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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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二十三章
  暁前の作戦行動前

俺らは暗闇の山中にいた。兎々と粉雪の奇襲のためと一真隊合流をするためにと。

「じゃ、ここからは別行動だぜ」

「分かってる」

夜遅くに行動していて、獣道をこっそりと進んでいた。

「織斑一真。仕方がないから薫様をお任せするのら。絶対にお守りするのらぞ!」

「はいはい。二人も気を付けろよ」

二人の将での奇襲部隊は二千ほど。大部隊でも動きにくいのは承知の上でのこの数さ。俺からすれば少ない方だ、本来の黒鮫隊はもっといるからな。

「それは分かっているぜ。旦那の赤い装甲出さないんだぜ?」

「ああ、あれな。一部だけな。ブーステッド・ギア」

そう呟くと俺の手から上腕にかけて、赤い籠手が出てきた。そして拳を作ってから粉雪と拳をコツンと合した。

「旦那も頑張るんだぜ。奇襲がバレてもこちらは気にすんなだぜ」

「おうよ。お前らの働きを期待している、お守り代わりにと」

左手を普通の手にしたら、二人いや奇襲部隊全員に光の粒子を注いだ。

「何をしたのら?」

「運気を上げる呪いだ。あとはお前ら次第だ」

本陣には夕霧に春日や心もいる。武田の強さは知っているが一応な。

「織斑一真も上手くやるのら」

「間違えても一真隊に攻撃すんなよ?」

「旦那の旗は分かりやすいから、とっくに覚えたぜ!」

そんな調子で兎々たち撹乱部隊と別れ、俺も逍遥軒衆のもとへ向かう。

「どうどう・・・・大丈夫。出番はまだだよー・・・・」

そちらに戻れば、薫が馬に声をかけていたところだった。がっしりとした武田の馬は、薫の声にうっとりと聞き惚れるように落ち着いているが。まあ俺も動物の声は分かるが、薫は俺の妹でもあるからな。

「お帰りなさいませ、一真様」

「あ、お兄ちゃん!逍遥軒衆の旗、お兄ちゃんの旗に替えといたよ」

「ご苦労。でも悪いな、武田菱は薫にとっても大切な旗なのに」

逍遥軒衆の旗印を、一真隊の旗印に替えられないか。それをあのうるさい川の音を消してまでしての内緒話がこれのことだ。家柄や血筋を大事にする武家の中で、しかも武田家に難しい相談というか、注文だったのだが。情報操作のために作戦直前という条件付きではあったが、二人は快く引き受けてくれた。

「いいよ。今までは、お兄ちゃんがいるか分からなくする策だったけど・・・・」

条件も、俺の居場所特定させる事で、美空側に必要以上に警戒させたくないための策である。まあトレミー上空では俺らの部隊が最初から獅子の旗になっている。さっきまでは武田家の紋様だったけど。まあそれももうお終いだ。ここからは一真隊と合流するために動くことだし、俺がここにいるというのを示すのが大事である。

「それにお兄ちゃんの旗を最初見たときは、これは家紋なのかなと思ったけどね」

「ああ。そりゃそうだ。獅子の旗なんて、日の本中で俺ら一真隊だけの旗だしな。一瞬神の紋章とかにしようと思ったけど、この旗は元々黒鮫隊の旗だからな。だからそれを使ったまでよ」

「だよねー。神の紋だなんて見た事ないし。黒鮫隊っていうから鮫かと思ったけど獅子なんだねー。でもカッコイイと思うよ」

本当なら大中黒一つ引き両で、この時代の新田氏は武田の遠い親戚なんだと。八幡太郎義家公の四男であらせられた、義国公から連なる血筋だそうだ。

八幡太郎義家・・・・源頼義の長男。その子孫に、源頼郎、足利尊氏が居る。使用していた「源太の産衣(鎧)」「髭切(刀)は河内源氏嫡流に伝わる宝物。

「そういえば、一真様の旗の意味を知ったのは今日が初めてでしたね」

「だからなんですね。獅子の旗の意味は」

そういえば武田家の家祖は新羅三郎義光で、義家公の弟になる。源氏の血筋だと、足利家も遡れば義家公に至るし、今川家は足利氏御一家・吉良家の分家だからだと。正史の情報元をスマホで見ているが、もうすぐでこの外史の終幕になるのか。まあ正史の流れだと新田家について話しているが、俺の名字は元々架空の名字だから家紋はないし。織田家は平氏のだからか、春日は織田の同盟に反対していると。源氏が平氏の下に付くことを、まあ一葉が説得すれば問題ないな。

「まあとりあえず、織田は平氏のあれで他は源氏に関係すると思うが。俺の妾になった以上関係ないと思うし、薫は俺の妹になっているから。さて、これでお膳立ては全て整ったけど、一葉も俺達がここにいるのを分かればいいのだが」

「そうですね。それは一葉様か、他の皆さんに期待した方が良いでしょうね」

「だな。これで気付かなかったら最悪だ」

一葉は訳有で美空に力を貸している状態だし、本陣にいるなら一真隊とは別行動のはず。

「もうすぐ暁の頃合いです。・・・・いよいよなのですが、その耳に付いているのはもしかして?」

「ああ。当たり。この川中島上空にゲート反応がある。いつ開くか分からない。もしかしたらこの戦が終わったら開くのかなと思っている」

「だからですか。よく上を見ているのはという事は船も来ていると」

「そういうことだ。まあ今は今の戦に集中しようか。光璃も海津城を出て、陣を構えている頃だろ」

「日の本最強と呼ばれる武田軍団一万五千と、美空様の指揮を受けた越後勢八千ですか・・・・」

「戦の常道でいえば、これだけの戦力差があった場合の趨勢は明らかだけど・・・・」

「・・・・ですが、相手は野戦では負けなしと言われる美空様ですからね」

美空が野戦の指揮を取る所は見たことがないが、平時の行軍でさえ、小波が見失うほどだ。まあこちらは掴んでいたし反応もあった。それに対して武田勢の屈強さと統率も、ここまで兵集めと行軍の様子を見れば、天下の評判が嘘ではないとことだ。

「美空様の指揮が、倍近い兵力を如何に覆すかが肝になりますね」

「ええ。機動力では、武田の騎馬軍団には及ばないでしょうし・・・・先の読み合いになるのは違いありません」

「うー。野戦になるなら、綾那も先鋒が良かったです」

「・・・・作戦なんだから我が儘言っちゃダメだよ綾那」

「それは分かってるですけど・・・・・。もう、城攻めやこそこそ忍び込むのは飽きたです・・・・」

「こ、こら綾那!」

「・・・・・綾那ぁ?」

「あわわ、一真様ごめんなさいです」

「まあ気持ちは分からんでもないよ」

一真隊は基本裏方仕事が多い部隊。東国無双・本多忠勝としては不満が多いけど、この先拠点に連れてきて聖剣エクスカリバーと黒の駒を与えたら、ドウターを倒せる力を手に入れるが、まだ物語は途中だからな。それに俺も半分戦闘狂だし。まあ俺が戦うのは戦が終わってからのドウター戦だろう。それに和奏たちも言ってたけど、戦場で敵将を討ち取ってこそが武士だからな。俺達は違うけど、武士じゃなくて軍人であるけど。和奏たちと競い合わないで、ひよたちは出来ることで裏方になったんだっけ。

「俺らの裏方仕事も、戦場の趨勢を決める大事な任務であり役目だ。そこを分かってほしいと嬉しいんだが」

「はいです!」

「勘の鋭い美空様の事ですから、今回の奇襲作戦は見抜いていると思うんです。まずはそこをどうするか・・・・」

「ですが、光璃様も恐らくそれは承知しているはず・・・・面白くなってきましたね」

「ちょっとー。二人ともどっちの味方なの!?」

「ああ、すみません。どちらの陣の内情も知っている、これだけの規模の野戦など、なかなか無いもので・・・・つい盛り上がってしまいました」

「うー、余計に先陣切って活躍したかったですー!」

「おいおい。分かってたんじゃねえのかよ!」

「あ!えへへですー『パシイィィィィィィィイン』うぅぅ・・・・」

「今のは綾那が悪いわよ」

軍師二人に猛将が一人、それぞれ全然違う方向で盛り上がっているのは頼もしいが。俺は別ので盛り上がるけど。

「問題は、一真隊が長尾勢のどこにいるかが、だろうな」

今のところ、一葉の旗が立っているのは本陣だけ。一真隊がそこにいるとは限らない。

「小波さんも頑張って下さっていますが、軒猿の警戒がかなり厳しくなっているようですしね」

「まあ最終的には船で発見してもらうか」

「その様子だと発見はしているのですか?」

「ああ。もう発見しているが、場所は言わないだけ。せっかく小波が頑張っているんだから」

この距離でも句伝無量が繋がらないとなると、回収している確率が高い。美空も一葉も何考えているか不明だし。

「一真隊が鉄砲隊なら後方じゃないの?」

「そう思うから、こうやって後方に潜んでいるんだが」

「ですが、春日山奪還作戦で一真隊は使える部隊だという認識をされてしまいましたから・・・・本当に後方にいるかは正直、判断に悩むところですね」

「そんなに活躍したの?」

「まあな。それでもあくまで黒鮫隊合同でのだから、一真隊のもだとどうだかと言う感じだな」

「搦め手に通じた小波さん、一騎当千の綾那さん達、軍師側の我々に、万能な一真様が抜けていますから、一真様の言う通り向いていませんが」

「それでも、鉄砲隊としての主力はまるまる残っていますからね。後は美空様がそれをどう活かすのか・・・・」

「現在の一真隊は、どういう編成になっているのでしょうか?」

「大将は一葉に任せていたきたが、春日山で最後だから副将は梅か幽辺りだろうな」

「幽殿は表に立つのをよしとはしないでしょう。表には目立つ者を押したて、裏で動く方が性に合っている方です」

「それなら副将は梅だろうな」

「立場的にも血統的にも性格的にも、間違いないかと。梅ですし」

「一葉様に任せると言われれば、喜んで引き受けそうですね。梅さんですし」

「だろうなぁ・・・・」

薫が誰と聞いてきたから、綾那が牡丹と答えてもそれは分からんだろう。ひよやころや八咫烏のお二人も巻き込まれているだろうな。そう言ったら、雫は八咫烏のお二人は一葉が雇い主だから。鉄砲隊として一真隊が主だと働き時だと。まあ烏たちは傭兵だから金がもらえるのなら、当たり前か。ひよやころは森親子のように興味のない命令は従わないというのは難しいだろ。森一家はすでに美濃に戻っているし、これからこっちに向かってくる。

「森一家と松平衆は美濃や三河に帰還したみたいだから、あとは鞠か」

「一葉様の勢いに押されるようなお方ではありませんが・・・・どうなさっているのでしょう」

「元気でいてくれたらいいんだがなー。鞠は」

「うん、鞠は元気なの!」

「そうか。それはよかった。ん?っておいおいマジかよ!?」

一方粉雪と兎々の撹乱部隊は、警戒が薄い事に疑問を感じていた。

「・・・・・随分警戒が薄いんだぜ。もうすぐ夜明けだからって、油断してるにも程があるんだぜ」

「粉雪ー!」

「ちょっ。兎々、なに大声なんて出してるんだぜ!気付かれるんだぜ!」

「粉雪らって大声なのら!・・・・・ってそんなの、もうろうれもいいのら!」

「まさか・・・・!」

「長尾の連中にしてやられたのら!お屋形様の読みろおりらったのら!」

「・・・・ちっ!総員、全速!長尾陣に突っ込むんだぜ!突撃いっ!」

と粉雪たちは突撃していったが、俺達はというとだな。

「えへへー」

小さな身体に、ニコニコの笑顔。朝を告げる陽光と共に俺らの前に現れた子は・・・・・。

「鞠さん・・・・・!?」

「一応聞くが、本物の鞠か?」

「えへへ。本物の一真なのー!」

元気一杯にそう言って、俺の胸元にぽふりと抱きついてくる。この声に重み、そして匂い。幻ではなく本物の鞠だった。

「ちょ・・・・・なぜここに鞠がいるんだ!」

幻ではないのは、確かなんだが。なぜこんなところにいるんだ?

「ええと、鞠ちゃん。どうしてここに?」

詩乃達でさえ予測不能というか完全なる予想外だったのだろう。予測できない戦いではあるが、ここで予想外の人物が現れた事で揃って形無しだった。

「あのね、一真が川中島に来てるって聞いたから、ちょっと探しに出てみたの」

「探しにって・・・・危険だろ」

「城攻めのお勉強もしたから、大丈夫なのー。それに、なんか恐い感じがした所には、近付かなかったの!」

マジか。その勉強をここで活かすためではなかったのになー。周囲を警戒している軒猿にも引っかからなかったということなのか?相変わらず圧倒的な直観力だな。

「そうやって歩いてたらね、小波ちゃんが声を掛けてくれたの!」

「あ、な~るほど」

俺らの脇に現れたのは・・・・。

「ちょうど、妻女山の麓、軒猿の警戒網の外に出ておいででしたので・・・・」

「小波・・・・!」

「句伝無量の守り袋をお預けしようとも思ったのですが・・・・再び妻女山にお戻しするのは危ないと思いまして、こちらにお連れしました」

「いい判断だ、小波」

「お役に立てて、嬉しいです」

と言ってたけど、実際鞠がここに来るのは後程船で監視をしていたフェルトから聞いた。俺に話すと驚かないと判断したそうで。

「でも、どうして一真たち、こんなところに居るの?かくれんぼ?」

「かくれんぼ、か。まあ確かにそうかもな」

俺らは船と通信をしながら作戦会議モードにと。でも鞠の言い方にはどこか柔らかい空気にはなっていると思う。

「鞠さん。一葉様たちの様子はどうなっていますか?」

「んー。あのね。鞠、一真に聞きたい事があるの」

「聞きたい事?何かな~。言ってみ」

「うん。一真は武田に味方するの?美空とケンカしちゃったの?久遠のことはどうするの?ひよもころも、どうしようって言っているの。一真が武田の味方になったら、越後の一真隊は、一真と戦わなきゃいけないのかなって。・・・・一真は、鞠たちと戦うの?」

じっと俺を見つめる高い高い雲のような澄んだ瞳は、俺を咎めるでもなく、問い詰めるとかでもない。ただ、静かに俺の答えを待っている。

「・・・・何を言ってるんだか。戦うわけないじゃないか」

そんな鞠に、応えられる言葉は一つしかない。

「喧嘩もしないし、武田にだけ味方する訳でもない。久遠を裏切る気はさらさらない。・・・・今、一番大切なのは、この国の未来だろ?」

「うん」

「でもな、今ここで美空と光璃はぶつかろうとしている。俺はそれを止めるために来たのさ」

「美空の所に行くの?」

「そうだな。・・・・でもこの人数では厳しいからな、そのために力を貸して欲しい人達がいるのさ」

「じゃあ・・・・!」

「そう言う事だ。鞠や梅、ひよやころ、一葉・・・・そして一真隊の力を借りに来たというか借りたい。妾だろうが、大事な家族なのは変わりない。戦うなんてとんでもないよ」

「よかったぁ・・・・。ひよもころも、きっと安心するの!」

「それからもう一つだけ。俺は光璃と美空を仲直りさせたいのさ」

「仲直り?」

「そう。今は双方とも敵同士だけど、俺の妾同士でもある。それが喧嘩しているのは良くないだろ?」

「妾・・・・そっか!一真、武田晴信ちゃんとも恋人になったんだよね?」

「そうだ。未来の妻となる光璃とな。愛妾で恋人だけど」

「・・・・・ん?」

「それにな、今甲斐では大変な事が起きているのさ」

一瞬雫が何かを言おうとしたが、雫に念話をしたら、頷いてくれた。鞠は賢い子だし、今言わないとまずいことになる。

「鞠。ここからは落ち着いて話を聞いて欲しい」

「うん」

「駿府屋形が、越前と同じ状況になっているらしいんだ」

「駿府屋形が・・・・・・」

鞠の口調は静かで、何の驚きもしない感じではあった。鞠の手をそっと握りしめて、一つ一つ言葉を選び話しかける。

「光璃はそれを何とかしたいと思っている。今川家の鞠と一緒に、世話になった義元の駿河を取り戻したいってな」

「ホント・・・・・?光璃ちゃんが・・・・?」

「ホントのホントだ。駿河をちゃんと取り戻したら、鞠ともう一度、同盟を組みたいとも言っていた」

「うん・・・・。一真の恋人なら、光璃ちゃんも鞠のお姉ちゃんなの。嬉しいの・・・・」

「俺もそれに力を貸して、光璃の手伝いと鞠との約束を果たしたい。・・・・こんな所で、人間同士で争っている場合じゃないんだ。力を貸してくれるか?」

「もちろんなの!鞠は一真と一緒がいいの!それに、駿河を取り戻すのは、鞠の夢だったの!」

「ありがとな」

「駿河が終わったら、次は久遠たちと鬼退治なの!」

「・・・・そうだな。鞠の力を貸してくれ!」

と俺達は鞠と合流した。一方長尾勢の陣地だったところは予想通りもぬけの殻だった。

「粉雪!こっちに大部隊の移動した跡があるのら!」

「これだけの大部隊をどうやって気付かれずに動かしたんだぜ・・・・?ウチの偵察部隊はなにしてたんだぜ!?」

「軒猿の警戒が厳しくて、物見も草も近寄れないって言ってたのら・・・・。たぶん、織斑一真じゃなくてこっちを隠すのが目的らったのら」

「むむむ・・・・。敵ながらあっぱれな撤収なんだぜ・・・・」

「とにかく、兎々たちも急ぐのら!長尾が向かうとしたら。行き先は・・・・!」

「ああ!作戦失敗の鏑矢を放って、急いで山を下るんだぜ!あたいに後れを取るな!」

「お屋形様・・・・・今行くのら!」

一方光璃たちがいる本陣では。

「・・・・そろそろ、突入した頃合いですな」

「それにしては、随分と静かでやがりますが・・・・」

「やはり、こちらの奇襲は読まれておりましたか」

「出撃準備は」

「万端、整えてござる」

「お屋形様!物見から、こちらに接近する大軍を発見したとのこと!旗印を隠し、奇襲の構え!」

「わかった」

「お屋形様、ここは拙にお任せを。・・・・向こうの奇襲を食い止めるだけなれば、あれはまだ温存すべきでしょう」

「・・・・なら、任せる。ただ、今は矢戦のみ」

「委細承知。初撃を受け止めたら、十分に距離を取り時間を稼ぎましょう」

「春日。此度の戦は、兵を温存する事が第一でやがります。夕霧も手を貸すでやがりますよ」

「典厩様もご一緒とは心強い。・・・・であれば、者ども出会え!典厩様と馬場美濃守信房、出撃するぞ!」

と本陣では出撃をしていたが、こちらではただいま、スーパーはわわタイムならぬ、スーパー鞠タイムであり鞠を抱っこしている状態ではある。

「くんくん・・・・えへへ、久しぶりの一真の匂いなの!」

「鞠、くすぐったいよ!」

「久しぶりなんだから一真が我慢するの!」

「まあいいや」

そんな事を言いながら、鞠は俺から離れる様子はない。だけど、何か嫌な予感はするが。

「・・・・・いいなぁ」

「あれ?知らない子なの。一真ー。この子、誰なの?」

「そういえば薫と鞠は初めましてだったな。薫」

「あ、え、ええっと・・・・・武田逍遥軒信廉と申します。通称は薫ですから、薫とお呼び捨て下さい、鞠様!」

「ふぇ?」

「薫?」

「え、だって・・・・鞠様って、今川彦五郎様だよ?正式な官位として治部大輔を頂いてて、正五位の方だよお兄ちゃん!」

「んーとね。官位があっても、鞠はもう浪人だから、別にえらくも何ともないの。だから鞠って呼んで欲しいの!」

「え、でも・・・・」

官位は分からんが、鞠がそう言った気持ちは分かる。

「薫と一緒じゃないかな?」

「あ・・・・・」

自分が詩乃達に伝えた言葉を思い出したのだろ。薫は嬉しそうな表情で大きく頷く。

「じゃあ、あの・・・・鞠ちゃんって呼んで良いですか!」

「じゃあ鞠も薫と呼ぶの!」

「えへへ」

「えへへー」

ニコっと、本当に嬉しそうな満面な笑みを忘れずに撮っておいた。あとでパソのフォルダに入れておこうか。この二人の満面の微笑みは。 
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