逆説ロミオとジュリエット
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
8部分:第八章
第八章
「トルコからのものでして」
「トルコからかい」
「はい、トルコからのものです」
こうロミオに話すのだった。
「受け取って頂けるでしょうか」
「有り難う」
ロミオは微笑んで商人に礼を述べた。
「有り難く受け取らせてもらうよ」
「はい、それでは」
商人はロミオにそのダイアの指輪を渡すとそれで姿を消した。ロミオはそれを見送ってから酒場に戻ろうとした。しかしその時であった。
振り返ったそこにだ。彼女がいたのだ。
「えっ、まさか」
「どうしてここに」
彼だけでなくだ。彼女も驚きを隠せなかった。
「どうして貴女がここに」
「家の者に連れられてここに来ました」
こう話すジュリエットだった。
「それでなのですけれど」
「それなのか」
「家の者は店に入って私はここに来るように言われたのですが」
「どうしてここに?」
「お兄様、いえテバルド様が待たせている者がいるからと仰って」
「待たせている者」
「はい、ジェノヴァの商人でした」
それがその待たせている者だというのだ。
「そしてその者からこれを受け取りました」
「それは・・・・・・」
見ればだ。それも指輪であった。今度はサファイアの指輪であった。
「その指輪を貴女にですか」
「贈りものだということで」
「そうだったのですか」
「その商人はもう帰りました」
奇しくもロミオの時と同じであった。
「しかし私はここで」
「僕と出会った」
「そうです。ですが私達はもう」
「殺し合うことになった」
ロミオはこう言ってだ。苦しい顔を見せた。
「だから僕は貴方を」
「私もです。私もまた」
ロミオは腰の剣に手をやった。ジュリエットも服からそっと短剣を出した。二人にそれぞれ危ういものも漂ってきたのであった。
しかしだ。ここでだ。ロミオが先に言った。
「しかし僕は」
「私もです」
ジュリエットも言うのであった。それぞれ眉を曇らせて。
「できない、どうしても」
「私も。そんなことは」
「貴女を殺すことはできない」
「殺すことは。けれど」
それでもだった。ここで言われるのだった。
「貴女からもう離れたくはない」
「この想いはどうしても消えません」
「ジュリエット」
「ロミオ様」
互いの名前を呼んで見詰め合う。
「忌まわしい、家同士の因縁なぞ消えてしまって」
「それで貴方と共に」
「何故だ、何故貴女はカプレーティの娘なんだ」
「どうして貴方はモンテッキィの方ですの?」
互いに苦しい声で言い合う。
「こんな運命は。消えて欲しい」
「そして貴方と共に」
「そうだ、それならだ」
「はい。どうされるのですか?」
「この街の司教様にお話してみよう」
ロミオはふとだ。ヴェローナの司教のことを思い出した。信仰心が篤いだけではなくだ。非常に公平で心優しい人物として知られている。二人の家の者達もだ。この司教については敬意を払っている。
ページ上へ戻る