グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第11話:理性と欲望のバランス
(グランバニア城・謁見の間)
オジロンSIDE
朝一でピピンとウルフから、昨晩の出来事を聞かされた。
また馬鹿な事をやらかす馬鹿が大勢居たもんだと苦笑いする。
だが笑い事ではないらしく、本日の謁見は全て中止して、その者達を謁見の間に集めるというのだ。
ウルフが今朝最初に指示された事が、謁見のキャンセルと例の馬鹿共の招集。
そして各大臣までも謁見の間に呼び出し、絵画や彫刻が無くなったこの部屋は物々しい雰囲気に包まれている。
大勢の若い兵士と、それから2.3歩離れた所にリュリュが泣きそうな顔で立っている。
随分とピピンに脅された様で、緊張のあまり吐きそうな者が居るぞ。
私もティミーも、リュカに長時間嫌味を言われて終わりだと思っているのだが、そのリュカがまだ現れないので、忙しい我々も只待ち惚けだ。
暫く静寂に堪え国王を待っていると、謁見の間への大きな扉が開き、そこから威風堂々としたリュカが厳しい表情で入ってきた。
普段だと誰が待っていても『よう。待たせてメンゴね』と軽い調子で入ってくるのに、今日は雰囲気からして違う。
これぞ強国の王といった感じだ。
「おいティミー……今日は拙そうだぞ。リュカが怒ってる」
「えぇオジロン閣下……自分の身が大事なら、何も発言しない方が良いかもいれませんね」
思わず隣のティミーと小声で会話してしまう。
赤い王者のマントを靡かせて、入り口から一直線に玉座へと歩むリュカ。
呼び出された兵士等が両脇に退き一斉に花道を作ると、そこを颯爽と歩き神をも配下にするリュカ王を見せ付ける。
敬礼をする兵士等は皆が震え緊張している。
普段怒らぬ者が怒った時……それは真の恐怖へと直結する。
そしてリュカが怒った時ほど恐ろしい物は他に無いのは、この場に居る誰もが心得ているのだ。
玉座まで辿り着くと、神々しいまでの動作でマントを翻し、そのまま腰掛け足を組む。
肘掛けに左腕を置き、その左腕で頬杖をつき眉間にしわを寄せたまま兵士等に視線を向ける。
私の甥はやはり王だ。私では出せない空気を、いとも容易く作り出す。
胃の痛くなる様な静寂が辺りを支配する。
この部屋の主が口を開かない為、我らも声を発する事が出来ない。
他人事だと思ってた私にまで、この緊張感が押し寄せてくる。
1分、2分と静寂が過ぎる中……
「はぁ~……」
と突如リュカが溜息を吐いた。
「お前等さぁ……女の口説き方を習わなかったの? お父さんからとか、お兄さんからとか、なんだったら先輩からでも良いよ。それとも意中の女を落とすには“酒に酔わせて酩酊させろ”って教わったの?」
どんな言葉が飛び出すのか、ちょっと不安があったのだが、思ったほど厳しい言葉は出てこなかった。
「父親の僕としては娘と仲良く接してくれた事に感謝してるよ。でも娘を持つ親の一人として、お前等の行おうとしてた事は理解しがたい。ちょっと想像してみぃ……自分が父親だった場合、自分の娘がレイプされる、もしくはされた時の事を」
私も娘を持つ父親だ……
既に結婚してるとは言え、ドリスがレイプされたらと考えると憤りを感じる。
ピピンが付き合ってると報告してきた時は、多少の殺意を憶えたほどだ。
「これはアレか? 我が国では義務教育として“ナンパ”を導入するべきか? それとも“レイプはダメだよ”って子供達に教え広めなきゃならないのか?」
不機嫌な表情のリュカは、誰に問う訳でも無く語りかける。
「こんな事のないように、僕は一部地域でハードコアな風俗も承認してるんだ。金さえ払えば犯罪者にならずに済むよう、性欲の捌け口を用意してるんだ。なのに……」
10年以上前だが、当時の大臣等とリュカの間で衝突があった。
卑猥で下品な職の容認をしようとするリュカに、私も含め誰もが難色を示したのだ。
だが結果として、国内の性犯罪の発生数が激減。
更に新しい需要が生まれ、経済活動も活発になり、今では廃止する訳にいかない状況になっている。
しかも実際に事をするホステスあるいはホストは、かなりの高給取りであり、人気の職業へなっている。
奴隷経験のあるリュカは、彼等・彼女等を奴隷化させない為に、幾重にも法令を定め、その取り締まりにも力を入れている。
彼等・彼女等を働かせてる側も、リュカが送り込んだスパイの存在が怖くて、法令を遵守するしかない。
実際にある店が低賃金で女性を働かせてた事がある。
地方出身の女性は無学だった為、店側の言う事を鵜呑みにし疑問にも思わなかったそうだ。
リュカの放ったスパイに実態を報告された店主(男)は、怒り狂ったリュカに両腕と両足をちぎり取られ、下顎をもぎ取られ、更には男性器を切り取られ放追された。
それを見せしめとして風俗街のド真ん中で行った為、近隣の店主は青ざめ法令を遵守する様になったのだ。
そんな事をする男が、自身の娘のレイプ未遂の事で不機嫌そうに苦い表情をしているのだ……目の前の連中にしてみれば、許して貰える事より一層一思いに殺して貰える事を望んでるかもしれない。
一体どんな処罰を考えているのか……
私やウルフの下には始まる前に、連中の上司から寛大なる処遇をリュカに嘆願して貰える様泣き付かれた。
私は『そうは言われても、陛下がどの様な処罰を決定するのか判らぬからな……何とも言えんよ』と、その場を濁す発言をしておいた。
しかし今にして思えば、ウルフは薄々気付いてたのかもしれない。
そんな連中を一瞥すると無言のまま自身の執務室へ入っていったのだ。
まるで“リュカさんの激昂を誘うなんてゴメンだ”と言わんかの様に……
そのウルフは先程から誰とも視線を合わせようとしない。
ビアンカ王妃陛下の次にリュカを押さえられる存在なのに、誰の希望も受け取らないかの様な姿勢を保ち続けている。
ティミーとに目で問いかけるが、彼も困惑している。
なんせこの場には、昨晩に犯行が発覚した者以外も居るのだ。
これまでにリュリュを泥酔させて犯そうと考え、酒を飲ませ続けた男共全員が集まっているのだ。
中には私の秘書官も居り、彼が居なくなると政務に大きく影響が出る。
希望を言えば寛大な処遇を頼みたいのだが、それを言い出す勇気が出ない。
リュカの怒りが私にまで飛び火されるのは避けたいのだ。
身勝手な事を言ってるのは重々承知してる……でもリュカが激怒すると怖いのだよ!
「陛下……そろそろ彼等の処遇をお願いします。100の説教より1の罰が必要でしょう。彼等以外の者もリュリュ嬢以外の女性に対して、似た様な事をしない……考えもしない様にする為、多少厳しい罰をお願いします」
どうやらウルフは、リュカの下す罰則を知っていたのではなく、リュカの怒りに同調しており、連中に対して激昂していた様だ。
だから誰とも視線を合わせず、剰え厳しい罰を与えるようにと嘆願してるのだ!
「ウルフは僕の説教にもう飽きた? しつこかったかなぁ?」
「はい。始まる前から飽きてました……重要なのは、今後似た事が無い様に、全ての者達に知らしめる事でしょう。馬鹿には口で言っても解らないのだから、体罰を持って知らしめるべきです!」
「ほう……具体的には?」
「陛下の得意な罰し方で宜しいのではないですか!?」
「僕が得意なのは女性と○○○することだぞ! それが罰になるのかよ!?」
「うるせーな……じゃぁチ○コ切っちゃえよ! 性犯罪者は一律チン○切っちゃえば良いんだよ!」
あれ? 何だか一気に緊張の度合いが変わったぞ?
もしかして……リュカはそんなに怒ってないのか?
ウルフが不機嫌なのは、忙しい時に面倒事を発生させたからなのか?
「だって……みんなはそれでも良い?」
罰を受ける側の者達に問いかけるリュカ。
誰もが激しく首を振り拒絶の意思を示してる。
「はい。私はお父さんの得意分野でのお仕置きが良いです!」
リュカの言った事に反応してリュリュが元気よく希望を伝える。
「お前は黙ってなさい! お前には後ほど重要な話がある」
だがリュカはリュリュに対しては厳しく怒鳴り付けて黙らせる。
解らなくなってきた……
リュカの渋い表情は、娘を犯されそうになった事への怒りでは無いのか?
何故リュリュに対しては、未だに厳しい視線を向けているのだ?
「ふぅ……まぁいい。男共は全員、一階級の降格処分。それと12ヶ月間の奉仕活動を命ずる。この期間中に問題を犯した場合は死刑だ! 国民への奉仕活動中に、活動に反する行いをされては罰としての意味が無いからな」
「甘い……どうしたんですか陛下? 何か悪い物でも食べましたか? それとも最近喰べてる者が悪い物ですか?」
「何だお前……随分とこの件にご立腹だな? リュリュ狙ってた?」
「俺の忙しい時に、馬鹿騒ぎをして俺に迷惑をかける連中がムカつくだけです。さっさと罰だけ言い渡して終わらせれば良いのに全ての予定を滞らせて、全員を集めて説教をする誰かさんにムカついてるだけです」
「そうか……じゃぁコイツ等の直属上司にも罰を与えねばな。監督不行届として、12ヶ月の減俸20%だ。その浮いた金を国民への社会福祉に充てるとしよう。その辺の段取りは頼むよ……ウルフ(笑)」
「ふ、ふざけんなコラ! また俺の仕事が増えるじゃねーかよ!」
誰よりも身勝手な理由でキレてたウルフ……そしてその勢いで嫌味を言われ、素早く報復するリュカ。
まだまだリュカには及ばない。
オジロンSIDE END
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