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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第15話 「セカンド幼馴染み」

 
前書き
最近、乖離性ミリオンアーサーにハマってるGASHIです。あれ、面白いよね。 

 
「待ってたわよ、一夏!」

腹を空かせた女子生徒たちで賑わう食堂に辿り着いた俺たちの前に、凰が立ち塞がる。その手にはラーメンの乗ったお盆が。流石はチャイニーズ。俺も麺類食べようかな。・・・さて。

「おい、そこを退け。食券が買えん。」
「何よ?あたしは一夏に用があるんだけど。」

知ったことか。食券販売機の前に既に買い終えた奴が堂々と仁王立ちしてたら邪魔に決まってる。仕方ない、ここは強硬手段で・・・。

「邪魔。」

ゴスッ!

「ふぎゃっ!?」

凰の脳天に全力でチョップをかます。おお、何か尻尾踏まれた猫みたいな反応だな。ちょっと楽しい。・・・なるほど、千冬さんがあれだけ他人を叩きたがる理由がなんとなく分かった気がする。

「お、おい、大丈夫か、鈴?」
「だ、大丈夫じゃないわよ!何なのよ、アイツ!」

凰の怒声をスルーして飄々とした態度で食券を買う俺、涙目の凰を心配する一夏、それを睨みつける箒とセシリア、その様子をニヤニヤしながら見物するクラスメイトの女子数人。うんうん、実にカオスで平和な日常ではないか。

「あっちが空いてるな。おい、一夏。お前は凰と一緒に座れ。久々に会ったんだ、積もる話もあるだろう。」
「おお、サンキュ。鈴、行こうぜ。」
「ふんっ。意外と気が利くじゃない。」

そう、この一言こそが俺の人生最大レベルの愚策であったことを、俺はまだ知らない・・・。



(完全に選択ミスった・・・。冷や汗が止まらないぞ。)

というわけで、一夏と凰を別席に座らせて様子を見ているわけだが・・・。正直、後悔している。恋は盲目とはよく言ったものだが、恋する乙女ってのが場所も選ばず殺気を放つ代物だったとは俺にも考えつかなかったよ。

「「・・・・・・。」」

先程から箒とセシリアは鬼の形相で一夏を睨みつけながら、時々思いついたように目の前の食事にありついていた。正直言って怖い。しかも場所も悪い。好奇心に負けて一夏と凰の席の一番近い位置に陣取るんじゃなかった。嫉妬と憤怒に満ちた視線の流れ弾が半端なく痛い。そんなことなど露知らず、一夏と凰は和やかに旧交を温めていた。

「で、いつ代表候補生になったんだよ?」
「アンタこそ、ニュースで見た時ビックリしたじゃない。」
「俺だって、まさかこんなとこに入るとは思わなかったからなぁ。」

こんなとこって・・・。IS学園の倍率知ってて言ってんのか、一夏?今の台詞聞いたら、受験に落ちた大勢の女子たちが怒り狂うぞ。

「入試の時にISを動かしちゃったんだっけ?なんでそんなことになっちゃったのよ?」
「なんでって言われてもなぁ・・・。」

あ、それ俺も興味あるわ。束さんは何も教えてくれなかったし。普通だったら男子である時点でIS学園の受験とは縁がないはずだし、間違いなく自分の意志ではないはずだ。

「高校入試の会場が市立の多目的ホールだったんだよ。そしたら迷っちまってさ。あちこち動き回ってたらISのある部屋に入っちまって。何の気なしに触れたら動いちまったんだ。」

・・・如何にも一夏らしいと言うべきか。とはいえ、ちょっと怪しいな。一つの会場で複数の受験が行われるなら係員がしっかり誘導するはずだ。それに今の話を聞く限り、ISのあった部屋には鍵がかかっていなかったのだろう。不用心も良いところだ。何か作為的なものを感じる。束さんに尋問だな。

「んで、その後色々あってこの学園に入れられたって訳だ。」
「ふーん、変な話ねぇ。」

いやぁ、それにしてもなんと平穏な雰囲気だろう。箒とセシリアにも見習ってほし・・・、あれ、いない。・・・まさか。
ダンッ!!

「一夏、そろそろ説明してほしいのだが?」
「そうですわ!まさかこちらの方とつ、つつ付き合っていますの!?」

えー・・・。冗談だろ。まだ5分も経ってないっての。沸点低すぎんだろ、お前ら。ってかあまり騒がないでくれ。目立ちたくないし、下手すれば千冬さんが来ちまう。

「べ、べべ別にあたしは付き合ってる訳じゃ・・・。」
「そうだぞ。ただの幼馴染みだって。」

凰の分かりやすいことこの上ない反応を完全にスルーして鈍感さを遺憾なく発揮する一夏。隣で凰が不満そうに一夏を睨みつけてることにすら気づいていない。ここまでになると、却って清々しい。

「幼馴染み・・・?」

箒が首を傾げる。ああ、そっか。同じ幼馴染みなら知っててもおかしくないはずだよな。しかし箒の様子を見る限り、明らかに初対面のようだ。どういうことだろうか?

「あー、箒が引っ越していったのが小四の終わりだったろ?その後、鈴が入れ違いに転校してきたんだよ。」

なるほど。束さんが原因で箒が小学校を離れてから、凰が中国から転校してきて、さらに何らかの理由で凰が帰国したってわけだ。道理で箒と凰が面識ないはずだ。

「で、コイツが篠ノ之 箒。前に話したことあるだろ?箒はファースト幼馴染みで、お前はセカンド幼馴染みってとこだ。」
「ファースト・・・。」

一夏が箒を指し示して凰に紹介する。ファーストにセカンドねぇ。なんか幼馴染みを区別するには違和感のある言い方だが、箒が恍惚とした表情を浮かべてるし、気にしないでおこう。順番が先だっただけでそんなに嬉しいものなのかね?俺にはよく分からん。

「ふーん・・・。初めまして。これからよろしくね。」
「ああ、こちらこそ。」

お互いが挑発的な表情を浮かべながら挨拶を交わす。良いねぇ、この火花が散ってる雰囲気。竜虎相討つって感じだ。

「で、こっちが神裂 零。男子だけど、俺と違って強いぞ。千冬姉が本気出して倒しきれなかったんだってさ。」
「はあ!?千冬さんが!?嘘でしょ!?」

止めて、そんなに大声出さないで。目立つから。収拾つかなくなっちゃうから。またとんでもない勘違いされて大勢から尋問されるのは疲れるから嫌なんだよ。

「・・・ま、まあ、よろしく。あたしのことは鈴で良いから。強いんなら後で対戦しましょ?」
「俺のことも零で構わん。俺もお前の実力には興味があるし、機会があれば受けて立とう。」

お互いに握手を交わす。しかし、表情が豊かな娘だ。今も訝しげな表情を隠さずに俺を眺めている。千冬さん云々の話が信じきれていないのだろう。天真爛漫な性格といったところか。

「んんっ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰 鈴音さん?」
「・・・誰?」

咳払いをして話に割り込んできたセシリア。対して鈴は非常に素っ気ない対応を見せる。この反応、ちょっとデジャヴだ。最初から代表候補生の意味を知っているだけ一夏よりマシだろうけど。

「わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ!まさか、ご存知ないの?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし。」
「なっ・・・!?」

鈴の言葉に顔を真っ赤にして怒りを表すセシリア。こういう光景を見ると、どうしてもセシリアが弱っちく見えてしまう。猫が尻尾振り立てて竜に威嚇してる感じだ。何それ可愛い。

「い、言っておきますけど、わたくし、貴女のような方には負けませんわ!」
「あっそ。でも、戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん。」
「言ってくれますわね・・・。」

たいした自信家だ。それでいて見栄ではなく素で言っているのが分かる。代表候補生であるだけあって、実力の伴った自信なのだろう。本当に強いのか、そう思い込んでいるのかは分からないが、ますます興味が湧いてきた。

「ところで一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」
「おう、零に押し付けられてな。」

押し付けられたとは心外な言い草だ。俺はちゃんと理由を話しただろう。面倒とか・・・、あれ、他の理由が思い出せないや。まあ、どうでもいい理由だったんだろう。・・・あれ?もしかして、一夏の言い分もあながち間違ってないのか?なんか悔しい。

「なら、ISの操縦見てあげよっか?」
「お、そりゃ助か・・・」

ダンッ!!
一夏の言葉を遮るように、再びテーブルが叩かれる。お前ら、テーブル壊す気か?ってかタイミングぴったりとか、案外仲良いのな。一夏も安請け合いするんじゃない。せっかく俺がメニュー組んでやったんだからもう少し気を遣え。

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのだからな。」
「貴女は2組でしょう?敵の施しは受けませんわ。」
「あたしは一夏に聞いてんの。関係ない人たちはすっこんでてよ。」

だんだん3人がヒートアップしてきた。というか箒さんや、どさくさ紛れに君は何を言っているのだね?お前らは俺がまとめて教えると通告したはずなんですけど?はぁ・・・、仕方がない。先程から外部からの好奇の視線が鬱陶しいし、そろそろ介入しようか。

「お前たち、いい加減にしたらどうだ?一夏が困ってるぞ。」

俺の言葉に喧しかった3人が慌てて口を噤んだ。恋する乙女とは単純なものだ。惚れた対象を上手く使えばどうにでもなる。

「一夏、お前は安請け合いが過ぎる。俺が見ると言ったろう。俺の訓練の合間に鈴と特訓するほどの余裕が今のお前にあるか?」
「あー・・・、そうだな。零の訓練で手一杯だ。」
「そういうことだ。向上心があるのは結構だが、自分の実力の限界を考えろ。」
「そうだな。悪い。」

一夏が素直で助かった。まあ、残りの3人もそう手こずることはないと思うが。じゃあ次は先程から不満そうな表情でこちらを眺める小娘2人にしよう。

「箒、お前は俺の話を全く聞いていないようだな。誰が誰を教えるって?」
「そ、それはだな、えっと、言葉の綾というか・・・。」
「問答無用。千冬さんじゃないが俺の言うことはちゃんと聞け。それとも、お前だけ一夏やセシリアとは別メニューで訓練するか?」
「そ、それは困る!す、すまなかった!」

はい、完了。次はそこの金髪娘。・・・といっても、彼女は特に何も言ってないんだよなぁ。でもまあ、調子に乗られても困るし少し無理矢理やろう。

「セシリア、お前の言ってたことは正しいと思うが、その発言の真意に不純さを感じるのは気のせいか?」
「そ、そんなことはありません、わよ?」

・・・うん、セシリアには訓練中に何かしらの罰が必要な気がする。とりあえずビット操作の訓練をもうちょっとハードにしよう。さて、後はセカンド幼馴染みだけだな。

「鈴、今回は引き下がってくれるか?こちらとしては一夏がお前と訓練するのは好ましくない。」
「何でよ?何が問題だって言うのよ?」

俺の発言に鈴が食ってかかる。予想通り、一番面倒そうだ。しかし、こっちにだってちゃんと言い分はある。

「一夏と鈴はお互いにクラス代表だ。トーナメントで対戦することもあり得る。試合前に対戦相手に手の内を明かすわけにはいかない。実力的にお前が格上なのが分かりきっているなら尚更だ。」
「それは、そうかもしれないけど・・・。手の内を明かすのはこっちだって同じじゃない。」
「条件が同じならスペック高い方が有利に決まってるだろう。それに、一夏自身が言っていたように、一夏は今の訓練すら捌ききれていない。試合前にクラス代表に潰れられちゃ困るんだよ。」
「ああもう、分かったわよ。じゃあ、クラス代表トーナメントが終わった後なら問題ないってわけね?」
「それなら構わない。それ以上は一夏が自由に決めればいい。」

このくらいで良いだろう。これ以上丸め込もうとしたら実力行使とか言われかねない。喧嘩は好きだし負ける気はしないが、千冬さんの折檻だけは回避せねばなるまい。いや、いっそ千冬さんをちらつかせた方が上手く交渉できたか?・・・まあ、いっか。

「はい、話は終わりだ。早く昼飯食わないと、授業に遅れるぞー。」

それを聞いた一夏、箒、セシリアは慌てて昼食を終わらせにかかる。特に、1組の面々は千冬さんの説教の回避に必死だ。さて、俺も残りを消化しちまおう。・・・何だろう、目立つのを嫌って話を打ち切ったはずが却って目立ってしまったような・・・?周囲の視線を感じながら本末転倒な結末を若干後悔する俺だった。  
 

 
後書き
原作意識しすぎると日常回が多くなりますね。まあご了承ください。 
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