日向の兎
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1部
16話
「それにしても、リーは懲りないね」
「そうか?成長の具合は大分見て取ることができるぞ」
「んーでもさ、まだまだ差は大きいと思うよ?」
「ああ、それでも大分縮まってきている。差を縮められるということは、追い付く事が出来るという事なんだからな」
ネジとリーの手合わせを木陰で眺めながら、私とテンテンはそんな話をしていた。ちなみに戦績は今のところネジの二十戦二十勝、リーの全敗という結果なのだが内容は大分変化している。
初期はリーが一方的に叩きのめされる形でしかなかったが、今ではネジも数発貰った上での勝利という形になってきた。
ネジの柔拳でも捌けない攻撃をリーは放つ事が出来るということだ。それはかなりの成長であり、ネジ自身驚きを隠せずにいた。
が、彼とてただ追い付かれるだけではない。
リーの放った右腕による拳を左手の甲で大きく払い、そのままリーの懐に潜り込む。そして、背を向けた状態で拳を弾かれ無防備になったリーの右胸に当てて、地面を大きく踏みしめて突進した。
リーがそのまま吹き飛び動けなくなったのを確認し、私は手合わせの終了を告げる。
「そこまで。ネジの勝ちだ」
ふらふらと立ち上がろうとするリーにネジは手を貸してやると、
「ネジ、いつの間にあんな技を?」
「先日ヒジリ様に食らわされてな……仕組み自体はそれほど難しくなく、柔拳としての運用も出来そうだったから真似たんだ。
ヒジリ様曰く、至近距離での不意打ちでありながらチャクラを噴出する点穴の多い背中での攻撃は打ち込めるチャクラの量の多さ故に、相手の不意を突ける技でもあり即死させる事も容易い技、だそうだ。
俺からすれば先程のように相手の直線的な攻撃が一発でも見切れたならば、防御と同時に相手を倒せる技と言ったところか」
「それは随分と強力な技ですね」
「ああ、チャクラ無しの打撃面でも十分な威力だが、そこにチャクラが加わったならば必殺技と言えるだろうな。
ただ、これで仕留め切れなければ隙が大きいどころ騒ぎではない分、必殺でなければならないという技でもある」
「成る程……表蓮華のようなリスクの大きい技なんですね」
「ヒジリ様の考える技はそういう技が殆どだ。相手の体勢を崩させるがダメージは殆ど無い、食らえばどう足掻いても助からない代わりに当てるまでが厄介か隙が大きすぎる、そういう極端な技が多すぎるんだ」
む、メリハリがあっていいではないか。そもそも、戦いでは結局そういった極端な技の方が効果的ではないのか?
「それを一般常識に当てはめようとしないでよ?」
「驚いたな……心を読まれるとは思わなかったぞ、テンテン」
「ヒジリの考えてそうなことくらい想像できるわよ、もうなんだかんだで二年近く一緒にいるわけだしね」
ふむ……確かにアカデミーを含めるとそんなになるな。いやはや時の経つのも随分と早いものだ。
そういえば、そろそろヒナタもアカデミーを卒業するのだったな。何かしらで祝ってやるとするか。
忍具は危ないだろうし……術でも教えてやるか?
そんな事を考えているとガイ先生がやってきた。その手には四枚の事務的な事柄の書かれた紙があり、その内容は中忍試験を受けるか受けないかの同意書のようなもののようだ。
中忍か……恐らく、中忍になれば生活面でも自立可能と見なされて家を出る事になる。それに関しては問題もないし、そんなものはとっくに納得していた。
とはいえ、試験は班単位で受けるものが多いという事もあり……少々今受けるのは早計だろう。リーはまだ表蓮華を完全に物にしたとは言えない、ネジ、テンテンもまだ磨くべき箇所はある。
無論、私もまだまだ体作りすべき箇所はある。
「おい、お前たち」
「今期の中忍試験、私は辞退する予定ですので」
「……俺の説明を取らないでくれ、ヒジリ」
「中忍試験?ちょ、ちょっとヒジリ、どういうこと!?」
「慌てるなテンテン、単純に先生の持っている紙の内容が白眼に見えただけだ」
「いや、そこじゃなくってなんで辞退するの?」
「単純に私達は力量不足だからだ」
「うっ……他の人ならともかく、その眼を持ってるヒジリに言われると腹立つけど、事実として受け入れるしかないよ」
「その姿勢は好ましいぞ、テンテン」
「そりゃどうも。で、先生はどうなんですか?」
「俺も今年は辞退させる予定だったが、リーとネジはどうする?」
「僕はまだまだ修行不足なので……」
「俺はヒジリ様の監視が仕事なので、ヒジリ様が辞退するなら俺も辞退します」
「そうか……では、来年は全員中忍になれるよう俺も全力で指導していくぞ!!」
「はい!!僕も付いて行きますよ!!」
「リー!」
「ガイ先生!」
「……ヒジリ、帰ろっか」
「そうだな、ネジ」
「分かりました」
その後テンテンと別れ、ネジと共にアカデミーの前を通りかかるとナルトがブランコに一人腰掛けつまらなさそうにアカデミーを見ていた。
今日は卒業試験のあった日だが……ああ、そういうことか。
「落ちたのか、ナルト」
「ね、ねーちゃん……急に声をかけてきていきなりその内容は酷いってばよ」
「隠してどうこうなるものでもないだろう?」
「はは……ねーちゃんらしいや」
「私は私でしかないからな。だが、君は君らしくないぞ?そら、いつも通りに立って立ち向かうといい」
「ちょっと、今は疲れたんで休憩中だってばよ」
「そうか、どうでも構わないが……逃げるなよ」
ナルトを置いて、家に向かおうとするとネジが声をかけてきた。
「随分と辛辣ですね」
「人は太陽だけでは育たんだろ、たまには北風も必要だという事だ」
「……俺には殆ど北風なような気がするんですが?」
「……なんだ、君は私に甘えたいのか?」
「……悪寒の走るような事を言わないでください」
「君も大概酷いではないか」
そんな話をしつつ家に帰ると、ヒナタが何とも言えない表情で立っていた。
「おかえりなさい、ヒジリ姉さん……それと、ネジ兄さん」
相変わらずヒナタはネジが苦手なようだな。ネジ自身がヒナタに良くない感情を持っているので仕方が無いのだが……家族が不仲というのは好ましくないな。
「ああ、ただいま」
「ただいま戻りました、ヒナタ様。ヒジリ様、俺はここで」
「ご苦労」
「あの……ナルト君は」
「落ちたぞ、ヒナタは受かったようだな」
「う、うん。ナルト君、大丈夫かな?」
「さぁな?」
「さぁな、って姉さん……」
「大丈夫かどうかは本人に聞くといい、聞けないのなら信じたまえ」
「そ、そんな……」
「自分の惚れた男の事だ、信じること位はやってやるといい」
「ほ、惚れた!?」
「はは、ナルトなら大丈夫だよ。あれは負けん気が強いからな」
真っ赤になったヒナタの頭を撫でて、私は部屋に戻った。
さて、確か今年の試験は分身の術だったか……何処かの書物に詳しく載っていたな。出来れば具体的な解説が載っていればいいのだが……私は忍術に関してはあまり他人に教えられるほど技量がある訳ではないので、書物を理解して噛み砕いた物を教えるしかできんのだ。
その晩、ナルトが火影の屋敷から禁術の記された巻物を盗み出したという事件が起きた。
白眼を通じて里を観察した結果里の上忍、中忍に巻物の確保及びナルトの生死を問わない捕獲の任務が発令されていた。
…………ふむ、殺しに行くか。
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