花だらけなんだ。時間があったら、北の端にある巨大花の森にも行けるんだけどな」
「あそこに行くにはもう少し時間がいるな。それに花を見る為に行くとすれば、一瞬いっただけじゃ物足りないだろ?」
「あはは、そうですね?それはまたのお楽しみにします!」
そう言い、シリカは花壇にしゃがみ込んだ。
その花は薄青く、矢車草に似た花だ。
花の香りを楽しみ。そして細部に至るまでのつくりにも驚いていた。
シリカは心ゆくまで香りを楽しんでいた。
漸く立ち上がると、シリカは改めて周囲を見回した。
花の間の尾道を歩く人影は見ればほとんどが男女の2人連れだ。
皆がしっかりと手をつなぎ、あるいは腕を組み……
とても楽しそうに談笑をしながら歩いていた。
それが示すのは
――ここって、デートスポット?
シリカは途端に顔を真っ赤にさせた。
――あたしの状況って、これって両手に花?いや、花って言葉じゃなかったような……
右にシャオン。左にキリト。
言葉を捜すことよりも今のこの状況を理解してシリカは、慌てた。
――ってあたしは何をっ!!
火照りを誤魔化すように、シリカは立ち上がると。
「さ、さぁ!フィールドに行きましょう!」
「わ、分かった」
「う、うん」
キリトは目をぱちくりさせており、シャオンもよくわかってないような表情をしている。
でも、2人は頷いてシリカの両隣へと向かい歩き始めた。
ゲート広場を出ても街のメインストリートも花に埋め尽くされており、その中を並んで進んでいた。
この時、シリカは2人に気づかれないようにそっと、
2人の顔を見ていた。
思い出すのは2人に出会った時の事。
それがまだ1日もたっていないと言うのが自分でも信じられない。
それほどまでに、2人の存在が自分の中で大きくなっているのだ。
でも、2人はどう思っているのだろうと窺う。
――聞いてみたいなぁ。二人のこと
シリカは暫く躊躇した後、思い切って口を開いていた。
「あ……あのっ。キリトさん」
キリトの方から聞いていた。
「妹さんのこと、聞いて良いですか?
現実の事、聞くのはマナー違反だってわかっているんですけど……その、私に似ているって言う妹さんの事」
キリトは一瞬顔をしかめたが、ため息をはき
「……仲はあまりよくなかったな」
ぽつりぽつりと話し始めた。
「妹って言ったけど、ほんとは従妹なんだ。事情があって、彼女が生まれたときから一緒に育ったから向こうは知らない筈だけどね。そのせいかな……どうしても俺の方から距離を作っちゃってさ。顔を合わすの……避けていた。
それに 祖父が厳しい人でね。俺と妹は、俺が8歳の時に強制的に近所の剣道長に通わされたんだけど、オレはどうにも馴染めなくて2年で止めちゃったんだ。
じいさんにそりゃあ殴られて。
そしたら妹がおお泣きしながら『自分が2人分頑張るから叩かないで』って俺を庇ってさ。
俺はそれからコンピューターにどっぷりになっちゃったんだけど、本当に妹は剣道打ち込んで、祖父がなくなるちょっと前には全国で良いトコまでいくようになっていた。じいさんも満足だっただろうな。
だから、俺はずっと彼女に引け目を感じていた。本当はあいつにも他にやりたい事があったんじゃないか、俺を恨んでいるんじゃないかって。そう思うとつい余計に避けちゃって……そのまま、ここへ来てしまったんだ」
キリトは言葉を止めると、そっとシリカの顔を見下ろした。
「だから、君を助けたくなったのは、俺の勝手な自己満足なのかもしれない。妹への罪滅ぼしをしている気になっているのかもしれないな……ごめんな」
シリカは、一人っ子だった。
キリトの言う事は完全に理解できなかったが、キリトの妹の気持ちはわかる気がした。
「妹さん、キリトさんを恨んでなんかいなかった、と想います。何でも好きじゃないのに、頑張れる事なんかありませんよ。きっと、剣道、ほんとに好きなんですよ」
一生懸命言葉を捜しながらシリカが言う。
「俺もそう思うよ」
話を黙って聞いていたシャオンもそう答える。
「俺、小1からずっと野球やってるけど……スポーツって、生半可な気持ちじゃ1ヶ月も……いや、1週間も続かないと思うんだ。
だから、2年頑張って続けたお前も立派だよ。
それに、お前より長く続けてるお前の妹が仮に剣道以外にやりたいことがあったとしても、お前を恨みはしないだろ」
「ははは……なんだか、俺ばかり慰められてばかりだな。
そうかな。そうだと良いな」
Story4-5 END
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