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第七章
第七章
それを見て意識しないではいられなかった。鈴もここで言ってきた。
「ねえ」
「う、うん」
「私はだけれど」
わざと恥ずかしそうな声で言うのだった。
「別に」
「別に?」
「浅原がいいならそれでいいよ」
こう彼に言ったのである。
「それでね」
「うん。ええと」
ここで彼等から見て右手に歩道橋があるのにも気付いた。丁度いい具合にである。
「じゃあ」
「行くの?」
「いいんだよね」
鈴に対して問うた。
「それで」
「さっき言ったままよ」
これがここでの彼女の返答だった。俯いた仕草を作って答える。
「だから」
「わかったよ。それじゃあね」
「うん」
彼の手をそっと握るだけであった。今はそれで充分だと読んだからだ。
こうしてデートを終えた。その次の日である。鈴はにこにことした顔で皆に話していた。その笑顔自体はとても爽やかで可愛らしい。
「やったわよ」
「成功したのね」
「それで」
「ばっちりだったわ」
その笑顔で皆に話す。学校の屋上で賑やかに話している。
「もうね。これ以上はないって位にね」
「よかったじゃない、それだったら」
「成功して」
「事前に偵察してあれこれシュミレーションしていてよかったわ」
そこまでしていたのである。
「それでその結果ね」
「成功したってことね」
「そういうこと」
まさにその通りだというのである。
「本当にね」
「それじゃああんた」
「ゲットしたのね」
「勿論よ。それも大成功」
鈴はその満面の顔でまた言った。
「だからこれ以上はないのよ」
「よくやったわね」
「策士ね、あんたも」
「だって。好きだから」
それが理由なのだという。彼女にとってはである。
「好きだからよ。ほら、女の子は恋をしたら」
「ああ、あのアニメよね」
「魔法使いになるってことよね」
「そうよ、超一流のね」
随分と古いアニメの話もするのだった。
「そういうことよ。とにかくこれで」
「大成功ね」
「浅原ゲット」
「優しいし顔もいいし芸術家だし」
鈴はもう完全に彼に参っている。
「本当によかったわ」
「よっ、この幸せ者」
「お熱いことで」
皆その彼女を肘でこづいてわざと冷やかす。その中で満面の笑みであり続けている鈴であった。しかしその頃学校の校庭の木の下では。
男達が集まっていた。そうしてこう話していた。
「昨日さ」
「ああ、工藤とだったよな」
「デートしたんだって?」
「聞いてるぜ」
男達が康史の話を聞いていた。皆木の下の芝生の上に座りそのうえで話をしている。それぞれ好きな位置に座ってそこで胡坐をかいたり半分寝たりしている。
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