リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた
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第四話
前書き
この話を書こうと思った切欠
久しぶりにエヴォリミットやるかー(5,6週目)⇒やっぱ雫かわええ~⇒そういえば、パッチってジュエルシードに似てるよな・・・( ゚д゚)ハッ!
(戦闘民族高町家か・・・)
葵は、内心の焦りを押し隠し、出来るだけ相手の警戒を解くように話しかける。とらいあんぐるハートなどで語られる高町家の戦闘能力がこのリリカルなのはの世界でも適用されているなら、パッチによって超人となった今の葵でも、生き残れるかは怪しいからだ。
そもそも、『運動神経が悪い』なのはでも、『魔法戦闘』に限って言えば全管理世界でもトップクラスなのだ。高い反射神経と魔力量、空間把握能力に戦術眼。この一家は、こと戦闘にかけてはチートである。そういう認識でいないと、足元を掬われるだろう。
(確か、防御無視技とか、目にも映らない程の高速移動技とかも持ってたはずだよな・・・)
葵は前世で、ゲームはやったことないが、とらいあんぐるハートのOVA版を見たことがある。もし敵対した場合、相手がこちらの命を刈り取る目的で襲って来たなら、葵も『進化の階段』を昇らざるを得ないだろう。パッチを手に入れてからの一日は、パッチから力を引き出す訓練に費やしていた。そのため、未だ自分の固有能力を使いこなす事が出来ていない。固有能力も使いこなせないただの超人では、この三人には勝てるか怪しいものだ。
(・・・確か、リリカルなのはでも、風呂のシーンとかで士郎さんの体に無数の戦闘傷があったよな・・・SPの任務中にテロに巻き込まれて死の淵を彷徨ったとかいう設定があったはず・・・)
やはり、とらはと同レベルの戦闘能力を持っていると仮定して行動したほうが良さそうだと葵は思った。
「・・・さて、何があったか話してくれるかい?」
静かに、しかし確かな圧迫感をもって、士郎が問いかける。その目は、嘘は許さないと物語っていた。竹刀袋はすぐに取れる場所に置いており、葵が危険人物だと判断したときは容赦しないだろう。せめて、中身が真剣ではないことを祈るばかりである。
その殺気を向けられている訳ではないなのはも、重すぎる空気に冷や汗を流していた。
「・・・はい。」
緊張を飲み込むように唾を飲み、葵は話し始める。
「でも、俺が知っていることはあまりありません。俺が話せるのは、俺の身に起きた異変のことです。」
「異変?」
それまで腕を組んで黙っていた恭也が口を挟んだ。
「これです。」
それに何をいうでもなく、葵は左手の革手袋を取り外す。ハッと、周りの人間全てが息を飲んだ。特になのはは青い顔をしている。
彼の左手の甲には、透き通るように透明な宝石が輝いている。『最初からこうだった』と言われれば納得するしかないほどに自然に融合しているソレは、色は変わっていても、どう見ても『ジュエルシード』であった。
(『クリアパッチ』かぁ・・・。俺、人間じゃないって認識されてるのかね・・・?確かに、前世の記憶とかも持ってるから普通とは違うけどさ・・・)
パッチは、装着者の意識や才覚によって、色が変わる。その中でも『クリアパッチ』は、『端末種』と呼ばれる惑星の守護者に装着することで、人間ではないと認識された結果透明になっている。
もし、このパッチが原作と設定を同じにしているなら、葵はパッチから、『お前は人間ではない』と突きつけられたようなものであった。
(ま、気にしないけどさ。一条雫だって、自分が端末種だと知っても変わらなかったし。・・・俺は、俺だ)
そう自分に言い聞かせるように心中で呟く葵。
「これは・・・昨日までは無かったよね・・・?」
恐る恐るという感じで、なのはが問いかける。葵はその言葉に頷き、言葉を続けた。
「昨日、この翠屋から帰る途中で、トラックに轢かれました。」
『・・・!?』
タハハ・・・と苦笑しながら答えた葵。その内容に、一同は言葉を失った。
「死ぬかと思ったんですけど・・・直前に拾ったこの宝石が光ると同時に、俺の怪我は全て治っていました。しかも、超人みたいな身体能力と特殊能力のオマケ付きです。」
「ちょっと待って!」
今まで黙っていた美由紀が、言葉を遮った。流石に、知り合いが事故にあったと言われて黙ってはいられなかったのだろう。しかも、トラックに轢かれた怪我が治るなど、いくらなんでも信じきれない。
「思ったよりも怪我が軽かっただけじゃないの?よくあるじゃない、車に轢かれたけど、かすり傷だけで助かるとか。」
その言葉に、葵は深く苦笑する。
「今朝のニュース見てませんか?この近くの人通りの無い道で、事故の痕跡が見つかったって。」
「え・・・?」
数秒考え込む高町家一同だったが・・・
「・・・やってた!やってたわよ士郎さん!明らかに致死量の血痕が残ってるのに、死体が残ってないって!『警察は、犯人が死体を持ち去ったと考え捜査している』って言ってたわ!」
桃子が叫ぶ。この平和な街で起きた事故だけに、余計に記憶に残っていたのだろう。その被害者がここにいるなど、一体誰が考えただろうか。
「俺を轢いたトラックは、一目散に逃げて行きましたよ。俺はその後数分で動けるようになったんで、騒ぎが大きくなる前に逃げ出したんですけど。その時には、既にこの宝石が手に付いてましたね。家に帰ってから気がつきましたよ。血まみれでボロボロの服とかは、全部クローゼットに突っ込んだままなんですけど・・・あの格好で帰って、よく誰にも見られなかったですよね・・・。」
アハハと笑う葵だが、事が大きすぎて誰も声がでない。
「け、警察に届け出たりはしないの・・・?」
何とか言葉を絞り出した美由紀だったが、恭也に否定された。
「なんて言って警察に行くんだ?『僕がトラックに轢かれた被害者です』とでも言うのか?今の葵君は、怪我一つしてないんだぞ。子供のお遊びだと思われるのがオチだな。」
「あ、そっか・・・。」
葵がその言葉に頷いて、更に言葉を繋げた。
「それに、信じられても困りますね。俺のこの力がバレれば、速攻で研究所送りじゃないですか?現代科学では説明不可能なことばかりですから。色々試してみたんですけど、まず身体能力が桁違いです。100メートルは2秒くらいで走れますし、軽くジャンプすれば、電柱の上にも乗れました。」
「・・・なる程。確かにその力がバレれば、違法なことをしてでも君を手に入れようとするだろうな。君自身は強いだろうが、人質を取るなど、やり方は色々ある。」
葵の言葉を信じることにしたようで、士郎は溜息を吐いた。もしかすれば、そういうことをしそうな組織を知っているのかも知れない。
「それだけじゃないです。特殊な能力も手に入れました。」
自分の手札を晒しすぎているような気もしたが、これからの事を考えれば、ここで出し惜しみするべきではない、と彼は考えた。
「特殊能力・・・。どういうものかな?教えてもらえるかい?」
「突発的な未来視と・・・エネルギー操作です。」
この未来視とは、原作知識のことである。これを今言っておくことにより、葵がこれからの展開を知っていてもおかしくは無くなった筈だ。原作知識というのは大きなアドバンテージになる。それを使うのを制限していては、これから先生き残れるか怪しい。
なので、彼が持っている本当の能力はエネルギー操作だけである。これは、原作のメインヒロインである、一条雫の持っていた能力と同じものだった。しかし、彼は雫のように接続者では無かったようで、素手の状態でも能力を発動出来る。
(しかし、雫と同じ能力なのは助かった。どういうことが出来るのかが既に分かってるのが大きい。能力の研鑽に務める時間はあまりないからな。即戦力になれそうだ)
空間へのエネルギー残留、それを利用した擬似空戦、更に、敵の攻撃のエネルギーを反射も出来る。そして、一番大きいのが、ありとあらゆるエネルギーを遮断する究極の檻『アカシャの匣』だ。今はまだ使えないが、これから進化の階段を昇ればいつかは使えるようになるはずである。原作のラスボスであるシャノン・ワードワーズですらほぼ完全に封じ込めていたので、リリカル世界の住人には恐らくどうしようもないだろう。
「寝ようと思ったら、なのはが化物に襲われる幻影を見まして。ただ、近所の人に見られると厄介なので、フードとお面をつけて行ったんですよ。」
これで、俺の知る話は終わりです、と。
彼の言葉のあと、しばらくの間喋れる者はいなかった。
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