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Fate/EXTRA〜もう一人のアーサー王〜

作者:Nelfe
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例外

 
前書き

 

 
朝。何の前触れもなく俺は目を開けた。起きてから早々始めたのはなぜこんなにもこの部屋は静かなのかその原因の究明である。別に普段から朝は騒がしいものだとは思ってはいないが、生活をする上での物音はするはずである。

例えば、朝にシャワーの音が聞こえてきたり、誰かが歩き回るような音が聞こえたりなどがある。

その生活面での物音が一切しない。この部屋にもあともう一人住民がいたの
だがーーー。

「そっか……あいつ、今いないんだった……」

ふと先日の光景が脳裏に蘇る。セイバーが俺のせいで深傷(ふかで)を負い、今苦しんでいる。それに魔力も充分に行き届いてないらしく、今は危険な状態だ。

歯を噛み締めた。結局、俺に何ができるのかなんて分からないままだ。何かセイバーの力になれることをしたいのだが、一向に浮かばない。


「………」

少ししたあと、俺はこの件で考えるのは一旦止めた。とりあえずセイバーの様子を見に行かなくては。

俺はベッドから下り、身支度をした。







数十分後、俺は保健室の前に立っていた。中にいるセイバーはやっぱり苦しんでいるのだろうか?それとも急に容態が悪くなったとかしてないだろうか?色々と悪い方向へと考えが進む。

ゴクリ、と生唾を飲み込む。いや、目の前の事実をしっかりと受け止めることとしよう。ここで現実を受け止められなくて何がマスターだ!

俺は扉に手をかけ、一回深呼吸をして覚悟を決める。ガラガラと音を立てながら、現実を受け止める。

「ふぁくらぁ、ふぉっとふぇんとうはふぁいのふぁ?(桜ァ、もっと弁当はないのか?)」

「セ、セイバーさん!これ以上は勘弁してください!」

ベッドで陽気に弁当を食しているセイバーと半泣きになりながらそれを止める桜。

この様子を見て俺は形容しがたい気持ちになった。俺なりにもセイバーのことを結構心配していた。自分のせいであんな状態になってしまったことに充分申し訳ないと思ってもいた。しかし、目の前に現れたセイバーは元気そのものだった。その証拠にセイバーの横の机には重箱が何段にも連なってタワーが建設されている。

ここで一言良いだろうか。

「……なんか違う」

そりゃあ元気になってもらうのはそれはそれで嬉しいことなのだが、昨日と今日で変化があり過ぎて気持ち的に追いつかない。

「あっ、白羽さん!お願いします、セイバーさんを止めてください!これじゃあ他のマスターさんにアイテムを送ることができません!」


桜が俺の存在に気付き、俺に助けを求めてきた。

「止めたいのは山々なんだけどアイツ……一旦食べるのに熱が入るとなかなか止まらないんだよ……」

前回の購買で今のような事が起きてからなるべく多く与えないようしていたのだがまさかここで暴走するとは思いもしなかった。

桜がそんなぁ…と言って項垂れる。

「ところで、セイバーは元気になったんだな」

「はい、今までに蓄積されていたダメージや疲労は回復しました」

それを聞いて少し安心した。しかし桜は、ですが、と言葉を紡いだ。

「私が行ったのはあくまで応急処置の段階でセイバーさんの傷は完璧に癒えた訳ではありません。戦闘次第ではすぐに傷が開くかもしれないので注意してください。また、魔力の方も多少は回復したんですがまたいつ倒れるかも分からない状態なのでセイバーさんから目を離さないでください」

俺は元気に飯を食べるセイバーを見た。あんなに元気そうなのに傷が治ってないのか…。そこで、ようやく俺なりの回答が纏まってきた。

「分かった。色々とありがとな桜」

「いえ、私の方こそこのぐらいのことしかできなくてすみません。私、いつもここにいるので何かあったら来てください」


「分かった」

俺は桜にそう言った後に視線をセイバーへと向けた。セイバーはまだ弁当を食べるのに集中しているようで気付いている様子はない。いや、もしかしたら気付いているのに飯を食べているのかもしれない。

しかしそんなことはどうでも良い。俺は言いたいことを言うべく、セイバーの元へと近づく。彼女は未だに食事を続けていた。

まだこの聖杯戦争は始まったばかりだ。このままうだうだして敗退するなんて嫌だ。それにセイバーだって一緒の気持ちのはずだ。ただ怪我をしたくらいでまともに戦う事もできず一回戦敗退なんてこと彼女のプライドが許さないだろう。

だから、これは俺のケジメでもある。

「勝とうセイバー。俺はまだ諦めたくない」


すると、セイバーは手を止めた。ゆっくりと弁当から俺へと視線を向けた。その眼は真剣そのもの。

「理解するのが遅すぎだマスター」

「………ごめん」

真剣な表情で彼女は俺を見つめると、溜め息を吐いた。俺はまたセイバーを失望させるたのかどうかでビクビクした。

「なんと言うかアレだな。こう……強いのか弱いのかよく分からないな、お前」

「……」

それについては何にも答えようがない。そういうのは他者が決めるのであって俺が決めるんじゃないのだから。

「それにしても、よく言ったものだ。俺の前でそう強気に言うのだから、それなりの覚悟をお前は見せることができるのだろうな?」

セイバーが見せた俺に向けた最後の敵意だった。それには俺も身じろぎたくなったがここは必死に耐えてこう返事をした。

「ああ!」

俺の答えを聞くと、セイバーから敵意が消えた。そしてそれと同時に呆れた笑みを浮かべていた。

「まったく……仕方ないマスターだ」


そして、今度こそ本当の笑みを浮かべてこう言った。



「心得た!」




セイバーが微笑み、そう答えてくれたことに安心感や嬉しさが湧き出る。今までセイバーに対して恐怖心を抱いていた自分がどこかにいた。そのせいでうまく意思を伝えられず彼女に任せっきりにしていた。

しかし、今ならハッキリ言える。

マスターとして、俺個人の意思として。

お互い和やかな雰囲気に包まれている中、その空気を引き裂くようにそれは鳴った。

ピピッ

音は携帯端末機からだった。内容は大体想像出来た。セイバーの方を見てみるとさっきの笑顔は消え、真剣な表情をしていた。俺はポケットから端末機を取り出し、内容を確認してみる。

『第二暗号鍵を生成
第二層にて取得されたし』

内容を確認し終えると端末機をポケットに入れた。


「次の階層ができたらしい。セイバー、行けるか?」

「おいおいマスター、おかしな事を聞くなァ」

セイバーが今度はまた違った笑みを浮かべた。

「オレはお前のサーヴァントなのだぞ。このぐらいの傷どうってことない」

セイバーの元気な姿につい笑みが溢れた。

「じゃあ行くか!」

「了解したマスター」


桜に一言礼を言いながら、俺とセイバーは保健室を後にした。










数分後、俺は教室にいた。このままアリーナに直行と行きたかったがセイバーが風呂に入りたいと言い始めたので急遽教室に寄ったのだ。

ベッドに腰掛け、俺は安堵から溜め息を吐く。とりあえずセイバーの体が回復して良かった。一回戦はなんとか戦えそうだ。


『君の求める戦いとはそういうものかね?』


ふとそんな事を思い出した。





戻ること一時間前。

俺が保健室に向かっている最中のことだった。

これから先、どうなるのか不安に陥りながら廊下を下りていた時、見覚えのある背中が階段を下りたすぐ先にいた。それは俺からしたらあまり会いたくない人物。

言峰神父だ。

どうしようか考えるが、ここしか保健室に行ける道がない。はぁ、と重い溜め息を吐きながら下りていく。

俺が神父の近くまで来ると言峰神父はそれに気がつき、振り向いた。

「ん?誰かと思えば君か」

薄い笑みを浮かべ俺に声をかける。

「どうかしたんですか?」

「別にどうもしてない。誰でも人の気配を感じたら振り向くのは当然だろう?」

神父のちょっとした言い方や表情一つ一つに悪意があるように感じて仕方なかった。とにかく、この場から一刻も早く立ち去りたい衝動に駆られる。

「そうですか、じゃあ俺急いでるんで」

神父を追い抜き、早足で歩く。

「待ちたまえ」

後ろからの神父の言葉が俺の足を止める。しぶしぶ神父の方へと振り向く。その時の神父の顔はさっきより笑みが広がっているように見えた。

「なぜそう急ぐ?」

「あなたには関係ないです」

「そうはいかん。私はこの聖杯戦争を取り締まる立場にある。なるべくお互いがフェアにそして存分に殺しあえる環境を提供するのが私の役目だ」

そう言いながら神父はこちらに近づいてくる。ちゃんと確認した事はなかったが、神父の身長が思ったよりも大きく、圧倒された。

「…………」

「ん?」

その時、神父が何か違和感を感じたらしい。顔を少し歪め、死んだ目で何かを見つめる。少し時間が経つと、何か納得したのかフッと笑みを広げた。

「なるほど」

「………?」

何がなるほどなのか俺にとってはよく分からない。しかし、ただ言えるのがこの神父はこの状況を愉しんでいる。

「この戦いではサーヴァントが鍵を握る。矛、盾、全ての役割をする。だが、戦いは常に例外が発生する」

神父の言ってることがさっぱりだった。俺に何か伝えたくてそう言ってるのかそれとも俺をからかって遊んでいるのかさっぱりだ。

「簡潔に言うと、今の戦い方を変えたまえ」

この神父は何が狙いだ?神父の意味深な言い方に俺は警戒心を覚えた。そんな俺を見てか神父は溜め息を吐いて、言い直す。


「君の求める戦いとはそういうものなのかね?」


「それってどういう意味ですか?」


「そのままの意味だ。少年よ、今いる立場はいい気分だろう。常に守られ戦わず、サーヴァントが傷つき倒れる様を傍観している様は」

「ッ!?」


神父の発言に頭に血が上りそうになった。拳には力が入り、この男に一発かましてやりたいと心から思う。

「それが嫌であるなら考えたまえ。君に何ができるのか」

神父はそう言うと、くるっと踵を返した。

「では私はこの辺で行くとしよう。君も行く所があるのだろう?早く行ったらどうだね?」

そう言って、神父は歩いて行った。






そして今に至る。

俺の求める戦い……あの時は色々と不運が重なって浮かばなかったが、今になって俺なりの答えが出てきた。

しかし、その答えは他から見たら余りに無謀で命知らずな考えだ。それを思いつく自分もどうかと思うが、実行するなんてよっぽどの死にたがりか自信があるやつだけだろう。

ギュッと両手を握りしめた。


「セイバー」

「なんだマスター?」

カーテン越しからセイバーの声が返ってくる。

言おう。セイバーも傷が癒えたとはいえ完全ではない。完璧な状態ではないのだ。これからどうやって戦っていくのか二人で話さなくてはいけない。

俺は覚悟を決め、口を開いた。











「ごめん、なんでもない」






 
 

 
後書き

最近お腹の調子が悪くていつもトイレにこもっているこの現状。
なんとかならないかなぁ… 
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