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ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

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アインクラッド篇
第一層 偏屈な強さ
  閉ざされた世界の英雄

 
前書き
『色々≪運命≫には定義があるが、俺は必然と必然が連結したものが運命だと思う』

 

 
 今は亡きコボルドの玉座には、俺とインディゴ以外はもう誰もいない。

 少し前まではボス攻略に立ち上がったプレイヤー総数四十六人……いや、四十五人がいたのだが、第二層へと続く螺旋階段へ一人、そして四十二名が迷宮の塔から降りて行った。

 最初に降りたのは、元C隊のメンバーと片手で数えられるほどの数人だった。十人を下回る人数で、無言で迷宮区に戻っていく彼らに他のプレイヤーはついていこうとはしなかった。

 それから数分後、キバオウが大きな濁声(だみごえ)で塔から下ることを提案した。意気消沈な様子の他のプレイヤーは彼に殆ど追従した。残ったのはB隊とH隊と他数名だった。エギルがトールバーナへの帰還を誘ってきたが、俺とインディゴは断り、エギルとギアとアスナ達の背中を見送った。

 『二人で帰ることはできるし、ポットにも余裕がある。精神的疲労のほうが大きいから、もう少しここで休ませてくれ』それが建前だった。エギルもギアも察してくれたようで、安心した。

 ボス戦の最中、インディゴは俺に話したいことがあると言ってきた。俺もインディゴに話さなくてはならないことがある。だからこそ時間を設けるべきだと思った。これはきっと、二人にとって大事なことになるだろう。

 見えなくなったエギル達の方角から振り返った俺の視線の先には開け放たれた扉、その奥には螺旋階段がある。この階段を登れば第二層へと続く扉があるらしい。迷宮区をぐるりと廻るように造られているそうなこの豪勢な螺旋階段をたった一人しか使わないのはあまりにも勿体ない。

 俺は階段の一段目に腰かけ、インディゴに向かって手のひらで二度だけ招いた。インディゴが遠慮がちな様子で俺の横に座る。二人の間に生まれる僅かな沈黙のあと、俺は厳選した言葉で語りかける。できるだけ単調に、感情を乗せずに。そうとも、感情はまだ保留だ。

「だいたい、察したよ。君が俺に何を言いたかったのか」
「……そう。じゃあ、言ってくれないかしら。私はちょっと、……ね」
「ああ、隠したい気持ちは分かるよ。……そうだねまず、結論から言おうか。君は元ベータテスター、――しかもカタナスキルを知っている、上層まで辿りついたプレイヤー、だね?」

 彼女は一度だけ深呼吸をして、皮肉な調子で俺の問いかけに答える。

「――そうよ。そうね、私は元ベータテスター、今なら≪ビーター≫ってやつね。……どうして、分かったのかしら?」

 自虐的な諦めの表情の、何処か哀愁漂う雰囲気の彼女は、沈んだ声で言葉を投げた。できるだけ単調に、文字の羅列に潜む感情を押し殺して答える。

「気付いたのは、君がイルファングの野太刀に動揺したこと――なんだが、まぁその前からぼんやりと予感はしていたよ。そうだな。初めて出会ったとき、そのカイトシールドを手に入れるときに六度クエストしたって言っただろ? そこまでやりこむプレイヤーが、まさかアニールブレードを持っているもんか、って思ったんだよな。アニールブレードがアルゴの攻略本で出てきたころには、もうあのクエストの難易度はかなり上がっていて競争相手もかなり多くなっていたからね。今では八レベル程度で数日籠らないと自力での入手は難しいそうだ。喰い違ったんだよ、プレイヤー像が。あの段階で、アニールブレードを持っているプレイヤーは基本、情報屋から情報を買ったプレイヤー。けれどあのカイトシールドについては情報屋は知らなかった。アルゴからは武器とクエストの情報はすべて買っているから断言できる。つまり、カイトシールドはやりこみプレイヤーにしか気付けないことなんだよ。ここで違和感が一つあった」
「……でも、それじゃあ断言できないでしょう? 偶然だっていうことも、買ったていう線だって、十分有り得るわ」
「そうだね、あくまでこれは怪しかった点だ。有り得なくもないが、少々考えづらいってぐらいの点だ」
「……他にも?」
「ああ、一つ言うならレベルもか。レベル十三、ちょっと高すぎたな。キリトはビーターだから分かるとして、君のレベルは不思議だった」
「――それも、そうかもね」
「あとボスの扉を発見した時のこともだ。――思えば、あれは君があそこまで誘導したんだよな? 歓声が聞こえる範囲まで。これも偶然で済ませられるけど、君が大体の扉の位置を知っていたから、というほうがしっくりくる。あの後、ディアベルと一緒にボス部屋に突入したのもボスの力量を知っていたからだろ?」

 迷宮区慣れしていない俺は、インディゴに先導される形で≪攻略≫をしていた。進路を決めたのはインディゴで、たまに俺が進行の方角を決めようとすると『そこは探索済みだから』とか『トラップがあるから』といってやんわりと断られていた。あれはディアベル達が扉を開けるのを待っていたのだろう。

「…………そうよ。……貴方の、言う通りだわ」 

 肯定の言葉を述べる彼女の表情はとても(つら)そうだ。今にも胸が限界まで縮んでいって倒れてしまいそうな顔色だった。その理由を、俺は知っている。それが≪ビーター≫だからではないことも。

――救ってやることはできないけれど、俺の選択は最善ではないかもしれないけど。俺は言わなければならない。

「でも、そうじゃない。いや、あの時に君が俺に打ち明けようとしていたことは、そこまでだったんだろうな。だが、君の秘密はこれだけじゃない」
「……」
「君はディアベルと関わっていた。恐らくは――何かしらの協力関係にあったんだろ?」

 彼女は観念したように、一度だけ大きく(うなず)いた。俺は言葉を続ける。

「ボス扉の前で、君は真っ先にディアベル達を見つけていたが――あれは≪索敵スキル≫じゃ有り得ないんだ。索敵スキルで確認できるのはプレイヤー、もしくはモンスターの存在だけ。ましてや『プレイヤーがディアベル』なんてのは分からない。……隠蔽スキルに≪暗視≫という応用能力(モディファイ)がある。つまり≪暗視≫――暗い場所での視界取りは隠蔽スキルの範疇ってことだ。そこから推理したよ。君のスキル構成は聞く限り、≪片手剣≫≪盾≫≪武器防御≫≪索敵≫だったからね。隠蔽スキルの暗視を持っていないと、そう判断した。となると何故知っていたのかという点だが、事前に知っていた――というなら合致するな、と」
「そこから、ディアベルとの関係性をね……。名探偵じゃない、貴方」
「……一度そう推測すると、ディアベルの関係性を示唆する発言はいくつかあったな。君の髪の色の件とかな。ディアベルに関しての君の反応とかもそうだ。ラストヒットのあたりはもう気づかれる覚悟で攻めてきてたよな」
「……ええ、おおむね貴方の言う通り、ね。でも付け加えることが一つあるわ。――ディアベルがキリトくんのラストヒットを邪魔しようとしたことは知っているかしら?」

 記憶を辿り、キバオウがキリトからアニールブレードを入手しようとしていたことを思い出す。あれはディアベルの策略で、それにインディゴも一枚噛んでいたのか。思考の最中で「ああ」と言い、記憶の逡巡が終わるよりも早く彼女は続ける。

「私の役目は、キリトくんとの接触と監視……と言っても、ラストヒットに割り込むときに口出しして邪魔するだけの予定だったんだけどね。キリトくんを誘えたまでは良かったんだけど……」
「そういえば、キリトを見つけたのは君だったな」
「貴方が誘わないから、焦ったわよ」

 青い瞳が皮肉を含めてこちらを見る。何処から手に入れたのか、俺とキリトがフレンド関係という情報をいつの間にか彼女は知っているようだ。

「≪鼠のアルゴ≫――じゃないな。それならこっちにも話が回ってくるはずだから――尾行……も考えにくいな。ああー、んー?」
「もっと単純、洞窟の出口で見たのよ。そのあと食事に入った店でバッタリ、ね」
「成程な、そこらへんは偶然なんだな。じゃあキバオウのことも?」
「勿論、知っていたわ。――私は、ラストヒットを手に入れることはベータテスターと新規プレイヤーの溝を深めかねない、って言ったんだけどね。特にキバオウを仲介役にするのには危険だと思ってた」
「……」

――溝を深めかねない、だって? 

 何を言うべきか分からず、言葉を見失ってしまう。青色の騎士二人の関係は、協力関係――それもただのパーティーではない、≪攻略の親密な仲間≫だとは思っていた。だが今の発言から察するにベータテスターとしてインディゴが立ち振る舞っていたように思える。俺の思考を先回りするように、インディゴは言う。

「ええ、貴方が思っている通り、私とディアベルはベータテスターと新規との確執を取り除こうとしていたわ。ディアベルもまた私と同じベータテスターで、昔のアインクラッドでの最初期のフレンドよ。後半期にはディアベルは忙しくて私だけ先行してたんだけどね」
「……ディアベルはカタナスキルのことを知らなかったから、ベータテスターじゃないと思ったんだけどな。そうか、純粋に知らなかったんだな」

――となると、思ったよりも、業が深いぞ。

 ふと脳裏に湧き出た文句はすぐに彼女の声に掻き消された。

「今回の攻略でディアベルが生き残っていたら、ベータテスターであることを公言する予定だったのよ。ベーター断罪の騒動を、一層攻略でケリをつけるつもりだったんだけど」

 落胆気味に語るインディゴは溜息をついて肩を竦ませる。ディアベルとインディゴの目的は≪元ベータの救済≫、となるとラストヒット妨害の狙いは――。

「キリトのラストヒットを妨げようとしたのはそのためか? 火のないところに煙は立たない、火の元はキリトだろうってか?」
「別に今回の騒動をキリトくんのせいにしているわけじゃないわ。ベータでのキリトくんは悪名高かったのよ? ボスのラストヒットを全部掻っ攫ってたから。フロアボス攻略で何かしらヒューマンエラーがあるならそこからだろうって結論に至って、念のために手を打っていたのよ。……それも、無駄だったけど」

 ボス戦の最後の最後で、キリトはベータテスターとして誰よりも困難な道を選んだ。新規らは彼を悪のビーターとして怨まれ、ベータテスターからは隠れ蓑として利用されながら関わっていくことだろう。インディゴ達の懸念は、まったくの的外れとなったのだ。キリトは罪を背負って、闘い続ける。

「ディアベルが死んだのは私のせいだわ」

 懺悔のような悲痛さのこもった、少女の重い言葉が架空の世界に沈んだ。隣の彼女は、深く深く項垂れながら、言葉を続ける。

「私は、カタナスキルを知っていたけど教えなかった。教えていれば、ディアベルは少なくともあのイルファングでの攻撃では死ななかったはずだわ。……なんで言わなかったんでしょうね。あの時は言う必要がなかったとはいえ言える機会はあったのに……お互いベータテスターとして判りあっていたのに。結局、私もディアベルには何も教えなかった。私も根っこの方では仲間にさえ情報を出し渋っている……。悔やんでも、悔やんでも悔やんでも悔やんでも! ――悔やみ、きれない……」
「……」

 ディアベルがラストヒットに固執したことが原因だから君が責められることはない、そんな言葉を思い浮かぶが、すぐに下げる。彼女に必要な言葉は責任逃れの言葉じゃない。それは当人にもきっと気付いているはずだ。

「君に罪はない、だけど後悔と自責がある。だから君は苦しんでいる。そういうことだろう? それは、それはとても大事なことだ。彼の死は取り返しのつかないことで、贖罪なんてできないことなのかもしれない。でも、それでいいんだ」

 そう、それでいいんだ。罪悪の意識に苦しむかもしれない。無罪の理由が受け入れられないかもしれない。理性とはそういうもんだ。そうあるべきなんだ。

「君に出来ることは、悔いること。たったそれだけで、それだけで十分なんだ。戦争ってのは免罪符にされやすい。無罪の札に甘えないでいることが、せめてもの――」

 せめてもの、なんだ? 贖罪でも免罪符でもないなら、それは……。

「せめてもの、≪手向け≫。死に意味を持たせてやることが、彼らの誇りになる。それは俺にも言えることだが、な」
「……貴方は、私とは根本的に違うみたいね。まるで別の時代の人みたい。……私には輪郭でしか貴方の理屈がわからないわ」
「あー、そういうのには慣れてる。君は変なところで命を張るんだねって、よく言われたよ」

 失敗したかと落胆する俺の横で彼女は立ち上がり、数歩前に出て俺に背を向けたまま視線を上空へ投げる。大きな呼吸音の後、彼女は気丈な声を張って言った。

「でも参考になったわ。そうよね、こんなところで立ち止まってちゃ闘った意味がないよね。強く振る舞うことは簡単で、闘い続けるのは難しい。でしょ?」

 彼女の様子に安堵の息が漏れる。安心した俺は言葉を選ばずに自然にひとつだけ話した。

「気に入ってくれて、なによりだ。――それは俺の生き様でもあるんでね。大事にしてくれ」

 俺が投げた声に彼女は唐突に不自然な様子で静止し、数秒後、振り返った。顔は無表情だった。その顔が俺に聞いてきた。

「生き様……。ねぇ、貴方は一体何者なの?」
「……」
「私は一時期、貴方がビーターだと思ってたわ。辺鄙な武器ジャンルである≪手甲剣≫は新規プレイヤーが持つ武器とは到底思えないのよ。その武器をメインにしていたプレイヤーはベータには一人もいなかった。ゲームオーバーが死へと繋がらない時代でも、それを使いこなすプレイヤーはいなかった。ましてやボス戦では一度も見たことがないわ」
「成程、だからアルゴがこの武器については疎かったんだな。需要も提供者もないんじゃあな」
「……それにレベルもおかしい。高すぎるわ。確かに現段階においてレベル十三とレベル十二には大きな溝があるけど、どれだけMMOが得意でもその武器でそのレベルはハッキリ言って異常だわ。ギアくんのレベルを見ればよく分かるわ。ソロプレイ片手剣という効率重視のスタイルで、彼のレベルは十だった」
「案外、上には上がいるもんだ」
「……他MMOでの上位層は無謀な攻略で死んでいったわ。聞いたでしょう? 戦闘で死んでいったプレイヤーの殆どがベータの情報を持たないMMO中毒者ばかり、それも貴方のような短所の多い装備じゃなく生存率の高めたマトモな装備のプレイヤー。中にはベータテスターでMMOゲーマーでも死んでいく人はいたわ。……貴方と彼らの違いは? ただのMMOプレイヤーじゃ到底、説明がつかないわ」
「そんなに知りたいのか?」
「ええ、とても」
「……わかった、教えよう」

 できれば言いたくないし、言ったところで証明できないことだ。言い訳っぽく聞こえるだろうし、自慢にも聞こえるだろう。本当に、この事実だけは向こうでもこっちでも損しかしないものだ。

「俺と彼らの違いは≪情熱≫だ。ゲームを≪暇つぶし≫や≪現実逃避の手段≫や≪交流の場≫として活用しているプレイヤーと俺は精神構造的に違う。俺にとってゲームとは生存の延長線で、誇りと命を賭けることのできる唯一の存在だ。例えデスゲームとなろうと、俺の心は乱れなかった」
「……どういうこと?」
「わからないか? 無理もないさ。結局こっちはどいつもこいつも根っこのとこではゲームは遊戯だと信じているからな。SAOにやってきた自称猛者どもも、遊びとしてしかこの世界を受け入れていなかった。ただのお遊戯だというわけさ! だが俺は違う。茅場明彦のせいで難易度は跳ね上がり、死の危険もできた。だが俺は怯えない! 屈しない! 逃げない! 変わらない! 難しいならそれを超える技術を培えばいい! 死の危険があるから恐ろしいということには直結しない! この世界が百層までならすべて突破するまでだ! 逃げ出して失って見下され惨敗を喫し、一矢も報いることができないほうがずっとずっと(おぞ)ましい! ――それが彼らとの違いで、この俺の強さだ」

 爆発しそうな感情を抑え込み、二度三度呼吸を挟む。落ち着きを取り戻した俺は、唖然とする彼女に向かって、ゆっくり大きな声で最も重要な事実を最後に告げる。

「俺はプロゲーマーだ。世界最大規模RTSである≪PiratesAndPatriots(パイレーツアンドパトリオッツ)≫の二〇二二年度世界大会準優勝チーム≪ヴァイタルセブン≫のチームリーダーだ」

 空間が固まったかのような長い静寂のあと、藍色の彼女が困惑の表情を混ぜながら言う。

「……そのタイトルは聞いたことがあるわ。アメリカで主流とされている世界最大のオンラインゲームで世界大会の優勝賞金は確か――二百万ドル、二億円……」
「ああ、スポンサーもついていて給料もある。ちなみに準優勝は五十万ドル、三位と四位のチームは二十五万ドルだ。五対五の対戦ゲームだから俺の取り分は五分の一で十万ドル、一千万円だったな」
「私達とはキャリアが違うってわけね……。いえ、そうでもなきゃ納得できなかったわ……。プロ、だったわけ、ね」
「≪PAP≫は総合ユーザー一億人、同時接続数は平均五百万の超規模のオンラインゲームだ。ゲームは徹底された平等性のもとに運営され、新規と古参にデータ的な違いは全くない。育てた固有キャラは一戦毎にリセットされ、実力差の生まれる課金要素もなく、あるのはプレイヤースキルのみ。完全な実力主義のEスポーツだ。そんな中で世界大会に参加するまで強くなるには底なしの≪情熱≫が必要不可欠だったわけさ。――ワンマンアーミー、負けない立ち回り、危険の察知、タイミング、精密動作、反射神経、情報戦、撤退戦、追撃戦、チームワーク、指示系統、ビルド構成、学習能力、知識、直感――勝ち続けるためにはどれも最大限まで極めなくてはならなかった。そこで培った技術は、従来のMMOよりもずっとプレイヤースキル依存度の高いSAOにも応用できたよ。おかげで生き残れている」

 口からすらすらと出る言葉により昔を思い返しても、もう郷愁の心はない。そんなものは始まりの街に置いてきた。俺の流れるような言葉を聞いて目の前の少女の表情が複雑になる。俺にはその感情を紐解くことはできなかった。複雑に絡み合った毛糸のような表情が俺に問いてきた。

「後悔は、ないの?」
「ない」

 自分でも苦笑いするほどの即答だった。

「俺はこの世界のために生まれてきたのかもしれない。必然、だとさえ思っている。俺がプロになったのは必然だった。ゲームへの情熱でプロになった俺が、新時代のゲーム≪SAO≫にやってくるのも必然で、茅場明彦がデスゲーム化を実行したのも必然だと思っている。これは逃れられようのない運命、逃れる必要のない運命だと俺は解釈している」
「……」

 返答はない。一瞬の沈黙を認識し、言葉を続ける。

「だからこそ俺は闘う。誇りと情熱、あとついでに命も賭けてな」
「……もしこのゲームに終わりがくるなら貴方の手によって終わるでしょうね。貴方は――貴方は強すぎる」
「いいや、強いんじゃあない。闘い続けているだけだ。闘い続けることに抵抗がないだけだよ。ま、実績のあるただのゲーム馬鹿だ」

 真面目に話し過ぎて気分が悪くなりそうなので、最後に肩を竦ませて立ち上がる。大きく伸びをして、ついでに欠伸も。インディゴはそんな様子の俺に呆れたように頭を左右に振るっている。
 
「本当、よくわかんない人ね。闘ったり怒鳴ったり寝ぼけたりふざけたりして」
「ピエロと言ってくれ、アイ」
「アイ?」
「君の渾名(あだな)だよ、藍色の藍に、インディゴの頭文字の≪(アイ)≫。だから君の渾名が≪アイ≫。どうだ? いい渾名だろ?」
「……まぁいいけどね、他の人がいるところでは使わないでよ。教えるのもナシでお願いね、スバル」

 苦笑のような微笑のような、判断しづらい表情で俺の言葉に応える。肯定の二つ返事で返し、ふと螺旋階段の奥の大きなカーブに目を遣り、思いつくままに藍色の彼女に向かって喋る。

「アイ、君は第二層の構造知っているよな?」
「……ええ、知ってるわよ」
「帰って男達が泣いてるだけのお通夜会場に行くこともないだろ。上に行っちまおうぜ」
「いいの? 変に疑われるかもしれないわ」
「構うもんか。そんな下らない評判で俺の自由を制限できるだなんておこがましいぜ。プロゲーマーにゃ根も葉もない悪い噂はつきもんなんだ。むしろそれでやっと一人前ってところだ」
「荒れてる業界ね……」
「んで、どうする? 行くか?」

 少し考えるような、顎に手を置いて首を傾けるという可愛らしい仕草のあと、気楽そうに、笑顔で彼女は返事した。


「行くわよ、何処までも。私はもう、貴方の大ファンになっちゃたんだからね」

 
 

 
後書き
いつも不思議でした。色々な職業、技術、ステータスを持っている人が偶然にもSAOに巻き込まれることは多いのにどうして必然的に事件に遭遇しそうな人達を主人公とした二次小説はあまりないんだろうと。
 そう思ってできた主人公が彼です。構想の最初はただのMMOジャンキーだったんですが、考えていくうちにもっとこだわりのもった人であって欲しいと思うようになり、最終的にプロゲーマーとなりました。というよりも構想を練れば練るほどプロでないほうが不自然に感じ、こうなっちゃいました。
 何処にでもいる少年では、むしろ途中で頓挫しそうなので今ではこれでよかったと思います。

 なんてったって英雄譚ですからね。強さが英雄の象徴ではなく生き様こそが英雄の象徴だと私は思っています。

 ああ、あとこういう伏線回収っておっそろしいほど難しいですね。推敲前に七千字超えたのはこれが初めてですし推敲を終えた今でも不自然な文だなぁと思います。ここは一応、第一部の締めでもあるのでちょくちょく手直ししていこうかなと思います。

 申し訳ありませんが更新をしばらく止めます。実は私、受験生なんですよ!
 
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