リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた
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第三話
「え・・・!?」
もう駄目だ、とそう思った時、なのはの目には上空から凄まじい速度で降ってくる、黒い流星が見えた。
ドゴン・・・!
トラックが衝突したかのような爆音を響かせて、その流星は、なのはを押さえつけて攻撃しようとしていた思念体を吹き飛ばした。
その威力は凄まじく、彼女を縛っていた黒い触手が、耐え切れずにブチブチと千切れ舞う。まるで黒い花吹雪。こんな状況で、なのははその光景を綺麗だと思った。
「・・・・・・大丈夫か?」
近くに着地したその流星は、黒い人影であった。背丈はなのはと同じくらいで、黒いパーカーのフードを被り、顔には狐の面を付けている。面によって声が篭って聞こえる為、男か女かさえなのはには分からなかった。
「・・・大丈夫なのか?」
「あ・・・は、はい!大丈夫なの!」
心配そうに声をかけれれ、なのはは再起動する。怪しいことには変わりないが、何となくいい人のような気がしたのだ。
『・・・思念体を殴り飛ばした・・・!?あ、あの!あなたは・・・!?』
念話で話しかけるユーノ。
「・・・すまないが、今は奴のことに集中しろ。・・・どうやら、大したダメージにはなってないらしい。」
確かに、殴り飛ばされた思念体は、点々と飛び散った自分の肉体を回収し、修復している。その速度も早く、彼の攻撃が殆ど有効なダメージを与えられていない証であった。
『え・・・僕の声が聞こえるってことは、魔道士ですよね!?僕の連絡を受けて、この星に探索に来ていた管理局の人とかじゃないんですか?デバイスは・・・?』
「お前の声は聞こえるが、デバイスとやらを俺は持っていない。俺は現地人だ。異変が起こったから駆けつけた。ただそれだけ。お前らが使っている不思議な力の事も、何も知らん。」
『な・・・!?魔法を知らない・・・?なら、貴方のその力は・・・!』
「悪いが、問答をしている暇は無いと言った。俺が足止めをする。その隙にキツいのをお見舞いしてやれ。」
そういうが早いか、彼は強く地面を踏み込み、ドン!という音を響かせながら跳躍した。地面はその衝撃でひび割れ、それがどれほどの衝撃だったのかを物語る。
思念体は、千切れた体の大部分を修復し終わった所だった。自分を攻撃した黒い人影が飛んでくるのを見て、応戦の構えを取る。
魔力の篭っていない攻撃など、驚異ではないことを理解しているのだ。無数の触手を伸ばし、ムチのようにしならせて迎撃する。
「オラァ!」
だが、コンクリートを軽く破壊する威力のそのムチは、一切意味を成さなかった。全方位から高速で飛来するそのムチを、黒い男はその拳で全てなぎ払ったのだ。
あまりに早すぎるその拳の乱打は、遠くから見ているなのはには殆ど視認出来ない。ただ、パパパパン!という、拳と触手がぶつかり合う音だけが、夜の街に響く。
「レイジングハート・・・。どうすればいい?」
『砲撃モードで倒すのが一番かと。出来ます、貴方なら。』
そこまで凄い戦闘を行っていながら、黒い男の攻撃は思念体にとって驚異ではないという。ならば・・・
(あの人の戦いを無駄にしない為にも、私が倒さなきゃ!)
元々責任感の強い少女だ。一人にだけ任せている訳にもいかないと、気合を入れる。杖状だったレイジングハートが、主人の願いに答える為に自身の形状を変化させ始めた。
それは、杖というより、既に槍と言ったほうが正しいだろう。
『ディバインバスター、セットアップ』
(この子、砲撃型・・・!?)
あまりに強い魔力の波動。チャージされていく魔力の多さにユーノは驚きを隠せない。魔法という存在を、つい先ほど知ったとは思えないほどの順応能力。あまりに高すぎる魔法への適正。管理局員でも撃てる者が少ないと言われる砲撃魔法を、これほど簡単に発動出来る初心者など、そうそういるわけがない。
「あの人に当てないように、気を付けないと!」
『了解しましたマスター。』
なのはが準備するディバインバスターに気がついた思念体は、そのあまりの魔力量に驚き、一目散に逃げ出そうとした。
―――しかし
「そうはさせるかよ!」
そんなことを許すはずがない。ダメージがなかろうが、足止めならば十分に出来る黒い男が、飛び上がった思念体の更に上空へとジャンプする。
「喰らいやがれ!」
打ち下ろされる、隕石のような一撃。渾身のパンチを受けた思念体は、上空から一直線に地面へと叩きつけられた。地面が大きく破壊され、クレーターが出来る。それが、どれだけの威力を持っているのかの証明であった。
「今だ!」
「行くよ!ディバイーン・バスターーーーーーー!!!」
ゴッ・・・!
瞬時に思念体へと到達した、桜色の魔力の本流。それは、周囲の壁すらも余波で溶かし、あっというまに思念体を取り込んだ。思念体の声にならない悲鳴が響く。
「ジュエルシード、封印!!!」
『ジュエルシード封印』
破壊跡に残ったのは、小さな宝石だった。それが、この事件の元凶である、ジュエルシードである。レイジングハートはジュエルシードを、自らのストレージへと取り込む。
「・・・ふぅ・・・・・・。」
全てが終わり、緊張から解かれたなのはが、バリアジャケットを解除しながら嘆息した。そして、怪我の一つも負わずに帰ってきた黒い男へと頭を下げる。
「あの、ありがとうございました。」
「いやいい。こちらこそ、助けが遅くなって悪かった。」
そう言って、軽く悔やむように頭をかいた黒い男に、なのはは好感を抱く。
(やっぱり、いい人なんだ。・・・でも、誰かに似てるような・・・?)
「あ、あのー。私、高町なのはって言います。」
「・・・すまないが、今は自己紹介している場合じゃない。・・・聞こえるだろう?」
「え?」
ファンファンファン・・・遠くから聞こえるのは、パトカーの音。
「結界も貼らずにあれだけ暴れたんだ。通報もされる。今すぐここから逃げたほうがいいぞ。」
破壊された道路や電柱。家の塀にも所々穴があいているし、なのはの最後の攻撃の余波によってドロドロに溶けた場所もある。深夜で寝ていた人が多いとはいえ、これだけ大騒ぎして通報されない方がおかしい。
「う、うにゃー!どうしよう!?」
自身の運動神経に自信がないなのはは、集まりつつある警察に見つからずに撤退出来るとは言い切れない。というか、この辺の家の窓から、先ほどの戦闘を見られていたら、なんと説明すればいいのだろう?と焦りまくっていた。
「・・・はぁ・・・。」
そんななのはを見て、黒い男は嘆息し・・・
「すまんが時間がない。俺が連れて行く。」
「え?」
その言葉の意味を彼女が理解する前に、なのははいつのまにか空中にいた。・・・男に抱っこされて。
「え、ええええええええええええええええ!?」
「少し落ち着け。騒ぐとバレるぞ。」
なのはを抱きしめた彼は、家々の屋根をジャンプして渡って行く。かなり近くまで警察が来ていた為、他に方法がなかったのである。
「う、ううう・・・。」
赤い顔を俯かせて、なのはは唸った。それから両者一言も喋らず、しばらく空中の旅が続く。
「・・・着いたぞ。」
シュタッと降り立ったそこは、なのはの家の前。
「・・・あれ?私の家?何で知ってるの?」
「そりゃ知ってるさ。だって・・・・・・と、その前に。」
なのはを地面に下ろし、仮面とフードに手をかけながら、彼は高町家に向かって声をかけた。
「すいません、なのはに危害を加える人間じゃないんで、出てきてもらえます?事情の説明もしますし。」
「・・・気がついていたのか。」
塀の陰から現れたのは、なのはの家族。士郎、恭也、美由希である。桃子は、万が一危険がないとも限らないので、家に避難させていた。
「え、え、お父さん、お兄ちゃんお姉ちゃん!どうして・・・?」
「そりゃ、なのはが家から出たことくらい、この人たちならすぐに気がつくだろう。」
答えたのは高町家の人間ではなく、フードと狐のお面を取り払った人物。
「え、えええええええええええええええええええええええええ!?」
伏見葵の登場に、今日一番の驚きを表したなのはの悲鳴は、深夜の近所に鳴り響くのだった。
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