ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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閑話ー聖槍と聖剣の英雄ー
71.霜の巨人
前書き
約半年間更新せずに放置してすみませんでした。
今助けてやっかんな!、とクラインは叫ぶと、左腰の愛刀を握った。次の瞬間、居合い系ソードスキル《ツジカゼ》が炸裂し、氷柱の檻を砕いた。
再び刀を煌めかせ、両手足を束縛していた氷の鎖を断つ。
「……ありがとう、妖精の剣士様」
「立てるかい? 怪我ァねえか?」
しゃがみ込み、右手を差し出す刀使い。
「ええ……、大丈夫です」
頷き、立ち上がった金髪の美女がよろけるのを紳士のようにクラインが支えた。
「出口までちょっと遠いけど、一人で帰れるかい、姉さん?」
「…………」
その問いに対して美女は眼を伏せてしばし沈黙した。
カーディナル・システムが備える《自動応答言語化モジュール・エンジン》とは、決められた受け答えをするというパターンリストの超複雑化したものだ。高度なNPCでは、プレイヤーと普通に会話をやってのける奴もいる。
それのわかりやすい例がキリトとアスナの娘であるユイだ。その域には及んでいないNPCとの会話の多くは、プレイヤーたちが正しい問いを探さなければいけない。
今回のケースもそうだと思ったが、NPCはクラインに新たな問いを口にする。
「……私は、このまま城から逃げるわけにはいかないのです。巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝を取り戻すために城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり捕らえられてしまいました。宝を取り返さずして戻ることはできません。どうか、私と一緒にスリュムの部屋に連れっていって頂けませんか」
どう考えてもクエストが始まるときのNPCの台詞である。
「お……う……むぅ……」
今度ばかりは、武士道に生きる男クラインも即答はできなかった。数メートル離れた場所から見守るキリトの隣で、アスナが小さく囁く。
「なんか、キナ臭い展開だね……」
「だなぁ……」
頷き返したキリトを、振り向いたクラインが情けない顔つきで見て、言った。
「おい、キリの字、シュウ公……」
「俺はかまわねぇけどどうするよ、キリト?」
大きなため息をついた後にキリトは答える。
「……解った。こうなりゃ最後までこのルートで行くしかないだろ。まだ百パー罠って決まったわけじゃないし」
その言葉にクラインはニヤリと笑い、美女に威勢良く宣言した。
「おっしゃ、引き受けたぜ姉さん! 袖振り合うも一蓮托生、一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」
「ありがとうございます、剣士様!」
「ユイに妙なことわざ聞かせるなよなー」
ぶつくさ言いながら、キリトがNPCの加入を認める。視界の左上から下に並ぶ、仲間たちのミニHP/MPゲージの末尾に、九人目のゲージが追加される。
美女の名前は【Freyja】となっていた。フレイヤと読むのだろうか、どこか聞いたことのあるようなないような名前だ。
俺はリーファの胸に下がるメダリオンを一瞥した。宝玉はいよいよ九割以上が黒色に染まっていた。残り時間はわずかということだ。
「キリト、先を急ぐぞ。もう時間がねぇみてぇだから」
「ああ、わかった」
大きく息を吸い込み、キリトが口を開く。
「ダンジョンの構造からして、あの階段を下りたら多分すぐにラスボスの部屋だ。いままでのボスよりさらに強いだろうど、あとはもう小細工抜きでぶつかってみるしかない。序盤は、攻撃パターンを掴めるまで防御主体、反撃のタイミングは指示する。ボスのゲージが黄色くなるとこと赤くなることでパターンが変わるだろうが注意してくれ」
こくりと頷く仲間の顔を見渡し、キリトが語気を強めて叫んだ。
「───ラストバトル、全開でぶっ飛ばそうぜ!」
「おー!」
仲間たちの声がフィールド内に響き渡った。
下りの階段を降りた突き当たり、二匹の狼が彫り込まれた分厚い氷の扉がたちはだかった。ここが、《霜の巨人の王》がいるであろう場所だとは誰でも言わずともわかるであろう。
扉が俺たちが五メートル以内に踏み込むと自動的に左右に開いた。奥から嫌な冷気の圧力が吹き寄せてくる。アスナが全員に支援魔法を張り直しをすると、フレイヤも全員のHPを大幅にブーストする未知のバフを掛けてくれた。
息を一旦整える。全員にアイコンタクト。頷きを交わし、一気に駆け込んだ。
内部は、途轍もなく巨大な空間が広がっていた。壁や床はこれまでと同じ氷。同じく氷の燭台に、青紫色の炎が不気味に揺れる。遥か高い天井にも同色のシャンデリラが並ぶ。しかしそれよりも俺たちの眼は、左右の壁際から奥へと連なる、無数の黄金へと奪われた。
金貨や装飾品、剣、鎧、盾、彫像から家具までありとあらゆる黄金製のオブジェクトが数え切れぬくらいにそこにはあった。
「…………総額、何ユルドだろ……」
この中でリズベットが呆然と呟いた。
本気で一瞬計算しようとした自分を抑えこんでから神経を研ぎ澄ました。
「……小虫が飛んでおる」
広間奥の暗がりから、地面が震えるような重低音の呟きが聞こえた。
「ずいぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」
床が震える。近づいてくるとその震動は、今にも氷の床を砕いてしまいそうな重々しさだ。
やがて、灯りが照らし出したのは、巨大な人影だった。
巨大などという一言で片付けられるレベルではない。今まで戦ってきた邪神ボスの倍以上のでかさ。
肌の色は、鉛のような鈍い青。脚と腕には、いったいどれほど大きい獣から剥いだのか、黒褐色の毛皮を巻きつけている。腰回りには、パーツひとつがちょっとした小舟ほどありそうな板金鎧。上半身は裸だが、その筋肉は武器を容易く弾きそうだ。
逞しい胸には、青い髭が長く垂れる。頭などシルエットとなっているほどで見えない。しかし、額に乗る冠の金色が闇の中で光っていた。
旧アインクラッドではこれほど見上げるようなモンスターと対峙した経験はない。あそこでは一フロアの高さが百メートルまでという絵威厳があったため、必然的にボスモンスターは高くできない。
さらにアップデートで飛べなくなった今、いったいどうやって戦えばいいのだろうか。剣を振り回してもせいぜいスネに斬りつけるのが精一杯だ。
「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに唆されてこんなところまで潜り込んだか。どうだ、いと小さき者どもよ。あの女の居場所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ呉れてやるぞ、ンンー?」
この台詞からして、こいつが《霜の巨人の王スリュム》であるのは間違いない。
真っ先に言葉を返したのはクラインだった。
「……へっ、武士は食わねど高笑いってなァ! オレ様がそんな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!」
その言葉に自然と笑みが溢れた。
クラインの愛刀が鋭く鞘走った。
それを合図に、残る七人も各々の武器を手に取る。
暗い眼窩に瞬く燐光で、巨人は俺たちを遥か高みから睨めつけた後に、最後尾の九人目に目を落とした。
「……ほう、ほう。そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がついたのかな、ンン?」
「は、ハナヨメだぁ!?」
「そうとも。その娘は、我が嫁としてこの城に輿入れしたのよ。だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫をかぎ回ろうとしたのでな。仕置きに氷の極へと繋いでおいたのだ、ふっ、ふっ」
ややこしい展開になってきたと、頭を抱える。
なぜこんなややこしい設定をカーディナルは生成したのだろうか。すると俺の左側にいたリーファが袖を引っ張って囁いた。
「ねえ、シュウくん。あたし、なんか、本で読んだような……。スリュムとフレイヤ……盗まれた宝……あれは、ええと、確か……」
どうやら神話をモチーフにしたクエストらしい。リーファが思い出そうとする前に後ろでフレイヤが叫んだ。
「誰がお前の妻になど! かくなる上は、剣士様たちと共にお前を倒し、奪われた物を取り戻すまで!」
「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良いことよ。さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの……小虫どもを捻り潰したあと、念入りにめでてくれようぞ、ぬっふふふふ……」
この台詞大丈夫なのか?、と思うほど全年齢寸前の線だ。
周囲の女性陣が一様に顔をしかめ、前に立つクラインが左拳をプルプルさせながら喚いた。
「てっ、てっ、手前ェ! させっかンな真似! このクライン様が、フレイヤさんには指一本触れさせねェ!!」
NPCとわかっていながらそんな台詞言えるクラインさん、まじカッケェっすわ。
「おうおう、ぶんぶんと羽音が聞こえるわい。どぅーれ、ヨツンヘイム全土が儂の物となる前祝いに、まずは貴様らから平らげてくれようぞ……」
巨人の王が一歩踏み出した瞬間、俺の司会の右上に、余りにも長いHPゲージが表示された。しかもそれが三段積みの特典付きだ。
しかし、新生アインクラッドの各層のフロアボスたちはHPゲージが見えない。それよりはまだマシな方だ。
「───来るぞ! ユイの指示をよく聞いて、序盤はひたすら回避!」
キリトが叫んだ直後、スリュムが大岩の如き右拳を天井近くまで高々と持ち上げ、青い嵐をまとったそれを、猛然と振り下ろした。
そこから俺たちはスリュムの攻撃パターンを読むのに必死だった。
ようやく解読できた限りでは、序盤攻撃パターンは、左右の拳によるパンチ撃ち下ろし、右足による三連続踏みつけ、直線軌道の氷ブレス、そして床からドワーフ兵を十二体生み出すというものだった。
最も厄介なドワーフは最後尾のシノンの弓が正確に捉えたことで問題はなかった。あとは直接攻撃をユイのカウントに助けられながら前衛組は回避した。
防御の形ができたところで、攻撃に転じたが、やはり俺たちの剣はスネにしか届かない。一瞬のタイミングを逃さずに三連撃程度のソードスキルを放つがディレイの少ない技は属性ダメージも低い。
そんな状況でも心強かったのが、フレイヤの操る雷撃系攻撃魔法だった。
十分以上の奮戦の果てに、最初のゲージを削り取った。すると巨人の王は咆哮する。
「パターン変わるぞ!」
「全員警戒しろよ!」
叫んだキリトの声の他に、隣のリーファの切羽詰まった声が届いた。
「まずいよ、シュウくん、お兄ちゃん。もう、メダリオンの光が三つしか残ってない。多分あと十五分ない」
ちっ、と小さく舌打ちをする。
スリュムのHPゲージは三本。一本削るのに十分以上かかっている。さらにHP減れば攻撃パターンが変わる可能性がある。
以前のように、金ミノタウロスの時のように《スキルコネクト》によるゴリ押しは恐らく通じない。キリトと二人でも行っても相手の攻撃を止めることは不可能に近いであろう。同様に《スキルリンク》でも削り取ることはできない。あの技は重い一撃を放つことがメインの荒技なのだから。せいぜいできて怯ませることくらいだ。
気の迷いが思考を鈍らせる。
するとスリュムが、突然両胸を膨らませ大量の空気を吸い込んだ。
強烈な風が巻き起こり、前衛・中衛の六人を引き寄せる。
まずい、と思ったが抵抗することはできない。広範囲攻撃の前触れだ。回避しようと、リーファが風魔法の詠唱を始める。
しかし間に合うはずがない。
「リーファ、みんな、防御姿勢!」
キリトの声に、リーファがスペルを中断して両腕を体の前でクロスし、身をかがめた。全員が同じ姿勢を取った、その瞬間。
スリュムの口から、これまでの直線ブレスとは異なる、広範囲に膨らむダイヤモンドダストが放たれる。
青白く光る風が俺たちを包む。アスナがかけたバフすらも貫通するほどの冷気が肌を刺す。一瞬のうちに五人のアバターを凍結させる。俺、キリト、リーファ、クライン、リズ、そしてピナを腕の中にしっかりと包み込んだシリカまでもが、青い氷の彫像と化す。
この段階ではまだHPは減っていない。しかしこれは大技のための布石でしかない。
これを受けたらまずいと確信した俺が叫んだ。
「シノン! 俺に向かって矢を放て!!」
凍結のせいで後方すら見えないが、かなり動揺していることだろう。しかし後方から飛来した矢が俺の身体を貫く。ついでに爆発するというオプション付きだった。両手長弓系ソードスキル《エクスプロード・アロー》だ。物理一割、火炎九割の属性攻撃だ。
ここまで求めていない、と心の中で叫びながら俺は爆発の勢いを利用し前へと飛び出る。
「ぬうぅぅーん!」
太い雄叫びとともに、スリュムは巨大な右脚を持ち上げた。
「させっかよ───ッ!!」
左手を前へと突き出し、右手で握りしめた槍を身体を捻らせて後方へと引き絞る。そして左脚で床を力強く踏み込むと同時に引き絞られた槍をスリュムの身体目掛けて投げた。槍投撃技《レイヴァテイン》が空を切り裂く。
紅蓮をまとった神殺しの槍が霜の巨人の王の強靭な胸へと突き刺さった。
「むぬうぅん!」
スリュムのタゲが前衛から俺単体へと変わった。
「みんなは体制を立て直せ! シノンとアスナは俺の援護を頼む!」
あからさまに怒っているスリュムを一人で相手するのは至難の技ではあるが、体制を立て直すまでの時間を稼ぐぐらいなら前衛一人でもできないことはない。
「来いよな、このデカブツ!」
落下してきた《ロンギヌスの槍》をキャッチし、スリュムを睨みつける。攻撃モーションは見る限り、増えたのは先ほどの広範囲に攻撃くらいのようだ。それならば攻撃のチャンスなどいくらでもある。
霧の巨人の猛攻を躱し続ける中で俺の身体を柔らかな水色の光が降り注いだ。アスナの高位全体回復スペルだ。
このゲームの大型回復呪文は、その大部分が《時間継続回復》、すなわち《何秒で何ポイント回復する》というタイプなのだ。即座に回復できるというわけではない。だからこそ、回復中に攻撃を受ければ、死はありえる。
HPを全回したことで俺は少しだけ余裕ができたせいか一つの無謀が浮かんだ。
「キリト、時間がねぇ! だから少し無理させてもらうぞ!」
右手と左手の槍と片手剣を入れ替え、本来のスタイルへと戻る。かつてあの世界で《槍剣使い》と呼ばれた俺の始まりの形へと。
「わかった、クラインとリーファは援護に行ってくれ」
「おうともさ!」
刀使いが一声叫ぶと、雄叫びを上げながら俺の横へとつく。
「クライン、十秒頼めるか」
「十秒どころか、一分だって大丈夫だぜ」
クラインはこちらに親指を立てて笑う。
オッさんの笑顔なんてみたくねぇつうの。
「それじゃあ、頼んだぞ」
雄叫びを上げながら刀使いがスリュムの元へと駆け出していく。
スリュムとの距離はわずか数メートルほどだ。突進系のソードスキルを放てば、届かない距離ではない。
俺は一度息を整えてから後方へと飛び退いた。ここでは距離が短すぎる。
右手で持った片手剣を肩に担ぎ上げ、膝を曲げて重心をわずかに落とした。身体を誰かが押すような力が加わっていく。システムアシストが俺の身体を包み込む、その瞬間だ。左手の槍を後方へと引き絞り、上半身を捻った。
二つのシステムが俺の身体を包み込んだ。本来であれば、それぞれの手で持った武器のソードスキルを同時に発動することなどできない。一方が発動中に一方を発動すれば、システムエラーが発生し、どちらもスキルキャンセルが発生する。それが起きないように交互にソードスキルを出し続けるのが《スキルコネクト》だ。
ならば《スキルリンク》とはなんだ?
二つのソードスキルをわずかにタイミングをずらして発動させる奥義こそが《スキルリンク》の正体だ。二つのソードスキルが合わさりあった威力は膨大なものとなるが技の見た目に反して発動条件は、《スキルコネクト》以上に繊細なのだ。
右の片手剣が閃光をまとい後方から不可視の手が俺の背中を押した。片手剣を前へと突き出し、右足で地面を蹴り上げ、突進する。片手剣突進技《レイジスパイク》。
突進の勢いとともに右脚で力強く地面を踏み込み、見えざる力を受けた槍を一気に解き放った。槍投撃技《レイヴァテイン》。
突進と投撃を合わせる《スキルリンク》の破壊力を得た神殺しの槍がスリュムの胸へと向かい一直線に飛来する。
防ごうとしたスリュムは右腕で槍と胸の間に差し込んだ。だが、その程度で止められるほど《スキルリンク》はあまい技ではない。
紅蓮をまとった槍は、螺旋回転を描きながら容易くスリュムの強靭な腕を貫き、胸へと突き刺さった。
「んがあぁぁ!」
初めて苦痛の声を上げたスリュム。HPゲージの一本が四分の一が一気に削り取られる。しかし強力な技ゆえに技後硬直の時間が二つ分一気に襲いかかってくる。ディレイ時間がわずかなものであってもこちらの攻撃を受けてから体勢を立て直すまでの時間はどの組み合わせを用いてもモンスターの方が早いことがわかった。
これは賭けの奥義でしかない。一人では成立しない諸刃の剣だ。
「シュウくん、大丈夫!」
動けなくなった俺の横に心配そうにリーファが駆け寄ってくる。
「ああ、ディレイで動けぇだけだから問題ねぇ。それよりもキリトは何してんだ?」
「お兄ちゃんなら今、フレイヤさんの宝物を探してる」
それがこのクエストを攻略する方法なのだろうか。そういえば俺もどこかでこの話を読んだ気がする。
思い出そうとする俺の脳に不穏な低い声が響いた。
「…………ぎる…………」
ぱりっ、と空中に細いスパークが瞬いた気がした。
「……なぎる……みなぎるぞ…………」
とてつもない嫌な予感に俺とリーファはフレイヤの方を見た。
ぱりぱりっ、というスパークが激しくなっていく。ゴールデンブラウンの髪がふわりと浮び上がり、純白の薄いドレスに裾が勢いよく翻る。
「みな……ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオ─────!」
その姿には呆然するしかなかった。先ほどまで美しい姿だったフレイヤがみるみる巨大化していく。三メートル……五メートル……まだまだ止まらない。腕や脚は最早大木のようにたくましく胸板はスリュムをも上回るほどだった。右手に握られた金槌もまた、持ち主に合わせて巨大化している。あっという間にスリュムと変わらないほどの姿に変わった。
そこで俺たちをさらに驚愕させる現象が。特にクラインに。
俯けられたままの顔の、ごつごつと頬と顎から、ばさりと金褐色の長い、おヒゲが。
「オッ……」
「オッ……」
「オッサンじゃん!」
部屋の端と中央で男性陣の絶叫が響いた。
「オオオ……オオオオオ────ッ!」
巨大なおっさんは、広間中をびりびりと震わせる重低音の咆哮を放つと、体勢を立て直したスリュムに向けていつの間にか分厚い革のブーツで包まれた右脚をずしりと踏み出した。
俺は呆然とする中で、視線を視界の左端、九個並ぶHPMPゲージの一番下の名前を確かめる。
そこには先ほどまで【Freyja】と記されていた文字列は、いつの間にか変化していた。
【Thor】。北欧神話の雷神───それが新しい我らのお仲間だった。
後書き
前書きでも書きましたがすみませんでした。
一時期創作意欲を削がれ、ストブラの方に専念していたら半年ほど経っていました。
SAOの二期がやったときに更新をしようと思っていたのですが、それさえも意欲が湧かずに行えませんでした。
ここからストブラと同時進行ではありますが更新していきますのでまたよろしくお願いします。
誤字脱字、意見、感想、更新日など聞きたいことがありましたら感想でお伝えください。
また読んでいただければ幸いです。
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