日向の兎
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1部
13話
来た道を戻ると、見事なまでに手裏剣は一帯に突き刺さっていた。
「ヒジリ、この忍具怖いって!!」
私の姿を見るなりテンテンが半分泣きながら、つかつかと詰め寄ってきた。
「む、上手く機能しなかったのか?」
「しすぎなの!!あの盾の中で怖い思いするハメになったよ!?」
「どういうことだ?」
「これ見て!!」
テンテンは巻物から盾を取り出すと、そこには針鼠のように手裏剣の突き刺さったものがあった。ふむ、威力は想像以上に発揮されたようだな。
「どうして盾の中で手裏剣が刺さる音に怯えなきゃならないのよ!?」
「安心しろ、盾は二重構造になっている。まぁ、凹むくらいだと想定していたのでこれはいい結果だな」
「ヒジリ、私をモルモットかなにかと勘違いしてない?」
「くく、何事も冒険が必要だぞ?」
「やっぱりモルモット!?」
地団駄を踏みながら怒るテンテンを無視しながら、私はガイ先生の前に立つ。
「お前で最後だな、ヒジリ」
「はい、それでは一手お手合わせ願います」
彼の体の様子から察するに、テンテンとの戦いでは本当に全部避けたようだな。……白眼も無しによくもまぁ、そこまで回避できたものだ。
「先生、先に言っておきます」
「なんだ?」
「私は今現在において、先ほどの三人より強いです。ですから、油断なさらぬよう」
「いいだろう」
さて、先生への前置きも済んだ事だ。久方ぶりの本気を振るおう……今回は誤って殺すこともないだろう。
「水遁 弁財天の舞」
今回は近くに池があることもあり水の心配はない、そしてこの術の本当の使い方をするには先生は丁度いい相手だ。
「試作忍具 蓬莱の枝」
そして、以前ネジにも見せた白い管状の忍具を両腕に持つ。
総量50Lの弁財天の舞と、現在両腕に持っている二本を除いて計十本の蓬莱の枝、今現在の私の持てるもの全てを総動員させた状態になるな。
私は地を蹴り、先生との距離を詰める。先生は私の枝による一振りを後ろに跳んで回避した。
恐らくは私をテンテンの忍具の製作者と知っての行動だろうが、残念ながら私の本職は武道家でな。回避された時の対処などとっくの昔に想定済みだ。
弁財天の舞による水の布が先生を追い掛けて一瞬その足先に触れるのと、先生が顔を痛みで顰めるのは同時だった。が、傷は浅かったようで彼の動きを止める事は出来ず弁財天の範囲外に逃げられた。
「今のは柔拳か?」
「はい、この術には二種類の使い方がありまして、一つは音による周囲の探索、それと自動的な防御……要は白眼を封じられた時の為の防御としての使い方。
もう一つは先程の私の意思で任意に動かして、水の触れた箇所へ水を伝わらせて柔拳の衝撃を当てる攻撃としての使い方です。最初の攻撃を外した時から、私は水に触れていましたので僅かな間でも触れた瞬間に打ち込ませて貰いました」
「なるほど、つまりはその水全てが柔拳の攻撃そのものと言うべき特性を持っているということか。最初の攻撃は俺の注意をそこに引き付ける為で、本命はこの水だった訳だな」
「いえ、最初の攻撃を防いでくれたのでしたら、もう少し追い詰められたのですが……流石にそれは欲張りというものでしょう?」
弁財天はあくまで牽制でしかない、せいぜい当たったとしても軽度の内出血程度のダメージしか与えられない。本命はあくまで蓬莱の枝だ。
弁財天で相手の機動力を削ぎ、弱ったところを枝で倒し、直の柔拳で殺すというのが今の所の私の戦闘スタイルだ。
通常ならば手の内を明かす事などしないのだが、先生の場合は体術を主とする人だ。流石に空気を弾丸のように拳で撃ち込んでくるなんて事をされればどうしようもないが、基本は近距離に寄らねばならない。
となれば、手の内を明かして少しでも警戒させて動きを鈍らせる他ないだろう。
「ヒジリ」
「なんでしょう」
「お前が優秀なのは分かった……だから、俺もお前に応えようと思う」
……これはいい、私から攻めるには少々限度があると考えていた頃だ。
先生と私の距離は約50mおよそ数秒で詰められる距離、つまりは私のその間に打てる手は恐らくは二手。その二手で何かしらなのダメージを与えなければ、無様に敗北する他ないだろう。
先生がこちらに最短距離で駆け出すのを見る前に、私は水の布を分散させ水のリボンとでもいうような形状に変化させて先生を捉えようとする。が、まるで宙に浮いた布でも相手にしているかのように微塵も捉えれない。
残りの距離は25m、これを外せばあとは身一つで戦わなければならない。せめて一撃当てて僅かな隙を生じさせる。
「散!!」
水の布を更に細分化し、水の糸とでもいうような形状となった弁財天を先生に向かわせる。余りにも無粋だが、物量で押させてもらおう。
殆ど躱されたが、一部は確かに打ち込む事ができた。
では、博打の始まりだ。
枝にありったけのチャクラを流し、先生の回し蹴りを迎え撃つ。
「木ノ葉旋風!!」
枝と先生の脚がぶつかり合った瞬間、私は最も大事な事を忘れていた事に気が付いた。そもそも地力が違い過ぎるのだから、打ち合いなど行うべきではなかった。
結果、私はそのまま後ろに吹き飛ばされ無様に地を転がるハメになった。
「ヒジリ様!?」
「ぐっ……心配ない、受け身を仕損じただけだ」
「す、済まん!!」
先生が慌てて私に駆け寄って来たが、少々着物が汚れた程度で体の方にはダメージはない。
「先生も気になさらないで下さい……ん?」
先生が駆け寄って来た?ちょっと待ってくれ。
「先生、脚は大丈夫なんですか?」
「脚?特に何も……ああっ!?」
先生は私に言われて脚を確認すると、素っ頓狂な声を上げた。
「こ、根性重りが割れてる……」
……なんだって?重り?
私の最後の一手で与えた損害が重り一つだと……軽く目眩がするな。未熟にも程があるぞ、私。
「高かったんだが……買い直すしかないか」
少し落ち込んだ様子で先生は割れた重りを地面に置いた……直後、私は凄まじい砂埃を浴びる羽目になってしまった。
「ああ、済まない!大丈夫か!?」
「ゴホッゴホッ……大丈夫ですから、少し声量を抑えて下さい」
その後、演習場を片付けてからあの重りは特製の合金によって作られたものらしくざっと300kg近いものだったということを知った……よくそんなものをつけた蹴りをくらって無事だったな、私。
「それにしてもその棒はなんだ、ヒジリ?根性重りが壊れるなんて今まで一度も無かったぞ?」
「蓬莱の枝ですね、日向の柔拳は人体に対する威力は非常に高いのですが、例えば恐ろしく頑丈な鎧や何かを纏われると少々困ったことになるのです。
それで考えたものがこの蓬莱の枝です。柔拳の振動を柔らかい内蔵を破壊するものから、鉄や骨といった硬いものを砕く物へ変えるというのがこの忍具の性能です」
「つまり、あの時重りが無ければ骨が折れていたのか!?」
「さて、まだ実験していませんので分かりませんが、最低でもヒビは入ったでしょうね」
「……他の奴らのお前向ける視線の意味が分かったよ」
「む、優れた忍具を作ることに何か問題が?」
「限度を知ろう」
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