IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第13話 「来訪者」
前書き
お待たせしました。皆大好きあの子の登場ですよー。
「どんだけ時間かかってんだ、あいつ・・・。」
ポツリと独り言を呟きながら、俺は夕暮れの中を一人歩く。さっきまで教室で補習のために一夏を待っていたのだが、全然来ないので痺れを切らして迎えに行くことにしたのだ。あの大穴を埋めるのに余程手間取っているのだろう。
「ああもう、どんだけ広いのよ、この学園!」
少しくらい手伝ってやろうなどと考えながら歩いていると、遠くの方から一人の少女がこんなことを怒鳴っていた。あれ、どう見ても制服じゃないよな?右手に学園の案内図っぽいものを持ってるし。とりあえず厄介事に巻き込まれないよう、ここは華麗にスルーしておこう。
「あ、ちょっとそこのあんた!聞きたいことあるんだけど!」
・・・見つかってしまった。再びそちらに目を向けると、早くもその女子がこちらに走り出していた。ここで逃げたら余計面倒そうだ。素直に待つとしよう。
「あれ、男?ああ、一夏ともう一人って聞いてたけど、本当にいたのね。」
華奢な体つき、艶やかな茶色がかった黒髪のツインテール、快活そうな雰囲気。顔つき的にアジア系の人間で間違いないだろう。台詞からして一夏の知り合いだろうか。意外と顔広いんだな、一夏。
「俺に何か用か?急いでいるんだが。」
まあ細かいことは気にしないでおこう。一夏の友人ならその内知る機会もあるだろう。今はとにかく、目の前の面倒な問題を正確に処理すべきだ。
「総合受付ってとこを探してるんだけど、ここだだっ広くて何処にあるのか分かんないのよ。ちょっと案内してくれない?」
如何にも不満げにそう言う少女。どうやら転入生らしい。とても初対面の相手に対する態度とは思えない。まあ、俺も似たようなものか。しかし案内か、総合受付っていうと・・・。
(本校舎の一階か。案内するとなると来た道を戻る必要があるな・・・。)
親切に案内するのはどう考えても面倒であるし、何より一夏のこともある。いっそ一夏のいるグラウンドまで来てもらって三人で戻るか?・・・いや、久しぶりに会う友人に穴埋め作業を見せるのは一夏の名誉に関わるだろう。ならば手段は一つ。
「総合受付なら本校舎一階にある。地図があるのならそれに従って歩けばいい。」
「だから、見ても分かんないから頼んでんでしょうが。良いから、その本校舎まで案内しなさいよ。」
まあそう言うだろうとは思ってた。だが、こっちとしても折れるわけにはいかない。手伝いがバレれば千冬さんの説教、更には特別メニューの罰則が課せられる可能性だってあるのだ。そんなのは絶対に御免だ。余計な時間は使わず迅速に事を進めたい。
「地図を貸せ。それとペンも。」
「えぇ、良いわよ。えっと・・・、はい。」
俺は案内図とボールペンを借り受けると、案内図に現在地を点、進むべき方向を矢印、目印になる建造物を丸で囲って書き示した。これで問題ないはずだ。
「これに従えばいい。進むべき方向はあっちだ。」
「・・・あんた、本当に案内する気はないのね。」
「急いでいると言ったろう。ここまで親切に教えてやったんだ。むしろ感謝してもらいたいくらいだ。」
わざわざ書き込んだ後に、間違いのないように目的地の方向を指差してやったんだ。これ以上の親切は俺にはできん。それこそ一夏の領域だ。
「まあ、良いわ。場所が分かればそれで良いし。ありがとねー。」
そう言うと、手を振りながら元気よく走り去っていった。これで良しっと。・・・そういえば、あいつボストンバッグしか荷物を見かけなかったが、あれで足りるのだろうか?
「というわけでっ!織斑くん、クラス代表決定おめでとう!」
「「「おめでとー!!」」」
夕食後の自由時間、寮の食堂に大量のクラッカーの音が鳴り響く。壁にかかった「織斑 一夏クラス代表就任パーティー」という紙製のアーチの下、大勢の女子生徒がおめでたくない苦笑いを浮かべた一夏を取り囲んでいた。
「人気者だな、一夏。」
「本当にそう思うか?」
「ふんっ!」
一夏の右隣には如何にも不機嫌そうな箒がジュースを片手に座っていた。拗ねんなって、箒。この人数の中、隣に座れただけマシなんだから。ちなみに左隣には俺とセシリアが座っていた。セシリアは一夏との間に俺を挟んでいるのでこれまた不満そうだったが、一夏に誘われて座った俺に罪はない。だから恨めしそうに睨むのはいい加減止めろ。
(それにしても、人多すぎだろ・・・。)
ざっと見ただけで50人はいる。一組の生徒数は俺を含めて約30名。明らかに他のクラスの生徒が混じっている。というか、見知った顔と初見の顔がほぼ同数、いや初見の方が多い気がする。リボンの色を見るに上級生も少なからずいるようだし、お前らそんなに暇なのか?
「はいはーい、新聞部でーす!話題の新入生、織斑 一夏くんと神裂 零くんに特別インタビューをしに来ましたー!ほら、どいたどいたー!」
ガヤガヤと喧しく騒ぐ女子生徒の群れを押し退けて一人の女子がこちらに近寄ってきた。手にはボイスレコーダーを握り、肩にはちょっぴり高そうなカメラを引っ提げ、腕には「新聞部」と達筆に書かれた腕章をつけている。なんとまあ分かりやすい。もはや古典的と言ってもいいくらいだ。ボイスレコーダーがメモとペンなら尚良かった。
「私は二年の黛 薫子。副部長やってまーす。よろしくね。はいこれ名刺。」
これはご丁寧にどうも。名刺なんて初めて受け取ったぞ。随分と手際の良いものだ。俺も持ち歩いてみようかな?書くべき役職なんて持ち合わせてないけど。
「ではまず織斑くん!ずばり、クラス代表になった感想をどうぞ!」
「えっ!?えーと・・・。」
それはもう汚れのない子供のような純粋な眼差しとボイスレコーダーを突然向けられた一夏はタジタジである。何となく自己紹介の時のシーンに似ている。ってことは今回もまた碌なことを言えないだろう。一夏はそういう男だ。
「まあ、なんというか、頑張ります?」
・・・予想通りというか、なんというか。期待を裏切らない奴だな、お前は。少しも成長していないことを褒めるというのは複雑なものだが。そして何故疑問系なのか。お前の心情だろうが。
「えー、もっと良いコメントちょうだいよ~。俺に触れると火傷するぜ!とか。」
・・・あれ?確かこの人二年生だったよな?今、結構なジェネレーションギャップを感じたんだが気のせいか?今時、どんな気障野郎でもそんな台詞吐かないと思うんだが。
「まあ良いや。後で適当に捏造しておくから。じゃあ神裂くん、何かコメントちょうだい。」
おい新聞部、今聞き捨てならない台詞が聞こえたぞ。マスメディアに携わる人間が然も当たり前のように「捏造」って言葉を使うんじゃない。元々答える気がない質問が更に胡散臭くなったぞ。
「・・・特に言うことはない。そういうのは場慣れしているセシリアにパスする。」
「え、そう?じゃあ神裂くんの方も適当に書いておくとして・・・。セシリアちゃんコメントよろしく~。」
「わたくし、こういうのはあまり好きではありませんが・・・。」
前置きとは裏腹に今まで以上に饒舌を惜しみなく披露するセシリア。なんか俺の方も変なことを書かれそうだが・・・、まあ生活に支障が出るわけでもないし、酷ければ抗議すればいいだろう。取り合ってくれるかは別として。
「一夏、俺はちょっと夜風に当たってくる。ここは暑苦しくてかなわん。」
「おう。」
俺はスッと立ち上がって歩き出す。俺の行動を見た周囲の女子生徒が次々と声をかけてくるが適当にあしらう。ええい、うるさい。とにかく今はこの空間をさっさと抜け出して静かな場所に行きたいのだ。
ドンッ。
「あら、ごめんなさい。大丈夫?」
「・・・いや、問題ない。こちらこそ失礼した。」
今のはちゃんと前を向いていなかった俺の落ち度なので素直に謝ることにする。リボンの色から相手が上級生であることは察していたが、敬語は使わない。俺が敬意を払うのは束さんと千冬さんの人外コンビだけだ。一応、千冬さんの折檻を避けるために山田先生にも敬語は使うが。
(この女、見覚えが・・・。)
俺は何とか群衆を掻き分け、食堂から抜け出した。一人の女子がそれを目で追うのを意識しながら。
夜の帳に包まれた広大な学園を、零はただ一人で歩く。時間もあって、周囲には誰もいない。心地よい夜風に吹かれながら、彼は目的も持たずに静かに散策を楽しんでいた。
(・・・この辺なら問題ないか。)
しばらく歩いた後、整えられた芝生の上に座り込む。近くには小川が流れており、整然と木々が生い茂っている。彼はそこで唐突に上着を脱ぎ出した。脱いだ上着の襟元を探る。目的の物はすぐに見つかった。
「盗聴機、それもかなり感度の高いものだな。流石は本業ってとこか。」
彼は《武神》の右腕を部分展開、見つけた盗聴機を叩き壊した。その作業中もずっと、彼は恐ろしいほど無表情だった。
「予想より接触が早かったが、特に問題はないだろう。あの手際からして、思ってたよりも手練れのようだが、むしろその方が喜ばしい。」
上着を再び羽織った彼は静かに歩き出す。少し冷えてきた夜風に吹かれながら、食堂への道を戻っていく。足取りはいたって静かである。しかし・・・、
「受けて立とう、更識 楯無。精々楽しませてみせろよ。」
無表情を装うその顔には、彼の内側に巣食う隠しきれない狂気が滲み出ていた。彼は口元を如何にも楽しそうに歪めながら、暗闇の中に消えていった。
後書き
原作より登場を早くしてみました。感想や評価待ってます。
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