アーチャー”が”憑依
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十話
「もう一度言ってくれるか?」
「ですから、修学旅行で先生はどのような対応をするのか、と」
そういえば、もうすぐのはずだが自分はまだ行き先を知らない。自分で調べなかったのは不味かったと思うが、ここまで耳に入らないものか? そう思ったが、今は刹那の真意を問うのが先だ。嫌な予感しかしないが。
「すまんが、私は修学旅行で何処に行くのか把握していない。その様子だと何かあるようだが……」
「え……あの、本当に何処へ行くか知らないんですか?」
返事を返してやると刹那は呆気にとられた、と言わんばかりに口をポカンと開けて固まってしまった。普段しっかりしている刹那にしては珍しい顔で見ていて面白いが、これで何か面倒があると分かってしまった。
「真名、修学旅行先は何処だ?」
「本当に知らなかったのかい? ……京都だよ」
「……本気か?」
「さてね、私には学園長の真意は測りかねるよ」
恐らく、あの奇怪な形をした頭の中など誰も分からないだろうと……私はそんなアホな事を考えてしまう程に、呆れてしまった。
翌日、私はHRが始まる前に学園長に呼び出された。何の用かと思えば案の定、修学旅行についてだった。だが、幸運な――まぁ当然のことなのだが――ことに行き先である京都の組織、関西呪術協会が難色を示しているとのことだ。大体、魔法関係者のいない普通のクラスはともかくウチのクラスが行けるわけがないのだ。
「しかし、行き先を変えようにも裏の事情を知らぬ一般の先生が既に宿や新幹線の手配も済ませてしまってな。今更変えるわけにもいかんのじゃよ」
「生徒の安全を考えるなら無理にでも変えるべきでは?」
「そうなんじゃが……一般の先生方を納得させる理由がのぉ」
ようやく分かった。コイツは何が何でも京都へ行かせるつもりだ。方法などいくらでもある、最悪暗示をかければ済む話だ。学園全体に認識阻害を張り巡らせているくせにその程度に気付かないはずがない。一体何を企んでいるのやら……
「それでなんじゃが、ネギ君。君に一つ任務を頼みたい。重要な仕事じゃ」
「内容を聞きましょう」
親書、か。話を聞き終えたが、どうにも言葉の通り受け取れない。何か別の者が隠れている気がしてならない。だが、断った所で京都に行かなければならないことには変わりない。
「分かりました。関西呪術協会長への親書の受け渡し、引き受けます」
とりあえず、刹那……それに真名を必要経費として雇って対策をねるとしよう。だが、これだけは分かっている。最も優先すべきは親書ではなく……極東最大の魔力の持ち主、近衛木乃香だ。
「ううぅ……」
「そろそろ泣きやんでくれ。こればかりはどうしようもない」
旅行用バッグに荷物を詰める私の周りを相坂が涙を流しながらくるくると回る。彼女だけが、修学旅行に参加することが出来ないのだ。エヴァも呪いが解けたことを学園に報告していないため正式には不参加だが、後から転移でくるつもりだと言っていた。
「みやげを買ってくる。だから今回は辛抱してくれ」
相坂と会ってからと言うもの、エヴァや刹那と相談しながら何とか相坂の行動範囲を広げようとした。何か媒介、もしくは人物にとりつかせるという案に落ち着いたのだがいかんせん、相坂は素人幽霊なのだ。
こればかりは誰もアドバイスなどを行えず、相坂が頑張るしかなかった。結果、短時間なら対象の変化に成功した。だが、修学旅行の間中となると不可能と言わざるを得ない。
「まってますからねぇ」
「ああ、分かっているさ」
修学旅行当日まであと三日。短い時間だが、できるだけ相手をしてやろうと思いながら準備を再開した。
「ご機嫌だな」
「当然だ!」
今日も今日とてエヴァ宅にて修行を行おうとしていたのだが……エヴァが終始にやけており、はっきりいって無意味なものとなっていた。そのため、早々に切り上げたわけだがエヴァの笑みはおさまる気配がない。
「マスターは呪いが解かれたその日からずっと楽しみにしていましたから」
「ええい! そんなことは言わんでいい!」
声は怒っているが顔は笑ったままだ。よほど楽しみなのだろう。いまいち、自分にはよく分からないが……
「何だその顔は」
「何、純粋に楽しもうとしている君が羨ましかっただけだ」
ただでさえ修学旅行中の教師は生徒が問題を起こさないか気を張らなければいけないのだ。生徒と違い、楽しむと言った要素は限りなく薄い。それに、学園長が寄こした問題ごともある。とてもではないが、楽しめるとは思えない。
「ふん。爺の頼みごと等放っておけばいいものを」
「そうもいかんさ」
「貴様はもっと適当に生きるべき……ん?」
「どうした?」
「侵入者……いや、サイズ的には式か使い魔だな」
どうやら、学園に張られている侵入者探知の結界が反応したようだ。ちなみにこの結界、登校地獄を解除した際にエヴァとの繋がりが断たれ、後から急ぎ繋ぎなおしたという経緯があるが、それはまた別の話だ。
「私が行こうか?」
「……そうだな、お前に任せる」
既に用もないし、特にこの後用事があるわけでもない。それに人が侵入したならともかく今回は使い魔の類だ。エヴァ曰く、使い魔なら無理に発見する必要は無い……と言うより発見できないらしい。必ずしも発見しなければいけないわけではないなら、散歩がてら引き受けるのもいいだろう。
「ではな」
「ああ、どうせ見つからんだろうが連絡は寄こせよ」
ああ、と返して茶々丸と世間話をしていた相坂を伴いエヴァ宅を後にした。
「さて、エヴァの言によればこの辺りのはずだが」
「何もいませんね」
エヴァに聞いた結界に反応があった辺りに来てみたが、辺りには何もいない。まぁ、侵入した場所に能々と居座るわけもないので当然なのだが。
「さて、どうしたものかな」
周囲に人がいないのは分かっているが、無闇に魔法も使うわけにもいかない。エヴァの言った通り、使い魔程度の侵入を見つけるのは非常に困難なようだ。
「あら? ネギ先生、あそこを見て下さい!」
「どうした、何かいたか?」
相坂が目の前に躍り出て手をワタワタと動かしながらとある方向を指さしている。落ち着け、と言いたかったが聞き入れられそうもなく、言われるままにそちらを見やる。
いたのは、尻尾の先端部のみが黒く他は真白い毛で覆われた……
「ネギの兄貴! お久しぶりっす! アルベール・カモミール、遅ればせながらはせ参じたぜ!」
ウェールズの地で友となった、オコジョ妖精だった。
これにてピースは揃い、物語は麻帆良より西の地。”京都”へと移り変わる。
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