魔法薬を好きなように
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第25話 夏休み後半は
ティファンヌから(俺の得意な分野だけでもいいから)夏休みの宿題を教えてほしい。そういう意味にとった俺は、彼女に
「まずは、不得意な科目の宿題と教科書とノートを、見せてもらえないかな?」
魔法の方は教科書が無いので、ノートを見て判断するしかない。ティファンヌの専門課程は、風の系統だ。使い魔はツバメで、今は巣箱に入っておとなしくしている。
風の実力はドットだから、ライン以上の魔法はスペルの暗記ができているかの確認だけになるだろう。コモンや他の系統魔法は基本となる魔法とみなされるので、1年生の時に終わっていて、こちらはいまさらだ。
ティファンヌが選り分けてだした、宿題と教科書は、数学、理科、社会、古ルーンの4種類に対して、ノートは3冊だった。ノートの表紙をみて
「えーと、なんでノートは、教科ごとにわかれていないのかな?」
「うん? 学校では、多くの子がこういう風に、同じノートで1日を過ごしているよ」
「それは学校では、そうかもしれないけれど、予習とか、復習とかしていないのかな?」
「やってないわ」
悪びれずに言うティファンヌの言葉で、頭痛がしてきた。授業でこういノートの取り方は、予習か、復習をしっかりするのが前提なんだが、こういうところは、魔法学院内で教え合っていないのだろう。
「そうか。それで宿題の方には、魔法は無いみたいから、魔法は大丈夫だね?」
「大丈夫。まかせておいてよ」
予習も復習もなくて、他の教科がないのは幸いというか、ティファンヌには魔法学院の授業についていけるだけの能力が、あるといえるのだろう。
「得意とはいえないけど、覚え方ならわかる教科もあるから、これはこのままとして、夏休みの予定を、まずはきめていかないかい?」
「宿題と何か関係するの?」
「えーと、言いずらいのだけど、言わないといけないだろうなー」
「なに?」
「不得意な教科の中でも数学については、ノートを書き写すんだよ。それも1年生の分から行うこと」
「えー」
「数学は、過去につまづきがあると、後に響くものだから、仕方がないんだ。分からないところは素直に聞いてね。あと、夏休み明けからの授業は、家に帰ってきたらノートの書き写しを、各教科毎にノートをわけてすることをおすすめするよ」
「なんで、そんな面倒なことを」
「各教科単位で授業毎にノートをとる方法もあるけれど、可能なら予習と復習の両方……だけど、それが無理なら復習するだけでもおすすめだけどね」
「一緒なのね」
「そう。記憶の問題で、同じことを繰り返すほど、記憶は定着するというのが定説だから、この方法がおすすめ。まあ、ついていけている教科は行わなくて、ついていけない教科だけ、復習するというのはありだと思うけどね」
「ちょっと、どっちがいいのよー」
「こればっかりはやってみないとわからないなぁ。けど、苦手な教科の復習は、最低限必要だと思うよ」
「宿題を教えてもらおうと思っただけなのにー」
「宿題の根本は、習った内容を理解しているかの確認だからね。トリステイン魔法学院と同じなら、今度は今年の最後の月に試験があるんだろう? そこで、悪い点数をとらないためとしかいえないよ」
「うー。それじゃ、残りの理科と社会と古ルーンは?」
「理科と社会は、さすがに教科書やノートと比べながら、問題は解いてみないとどうしたらいいかわからない。だから、教えれるかはわからないけれど、宿題の片づけ方は、今言った方法だね。古ルーンはルーンと基本的に文法が一緒だから、苦手なのは、単語を覚えていないのが原因だと思う。だから、古ルーンはわからない単語とその意味を10回書くのかな」
「なんで、古ルーンをそんなにしないといけないの?」
「ルーンと古ルーンの関係は、トリステイン語にたいしてのアルビオン語やロマリア語と同じようなものだから、宿題のやり方はおなじようなもの。ティファンヌに得意な方法があるのなら、それでもかまわないと思うよ」
「ああーん。わかったわよ」
「そういうことで、時間がそれなりにかかりそうだから、夏休み終わりまでの計画をたてて、それに合わせて宿題や、過去の勉強を入れるのに必要なんだ」
ティファンヌはしぶしぶながら、この案を受け入れた。そうして、実際にうめていくと、
「しかし、こうやって見てみると、聞いた時よりは少ない時間でできそうだけど、最初の方って勉強ばかりね」
「かわりといえるかどうか、なんともいえないけど、きちんと予備日もとってあるだろう? 勉強がきちんとすすんでいたら、デートでも他に魔法学院の友人と遊ぶのにでも、転用できるからさ」
実際のところは、最初の方の予備日は、虚無の曜日以外は実質的に勉強をすることになるだろうと思っているが、そこはごまかすことにした。精神的に暗黒面へと落ちてほしくないからな。
「けど、平日の午前中って、勉強がほとんどね。どうにかなんないの?」
「夜にするっていうのもあるけれどね。復習の時間として身体をならすために」
「いじわるー」
「まあまあ。明日来た時には、集中力を持続させる魔法薬をもってくるから、それでなんとかしてくれないかな」
「そこは勉強ができるようになる魔法薬とかってないのー」
「残念ながら、直接的には無いね。集中力がアップすれば、学習した内容も頭に入りやすくなるから、勉強ができるようになる魔法薬とまではいえなくても、補助する魔法薬ってなるよ」
「ジャックが無いっていうのなら、無いのでしょうね」
「知っていたら、つくって売っているよ」
集中力を持続させる魔法薬というのは、栄養ドリンクのようなものだ。本来なら医師や薬剤師のつくるものだが、その内容から変更しているのは、お茶からカフェインだと思われる興奮物質を取り出したものを、これは錬金で作り出す。そして、一応、ノンアルコール仕様だ。他にも、アレンジしているので、依存症をおこさないようにしてあるつもりだ。
ティファンヌとは、ほとんど毎日一緒にいれることになって、うれしさ半分、悲しさ半分。今さら、また勉強かよと思いもあったりする。トリステイン魔法学院にいかなかったのは、文官になる気がなかったからなんだからなぁ。
勉強の日は、ティファンヌの家で、昼食をごちそうになってから、ベレッタ夫人をまじえて少しおしゃべりをすることになったが、このあたりは、魔法学院での話すスタイルと一緒で自分から、多くは語らないで、聞き役により多くとしている。アルゲニア魔法学院での授業終了の時間にあわせて、お茶を飲んでから、デートをする日と、勉強をする日に、しばらくはわけている。
デートの日は俺の家で、昼食を開始するか、2週に1回ぐらいは馬で遠出をする。その時のお弁当は、ティファンヌがつくってくれている。馬代は俺がもっているけどな。法衣貴族で馬を持っているのは、かなりな高位の官職についているものだからだ。
昼食後は、たまには俺の部屋で、香水をつくるところを見せて、好みの香りを楽しんでもらったりもしている。普段より、小ぶりの小瓶にして、多目の種類を試してもらっている。モンモランシーの関係もあるから、売り物にできないから、ティファンヌ専用の香水の調合屋みたいなものだ。
最初の虚無の曜日は、まことに残念ながらモンモランシーの護衛だ。ギーシュがいるのだから、それでよかろうが、契約は契約だから、おこなうしかない。昼食はちゃっかりとティファンヌも一緒にと、一見するとありがたい言葉はあったが、ティファンヌの食事代は俺持ちだ。
どこまで貧乏貴族なんだよ。
まあ、俺が素知らぬ顔をしていれば、美談になるし、俺にとっても、モンモランシーとギーシュの恋人同士なのか、そうでないのか微妙な雰囲気を気にしなくて良い時間がもてた。
翌週の虚無の曜日で俺の家で、親父と一緒に昼食をとった時には、あたりさわりのない話だったが、あとで親父から、
「お前って、あんな若い娘が好みだったのか?」
「おい、親父! 俺の年齢を何歳だと思っているんだ!」
単純に、俺が前世と今の年齢を足して、妥協できる範囲までの年齢の女性までを、お相手していただけで、恋人とか、結婚相手にするのなら、近い年齢をやっぱり選ぶぞ。世間体を気にしないのなら、前世の年齢で見合う相手でも、そこまでは気にならないが。
ティファンヌの宿題の方は、思ったよりも進み、予備日は、2回しか使わなかった。苦手な数学も、1年生の問題でつかえていたところを教えると、2年生の部分、ほとんど教えなくてもすむぐらいだ。幾何学はともかく、簿記が苦手というのは、家計簿をつけるのが苦手ということにつながるのだが、そこは将来の話だから、そこまで気にすることはないだろう。
元高等法院長のリッシュモンが、アルビオンの間諜だったという噂が、街ではきこえてきた。家では、案の定、親父が苦い顔をしていたが、あれだけの大物が、間諜だったとしても、証拠集めで気がつかれるだろう。
まあ、これで、終わりではなくて、他の調査中の間諜の証拠を見つけ出すのがむずかしくなったから、現在わかっている間諜を取り締まるのがせいぜいだろう。
夏休みも終わりに近づいて、ティファンヌの夏休みの宿題も無事に終わり、夕食にも招かれることも多くなっている。ティファンヌの兄たちとは、ほどほどに話もすることはあったが、父親とはまだあったことも無い。これは定職につけるまで、あきらめるしかなかろう。
一方俺も、自分の兄貴とは、朝食時の2回しかあっていない。
「兄貴。早く結婚したらどうだー」
「気が向いたらな」
「そんなんだと、後ろから杖をふられるぞ」
「その時はその時までの人生だったのさ」
どこまで本気なのやら。
親父からは、相談があるということで
「まずこれを見てくれないか?」
そんなに厚くはない書類を見てみるうちに
「これ、本気で考えているの?」
「そうらしい」
見ていたのは『国軍編成諸侯導入案』という名の書類だった。
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