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ラ=トラヴィアータ

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第六章


第六章

「それじゃあ」
「そう。来てくれるのね」
「有り難うございます」
 彼の方から述べた言葉だった。
「それじゃあ。今夜ですね」
「七時半にヴィオレッタというレストランに来て」
「ヴィオレッタ!?」
「これだけでわかるから」
 ここではこう言うだけであった。
「話を聞けば。それだけでね」
「それだけでわかるんですか」
 剣人はその話を聞いてそのヴィオレッタというレストランが相当格式の高いレストランであることを察した。ならば彼にとっては由々しき事態であった。
「それじゃあですね」
「ええ」
「七時半にヴィオレッタですね」
「そうよ」
「ネクタイですよね」
 それで来なければいけないことを察したのである。
「僕。それ来てきますので」
「ええ。楽しみにしてるわ」
 圭はここでも表情を変えないのだった。
「じゃあ。七時半にね」
「わかりました」
 こうして彼は圭とそのヴィオレッタというホテルで夕食を一緒に食べることになった。彼はすぐに家に帰ると一張羅のそのスーツを取り出して来てそのうえで携帯でヴィオレッタというレストランを調べた。するとそのレストランのホームページが出て来てそれで場所を確かめたのだった。
「よし、ここだな」
 それを確かめてからスーツを着て用意する。シャワーも事前に浴びている。こうして身支度を完全にしてからレストランに向かうのだった。
 レストランにはタクシーだった。そのタクシーで店の前に来るといきなりフランスの宮殿の如き門がそこにあった。まずはそれに驚かされたのだった。
「凄いな、何てお店なんだ」
 まずはその外観に言葉を失う。しかもそれだけではなかった。
「もし」
 ここで彼に声をかけてきたのは執事の様な服を着ているウェイターであった。これまた身だしなみも仕草も見事な美青年である。
「お客様ですか」
「あっ、はい」
 剣人は戸惑いながらも彼の言葉に応えた。
「そうですけれど」
 答えはしたが戸惑っているので目は泳いでいる。その泳いでいる目に辺りが目に入る。立派な夜景が見え空は夜になっていた。しかしそれは今は目に入るだけだった。
「失礼ですがお名前は」
「野上剣人です」
「野上様ですか」
「はい、そうです」
 そのウェイターの言葉に対して頷くのだった。
「ちょっと。ここに来るように言われまして」
「どなたからでしょうか」
「羽田さんです」
 彼はこの問いにも答えた。
「羽田圭さんですけれど」
「羽田様ですか」
「はい」
 またウェイターの言葉に答える。
「そうです」
「畏まりました。それではですね」
 ウェイターはそれを聞いただけでわかったようだった。静かに左手を店の入り口の方に向けてきたうえでまた彼に対して述べてきたのだった。
「こちらに」
「入っていいんですか?」
「私が案内させて頂きます」
 こう彼に言うのだった。端整な動作と声で。
「ですから。こちらへ」
「わかりました」
 とりあえず彼はその言葉に頷いて後についていくだけだった。そのあまりもの見事で豪奢な店の外装とウェイターの気品のある動作に何も言えなかったのだ。何はともあれ彼は店の中に入った。するとその店の中がこれまた彼にとっては驚くべきものだった。
「なっ・・・・・・」
 外観もそうだったが内装もこれまた宮殿の様であった。大理石の床にビロードの絨毯が生えている。柱は磨かれまるで鏡だ。階段もみらびやかなものでこちらも宮殿のもののようだった。そこの広間にある様々なテーブルを見ながら彼はウェイターに案内されていく。そうしてそこで案内された席は。
「羽田様」
 彼はある席の前で立ち止まりそこにいる貴婦人の如き女性に声をかけた。するとそこにいたのは圭だった。髪を上で纏め紅いドレスを着ている。
「お連れの方が来られました」
「有り難うございます」
 圭はウェイターに顔を向けて静かに一礼してきた。
「それでは野上様。こちらへ」
「あっ、はい」
 剣人はここでもこのウェイターの言われるがままだった。引いてもらった椅子に座る。それは圭と正面から向かい合う席だった。そこに今座ったのである。
 席に座った彼に対して。圭は静かに口を開き言ってきたのだった。
「それでね」
「何ですか?」
「このレストランどうかしら」
 まずはレストランについて尋ねてきたのだった。
「気に入ってもらえたかしら」
「気に入ったっていうか」
 まだ唖然としている。そしてそれを隠すこともできなくなっていた。その声で言うのだった。
「こんなお店本当にあったんですか」
「フレンチの三つ星のお店よ」
「フレンチの三つ星!?」
「それはわかるわよね」
 剣人に目を向けて問うてきての言葉である。
「フレンチは」
「フランス料理のことですよね」
「ええ、そうよ」
「それはわかります」
 実は庶民暮らしで高校生の時に街を歩いていて声をかけられたのが彼のデビューである。外で食べるといえば食堂や中華料理店、後は回転寿司といったものでありこうした店に入るのは生まれてはじめてでもあるのだ。これは態度にもう出てはしまっていた。
 
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