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リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた

作者:芳奈
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第十話

 
前書き
今回は長いかも。ご都合主義的なところも多々ありますが、見逃してくだされ。 

 
「・・・それでなのはちゃん?昨日はどうだったの?」

 翌日の休み時間。いつもなら四人で集まって話をするところだが、アリサから「葵は入っちゃダメよ。これはガールズトークなんだから」と牽制され、一人寂しく椅子に座っていた葵にも、その声は聞こえた。

 すずかの声である。どうやら随分と興奮しているようで、これでは内緒話の意味がないと葵は苦笑した。見た目は子供でも中身は大人(?)な彼は、女性の話を盗み聞くのもマナー違反だと判断し、そのまま席を立ち、廊下へと出るのだった。

「・・・え、えー!?で、デートじゃないよ!?ちょっと喫茶店でお茶しただけで・・・」

「アリサちゃん。この慌てようは確定かも・・・!」

「そうね・・・。なのはと葵がかー・・・よし!あたしも応援してあげるわ!頑張るのよなのは!」

「ち、違うってばー!」

 その後、教室では興奮してほぼ叫ぶような声になっている三人と、その内容を聞いて目を輝かせている女子、頭を抱えて絶望した男子の姿が残っていた。そのことを、葵は知る由も無かったが。


☆☆☆

 放課後である。

 何だか妙に機嫌がいいアリサとすずか。そして、顔が赤いなのはと一緒に帰る途中だ。何故か、稽古事の日ではないのにアリサとすずかが一緒に帰るのを躊躇っていたのだが、顔を赤くしたなのはに縋り付かれて結局四人で下校していた。葵には、この三人の行動の意味が分からず、呆然とするしか無かったが。

 とある人通りのない路地の近くを通った時のことだ。

「オラオラ、まだ寝るには早いだろ?立てよ!」

 猫がねずみで遊ぶような、残酷な意思を込めた言葉が聞こえて来たのだ。

「おいなのは!止まれ!」

 その声と、響いてくる鈍い音。それに気を取られた葵は、咄嗟に駆け出すなのはを止めることが出来なかった。

「チッ・・・!二人は待ってろ!」

「嫌よ!」

「私も行く!」

 もしこの奥で行われているのが彼の予想通りの行為なのだとしたら、そんな光景を彼女たちに見せたくは無かった。だからこそ、薄情なようだが無視することにしたのだが、なのはは飛び出さずにはいられなかったのだ。

 何故なら、彼女も気がついたから。

 それが、最近よく聞くようになった、肉を打つ音だということに。

 なのはが行けば、巻き込まれるのは確実である。そして、未だ幼い彼女には、人が持つ『悪意』を受け止めることは出来ないだろうし、力にも抗えないだろう。魔法少女としての力を使えるなら別だが、あれは一般人に向けていい力ではないだろうし、彼女も向けない筈だ。だからこそ、葵は彼女を追うしか無かったのだ。

 路地を覗いて見れば、ボロボロになった中学生くらいの男子が地面に倒れていた。そして、それを取り囲む高校生くらいの年齢の男たちの姿がある。喧嘩・・・というよりは、リンチの現場であった。

「アイツ等・・・。」

 葵は、その囲んでいる集団を知っている。最近この周囲を騒がしている不良集団だった。暴行やカツアゲなどで、何度も警察の世話になっている札付きである。彼らは、気の弱そうなあの男子を標的にしたのだろう。彼の掛けていたであろう眼鏡は砕け散り、周囲には、血も飛び散っている。

「ひっ・・・!」

 その現場を見たなのはたちは、小さな悲鳴をあげた。まだ小学生の彼女たちには、社会が持つ闇の一端を見るには早すぎたのだ。戦いというものを経験したなのはでさえ、人の持つ悪意には震えを隠せない。・・・そして、悪いこととは重なるもので。

「お~!可愛い子供たちがいるじゃん?」

 その声を聞きつけた一人に見つかってしまったのだ。ニヤニヤと。獲物を見つけた悪魔たちは近づいてくる。もう、壊れた玩具には用はないとでも言うように、倒れた男子には見向きもしない。彼らは見つけてしまったのだ。もっと面白い玩具を。

「イケナイなー。こんな所まで入り込むなんて。」

「お兄さんたちが安全な所まで連れて行ってあげるよ。」

「ギャハハ!お前の悪人顔でこの子達怖がってるじゃ~ん!」

 なのはたちが、近づく悪意に怯えて後ずさる。それに合わせて前に出た葵は、深い溜息を吐いた。

 彼らは、自分たちこそが強者だと信じ込んでいる。

 だからこそ気がつかない。彼らを歯牙にもかけない程の人外が、ここにいるのだということに。

「なのはたちは下がってて。面倒だけど俺がやるから。」

 だからこそ、彼の心にあるのは、面倒だという気持ちと・・・怒りだった。

「プッ!ナイトさんのお出ましだよ!」

「いーや。ただの人外だよ。」

 ドゴ!葵が言い終わったその瞬間、集団の内の一人が悶絶する。そこには、拳を振り切った葵の姿があった。

「十五人か。まあ、すぐに終わるでしょ。」

 本気で殴れば人体が破裂する。葵は十分に手加減して殴ったが、それでも成人男性以上の力は出ていただろう。殴られた男は、白目を向いて倒れたのだ。二歩下がってその男が倒れてくるのを避けて、葵は淡々と話す。

 彼にとって、他人はどうでもいい(・・・・・・)存在だ。通り魔に殺された彼にとって、他人とは警戒の対象なのだ。記憶を取り戻してからは、人ごみの中でも常に意識の一部を使って周囲を警戒し続けているほど。

 だからこそ、彼は、彼の内面に入り込んだ人たちを大事にする。彼の両親や、なのはたちを含んだクラスメート。行きつけの喫茶店の従業員など。彼らが傷つけられることを、彼は嫌っている。

 だから、彼にとっては後ろのほうで倒れている男子などどうでもいい存在だ。不良グループが犯した罪は一つ。それは、なのはたちを怖がらせた事。

 自分の命に危険が及ばない範囲で(・・・・・・・・・・・・・・・)、彼は彼女たちを助ける。今の彼には、それが片手間(・・・)で可能なのだ。

『・・・!』

 一瞬で意識を刈り取られた男を見て、場が静まり返った。なのはは彼の実力を知っているが、他の人間は彼の力を知らない。敵である不良グループはもとより、アリサとすずかも息を飲んでいた。

(・・・だから嫌だったんだ)

 これが原因で、アリサとすずかに嫌われたらどうしてくれる。そういう気持ちで不良グループを睨みつけると、彼らは思わず後ずさった。そして、自分たちがただの小学生に恐れを抱いているのだと自覚した一人が、恐怖を払拭する為に叫ぶ。

「や、やっちまえ!」

「お前ら程度に俺がやれるかよ!」

 叫ぶと同時、一番近い男の懐へと飛び込み、回し蹴りを食らわす。吹き飛びはしない。そこまですると、内蔵が破裂する可能性があった。ただ、腹を抱えて悶絶するだけ。

 パッチのおかげで、手加減は完璧だ。重症を負わせる事も出来るが、なるべくなのはたちには血を見てもらいたく無かった為、最大限の注意を払って処理していく。

「ヒッ・・・!なんだよコイツ・・・!」

 いつの間にか、立場が逆転していた。

 絶対強者だったハズの男たちは、年端もいかない少年一人に叩きのめされ、残り五人へと数を減らしている。周りには、腹を抱えて身動き一つ出来ない男たちが転がっていた。

「クソ!何なんだよお前・・・!もう容赦しねえぞ!」

 そのうちの一人が、ポケットから取り出したものは・・・折りたたみナイフだった。

「きゃああああああああ!」

 ナイフを見た瞬間響き渡る悲鳴。それはすずかのものだった。アリサもなのはも、目に涙を溜めながら葵を見ている。アリサは携帯を取り出して助けを呼ぼうとするが、手が震えて上手く操作出来ていないようだ。

 刃物とは、分かりやすい『凶器』の形である。身近にあり、そして容易く人を殺傷出来る代物だ。彼女たちも、葵が戦っているのを恐怖を押し殺して見ていたが、刃物を取り出した事で、『一線』を超えてしまったのだと気がついた。いくら葵が強くとも、刃物を持った男たちには勝てないと、そう感じたのだ。

 取り乱すなのはたちを見て、下卑た笑みを浮かべるその男。彼は、怯える獲物を見て思い出したのだ。自分が、狩る側だったのだということを。

「さあ、今すぐ謝るんなら半殺しですませてもいいぜ?」

 刃物は効果があると踏んで、残りの四人もナイフを取り出した。ジリジリと葵に近づいてくる。

「・・・・・・。」

 しかし、だ。

 彼らは気がついていなかった。自らが竜の逆鱗に触れたことに。

 ここから先は遊びでは済まなくなる。刃物を見てブチキレた葵に、既に手加減という思考は無かった。彼が尋常ではなく怒っている理由は、なのはたちを怖がらせたからではなく・・・

「テメエら・・・俺に刃物で立ち向かおうなんていい度胸だな・・・!!!」

 アリサとすずかが見ている、という思考すらも吹き飛んだ。彼の目には、彼らがあの日あの時、突然背後から襲いかかってきた通り魔にしか見えなかった。

『あああああああああ痛い!痛い・・・!』

 グサリ、グサリと。幻聴すら聞こえてくる。

『熱い・・・!何で、何で俺が・・・!!!』

 あの時感じた熱が蘇って来る。怒りと恐怖で、目の前が真っ赤に染まった。

「今の俺には・・・。」

 ズダン!!!葵が足を踏み下ろした音に、周囲の人間は口を閉じた。・・・閉じざるを、得なかった。

 誰もが、彼の怒りを感じ取ったから。それが殺気と呼ばれるものだなどと、誰も分からないだろう。誰も動くことが出来なかった。葵は、その場を完全に支配していたのだ。

「・・・武器を出したからには、それなりの覚悟があるってことだよな・・・?」

 一歩。

 葵が踏み出した。

 彼の気迫に押され、不良グループが後ずさる。腹の痛みで蹲っていた者でさえ、腰を抜かして彼からできる限り距離を取ろうとしていた。

「なら・・・死ね。」

 ゴッ!!!

 コンクリートが砕ける音と共に、既に一人の懐に密着していた葵。目をギラつかせて、拳を振りかぶるのを、加速した世界の中でなのはは見た。

 ―――だから。

「駄目だよ葵君!!!」

 最悪の未来を予想した彼女は、力の限り叫んだ。それが、葵の意識を呼び戻す。

「・・・ッ!」

「グオ・・・!」

 間一髪だった。正気に戻った彼が、一瞬で力を抜かなければ、そのまま彼はこの男を殺していただろう。そのおかげで、男は、吹き飛んで壁に叩きつけられるだけ(・・)で済んだ。

 ゴキゴキと、骨が折れる音が響いていたが、内臓破裂や死ぬよりはよほどマシだろう。

「なんだよ・・・!なんだよこの化物・・・!」

「に、逃げようぜ・・・!」

 なのはの声で正気に戻ったのは、葵だけではなかった。それまで彼の殺気に包まれ身動き一つ出来なかった男たちは、その声で我に返り、仲間が壁にすごい勢いで叩きつけられるのを見て、ようやく力の差を理解した。

 そうなれば瓦解するのは早い。仲間を放り出して、自分だけ逃げようと身を翻した・・・・・・が、彼らは運が悪かった。

 一つ。

 偶然葵たちが通りがかったこと。

 そして二つ。

 自分たちがボロボロにして遊んでいた玩具(男子)が、ジュエルシードを持っていたこと。

 気絶していた男子は、葵と男たちの戦闘(蹂躙?)音により、目を覚ましていた。そして、葵の圧倒的すぎる力を目の当たりにし、そこで願いを自覚したのだ。

(強くなりたい・・・!)

 先程までは、殴られ、蹴られしていても、ただただ心を凍らせて耐えていた。学校でも苛められるのが日常だった彼にとって、暴行されるのは慣れたものだった。だからこそ、『早く終われ』とも願わず、ただただ耐えていたのだ。もう、助けを求める心すら彼には残っていなかった。だからこそ、持っていたジュエルシードも、何の反応も起こさなかったのだ。

 だが、彼は見てしまった。

 圧倒的な力で、自分を弄んでいた不良グループを蹴散らす少年を。それは、心が擦り切れていた彼にとってはとても強い・・・強すぎる光だった。
 だから彼は願った。ヒーローに憧れる子供のように。ただ一心に願った。『僕も、強くなりたい』と。

 ジュエルシードは、そんな彼の願いを叶えてしまった。ただただ全てを破壊する力の化身へと、彼を変貌させる。

『Uoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!』

 一瞬にして、彼の姿は炎へと包まれた。彼から炎の柱が天に伸び、多くの人間に目撃される。一番不幸だったのは、仲間を見捨てて逃げ出そうとした数人だった。葵に背を向けて走った瞬間、目の前に炎の柱が出現したのだ。彼らの混乱も、当然のものだったろう。

「う、うわあああああああああああ!?」

「なんだよ!なにが起きてるんだよおおおおお!?」

 そして、混乱して足が止まった彼らを次に襲ったのは、爆風。

 ゴッ・・・!

 渦巻いていた炎の柱が、内側から破裂したのだ。狭い路地裏を、爆風が蹂躙する。彼らは悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ崩れ落ちる。

(俺は呪われてるのか!?)

 葵は、迫り来る爆風を前にして、運命を呪いながら全力を出す。彼の拳が殴りつけたのは路地の壁。一軒のビルの外壁であった。

 葵の全力にまるで耐え切れず、ガラガラと崩れ去る外壁。そこに、全く反応出来ていないなのはたち三人を押し倒して伏せさせる。この間、4秒にも満たない時間だった。原因の化物まで距離があったのが幸いし、何とか爆風を防ぐことに成功する。

「とんでもないことになってきたな・・・!」

 未だ呆然とする三人の無事を確かめながら、葵は瓦礫の山から顔を出す。そこには、炎の魔人としか呼べないような異形が立っていた。宿主となった中学生の学生服はそのまま残っているが、顔や手足は全てが炎で構築されている。恐らく、服を脱げば、体全てが炎で出来ているだろう。

「・・・冗談だろう・・・?」

 それは、彼にとって見慣れた敵。

 来ている服こそ違うが、原作(エヴォリミット)において、人類に試練を与えるために登場する敵。『災害(カラミティ)』の一人、『ヴォルケイノ』の姿が、そこにはあった。

『Guruuuuuuuuu・・・!』

 知性は有していないのか、獣のような唸り声を上げながら彼は葵を睨みつける。いつ襲いかかって来てもおかしくはなく、こんな場所で災害と戦うなどすれば、間違いなくなのはたちは死ぬだろう。

(・・・本当に不幸だ・・・)

 だが、彼の口元は、笑っていた。

(不幸だが・・・いい敵じゃねえか・・・!)

 アリサやすずかがいるときに出会ったのは不幸でも、彼の目的を考えれば、むしろ歓迎出来る結果だ。彼は決意した。

(この戦いで、階段を昇る!)

 進化は、意思だけでは出来ない。ある一定までは執念や気合で昇る事も出来るが、そこから先は、あのシャノン・ワードワーズですら、一人で昇る事が出来なかった。敵が必要なのだ。今の全力を振り絞って、それでも勝てないような敵が必要なのだ。リリカル世界で、彼の命を脅かすような敵などそうそう出てこないと半ば諦めかけていたが、嬉しい誤算と言えた。

「なのは、結界を。俺だけが奴と戦う。なのはは残って、アリサとすずかを安全な場所へ。」

「え・・・?」

「早くしろ!」

 有無を言わさず、なのはに結界を貼らせた。その瞬間、葵とヴォルケイノが世界から消える。そこに残されたのは、呻く不良グループとなのはたちのみになった。
 遠くからサイレンの音が聞こえる。アリサはなのはに質問したいことが山ほど合ったが、なのはは響くサイレンの音にテンパっており、話を聞ける状況では無かった。このままでは警察に捕まってしまう。そうすれば、事情聴取もあるだろう。誤魔化しきれる自信など、彼女には微塵も無かったのだ。

「・・・任せて。」

「え?」

 そこで、先程まで俯いて黙っていたすずかが声を出す。その手には、携帯があった。

「私が何とかする。・・・だから、私の家に着いたら、ジックリ、詳しく・・・話を聞かせてもらうからね?なのはちゃん。」

「は、はい!」

 そう言って、頷くしか無かったなのはであった。 
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