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雨宿り

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第四章


第四章

「そっちを。どうしたんだよ」
「どうしたんだよって」
「誰かいるのかよ。気になる人が」
 これもかなりダイレクトな問いであった。
「そういや何か女の子いるな」
「うっ・・・・・・」
「図星か」
 彼が返答に窮したところで完全にわかったのだった。
「それか。あの娘だな」
「誰かな、あの娘」
 加藤も観念して遂に口を開いた。
「あの娘。同じ学校みたいだけれどな」
「そういえばあまり見ない娘だな」
 紅も彼女に気付いて言った。
「誰だありゃ」
「紅も知らないのかよ」
「ああ。誰だった?」
 彼もこう言って首を傾げるのだった。
「あの娘。同じ学校なのは間違いないな」
「そうだな」
「しかし誰だった?」
 それがどうしてもわからない二人だった。
「毎日あそこにいるんだよな」
「あ、毎日あそこで漫画探してるぜ」
 加藤はそこまではチェックしていた。
「毎日な」
「一回クラス章チェックしてみろ」
 紅はこう彼にアドバイスした。
「クラス章な。それでわかるからな」
「そうだな。まずはそれだな」
「ああ、それだ」
 この学校では制服に校章とクラス章を付けるのが校則になっている。男子はカラーの首のところにで女子は左胸のポケットのところにだ。それぞれ付けることになっている。
「それ確かめろ。いいな」
「わかったさ。じゃあ明日な」
「そうするんだな。しかし」
 紅は話が一段落したところで息を吐き出しながら述べてきた。
「御前がなあ。女の子なんてな」
「おかしいのかよ」
「おかしくはないさ」
 彼はそれは否定した。
「それでもな。まさかここでか」
「俺もまさかって思ってるよ」
 自分でも戸惑っているのがはっきりわかる言葉だった。
「ここであんな娘に会うなんてな」
「いや、俺が言ってるのは御前が女の子に惚れたことだよ」
 話す対象は同じであったが見ているものと感じているものはまた別だった。
「そっちだよ。まさかな」
「だからそれがおかしいのかよ」
「さっきも言ったがおかしくはないさ」
 それは違うとまた加藤に告げた。
「それはな。しかしまあ」
「まあ?」
「頑張れよ」
 前を向いたまま加藤に告げた。
「ちゃんとな。上手くやれよ」
「応援してくれるのかよ」
「それはな。俺は別に他人の不幸を笑う趣味もないからな」
 この辺りは中々見事ではある。
「どっちかっていうと幸せを祝う方が気持ちがいいしな」
「そんなものかよ」
「そんなものさ。とにかくあの娘がどのクラスかだな」
 とにかくまずはそれであった。
「しっかし調べろよ。いいな」
「ああ、わかった」
 紅のその言葉に強く頷く。こうして加藤はまず次の日彼女の左胸をちらりと見ることにした。少女漫画コーナーの左の方にある参考書のコーナーにさりげなくを装ってだ。そうして見てみると自分と同じ学園でクラスはA組だった。なお彼や紅はF組である。
「A組か」
「ああ、そうだった」
 そのまた次の日のお昼に教室で向かい合って弁当を食べながら紅に話す。加藤はお握りが中心で紅のそれはサンドイッチが中心だった。それぞれ手に取りながら食べている。
「そこだったな」
「A組ねえ」
 紅はクラスを聞いて考える目になった。
「あそこか」
「何かあったか?A組に」
「いや、別にないけれどな」
 特に変わったところはないというのだった。
「しかし。あんな娘いたか?」
「いたんだろ?四十人いれば目立たない娘もいるさ」
 彼はこう紅に答えた。
「そりゃな」
「まあそれはそうだけれどな」
 紅も今の加藤の言葉には納得した顔で頷く。頷きながらそのうえでサンドイッチを口の中に入れる。今食べているのはハムサンドである。ハムとパン、それにバターとマヨネーズの味が口の中を支配してその心地よさを味わいながら加藤と話をしているのだ。
「じゃあまずA組行ってみろ」
「次はそれか」
「さりげなくな」
 この辺りは釘を刺すのだった。
「いいか、さりげなくだぞ。怪しまれるなよ」
「随分と慎重だな」
「御前本屋で結構挙動不審だったからな」 
 怪訝な目で加藤を見ながらの言葉だった。
「だからだよ。間違っても嘗め回すように見たりするなよ」
「それじゃあまるで俺が変質者じゃねえかよ」
「そう見える、本当にな」
 かなり容赦のない言葉であった。
「だからだ。気をつけろよ」
「そんなにやばいか」
「こういうのは黙って話を進めるもんだ」
 今度は野菜サンドを食べている。
「わかったな。黙ってだ」
「黙ってだな」
「下手に騒いだらそれで負けだぞ」
 紅の今の言葉は厳しかった。
「豹の様にやるんだよ」
「豹かよ」
「そう、パンテルだ」
 何故かここでドイツ語読みで言ったのだった。
「パンテルだ。いいな」
「それはいいけれどパンテルってドイツ語だろ?」
「ああ」
 加藤もそこに突っ込みを入れずにはいられなかった。紅もそれに応える。
 
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