| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

静かに主導権を

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第八章


第八章

「それでどうだったんだ?」
「何か工藤はやけににこにこしていたけれどな」
「まああれかな」
 言葉を一旦置いて話をはじめる康史だった。
「成功したっていうか」
「じゃあ付き合うのか」
「あいつと」
「うん、まあ僕も」
 彼自身の話であった。
「工藤はいいかなって思ってたしね」
「じゃあいいじゃないか」
「なあ」
「相思相愛ってやつでな」
「相思相愛ね」
 康史は今度はその言葉に反応して言うのであった。
「それだけれどね」
「何だ?何かあるのか?」
「それでも」
「いやさ、かなり露骨だったんだよね」
 そうして苦笑いになって話すのであった。芝生の上で自分の足の裏を重ね合わせた胡坐の姿勢で座ったまま。こう言ったのである。
「もう何から何までね」
「露骨?」
「露骨って何だ?」
「あれなんだよ」 
 その苦笑いのまま話していく。
「もう何もかもを計算してさりげなくを装って何でも言って来るんだよ」
「計算してかよ」
「それでか」
「そうなんだよ。もうね、僕を自分の誘導に向かわせようとして」
「そうだったのかよ」
「あいつが」
「そうだったんだ」
 この話をするのである。
「それがさ。随分と露骨でね。本人は気付かれないようにしてるんだけれど」
「ははは、じゃあ御前わかってたんだな」
「全部な」
「わかってたよ。けれどね」
 それでもだというのである。
「それ言ったら駄目じゃない」
「駄目か」
「それは」
「そうだよ。工藤だって必死だったし」 
 そのことがよくわかったのである。そうしてであった。
「それにさ」
「それに?」
「何だよ、次は」
「僕も工藤好きだしね」
 言葉は現在形だった。ここにもう答えがあった。
「丁度よかったしね」
「じゃああれか」
「御前にとっても願ったり叶ったりだったんだな」
「そういうこと」
 まさにその通りだという。
「本当にね。よかったよ」
「向こうもそう言ってるぜ」
「絶対にな」
 周りも笑いながら彼に言ってきた。
「策略成功ってな」
「それで御前をゲットしたってな」
「そうなんだよ。まあさ」
「まあさ?」
「今度はどうだっていうんだ?」
「あれだよね」
 こう少しはっきりしない様な調子で言う彼だった。
「こういうのってのはね」
「どうだっていうんだ?」
「女の子を立てた方がいいみたいだね」
 笑いながら言うのであった。
「気付いていてもね。いないふりをしてね」
「それで相手のペースに従ってか」
「そういうことだな」
「うん、そういうこと」
 まさにそれだというのである。
「それが一番みたいだね」
「そういうものかな」
「男が引っ張るっていうんじゃ駄目なのか?」
「それもいいだろうけれど」
 そのやり方についても否定はしなかった。しかしである。
「それよりもね。女の子を何も言わずに立てるっていうのもね」
「男の甲斐性ってか」
「そういうことか」
「そう思うけれどね」
 こう話す康史であった。実は彼は全てわかっていて鈴と共にいたのであった。しかしそれはあえて言葉には出さない。そうしていたのである。
 そしてその彼のポケットから明るい音楽が流れてきた。今流行りの曲の着メロである。
「おい、携帯鳴ったぞ」
「工藤からじゃないのか?」
「あっ、本当だ」
 携帯を取り出してチェックするとその通りであった。彼女からのメールであった。
 それを見るとだ。今日の放課後またデートしようと誘ってきていた。
 それを見た康史はだ。微笑んで言うのであった。
「じゃあ今日もね」
 その微笑みは何処までも優しい。全てをわかったうえで受け入れている、そうした微笑みをたたえながら彼女からの携帯のメールを見ている彼であった。


静かに主導権を   完


               2010・1・16
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧