雨宿り
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第三章
第三章
「これ買って。そろそろ雨止むかな」
「ああ、雨な」
紅は加藤の言葉を受けて店の外を見た。見ればもう止みかけている。
「通り雨だったのか?」
「本降りになるのはもっと後か」
加藤も店の外を見て言った。
「じゃあもう行くか。雨止んだしな」
「そうするか」
「好きなだけいてもいいんだよ」
ここで二人にカウンターにいるお婆さんが言ってきた。
「閉店時間までならね。他のお客さんの迷惑にならないように」
「いや、それ流石に悪いですから」
「これ買ったら帰りますよ」
「あにゃ、そうかい」
お婆さんは二人の言葉を聞いて少し驚いたように言ってきた。
「それはそれでいいことだね。じゃあその漫画だね」
「はい、買います」
「僕はこれを」
加藤だけでなく紅も漫画を買った。彼は自分の買いたい漫画を手に持っていた。
「買いますんで」
「はいよ。じゃあ」
お婆さんは二人の手からそれぞれ漫画とお金を受け取って勘定をした。そのうえでおつりを出してまた言うのだった。
「有り難うね」
「はい、じゃあ」
「これで」
二人はお婆さんに挨拶をするとそのまま店を出る。しかし加藤はここでふと少女漫画のコーナーの方を振り向くのだった。
「何だ?まだ何かあるのかよ」
「いや、雑誌のチェックな」
「雑誌!?」
紅は加藤の言葉に今度は眉を顰めさせた。
「雑誌か?」
「ちょっとな」
「雑誌ならこっちだろ?」
紅は丁度自分のすぐ左隣を指差して示した。
「ここに一杯あるぜ」
「あっ・・・・・・」
「何間違えてんだよ。おかしいぞ」
「あっ、いやな」
加藤は紅の指摘に少し戸惑いながらも述べてきた。
「そっちじゃなくてな」
「何だよ」
「こっちの雑誌な」
加藤は目だけで店内を必死に見回してそのうえで自分のそのすぐ右手を指差すのだった。
「こっちの雑誌だよ。見てくれよ」
「小学四年生とかテレビマガジンとかか?」
「最近うちの弟が面白いって言ってるんだよ」
こう紅に力説する。とりあえずそこにそういった雑誌が回転棚の中に置かれていた。
「小学生の弟がな」
「そういや御前弟さんいたっけ」
「ああ」
これは本当のことなので頷くことができた。
「いるぜ。しかしこの手の雑誌って変わらないな」
「まあそうだな」
紅は加藤の言葉に頷いた。加藤は少し焦った感じだった。
「俺も子供の頃読んでいたけれどな。変わらないな」
「そうだよな。少なくとも外見はな」
「ああ、変わらないな」
紅はまた言った。
「外見はな」
「付録も相変わらず多いな」
この手の漫画雑誌の特徴の一つだ。
「一回家に帰って中を見てみるか」
「そうだな」
そんな話をしながら二人は店を出た。だが加藤は何故か店を出るその時も店の中に顔を向けていた。そしてそれは店の前から去るまで何度もあった。
その日のすぐ次の日加藤はまた店に来ていた。今度は一人だった。
「あれ、あんた」
昨日と同じくカウンターに座っているお婆さんが彼の声をかけてきた。
「いらっしゃい」
「はい、どうも」
まずは普通の挨拶からであった。それを終えてからお店の中を見回す。とりわけ昨日見ていた場所を。するとそこにまたいたのだった。
「いるんだ」
それを見て一人微笑むのだった。
「いてくれたんだ」
こうも思いまた微笑む。そのうえで自分は少年漫画のコーナーに向かう。そうしてこの時は漫画をチェックするふりをしながらそのうえでそちらをちらちらと見ていた。
そんなことを何日か続けていた。この日は紅と一緒だった。彼は一緒にいるその加藤の様子がおかしいことにこの日も気付いたのだった。
それで本屋を出てから。彼はバス停に向かいながら彼に対して言ってきたのだった。
「なあ」
「何?」
「御前何かあったのか?」
まずはこう彼に尋ねた。
「本屋で。ずっとちらちら見ていたじゃないか」
「見ていたって?」
「だから少女漫画のコーナーの方だよ」
今回はかなりダイレクトに述べたのだった。
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