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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第12話 「実習」

 
前書き
今回は閑話休題みたいな日常回です。 

 
「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。」

今日はグラウンドでのIS実習。竹刀を持ったジャージ姿の千冬さんと普段通りの服装の山田先生を前にして、ISスーツを着込んだ生徒たちがだだっ広いグラウンドに整列している。それにしても、島1つを贅沢に利用しているだけあって馬鹿みたいに広いな。アリーナだけでも5個を越えるのに、さらに1周4kmを誇るこのグラウンドの存在は驚異的だ。

「織斑、神裂、オルコット。前へ出ろ。」
「「「はい!」」」

千冬さんの指令に答える専用機持ちの俺たち。こんなにはっきりと返事をしたのは久しぶりな気がする。この学園では千冬さんの言葉にはしっかり返事をしないと掛け値なしで半殺しにされかねない。返事は立派な渡世術、サバイバルの基本なのだ。

「試しに飛んでみせろ。」
「「「了解。」」」

俺は素早く《武神》を展開する。セシリアも俺と同時に《ブルー・ティアーズ》の展開を終えていた。流石は代表候補生、基礎に抜かりはない。しかし、一夏は《白式》の待機状態であるガントレットを握りしめたまま全然展開できていない。そういえば、待機状態からの展開は初めてだったか。

「あ、あれ?」
「早くしろ。熟練の操縦者は展開に1秒もかからないぞ。」

いや、流石にその言い分は酷でしょうよ、千冬さん。一夏はまだまだ素人に毛が生えた程度なんですからもうちょっと容赦ってものを・・・、って言っても聞くわけないよな。

「来い、《白式》!」

ガントレットを掴んだ一夏の声に呼応するように、一夏を眩い光の粒子が包み《白式》が展開される。あの格好が一夏にとって一番イメージしやすかったのだろう。ISの操縦において、イメージは何よりも重要だ。

「よし、飛べ!」

千冬さんの号令の下、俺とセシリアはすかさず急上昇し上空を飛行する。むぅ、流石にパッケージなしじゃ《ブルー・ティアーズ》の方が速いか・・・。ちょっとショックだな。少しスラスターいじってみるかな・・・。とりあえず今は『素戔嗚』を展開してっと・・・。

「よし、俺も。・・・うおぉ!?」

後に続いて一夏も飛び上がるが、姿勢制御が間に合わずあらぬ方向にすっ飛んでいく。四苦八苦している一夏には悪いが、腹を抱えて笑い転げたい気分だ。幼児が自分のオモチャに遊ばれているような光景に見える。

「おーい、ちゃんと制御しないとISに振り回されるぞー。それはそれで面白いが。」
「酷いな、お前!?」

一夏はしばらくあちこちをフラフラと飛び回っていたが、コツを掴んだようでようやく姿勢の制御を終えて旋回を始めた。相変わらず慣れるのが早いな。やはりセンスはあるみたいだ。・・・と褒めてやりたいところなんだがなぁ。

「遅い。スペック上の出力では《白式》の方が上だぞ。」

千冬さんの言う通り、目に見えて遅い。《白式》は機動力にかけては現行ISの中でもトップクラスのはず。《武神》はまだしも《ブルー・ティアーズ》より遅いとは・・・。一夏め、開発者泣かせだな。

「そ、そんなこと言われても・・・。自分の前方に角錐を展開するイメージだっけ?うーん、よく分かんねえ・・・。」
「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分に合った方法を模索する方が建設的でしてよ?」
「セシリアの言う通りだ。ISは操縦者のイメージで動くんだから、教科書を忠実に守っても無駄になるだけだぞ。」

空中で唸りながら考える一夏を見兼ねて俺とセシリアが近寄ってアドバイスをする。っていうか一夏、操縦中に考え事するの止めとけ。慣れない飛行中にそんなことしたら、最悪墜落するぞ。集中、集中。

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。何で浮いてるんだ、これ?」

なおも首を傾げる一夏。まあ、飛行機とは明らかに違うからな。俺もまだ教えてないし、納得できないのも無理はない。まあ、理解しなくても飛べるんだけどさ。

「反重力力翼と流動波干渉のお話になりますが・・・。」
「分かった。説明しなくていい。」

セシリアの言葉を即座に遮る一夏。小難しい単語を並べた途端に露骨に嫌がりやがって・・・。そういう向学心のない学生にはとびっきりの補習を用意してやろう。

「よし、一夏。今日の放課後補習はそのテーマでいこう。」
「え、マジ?」
「おう、マジ。」

がっくりと肩を落とす一夏。理屈さえ分かればイメージも掴みやすいかもしれないし、悪くない話だと思うんだが。まあ面倒なのは保証してやるよ。

「そういえば零さん、昨日のあの言葉、どういう意味ですの?」

一夏がハイパーセンサーの使い方をチャックする傍ら、セシリアが俺に問う。はて、俺何か変なこと言ったっけか・・・?

「何の話だ?」
「昨日、零さんは一夏さんに負けたって仰っておりましたが、わたくしにはその言葉の意味が分かりかねまして・・・。」

ああ、そういえば言ったな、そんなこと。今思えば一夏にすら説明してないんだから、事情を何一つ知らないセシリアには意味不明だったか。

「言葉通り、負けたんだよ。」

俺はノルマの件についてセシリアに手短に説明した。自分との戦いでもノルマが課せられていたことに多少不満そうだったが、特に気にしないことにする。俺にじわじわ嬲り殺されるより余程マシだったと思うのだが。プライドが高いってのも考えものだな。

「でも零、俺との試合のノルマは達成したんだろ?確か、武器とパッケージ使っちゃいけないってやつ。」

あ、一夏聞いてたのね。新しいオモチャを与えられた子供みたいにキラキラした目でハイパーセンサー使ってたから放っておいたんだけど。まあ一夏は当事者だし教えておく必要もあるだろう。

「誰もノルマが1つだなんて言ってないだろ。もう1つあったんだよ。」
「もう1つ?何だよ?」

あれ?俺結構あからさまに変な戦い方してたよな?考えれば分かりそうなもんだが・・・。

「『戦闘中、戦闘開始地点より一定距離以上の移動を禁止する』、これがあの時のもう1つのノルマだ。」
「それは・・・。可能なんですの?」

俺の言葉の意味を理解しきれていない一夏は首を傾げたまま黙っていたが、セシリアには事の重大さが伝わったようで思わず驚嘆の声をあげた。

「まあセシリア相手なら無理だろうが、一夏の場合は近接武装しかないから問題ないのさ。ただ、回避行動に制限がかかったのには苦労したがな。」

思い出してみるとなかなか無茶苦茶なことをやっていた気がする。俺は防御より回避の方が得意なのを知っててあの鬼教師は・・・。つくづく恐ろしい。

「自分から攻撃にいけないってのはキツいな・・・。俺と《白式》じゃ絶対無理だ。」
「それは当たり前だ・・・。」

当然のことを然も感心したように言うんじゃない、一夏。『雪片弐型』しか武装のない近接特化の《白式》にそんな芸当できてたまるか。

「じゃあ最後に突っ込んできたのが敗因ってことか。何でそんなことしたんだよ?」
「言ったろ、クラス代表になんて興味ないって。わざと負けてクラス代表になりにくい状況を作りたかったんだよ。」

あの場面で俺が勝利した場合、俺のクラス代表就任は否応なく決定していた。千冬さんが担任である以上、拒否権なんて存在しないからだ。だが俺が負ければ事情が変わる。

「お人好しの一夏は敗北を理由にセシリアに代表の座を譲るだろうし、セシリアが俺を推す場合は、俺は一夏との試合に負けたことを盾に一夏に押しつけられる。結局クラス代表を回避できる可能性が高まるって訳だ。」
「意外と深慮を伴ってますのね・・・。」

これはただの建前。本音は、あの試合はとにかく一夏の慢心を消し去ることが最優先事項だったから。しかしクラス代表になりたくなかったのもまた事実。だからあんな回りくどい真似をしたのだ。結構大変だったんだぞ?お前に完全勝利したように見せかけるの。戦い慣れた手練れが見れば、俺の不自然な回避や攻撃から見破られてもおかしくなかったし。まあその創意工夫よりも千冬さんの説教の方が遥かにキツかったけど。

『一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!』

オープンチャネルから突然箒の怒鳴り声が流れてきた。何事かとハイパーセンサーを駆使して地上を見下ろすと、箒が山田先生のインカムを奪い取っていた。あいつって一夏のことになると途端に分別がなくなるな。山田先生もオロオロしてるだけだし。もうちょっと生徒相手に強気に出てもバチは当たらないと思いますよ?

「スゴいな、箒の睫毛までバッチリ見える。」

怒鳴られた一夏は特に気にすることなく、ハイパーセンサーの精度の高さに感心を示していた。俺はその暢気さに感服するよ・・・。本当に良くも悪くもいい性格してるよな、お前って。

「これでも機能制限がかかっているんでしてよ?元々ISは宇宙空間での稼働を想定したもの。何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するためですから、この程度の距離は見えて当たり前ですわ。」
「へぇー、そうなのか。」

へぇー、じゃないだろ。それ、この前の授業で習ったろうに。次の補習のメニュー、追加決定だな。・・・お、箒の奴、千冬さんの出席簿の餌食になってる。ご愁傷様、完全に自業自得だけど。

『神裂、織斑、オルコット。急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10センチ、神裂は5センチ以下だ。』

愉快な光景を眺めていると、千冬さんが箒から分捕ったインカムを通して指示を出してきた。おい、教師。実力の差があるからってあからさまに生徒を差別するんじゃない。そしてインカムを早く隣で涙目になってる相方に返してあげなさい・・・。

「では、お先に。」

セシリアが一言言った後に先陣を切って地上に降りていく。ふむ、なかなか上手いものだ。代表候補生は伊達ではないな。完全停止も問題ないようだ。

「一夏、頑張れよ。」

俺はそう言い残してセシリアに続く。猛スピードで近づく地面との距離を正確に見極め、タイミングを見計らって足を下へ。地表ギリギリで急ブレーキをかける。スラスターの風圧で地面の砂がフワリと舞う。

(地表との距離は・・・、約3センチだな。上出来だ。後は一夏だけだが・・・。)

見上げると、早くも一夏が地上に向けてグングン加速している。・・・おい一夏、元気なのは実に結構なんだが、距離の割に速度が全然落ちていないように見えるんだが・・・?
ドオォォォン!!
凄まじい轟音と共に目の前が大量の砂煙に覆われる。あー・・・、とりあえず一夏は着地したな。え、失敗してるって?いやいや、着地自体は成功したよ?無事じゃないだけで。着地の方法が世間一般では「墜落」って言われてるだけで。

「馬鹿者。誰がグラウンドに穴を開けろと言った。」

派手に激突したが、《白式》のおかげで一夏には怪我一つない。それにしても、これはまた立派なクレーターだこと・・・。

「しっかり元に戻せよ。勿論、一人でな。」

千冬さんの手厳しい通告にガックリと肩を落とす一夏。この規模の大穴を埋めるとか、考えただけでも面倒だ。強く生きろよ、一夏・・・。  
 

 
後書き
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