インフィニット・ストラトス ―蒼炎の大鴉―
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進撃のゴーレムⅢ、咆哮する鴉
専用機持ちタッグトーナメント当日
今回も俺は簪と組んだ。兼次に組んでくれと懇願されたが、単純に俺が簪と組みたかったこと、織斑先生の不認可、さらに楯無さんが半ば強引に兼次と組んだことによりこの話は無しになった。
参加者は12人、内9人が1年生という異例の事態だ。しかも大半が第三世代型。
そんな中でもやはりデルタカイとHi-νのスペックはずば抜けている。素の性能で軍用第三世代型と互角に渡り合える性能は明らかにイレギュラーな存在だ。
トーナメントの組み合わせはまだわからない。開会式の時に発表されるとのことだ。
そして開会式の時間になる。副会長の俺は兼次と一緒に虚さんの後ろで控えている。と言っても俺は控えているだけ。進行は虚さんがやってるし、俺の発言の機会はない。
「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からしていただきます」
そう言って虚さんは一歩下がる。
「ふあー…。ねむねむ…」
のほほんさんが欠伸をする。
「静かにした方がいい。教頭が睨んでる」
そんなのほほんさんに注意を促す。
「ういー…」
小さく頷いた後、左右に揺れたのほほんさんに再び教頭の睨みが…。正直、心臓に悪い。
「どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は一部を除いて生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてください」
その一部を除いてってなんだよ!?
「まあ、それはそれとして」
楯無さんが持ってた扇子を開く。書かれていたのは博徒の文字。
「今日は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会である企画を考えました。名付けて[優勝ペア予想応援・食券争奪戦]!」
騒ぎだす生徒たち。言っとくが俺は最後まで反対したぞ。
「黒鉄副会長、根回しはしておいたから」
教員からの反対が出ていない。それでいいのか…。
「では、対戦表を発表します」
楯無さんの後ろに大型ディスプレイが降りてくる。
「…いきなり決勝戦でもやる気か…?」
1回戦が俺・簪VS兼次・楯無さんの組み合わせだった。おそらく、と言うか絶対に一番の激戦になるだろう。
盛り上がりをみせた開会式はすぐに終わった。
開会式が終わり、俺は簪を連れて第四アリーナに向かう。ここからアリーナまではそこそこ距離があり、走る必要があった。
「まったく、試合前に消耗させる気か?」
「愚痴っても仕方ない」
簪が返してくる。その様子は俺よりつらそうだった。
「そうだな」
アリーナに着くと二年の黛先輩が待っていた。
「何の用です?」
「今、専用機持ち全員にコメント貰ってるんだけど、その前にこれを見てくれるかな?」
書かれていたのは各ペアに入れられた票だった。
1位は兼次・楯無さんペアだ。まあ楯無さんは国家代表だし、前の模擬戦で兼次が俺に勝ったからこれは妥当だろう。
続いてかなりの大差で俺・簪ペア、二年・三年、デュノア・ボーデヴィッヒ、織斑・篠ノ之、オルコット・凰となっている。
「とまあ、それはさておきコメントちょうだい!まだ全員が終わってないから」
忙しい人だな。
「今回は兼次に勝ってみせる」
「お姉ちゃんに勝ちたい」
俺と簪が答えた。
「OK、じゃあ最後に写真撮るね」
俺と簪が並び、用意をする。
「はい、チーズ」
カシャッというシャッターを切る音と共にフラッシュが照らす。
「ありがとー。それじゃあ私は次行くね!」
言うなり走り去っていく。
「あまり時間がない。さっさと着替えるぞ」
思わぬところで時間をくってしまった。
「うん」
それぞれが更衣室に行く。ISスーツは着込んでいるので上の制服を脱いで軽く畳みロッカーに仕舞う。
合流し、ISを纏ってアリーナに出た。兼次と楯無さんは既に来ていた。その時…
ズドオオォォォン
地震のような震動が襲う。
そして目の前に例の無人機の強化型と思われる機体が現れる。その数12
「こいつは…マズいな」
もしあの時の機体の強化型なら一筋縄にはいかない相手だ。
「リミッター解除プログラムを使え!こいつは…」
3人にそう指示を出す。
それと同時に無人機がそれぞれ動き出す。
四方八方から降り注ぐ荷電粒子ビームをスラスターの噴射で躱していく。
簪、楯無さんも同じく躱していくが、兼次だけはファンネルバリアで防ぎながらハイパーメガライフルで狙撃をしていた。
「きりがねぇぞ、こいつは…」
兼次が悪態をつく。確かにこのままではジリ貧だ。
「兼次、ハイパーメガバズーカランチャーは使えるか?」
「1発だけならな」
「わかった。俺が注意を引き付ける。お前はその間にチャージしろ」
「了解だ」
「簪、楯無さん、兼次が奥の手を使う。奴らの注意が俺に向くように仕向けてくれ」
「わかったわ」
「うん」
右手にロングメガバスター、左手にビームライフル、シールドにビームガトリングガンを装備しミサイルユニット、リフレクタービット、プロトフィンファンネルを展開、マルチロックオンで一斉掃射する。
大量のビームとミサイルがアリーナにまんべんなく降り注ぎ、いくつもの攻撃が直撃やカス当たりしていく。
そしてその攻撃で無人機全ての注意が俺に向いた。
「兼次、今のうちにチャージしろ」
「今やってる」
兼次は既にハイパーメガバズーカランチャーを展開し、エネルギーをチャージしていた。
長大な砲身のハイパーメガバズーカランチャーは二重のファンネルバリアに守られ、膨大なエネルギーを蓄えていた。
あまり俺にとっては良くない状況だ。12機の無人機は俺に集中砲火を浴びせてくる。
回避し、避けきれないものはリフレクタービットで防いでいるが、何発かは俺を掠めている。しかも何らかのジャマーを装備しているのか、絶対防御が働いていない。
この状況では反撃出来ない。
「兼次、まだか?」
「あと15秒だ」
日常ではあっという間の時間であっても一瞬で生死を分ける戦場では膨大な時間だ。
せめてファンネルバリアがあれば…。そうだ!
「兼次、ファンネルを5基貸してくれ」
「わかった」
ファンネルバリアを張っていた12基のファンネルのうち5基がこちらにくる。
ある程度接近すると俺に使用許可が下りる。
即座に自身の周囲に展開、ファンネルバリアを形成する。
雨の如く降り注ぐ荷電粒子ビームをファンネルバリアで弾き、耐え凌ぐ。そして15秒が経つ。
「和也、射線から離れろ!!」
即座にスラスターを最大噴射し横に大きく移動する。
直後に桁違いの範囲と威力のメガ粒子ビームが12機の無人機をまとめて焼き払った。
無人機のいた場所からいくらかのコアが落ちてくる。しかし、全て修復不能なほどに壊れていた。
「…なんとかなったか」
「勘弁してほしいぜ、こういうのはさ」
『黒鉄、坂上、聞こえているか?』
突如回線が繋がる。通信してきたのは織斑先生だった。
「聞こえています。どうしたんです?」
『今学園の各地で無人機と交戦中だ。援護に行ってくれ』
まだいたのか…。
「無人機は残り何機ですか?」
『9機だ』
「わかりました。では迎撃に向かいます」
そう答えると通信が切れる。
「どうやらまだ9機いるらしい。俺と兼次はこのまま迎撃に向かう」
俺はこの時、兼次と2人だけで行くつもりだった。
「私も行く」
簪がそう言ってきた。
「なら私も行くわ」
続く楯無さん。
だが…
「いや、ここは俺たちだけで行く。こいつらの性能を相手にまともにやりあえるのはデルタカイとHi-νだけだ」
「でも…」
「こいつらは絶対防御を無効化するジャマーを装備していた。最悪死ぬことだってありえる。俺は出来る限り犠牲者を出したくない」
簪を死なせるわけにはいかない。
「それは和也くんだって同じ」
そう反論してくる。
「打鉄弐式には防御兵装が積まれていない。被弾そのものが危険なんだ」
デルタカイにはリフレクタービット、Hi-νにはフィンファンネルがそれぞれ積まれているが、打鉄弐式にはそのての装備はない。
「それでも危険なことに代わりはない」
「問題ない。ただこいつで狙撃するだけだから」
ロングレンジビームライフルをコールし右手に保持する。もっともこれは口実だが。
「嘘つき…」
「ん?」
「和也くんが狙撃だけで戦うわけがない。中距離戦が得意な和也くんが」
見透かされていたか。
「ならお前は、死ぬ覚悟ができているのか?」
「え…」
「絶対防御のない中、被弾したら怪我じゃ済まないんだぞ」
「………」
流石に押し黙る。
「俺自身、こいつ相手だとお前を守りながら戦えるほどの余裕はない。悪いが、ここは引いてくれ」
「……なら約束して。絶対に生きて帰るって」
やっと諦めてくれたみたいだ。
「当然だ。こんなところで死ぬ気などない」
「和也、そろそろ行くぞ。あまり戦況は芳しくないみたいだ」
最近の兼次はこういうことに凄く敏感になった。サイコフレームといいこいつはニュータイプに覚醒しているのか?
「ああ、わかってる」
所詮俺は強化人間だ。紛い物が本物にかなうわけがない。それでも、出来る限りのことは成し遂げてみせるさ。
兼次がスラスターを吹かせ、先行する。
「兼次、ここは2手に別れた方がいい」
思ったより戦場は広く分布していた。
「ああ、そのようだな。じゃあ俺は一夏の援護に向かう。あいつの機体にエネルギーの余裕があるとは思えない」
「わかった、なら俺はボーデヴィッヒの援護に向かう。あそこには3機の無人機がいるみたいだ。いくらボーデヴィッヒでも厳しいものがある」
「了解だ」
そしてそれぞれの戦場に向かう。
目標まで100mを切る。ここで俺はボーデヴィッヒに通信を繋ぐ。
「ボーデヴィッヒ、聞こえているか?」
『貴様は…黒鉄だな』
「そうだ。これから援護射撃をする。出来る限り射線を開けてくれ」
俺はロングレンジビームライフルをコールし構える。
『了解した。いつでも撃て』
ライフルを1機に向け、引き金を引く。銃口から高収束のメガ粒子ビームが照射され、ロックした無人機の胸部を貫通、コアを破壊する。
『ナイスアシストだ』
「次は10秒後だ。それまでは銃身の冷却で撃てない」
『了解だ』
無人機はまだこちらを狙ってこない。余裕をもって次弾発射を待てる。
銃身の排熱溝から蒸気が上がっている。
そして10秒経過、排熱が終わり蒸気が止まる。
「次撃つぞ」
さらに別の1機を捉え照射、頭部に命中。そのまま照射しながら火線を下げ胸部のコアを貫通させた。
「あと1機だ」
その時、最後の1機はボーデヴィッヒを振り切り俺に突撃してきた。
即座にライフルを離しビームライフルを装備、右肩の関節部を撃ち抜き切り離す。
それをもろともせず無人機は左腕の荷電粒子ビームでこちらを撃ってくる。
スラスターを吹かせ左に躱しながらシールドにマウントされたビームサーベルを発振、すれ違いざまに腹部を真っ二つに切り裂いた。
だが下半身を切り離されたにも関わらず上半身だけとなった無人機は攻撃を続ける。シールドにビームガトリングガンをマウント、攻撃を躱しながらビームの弾幕を浴びせた。吐き出されたメガ粒子は無人機の装甲を穿ち、内装を粉砕た。
漸く無人機が機能停止する。残すは何機だ?
『すまない、抑えきれなかった』
「問題ない。俺は次に向かう。こいつのコアを回収しておいてくれ」
『ああ。健闘を祈る』
―――――――――――――――――――――――
Side兼次
一夏のIS反応があるポイントに向かうと、一夏と箒の2人が2機の無人機を相手に苦戦していた。
「一夏、援護するぞ」
『その声、兼次だな?』
「ああ」
ハイパーメガライフルをコールし両手で構えて1機をロック、足を止めた瞬間を狙い狙撃する。
高収束のビームは右肩から左大腿部にかけて貫通し内装をボロボロに溶かす。これにより無人機の動きは大きく鈍った。
「一夏、今だ!」
『わかってるよ!』
零落白夜を発動した一夏は大きく動きの鈍った無人機に突撃、袈裟斬りに切り裂き無力化した。
『よし、あと1機だ』
「気を抜くなよ」
サイコフレームが緑色に輝き始める。
ファンネルを全基展開し内10基を一夏と箒の周囲に展開、ファンネルバリアを発動する。そして残りの2基とハイパーメガライフル、アームドアーマーのビームキャノンで援護射撃を開始した。
「一夏、そのまま突撃しろ。その状態なら生半可な攻撃は通らない」
『わかった』
一夏がイグニッションブーストで無人機に突撃を始める。
『うおぉぉぉぉ!』
左腕から放たれたビームをファンネルバリアで弾きながら一直線に進み、そしてコアを有する胸部に雪片弐型を突き刺した。
コアを砕かれた無人機は人間が脱力するように崩れ落ちる。
「よくやった。お前たちはそのまま休め」
『兼次はどうするんだ?』
「俺はこのまま残りを撃破する。まだ4機いるみたいだからな」
どうやら和也はボーデヴィッヒのところにいた3機を撃破したみたいだ。つまり残りは4機となる。
『無茶はするなよ』
俺を気遣うように箒が言った。
―――――――――――――――――――――――
Side和也
兼次のところの反応が消えたか。残りは4機だな。
残り4機の内1機は二年・三年のタッグが余裕をもって相手しているみたいだ。そして残りの3機は教員部隊と交戦中、戦況は芳しくない。こちらに向かうべきだな。
ビームスマートガンに持ち替え、教員部隊の交戦ポイントに向けてスラスターを吹かす。
着いてみると教員部隊は怪我人多数、部隊は半数ほどになっていた。
無人機をロック、スマートガンで1機を狙撃し一撃で仕留める。
即座にロングレンジビームライフルに換装、2機目をロックし狙撃、下半身のジョイントに命中し機動性を奪った。そこにすかさず教員部隊が集中砲火を浴びせ撃破した。
ライフルとスマートガンはバレルの冷却中、まだ撃てない。
だがここで別方向からの狙撃により最後の無人機が仕留められる。撃ったのは兼次だった。
「どうやら間に合ったみたいだな」
「ああ」
『黒鉄、坂上、よくやった。無人機の反応はない』
「終わったか」
この戦いで奇跡的に生徒から死傷者は出なかった。教員も死者は出ず、怪我人の大半は軽症で済んだ。
そして、トーナメントは中止となった。
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