魔法薬を好きなように
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第24話 彼女の家で待ち受けていたのは
応接間に通されて、テーブルででは、ティファンヌの母親の前にすわることになった。ティファンヌは俺の横に座っているので、気分的には心強いが、顔をみるのは横をみなければいけないところが難点だ。自分の水の流れに注意をして、水の感覚にも注意をしながら、ティファンヌの母親にあいさつをあらためておこなった。
「はじめまして。おまねきいただきありがとうございます。ジャック・ド・アミアンと申します」
「よく来ていただけました、ミスタ・アミアン。わたくしはティファンヌの母親で、ニネットと申します。」
この反応だと、思ったよりは、簡単に済むかと思ったら、
「ティファンヌとは、どのようなおつきあいをなされているのかしら?」
「娘さんとは真面目な交際を、させてもらっています」
直球勝負で質問がきたなぁ、と思ったが、無難にすませただろうか。ここまではティファンヌも、その母親も、特に水の流れに変化はしょうじていない。
「ところで、娘とはいつ、知りあったのかしら?」
「昨年の春で、恒例となっている男爵家合同パーティの時だったと、記憶しています。その時には、若いご夫人が一人でいらっしゃっているのかと思い、ダンスに誘ったはずですので、間違いはないと思います」
封建貴族の男爵家が、こういう合同形式でおこなうのは少数派だから、他の封建貴族があまり良いイメージをもっていないというのはあるが、法衣貴族では、こっちの方法が主流派なので、この場合はパーティの形式を素直に言ってしまってよかろう。
踊りについては、誘われたのは俺の方なんだが、ティファンヌが一瞬どきりとしているな。相手が水メイジで、水の感覚に鋭敏だったらすぐにばれるが、ティファンヌの母親は、土メイジのドットだという話だから大丈夫だろう。まあ、ティファンヌへの視線は、そんなことしていたのという感じで視線を向けていたが。
「そうすると、その日はどうなさったか覚えてますか?」
「ええ。確か、最後の踊りを一緒に踊って、そのあと、お帰りになられたと思いますので、ちょっと遅めだったかなと思いますが、迎えの方がいらしているとばかり思いまして、一人で帰らせてしまったようです。その節は誠にもうしわけございませんでした」
って、途中で抜け出して、かりそめの愛の営みをおこなっていたんだけど、時間的にはあっているよな。
「いえいえ。ティファンヌがそのようなところに、行っていたとはつゆ知らず、こちらこそご迷惑でしたでしょう」
「男爵家主催のパーティには、自分も父の代理として何回かでていますが、たまには、独身女性の方もおひとりで参加されていますので、気にされる必要はないと思いますよ」
って、ティファンヌ以外では、まだ1人しかみかけたことがないけどな。しかも、比較的早い時間に帰って行ったはずだし。少なくとも最後まではいなかったよな。
「その後は、どのようにして付き合うことになされたのですか?」
「別な男爵家のパーティに出かけたときに、また、お会いいたしまして、そのときに、ご夫人ではなくて、ベレッタ男爵家の代理できている娘さんとおうかがいいたしました。それから、友人として何回か食事にさそわせていただいていました。このアパルトメンのあたりは、トリステインでも治安の良いところなので、遅くは無い時間でしたので、その場で別れておりました」
ティファンヌが、この嘘に心臓の動きが早くなっている。俺が騎士見習い時代は友人ということになっているのだから、しかたがないだろうに、そう思っていると、
「ティファンヌ!」
「は、はい。お母様」
「ミスタ・アミアンとは、そういうご関係でしたのね?」
「お付き合いする前は、その通りですわ」
心臓に対して、声は正常のようだ。
だが、これでわかったのは、ティファンヌの過去におこなっていたことと、俺の言っていることを比較しているのだから、付き合いの長さと深さを疑われているのか。思ったより慎重に言葉を選ばないといけないなと思いつつ。
「途中で娘と話し込んでしまって、すみませんでしたね」
「普通の母親と娘さんのご関係は、こういう感じじゃないのですか。もっとも自分の家は、男所帯だったので、よくは知らないのですが」
「男所帯? 気分を害されなければ、お聞かせ願ってもよろしいかしら」
普通は、こういうのはスルーするはずだが、こっちの事情を知りたいのか、知っている事と同じかをさぐっているのか。隠す内容ではないので、素直に
「父に兄と自分の3人です。母親は小さい頃に、亡くなりましたので、面倒をみてくれましたメイドの方が、母のような感じとして育ちました」
そのメイドには子どももいなかったし、俺が水のラインだった時に病気で死亡したのと、城の中に子どもがいなかったからなぁ。メイドの名前はエヴァだったから、その記憶を元に、使い魔の名前にエヴァとしてしまったっという記憶が連鎖的に思い出されてきた。
「それは、それは、大変だったでしょうね」
「家族としては、そのような感じでしたので、母親とその娘さんが話しているというのが珍しいぐらいでして。はい」
「そうでしたか……ところで、ティファンヌとは、いつからお付き合いを始められたのかしら?」
このままなし崩しに話をずらそうかと思ったけど、元にもどったよ。参ったねぇ。そう思いながらも、
「2ヶ月ちょっと前ぐらいです」
「お付き合いをしようと、思ったのはなぜかしら」
「ええ、その少し前にトリステイン魔法学院で学んでいる、モンモランシ伯爵家のご令嬢の護衛兼研究助手としてやとわれまして、一旦、期間をおいてから会った時に、ミス・ティファンヌのことを大事に思っている自分に、気がついたからです」
使い魔として召喚されたこと以外は事実だが、
「護衛ですか? たしかトリステイン魔法学院では、公爵家以上でかつかなりの金額の寄付金を納めないと、護衛とか使用人は一緒につけなかったはずですが」
この夫人、本人か少なくとも近親者に、トリステイン魔法学院へ使用人を一緒につれていかそうとしたのがいそうだ。下手なごまかしは、印象を悪くする。かなり悪い手札だが、開くしかないか。
「そうですね。実はモンモランシ伯爵家のご令嬢に、使い魔として召喚されてしまいました」
「あら、そうでしたの」
「……えーと、自分が言うのもなんですが、人間が使い魔になるって驚かないんですか?」
「公爵家の三女の使い魔が平民だったというのは、有名な話ですから」
「そうでしたか」
とは言うものの、使い魔であるというのは、定職につく上でやはり不利だし、法衣貴族の女性と付き合う上で定職をもっていなければ、やはり親は反対するのが常であろう。
「ところで、主人であるモンモランシ家のご令嬢は、ミスタ・アミアンの目と耳と共有できるのですか?」
「いえ、目も耳もできません」
「それなら、きちんとした職についていただけるのでしたら、娘とお付き合いするのは問題ありませんね」
「えっ?」
主人が使い魔に対して、目も耳も共有できないって信じるのかよ。
「不思議そうな顔をしていますね。実はわたしも使い魔だったねずみとは、耳が共有できなかったのですよ」
「はい? 本当ですか?」
「このようなことに対して、嘘をつくようなことは必要ありませんわよ」
「確かにそうですね」
「私も困惑を覚えて、王立図書館で資料を閲覧させていただきまして、『使い魔との目と耳の共有に関する研究』という学術書で、そのような事例が数年に1度の割合で発生しているという研究結果がでているのを存じていますの」
「そんな研究結果があるのですか?」
「だから、使い魔の能力として『目となり耳となる』能力が重要視されない、となったのではないかと、私は考えていますわ」
「経験者の言葉には、重みを感じます。また、将来にも展望が開けました。自分のほうこそ、今回ベレッタ夫人にお会いできて、光栄に存じ上げます」
「そんなことはありませんわ。それよりも、ティファンヌが夜遊びをしていたというのは、ご存知かしら」
「はい。お付き合いを申し出たときに、聞きました。同時に、清いということも聞いていますので」
「貴方は、それを信じますの?」
「はい。信じます。そもそも、最初に夜遊びしていたことを言った上で、そのようなことを言うなら、最初から、夜遊びをしていたとは告げなければ良いだけです。もし、自分の父が信じなかった場合には、ミス・ティファンヌには恥ずかしい思いをさせるかもしれませんが、自分の家がかかっている医師に診断していただければ、済む話ですし」
そもそも、俺の父も気にしないだろうし、今の医師の常識では、治せないということになっているからな。
「ティファンヌ。ミスタ・アミアンは、信用なさっているようだけど、彼の家がかかっている医師の診断まで受けても大丈夫なのかしら?」
「もちろんです。お母様」
「それならいいのだけど」
「何か、心配事がお有りなんですか?」
「夫が、貴方の素行調査の依頼をしていて、何回か、まかれたことを気にかけているのよ」
いきなり、ティファンヌからプレッシャーがかかってきた。過去のご夫人との浮気を疑っているのだろうけど、あまり女性には公にできない店に出入りしに行く時に、『遠見』の魔法を使ったと思われる視線を感じたから、それにともなった視線の回避をおこなったからな。
「もしかしたらご存知かもしれませんが、今の使い魔になる前は、魔法衛士隊の騎士見習いをおこなっていまして、護衛とかで怪しげな視線を感じた時には、それから避けるようにと習っていまして、それを実行していただけなんですが」
「素行調査のことは、気になさらないの?」
「父親が、娘の彼氏が悪いタイプか、そうでないかを気にかけるのは普通でしょうしねぇ」
それをおこなうなら、娘が夜遊びをしているときに調べろよなぁ。
「まだ、それならよいかもしれないのでしょうけど、夫がいくら言っても夜遊びをやめなかったティファンヌが、彼氏ができたと思われる時期から、夜遊びをしなくなったのを気に入らないみたいなのよね」
ああ、父親が、娘を彼氏に奪われたと思う嫉妬かぁ。これは、また、時間がかかりそうな問題だなぁ。
「遅くなりましたが、お茶でもいかがかしら」
俺はティファンヌのほうをみて、ティファンヌの反応を待った。
「わたしの部屋で2人っきりで飲みたいのだけど。お・か・あ・さ・ま」
「2人きりになるのは、いいけれど、婚約するまでは、羽目をはずさないようにね」
「わかっています」
そうして、ティファンヌの部屋に入った俺は、お茶がメイドによって持ってこられたあとに、サイレントをかけて、
「いきなり、母親に質問攻めにされるとは思わなかったよ」
「ごめんなさいね。今日は自室までは素通しで、少し部屋で話してからお母様と話すことになるかなと思っていたから、ちょっと失敗しちゃったみたい」
そのフレーズ、ルイズみたいだ。ティファンヌは知らないだろうけど。
「とりあえず、ティファンヌの母が言っていた、主人が使い魔の目や耳と共有できないのが数年に1度の割合でも発生しているというのを、トリステイン魔法学院や、魔法衛士隊に確認して、ミス・モンモランシに公式に認めてもらえれば、少なくとも、彼女が魔法学院卒業後に、騎士見習いとして復帰できそうで、よかったよ」
「そうね。わたしも一安心といいたいけれど、素行調査されている中、まいたって、どういうことよ」
「それなら浮気じゃないよ。ぶっちぇけ言うと、昼食を家でどうってさそったのは、デート代が、足りなくてさ」
「それって、ぶっちゃけすぎよ。けど、貴方がご夫人の浮気相手になっていないのは、それでわかるわ」
ご夫人から、お小遣いをもらっていたのは知られているし、こっちは知られていないが、その最中の話の内容によっては、親父に買ってもらっていたからな。
「その話はおしまいにして、もうひとつ話しがしたいことがあるの」
「なんだい?」
「えーと、夏休みの宿題があるんだけど、ジャックの得意な分野だけでいいから、教えてもらえないかしら?」
うーん。トリステイン魔法学院では夏休みの宿題なんてなかったはずだから、アルゲニア魔法学院の独特のものか。同じ学校なら、宿題を一緒におこなうのは、もう恋人同士の定番イベントなんだろうが、もしかすると、苦痛イベントにかわるかも。とほほ。
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