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リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた

作者:芳奈
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第六話

 
前書き
という訳で、感想を参考にして書き直しました。六話はまるまる変わり、五話も最後を削除してあります。これからもよろしくおねがいします。 

 
「僕は、異世界の発掘の一族。スクライア一族の、ユーノと言います。」

 その言葉から始まった、原作には無かった高町家に対する事情の説明。その内容は、大体原作でなのはに語ったものと同じであった。

「移送船が事故に遭い、ジュエルシードがこの周辺にばら蒔かれてしまいました。ジュエルシードは危険なロストロギアです。僕は、その責任を取らなければならない。」

 ユーノが自身の決意を語る中、葵は考え事をしていた。

(うーん・・・やっぱりこの事故はプレシア・テスタロッサが起こしたものなのかね・・・。)

 第一期『JS事件』の黒幕プレシア・テスタロッサ。まさに管理局の暗部の犠牲者とも呼べる不幸な女性である。管理局の横暴により、地位も名誉も財産も、そして最愛の娘の命すらも失ってしまった悲劇の人物。

 普通なら、そこで泣き寝入りするしか無かっただろうが、幸か不幸か、彼女の能力の高さがこの『JS事件』を招いてしまった。失った娘を蘇らせる。神に対する冒涜のようなこの願いに手が届きそうなほどに高い能力を持っていたのが、彼女の最大の不幸だったのだろう。
 同情すべき点はいくつかあるも、今の葵にとって、彼女は明確な敵であった。

 自身の命を脅かす者は、総じて彼の敵である。

「君だけで何とかなる問題なのかい?」

 士郎の言葉に、ユーノは力なくフルフルと首を振った。

「今の僕は、この世界に適応出来ていない状態なんです。魔力の源であるリンカーコアが不調を起こしている。だからこそ、このような姿になって、リンカーコアをこの世界に慣らしているんです。」

『え?その姿本当の姿じゃないの?』

 それは、葵を除く全員の声だった。

「え?なのはには既に見せたから知ってるはずだよね?」

「なんのこと!?知らないよ!?」

「え!?まだ見せて無かった!?」

 全員が予想外の話に混乱している中、唯一原作知識で知っていた葵だけは驚かず、『やべ!俺も驚いとかないと怪しまれるじゃん!?』と焦りまくっていたのだが、挙動不審な葵の様子を観察するような余裕は彼らには無かった。

「えっと、今の姿は、エコモードみたいな感じかな。本当は葵さんと同じくらいの男なんだけど。」

 頭を掻きながら言うユーノ。

「そんな子供が・・・こんな危険な事を一人で・・・!?」

 士郎は驚く。なのはや葵は大人びているが、普通このくらいの年齢の子供なら、これだけ大きな事件があればどうすればいいか分からず、右往左往するものだろう。最悪、その時点で逃げ帰っても可笑しくなかった筈だ。異世界の人間は、皆ここまで大人びているものなのか?

「うーん・・・。」

 そんな中、またもや葵だけは違うことを考えている。首を傾げ、ユーノをまじまじと見つめる。その遠慮のない視線に、ユーノは居心地が悪そうであった。

「しかし、不思議だ・・・。」

 彼の呟きを、恭也が拾った。

「ん?何が不思議なんだ?」

 考え事に夢中になっていたため、恭也の疑問に無意識に答えてしまう葵。

「いや、俺と同じくらいの体格の人間がフェレットになって・・・じゃあその質量はどこに行ったのかなって。なのはが普通に抱いて歩けたってことは体重もフェレット並に軽くなってるわけですよね?まあ、体のことは百歩譲って置いておくにしても、脳味噌はフェレットと同じ大きさしかないわけで。それで、人間のときと同じ考え方が出来てるっていうのが凄い不思議なんですよねー。最悪の場合、何かの映画みたいに変身魔法を使ったが最後、自分が人間だったということも忘れて残りの人生をずっとその姿で生きる可能性もあるのかなーと考えると、最初にその魔法を作った人の正気を疑うというか・・・。あー、待てよ。もしかすると、本体は異次元かどこかに隔離して、魔力で作った人形を動かすみたいな魔法なのかな?それなら多少の無茶も効くか。まあ、昔からある魔法なんだろうし、安全は確保されてるんだろうけど・・・不思議だなー。」

 自分の考えを一通り口に出し、そこでふと我に返る葵。恐る恐る周りを見てみると、そこには彼を凝視する高町家と、葵の恐ろしい想像を聞いて震えているユーノの姿があった。

「怖!その想像怖いよ!これから変身魔法使えなくなるじゃないか!」

 体を抱えて震えるユーノとは違い、真剣な顔をして葵を見る士郎と恭也。

「葵君は前から大人びた子だと思っていたけれど、そこまでだったかな・・・?」

(やべ・・・!滅茶苦茶疑われてる!)

 口は災いの元である。自業自得な自体に焦る葵。焦りのあまり、咄嗟に嘘を吐いた。

「い、いやーこの『パッチ』を付けてから、頭の回転が速くなった気がするんですよー(棒」

 HAHAHA!と笑う葵だが、その言葉を聞いてユーノと士郎が渋い顔をした。

「パッチ・・・その宝石のことかい?それはジュエルシードじゃなかったかい?」

「い、いやー。だって今まで正式名称知らなかったんで。自分で勝手に名前をつけてたんですよ。『人を超人へと書き換える後づけプログラム』って考えたら、パッチって呼び方が一番しっくりくるかなって思って。」

 因みに、パッチに頭を良くするなどという機能は存在しない。

(・・・いや?原作では『不眠』やら『巨大化』やら、挙句の果てには二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出す『植物化』なんて能力も出てきたんだから、『天才』パッチくらいあるかもしれないか?)

 その場合、階段を昇ったらどんな強化をされるのか・・・。

(『不眠』は・・・Dies系の神みたいに、世界法則に組み込まれるとかかな。全ての生物が眠らなくなる世界か・・・嫌だな!『巨大化』は、最終的に惑星どころか銀河よりも大きくなるとかかな?グレンラガンみたいに。『植物化』は、人の姿を完全に無くして、世界樹みたいな巨大な樹木になるかもな。『天才』なら、死者蘇生や時間操作が出来る機械を開発出来るようになったりして・・・)

 などと、周囲を置き去りにしてまた考え込む葵。そして、士郎も何かを考えているようだ。

「なるほど。人を超人に置き換えるからパッチか。言い得て妙だな。しかし、今の話を聞く限り、葵君はそのパッチによる精神への影響を受けているんじゃないのかい?」

 葵の心配をする士郎。しかし、それをキョトンとした目で見つめる葵。

「いや、大丈夫でしょ。大げさに考えすぎですよ士郎さん。今の俺は、ちょっと頑丈なだけですって。」

 士郎の心配を笑って流す葵。確かに、進化の階段を登っていく過程で、人間としての精神からかけ離れていく道も存在する。原作のいくつかのルートで、主人公である不知火も登っていた道だ。

 しかし、今はまだパッチを付けただけの段階。精神に対する影響は全くないハズである。・・・まあ、突然強大な力を手に入れたから自惚れて気が大きくなるとかはありそうだが。

「そうかい?まあ、こちらも注意しておくよ。」

 士郎は葵の観察をすることで、彼が変わったかを見極めるつもりのようだ。これ以上の迂闊な行動は避けなければいけないと、葵は気を引き締めた。

「葵さん・・・ごめんなさい。僕のせいで・・・!」

 その一方、テーブルの上で深く項垂れているユーノの姿に、葵は首をかしげた。

「ユーノは何で落ち込んでるんだ?」

「だって、詳しく調べてみないと分かりませんが、僕のせいで葵さんの体は、既に人間と呼べない状態になってるかも知れない!」

 涙ながらに叫ぶユーノだが、それを見て更に葵の疑問は増す。

「いや、パッチが無いと、俺は死んでたんだが?死ぬのは・・・怖い・・・。死ぬのに比べたら、体の変質なんて大した問題じゃないだろ。」

 葵は本気で言っている。それを感じた他の人間は、この年齢で達観している葵に驚愕の目を向けた。

「え、何で皆こっちを見るんですか?じゃあ聞きますけど、体が弱ってる人が体に機械を入れるのはどうです?『命』と、『体が変質すること』を天秤にかけたら、どちらに転びますか?」

 本来あるべき姿から外れるからと言って、命に比べたら全てが些事だと言い切る葵。士郎や恭也はその言葉に納得したが、ユーノやなのはといった子供組は納得しきれていない。

「そういうわけで、俺はコイツに感謝してますよ。・・・逆に、コイツを返せって言われて取り上げられるほうが困るんだけど?」

 そう言ってユーノに笑いかける葵。しかし、その笑いとは裏腹に、その言葉には本気の意思が込められていた。それを感じて、戸惑うユーノ。

「で、でもジュエルシードは危険なロストロギアで・・・!」

「今は俺の命綱だ。」

 ユーノのセリフを途中で遮る葵。

「これを外した瞬間、俺は死ぬかも知れない。」

『・・・!』

 葵の言葉に、全員が驚愕した。

「俺の傷は本当に治っているのか?ジュエルシードの持つ魔力で、強制的に治しているだけじゃないのか?もしそうなら、ジュエルシードを外した瞬間、あの傷が全て戻ってくるんじゃないのか?・・・いや、そもそも、一旦ジュエルシードという規格外のロストロギアに適合して、それを強制的に外すことそれ自体が、俺の命を奪うかも知れない。」

 体の震えを抑える葵。これは演技でもなんでもない。あと数秒遅ければ、彼は二度目の死を体験していたのだ。パッチにより、彼の願いである不老不死への切符を手に入れたが、やはり、もう一度死にかけたというのは彼のトラウマを強く刺激していた。

 そして、それだけの経験をしてやっと手に入れた不老不死への切符。それを奪われたら、彼はどうするだろう?残りの人生を絶望しながら生きるかも知れないし、パッチを奪い返す為に、管理局を襲うテロリストになるかもしれない。

(もう一度死ぬくらいなら・・・周り全てを殺し尽くしてでも足掻いてやる・・・!)

 彼は、本気である。

 葵から滲み出るわずかな殺気を感じ、士郎と恭也は周りにバレないように身構えた。二人共、葵がこれ程までにパッチに執着していることに内心驚愕していた。そして、彼がこれ程に執着するパッチを取り上げるのは、危険すぎると感じた。

「あ、葵さんが死ぬ・・・!?で、でも・・・」

 暴走すれば、最悪惑星どころか次元そのものを崩壊させるほどのロストロギア。一人の命と大勢の命。物語ではよくある構図だが、たかが9歳に選べるわけがない。

「もし、管理局とやらがパッチの所持を認めてくれるなら、俺はある程度の期間管理局に協力してもいい。」

「え?」

「管理世界ってのがいくつあるか知らないけど、相当広いんだろ?この地球っていう一つの惑星だけでも、警察組織の手が足りずに無法地帯化してるところは結構あるんだ。さらに、さっきの戦闘で、魔法には魔法じゃないと対抗できないことが分かっている。なんせ、威力だけなら必殺級の俺の攻撃を食らっても、あの化物はダメージを受けなかった訳だしな。つまり、実際に事件を担当する局員には、魔法の資質が不可欠ってことじゃないのか?全人口の何%が魔法の資質を持つのか知らないけど、人手不足なんじゃないの?」

『・・・!』

 何度目の驚愕だろう。周囲の人間には、葵が限られた情報からここまで推理したようにしか見えなかった。子供組は驚くだけだったが、大人組の士郎と恭也は、やはり葵はパッチの影響を色濃く受けているのではないかと不安を抱いた。

 実際は、原作知識で答えを知っているからこそだったのだが、彼らにそれを知ることは出来ない。

「管理局には連絡したって言ってたよな?そいつらがいつ来るのか分からないけど、来たら検査をしてもらう。そこで暴走の危険が無いと分かれば、ロストロギア所持を認めてもらう代わりに、俺が何年か管理局で務める。それでいいだろう?」

 勿論、認めてもらえなければ、管理局を逃げ出して無人世界にでも隠れ住むつもりだったが。

 ユーノの念話が聞こえたことからも、葵にリンカーコアがあるのは判明している。仮にごく弱い魔力しかなくても、パッチで十分補う事が可能だ。管理局は万年人手不足であるので、喜んで葵の提案に乗ってくるだろうと。そう葵は考えたのだった。 
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